なお人名についてはプライバシーに配慮して伏せ字にしています。
2026/01/XX/22:45
(ノックの音)
(間)
(くぐもった声)「……お兄ちゃん、まだ起きてる? ……入ってもいい?」
「…………ああ、***か……。もちろんだよ、さあ入って」
(静かにドアを開ける音)
(小さな足音)
(静かにドアを閉める音)
「ごめんね、こんな時間に。……ここ最近、ずっと忙しかったんでしょ?」
「そうでもないよ……と言いたいところだけど、父さんの会社もあんなことがあったから色々大変でね。うちの部署も大忙しだよ。まあ、いつものことなんだけどね」
「あ、調べ物してたんだ。 お仕事の関係?」
「ああ、まあちょっとね……。そろそろ休憩しようと思ってたし、ちょうど良かったよ」
「そうだったんだ……。疲れてるのにごめんね、お兄ちゃん」
「ははは、可愛い妹と話せる時間なら、いくらでも作れるさ。……ところで、母さんとは仲直りできたみたいだね。本当に心配したんだよ? あの人は言い出したら聞かないからさ」
「うん、ありがとう……。わたしも母さんのこと、誤解してたみたい。わたしの将来を真剣に考えてくれてたからこそ、あんなに厳しい態度だったんだって、やっとわかったの」
「悪かったね、力になってあげられなくて。さっきも言った通り、今は重要なプロジェクトを抱えていてね。責任者の僕が現場を離れるわけにはいかなかったんだ」
「ううん、大丈夫。気にしないで。それにこれは、わたしと母さんの問題だから」
「そう言ってもらえると助かるよ。そういえば、どうだった? この前久しぶりに会った従兄弟たちの感想は」
「えーと……みんな、相変わらずだったかな……。どっちかっていうと、全然変わってなくてびっくりしたくらい」
「***のいない間、大変だったんだよ? 本家にいる間中ずっと、親戚連中の挨拶や自慢話に付き合わされたんだから。……はあ、来年は行かなくて済むといいなあ……」
「もう! お兄ちゃんったら……」
「ははは……。ついでに初めてのお見合いの感想も聞かせてほしいな。**君だったかな? 将来性はともかく、安定感はあるんじゃないかな?」
「その話はやめてよね、もう……ほんとに意地悪なんだから……」
「ごめんごめん。***の顔を見ると、ついからかいたくなるんだ。それより珍しいね、***がこの部屋に来るなんて」
「そんなことな……あっ、えっと、お兄ちゃんがいない間に、勝手に入ることもあったから……ほら、お兄ちゃんわたしよりずっと頭良いから、どんな本読んでるのかなーって思って。……やっぱり嫌だよね、勝手に自分の部屋に入られるなんて」
「そうなのかい? 僕は全然気にしないけど。一言言ってくれれば喜んで貸してあげたのに。もっとも最近は紙の本はおろか、電子書籍ですらこっちでは読まなくなったんだけどね。なにしろ会議から打ち合わせまで、すべて仮想空間内で済ませられるんだから……。まったく、便利な世の中になったものだね。フルダイブ技術様々だよ」
「……そうね、仮想世界なら離れていたってすぐに会えるし、現実世界では言いにくいことだって素直に伝えられるんだもの。心の距離を縮めやすい、っていうのかな……。母さんともね、あっちの世界で話し合ったら上手くいったの。あんな母さん、初めて見た……あっ、母さんには言わないでね? きっとわたしたちには弱いところを見せたくないと思うから」
「もちろん、言わないと誓うよ。……ん? ということは、もしかして僕のアミュスフィアを使ったのかな? この家には他に置いてないはずなんだけど」
「ご、ごめんなさい! 母さんはフルダイブ機なんて持ってないから、あの時は黙って借りるしかなくて……」
「それくらい全然構わないよ。本来フルダイブ技術は、人と人が繋がり合うためにこそ使われるべきだと僕は思ってるからね。……それにしても、***はすごいなあ。僕が進路を決める時は、母さんに逆らうなんて考えられなかったのに。工業系に進んでみたいって僕が言ったら、じゃあここにしなさいって一番難しい大学に決められちゃって……。あの時は文字通り、死に物狂いで勉強したよ、ははは……」
「わたしだってびっくりしたわよ。お兄ちゃん、全然そんなイメージ無かったのに……。しかも本当に合格しちゃうんだもん。……もしかして、誰かに影響されたとか?」
「うーん……どうだろうね。母さんには、将来を考えたらうちの大学の方が良いって言われたんだけど……。だからかな、たまには違う方へ行ってみたくなったのかもしれないな。それに比べたら、***の方がずっと偉いよ。ちゃんと向かい合って自分の考えを伝えられたんだから。……やっぱりこれもあの子の影響かな? ***君って言ったっけ? ぜひ一度会ってみたいなあ……」
「あっ、うん……もちろんそれもあるんだけど……。最近会った子がね、わたしが悩んでたことがちっぽけに思えるくらい、……大変な問題を抱えてるんだけど、全然そんなふうに見えなかったの。だから、どうしたらそんなふうに強くなれるの? って聞いてみたら、本気でぶつかれば気持ちはきっと伝わるよ、って教えてくれたの……。だから、怖かったけど勇気を出してぶつかってみたら、本当に伝わった…………***の言う通りだった……うぅ……」
「大丈夫かい、***? 大変だったんだね……。無理をしなくていいんだよ。つらい時は泣いてもいいんだからね」
「ううん、わたしはもう大丈夫……。***のお陰でわたしも、人と正面からぶつかり合えるようになったの。たとえそれがどんなに勇気が要ることだとしても。…………***兄さん。わたしに何か隠してることがあるんじゃない? それも、とても大事なことを」
「……***に隠し事なんてしてないよ。大事なことならなおさらね。あ、流石に好みの異性のタイプとかになるとちょっと恥ずかしいんだけど、もちろん***がどうしてもって言うなら――」
「誤魔化さないで。……わたし調べたのよ。あの日兄さんは、急な海外出張の予定が入って楽しみにしていたSAOをプレイできないから、代わりにやってみたらって言ったわよね」
「ああ、なんだその話か。うん、本当に偶々だったんだよ。でもまさかあんなことになるなんて、夢にも思わなくて……。本当に済まなかった、許してくれ。この通りだよ、***」
「もちろん許すわよ。もし仮にそれが、本当の話ならね。……でも真実は違う。兄さんは出張になんて行ってなかった。……証拠だってあるのよ、ほら」
「…………どこでこれを?」
「それは今は重要じゃないわ。ねえ、どうしてそんな嘘を吐いたの? 兄さん、ゲームなんて滅多にやらなかったじゃない。そういうのは時間の無駄だって言って。それなのに、なんであの時に限ってVRMMOなんかに手を出したの?」
「単純に面白そうだから気になったのさ。なにしろ世界初のフルダイブ型MMORPGだからね。当時はCMもバンバンやってたし。あれで興味を持たない方がおかしいんじゃないかな? ……手に入れるのは確かに苦労したけど」
「わざわざコネまで使って、ね。知ってる? ソードアート・オンラインはね、優先購入権のあるベータテスターを除けば、発売日の三日前から並んでようやく買えるようなゲームだったのよ。ネットのオークションでは、百万を超える値が付いたって聞いたわ。兄さんがコネを駆使したところで、簡単に手に入るような代物じゃなかったはずよ。……もっともわたしは、そのコネで入手したっていう話そのものが怪しいと踏んでるんだけど」
「…………」
「どうしてそこまでして手に入れたゲームを、わざわざわたしに譲ったの? どうしてわたしを――」
「誤解だよ、***。隠し事なんてしてない。誓って言うよ」
「ならどこに行ってたのよ? いったい何をしてたっていうの?」
「……父さんと母さんには内緒で交際してる女性がいて、その人と一緒に旅行に行ってたんだ。……だけど彼女は結城家から見ればいわゆる『一般人』で、家柄を重視する家の方針とは真っ向から対立してしまう。こんなこと言えるわけないだろ? 言ったら絶対反対されるに決まってる。もちろん***にはいつかは話そうと思ってたよ? ただ今はまだ、時期が早過ぎると判断しただけなんだ」
「そんなに大切な人なら、当然写真くらい持ってるわよね?」
「……いや、生憎今は持ってないんだ。もし万が一、母さんたちに見つかったらお終いだからね。用心するに越したことはないだろ? 特にフルダイブ中は完全に無防備だからね。現に***だって急にこうして来たわけだし。……ああごめん、別に***がそういうことをするなんて思ってるわけじゃないんだ。また今度見せるよ。素敵な人だよ、***もきっと気に入ると思う」
「そう、ならそういうことにしておくわ。じゃあ次。兄さんがSAO事件の犯人、****と同じ大学に通っていたのもただの偶然だって言うの?」
「おいおい、それじゃあの大学の卒業生全員が容疑者になってしまうのかい? ただの先輩と後輩、それだけだよ。そりゃ偶々顔を合わせる機会くらいはあったかもしれないけど……。**先輩は僕とは縁のない研究室にいたわけだし、卒業後は繋がりも完全に途絶えてるよ」
「そうかしら? アーガスとレクトは、無関係な企業とは言い切れないくらいには業務提携してたと思うけど。顔を合わせる機会だってあったんじゃない?」
「まさか。それこそこじつけもいいところだよ。当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったベンチャー企業の開発部長と、総合電子機器メーカーのしがない新入社員がどうしたら結び付くんだい? それに倒産後の事後処理やサーバーの管理引き継ぎだって、どこもやりたがらなかったから仕方なく名乗りを上げただけの話さ」
「…………」
「そういえば、知ってたかい? **先輩、在学中は信じられないくらいモテたんだよ。昔から飛び抜けた天才として有名だったし、あの歳で年収数億円って稼いでたからね。だから**先輩が射止めたって話を聞いた時は本当にびっくりしたよ。あの人、そういうことには全然興味ないように見えたからね。一部では女性には興味がないんじゃないかって言われてたくらいで……おっと、話が脱線してしまったな。とにかく、***が考えてるようなことは絶対に無いって誓うよ。たった一人の大切な妹を、そんなことに巻き込むはずがないじゃないか」
「……一度も見舞いに来なかった癖に」
「***の顔を見るのがつらかったんだ。僕の気まぐれのせいであんなことになったんだから尚更ね。……ところで、そろそろ教えてくれないかな。いったいどこの誰が、***にそんな良くない考えを吹き込んだんだい? 僕たちの仲を引き裂こうとするなんて、ひどいことを考える人もいたものだね。まさかとは思うけどあの――」
「違うわ。わたしが自分の頭で考えて導き出した結論よ。やっぱり兄さんは嘘を吐いてる。わたしにはわかる。……だって、心がちっとも伝わって来ないんだもの。わたしずっと、***兄さんだけは味方だって信じてたのに……。****のことはわたしたち二人とも嫌いだったし、結婚の話だって最後まで反対してくれたって聞いたわ」
「ああ……あの時は僕も、出来る限りのことはしたんだけどね。親同士で勝手に納得して、強引に押し通されてしまったんだ……。本当に悪かったと思ってる。***が眠ってる間は、僕が守ってあげなくちゃいけなかったのに」
「そうよね。そうなんだよね……。だからわたしは、兄さんを信じていたかった。でも兄さんは自分の言葉で話してくれない。兄さんの心がわからない……」
「***……」
「認めるわ。……わたし、兄さんに感謝してる。もしあのままだったら、きっといつか押し潰されていた。わたしは兄さんみたいに強くないから。何も持っていなかったから……。だけどあの世界に行って変わった。***くんたちに出会って生まれ変われたのよ。つらいことも悲しいことも確かにあったわ。でもそれ以上のものも得られた。***くん、**ちゃん。**や***ちゃん、***さんや****さん。みんなが支えてくれたから、今のわたしがあるの」
「……感謝している、か。流石にそこまで言われたら、僕の方も認めるしかないだろうな……」
「じゃあ本当に……? 兄さんは事件のことを……?」
「ああ……もちろん全部じゃないけど、大体のことは」
「でもいったいどうして!? 兄さんが警告していれば、四千人の人たちは死なずに済んだかもしれないのに……」
「僕が何を言っても相手にされなかったよ。事実、あれだけ大規模な事件を誰一人として予見できなかったんだから」
「そんなこと――」
「それにね……。興味があったのも確かなんだ。有能でカリスマ性もある人物を参加させることで、ゲーム全体にどのような影響を及ぼすのか、っていう一種の社会実験でね。先輩のたっての頼みだったし、断りきれなかったのさ。だけど僕はみんなを率先して導くような器じゃない。その点、君なら文句無しだ。もし仮に女性だけの集団なら、優秀で容姿にも秀でた同姓は嫉妬を買うことも多いんだろうけど、ああいうゲームのプレイヤーは大半が男性だからね。***が攻略組だっけ、その集団の実質的なリーダーに選ばれたのはそういう理由だよ。その結果、***は見事プレイヤーをまとめ上げ、クリアに導いた。僕は君のような妹を持ったことを誇りに思うよ」
(何かを叩くような乾いた音)
「***兄さん、わたしはあなたを……絶対に許さないから」
(乱暴にドアを開ける音)
(足早に立ち去る音)
(乱暴にドアを閉める音)
(間)
「……すっかり嫌われてしまったな。全部あなたのせいですよ、まったく……。まあ、結果的には感謝してますけどね……**先輩」
「…………何故あんな嘘を?」
「今更、言えるわけないじゃないですか……。僕と同じような人生を歩んでほしくなかった、なんて。はあ……。いつかバレると覚悟はしてたけど、流石にキツいなあ…………」
「……相変わらず君達人間というのは、理解に苦しむよ」
「先輩も他人のことは言えないと思うんですけどね……」
というわけで、SAOきっての正体不明人物、結城浩一郎氏のお話でした。キリリファを期待した方は申し訳ない。・・・キリリファって微妙に言いにくいですね。
名前とか色々わかりにくい形式ですいません。まあちょっと考えればわかると思いますが。それにしても、会話だけだと本当に楽ですね。もういっそ、こういう路線で行こうかな。戦闘描写とか正直苦手だし(本音)。ヤンデレ妹っぽいと思った人、正解です。ていうかパロです。
浩一郎氏については原作でもほとんど描写がないので、オリキャラ並の設定捏造で理想のお兄ちゃんっぽくしてみました。そのせいでなぜかアスナまでブラコン化してます。うん、ありだな!
ついでに病的な嘘吐きで、しかもそれを誰にも悟られることなく隠し通しているという設定です。上手く白々しい感じが出せてたらいいのですが。
アスナとキリトの家族は既に出尽くしてるのに、この人だけはいくら調べてもまったくの謎。これはもう何かあるとしか思えない!と妄想した結果がこれです。まあそのうち本編にも登場するのかもしれませんが。しかし、考えれば考えるほどわからないですね、この人。
アスナより優秀?で一流大学を卒業し、レクトに就職してからも京子さんが満足するほどの結果を出している。なんなんだこの完璧超人。学生時代は間違いなくトップカーストのリア充だったことでしょう。ぶっちゃけ某葉山にしか見えん。作者の中のイメージは新世界の神ですが。
そんな人間がナーヴギアはさておきSAOを入手した理由はいったいなんだったのか?実に妄想が捗ります。こんなおいしい人物がどうしてほとんど手付かずのままなのか、コレガワカラナイ。
どなたかこの人を主人公にした作品を書いてくれませんかねぇ・・・(願望)