異論は認め無い!
……そう思う作者です いやまあ宇梶さんも捨てがたいですが改めて内海賢二さんの凄さを垣間見た作者です
209X年 人類は二度の世界を巻き込んだ戦争…世界大戦を終結させ、一時の平穏を保ってきた。
だが……突如現れた過去の亡霊により平穏は瞬く間に崩れ去り、同時に世は再び混迷の時代に向かっていた。
…海の底から出現する謎の艦艇軍、それらを人類は深海棲艦と呼ぶ。
駆逐艦から超弩級戦艦まで多彩を極める深海棲艦の攻撃により人類は制海権を喪失。
しかし その脅威に対抗できる唯一の存在、それが在りしの戦艦の魂を持つ娘達…艦娘である。
艤装と呼ばれる武器を装着し、生まれながらにして深海棲艦と互角に戦う事の出来る威力を持つ美しき戦乙女達、その活躍により制海権奪還に向けて人類は今反抗作戦が開始しようとされていた。
世紀末の世を人間と艦娘は共同で戦い続けた、もはや艦娘の存在は人類のパートナーである、だが…心許ない人間が存在するのもまた事実…
◇◆◇◆
「この不良品が!」
不良品……私達の提督は私の事を名前で呼ばず不良品と言う名称でしか呼んではくれなかった。
何故不良品なのか…………答えは至って単純…私は声を出す事が出来なかった。
建造時に何らかの問題が起こり声を手にする事なく再びこの世に目覚めた。
横須賀鎮守府、日本でも最大級を誇る鎮守府で私は生まれた…
艦娘を入手するには二つの方法がある、一つは建造…妖精と言われる謎の多い存在ではあるが艦娘を建造出来る唯一の存在でもあり、私達のもう一つの大切なパートナーでもある。
そしてもう一つが海上で彷徨うのを保護する…所謂ドロップ艦だ、理由が分からないが1人佇み
それを保護するのがもう一つである。
一種の仮説によれば深海棲艦の怨念が晴れて艦娘になるという説があるが真偽は不明である……しかし深海棲艦の沈んだ場所で良く艦娘を保護する事がある事が多く可能性は高いかもしれない。
暁型駆逐艦3番艦 雷 それが私の名前。暁型には4種類あり、私には2人の姉と1人の妹がいる。
横須賀鎮守府の提督…私達の提督…に当たる人は私達艦娘を人としてでは無く"物"としてしか見てはくれなかった。
「貴様らは兵器、所謂物だ!物なら大人しく私に従えばいい」
金色に光る階級章と多くの勲章を付け、酷く肥えた横須賀鎮守府の提督はよく私達にこう言う。
艦娘である私達は来る日も来る日も人間である提督に不当な扱いを受けていた。
暴力などは日常茶飯事で十分な補給など無く満足出来る食事などした事がない。装備を渡されず出撃し沈む仲間も何人もいた。
傷つき帰ろうがまともに入渠すらさせては貰えやしないだが…
「おい、貴様は夜就寝前に私の部屋に来い」
……それ以上に酷かったのが提督の慰み者として誰かしら毎日無理矢理相手をさせられていた、嫌だと断れば殴る蹴るは当たり前…鞭で叩かれることもある……それ以上に辛いのが連帯責任として姉妹艦も酷い目に遭わされてしまう。……断る事の出来る者など存在しなかった。
「ひっく……うっ…ごめんなさい…何も出来なくて…」
今日も聞こえてくる、駆逐艦の子達の泣き声や悲しみの声が…もう何人目だろうか。
そして次は……自分なのでは……
不良品と言う理由で、1人姉妹艦の部屋と離された薄暗い倉庫の中で薄く汚れた毛布を頭から掛けて1人震えていた。
死にたくない……
生きてみんなで幸せに過ごしたい…
ただそれだけが願いだ。
神様……声なんていりません…これ以上望みませんからどうか……それだけが願いです……
それからして数日後…出撃に出された私に向けて最後の命令が出された。
「1人進軍し敵を殲滅せよ」
とうとう最期の時が来てしまった…
有り体よく聞こえるが"貴様は残り敵の的になれ"…それだけの事…
仲間を撤退する為に提督から言い渡された最後の命令……捨て艦……それが私に課せられた最後の指令である。
……声が出ないという事は戦いにとって致命的だ、通達が出来ず連携も取りにくい…よく言った所で所詮お荷物、この場で私に唯一できる事…それが捨て艦…仲間も多く大破し今にも沈みそうな娘すらいる。
「………うぅ」
正直嫌だ……私も生きたい……生き残って姉妹で幸せな日々を過ごしたい……
だけど……
私は涙を堪え1人敵艦隊に向けて駆け抜けた……
「!雷ちゃん!?」
後ろから愛宕さんの今にも消えそうな声が聞こえてきたが止まらない……もう止める事は出来ない………
暁……響………………………電…どうか幸せに……そして願わくば来世でも同じく……優しい司令官の下で……笑いながら幸せな日々を。
そこから先はの記憶は無い……
◇◆◇◆
気が付けば知らない所で目が覚めていた……傷だらけではあるが五体満足を確認し、自分が生きてる事に安堵し泣いた…。
暫くすると同じく出撃していた愛宕さんと榛名さんが部屋に僅かの食事を用意して持ってきてくれた……私なんかよりも遥かに酷い怪我をしながら……
「うぅ……あぁ、あう」
「雷ちゃん!……目が覚めたのね……よかった…」
2人とも目に涙を浮かべて私に抱き付いた。そして3人揃って泣き崩れた。
生き残った事…
提督から解放された事…
そして……これからどうすればいいのか……
…………でも……もう終わってしまうかも知れない……
◇◆◇◆
「……そんな……」
大破寸前の榛名の顔は絶望に染まりきっていた、敵の攻撃で艤装はひしゃげ使い物にならず弾薬は尽き何より殆ど身体の感覚がなくなっていた。
海面に座り込んでしまい呆然としていた。
「あう、…うぅ」
だめ……消えてしまう……
榛名の目の前に行き榛名を庇うように立つと後ろから抱きしめられた。
「ダメ……雷ちゃん……。もう大丈夫だよ……一緒に沈みましょう……」
今にも消えそうな声で抱き締めながら呟いた。
「!あう!……あぁぁうあうあ…」
ダメ!……最後の最後まで諦めちゃダメ……
死にたくない…まだ……だから………
本当は分かっている……もうお終いだっていう事位……
雷の言葉は伝わらなくとも意志は伝わり更に強く抱き締めた。
「ありがとう雷ちゃん……でももう生きていても辛いですし……さよなら愛宕さん…比叡お姉様、霧島……金剛お姉様…今そちらに向かいます…」
獰猛な眼光を光らせ2体の駆逐艦イ級は2人に迫る。
……神様、こんな人生だったのだから……最期くらいどうか……
様々な仲間の艦娘、姉妹艦、が脳裏にフラッシュバックされていく……これが走馬灯なのだろうか……
……案ずるな、うぬも心配するでない。少しの間大人しくしておれ
…まじないをしただけだ。あとはうぬ次第……心の叫びが声を呼び起こす
最期に脳裏に焼き付いていたのが先程の男……ラオウと呼ばれた男だ……
初めてあった筈の知らない人だが…何故こんなにも強い気念を感じたのだろうか……初めて男性に優しくされたからか……そうかも知れない。
あんなにも暖かい手は初めてだ……
願わくばもう一度あの暖かい手で……
目を閉じ榛名に抱き締められ最期を覚悟した…
だが
突如正面に爆音が轟いた
恐る恐る目を開けると迫って来ていた駆逐艦イ級の無残な死体のみ海面に浮かんでいる。
「………えっ……」
榛名と私は目の前の光景に理解する事が出来ずにいた、もしや他所属の艦娘が?……だが……
この近海にはいない筈………
答えは蒼天から舞い降りてきた。
「ふむ…………随分と脆い」
水面に浮かぶイ級の亡骸の上に上空から舞い降り、威風堂々と佇む謎の男……ラオウ。
「!……何故貴方が…」
「………うぬらがここで死ぬのは惜しい……そう見えた」
「…意味が良く分かりません…」
獲物を狩る獅子の象徴の様な金の髪を靡かせ鋭く強い眼光を迫り来る深海棲艦に鋭く突き刺し、拳を握り締めた。
ダメ……ラオウ……逃げて……人間の貴方じゃ……
残りのイ級数匹……それだけならもしかしたらどうにかなるかも知れない……しかし……相手は紛いにも戦艦クラスの深海棲艦がまだ2体も……
「…ぅあ………ラ……ラオウー!来ちゃ、ダメ!!逃げてー!!」
今……雷の心の声が……言葉を……目覚めさせた!
「!?雷ちゃん……貴方声が…」
「ふむ………案ずるな。あの程度など俺の敵では無いわ!」
数秒程振り向き不敵に笑い宣言した。
「深海棲艦とやら……貴様らはこのラオウ……いや"拳王"が望み通り相手をしてくれるわ!!」
今宵始まるは世紀末覇者拳王による死闘!
その結末が悲劇に染まる事は決して無い!!
これで今年は最後となります
それでは良いお年を過して下さい!