IF GOD 【佐為があのままネット碁を続けていたら…】 完   作:鈴木_

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※注意事項
このSSはあくまでIFGOD本編小説の『ネタ』としてメモしていたものを集めただけなので、文章の肉付け等していません。
会話だけのネタSSもあります。
コミケ78で無料配布したコピー本と収録内容は同じです。
誰と誰が会話しているのかは最初に記入してあるので、そちらを参考にしてください。


IF GOD - 佐為があのままネット碁を続けていたら- ネタ集

【門脇・ヒカル・アキラ】

 

「進藤くん、君がsaiじゃないのか?」

門脇の言葉にヒカルの身体がビクリと震える。

ヒカルが最も恐れていた言葉だった。

「……何を突然言い出すんですか?俺がsaiって何のこと?」

「君がまだ院生だったとき、俺と通りすがりに打った一局。あれが君がsaiであるという証拠だ。偶然通りすがりに会って、俺は君を捕まえ一局打った。院生だという君がまさかあれほど強いとは俺は全く考えていなかった。だが、進藤君、君も俺の実力がどれくらいか知らなかったから、まさか自分がsaiとは分かるまいと油断して本当の実力で俺と打ったんだ。今から君の隣りにいる塔矢くんに俺と君が打った一局を並べてみせてもいい。それとも、塔矢くんは君がsaiであると知っているのかな」

「進藤、どういうことだ?」

ことの成り行きを見守っていたアキラが、門脇から話を振られたことで、静観に耐え切れずヒカルに問う。

 

 

 

 

【行洋・ヒカル・佐為】

 

 

「時間です」

係員が対局開始の時間を微かに震えた声で告げる。

この対局結果次第で、過去、誰も成し遂げていない前人未到の七大タイトル全てを保持する棋士が生まれるかもしれないのだ。

囲碁の歴史に刻まれる一局となるのは間違いない。

他にも行われるタイトル戦と比べても、常にない緊迫した空気が幽玄の間に満ちていて、対局を見守る側でさえ、例えようのない息苦しさを覚える。

ニギリは行洋が黒、桑原が白になった。

しかし、互いに頭を下げ、礼をしても行洋が第一手を打たないまま時間が過ぎる。

行洋の第一手目を写真に撮るべく、カメラを構えていたスタッフも、どうしたのか、いつ打つのかと、カメラを構えるタイミングが分からず困惑気味にじっと待つしかない。

対局時計の針は進んでいる。

持ち時間をどう使おうが行洋の勝手だが、対局相手側が予め決まっている対局では黒白どちらを持とうとも、一手目を考えてくるものだ。盤外戦が得意な桑原ならいざ知らず、行洋がそんな小細工をしてくるとは考えにくい。

じっと碁盤を見つめ、膝に両手を起いたまま、行洋はピクリともしなかった。

不意に行洋が立ち上がり、幽玄の間を無言で出て行く。

係員が、「あっ」と声をかけようとしたが、隣で棋譜を付けていた1人が声をあげた者の腕を掴み、首を横に振る。

持ち時間をどう使おうとも行洋の勝手なのだ。

そして対局しているのは行洋。

周りが口を挟むべきではない。

 

ザワリ、と。

一角からざわめきが起こり、それはすぐにヒカルを取り囲んでいた者たちも気付き、何事かと振り返った。

そしてそこに立っているはずがない人物に誰もが自身の目を疑った。

対局開始時間はとっくに過ぎている。

幽玄の間で桑原と対局していなければならない。

複数のタイトルホルダーで雲の上の存在である行洋に話しかけることが出来る人物は、この場ではヒカル以外には息子のアキラだけだった。

「お父さん何故ここに……対局は……?」

アキラを一瞥し、行洋はヒカルを見やる。

間違いなくsaiについて周囲から言及され、ヒカルは1人窮地に立たされている。

それなのに己はヒカルを放って、いくら大事な対局とはいえ、碁を打っていていいのか。

なにより自分は碁を打つことに集中できるのか。

「私は……」

言いかけて、行洋は口を閉ざした。

口を閉ざした迷いは、行洋がこれまで碁の棋士として積み上げてきた実績、成績などの現在の『棋士:塔矢行洋』を創り上げた全てだ。

その全てを失うかもしれないという恐れが迷いとなって、行洋から言葉を奪おうとしている。

それでも、これまで培ってきた全てを失うかもしれないとしても、本当に失ってはいけないものが目の前にある。

「後悔はしていない。私は、今も、そしてこれからも君達の友人でありたいと思う。私も一緒だ。それだけは覚えておいてほしい」

言い終えて、行洋は深く息を吐き、瞳を閉ざした。

全てを失ったとしても、後悔だけはしたくない。

突然現われた行洋が、静かに語りだす言葉。

その言葉が誰に向けられたものか。

行洋が誰と名前を出さなくても、この場にいた全員が理解した。

行洋はsaiについて何か知っているのだ。

そして自分はsaiを隠すヒカルの味方であると多数の目がある前で宣言した。

新人棋士でしかないヒカルと違い、行洋は現6冠、そして今日の対局結果如何によっては7冠のタイトルホルダーになるかもしれない囲碁界の重鎮であることは誰でも知っている。

その行洋がヒカルの後ろにいる。

静寂が包む場で最初に言葉を発したのは、声なき声だった。

『……勝って……勝ってください!』

佐為の叫びにヒカルが隣を振り返る。

『絶対負けないで!今日の対局、必ず勝ってください!本因坊(あれ)は私のものだ!』

手に持った扇を握り締め、ヒカルにしか聞こえない声を振り絞り、佐為が行洋に叫ぶ。

それが人目を憚らずヒカルと佐為の味方であると行洋が公言したことへの、佐為が出来る精一杯の感謝であり、激励だった。

けれど、どんなに佐為が声を枯らすまで叫んだとしても、その声は行洋へは届かない。

佐為の声はヒカルにしか聞こえない。

「……勝って」

佐為から行洋へ振り返ったヒカルが、佐為の言葉と共にヒカル自身の気持ちも2人分込めて行洋へ叫ぶ。

「勝って!今日の対局、先生絶対勝って!あれはっ……佐為のものだ!」

ヒカルが佐為の名前を叫ぶ。

しかし、その直前、ヒカルは佐為がいるであろう隣を見やったことを行洋は気付いている。

このヒカルの言葉は佐為の言葉だ。

それを行洋と同じく、人目のある場所で代弁し叫んだ。

行洋の気持ちにヒカルと佐為が応えた。

「分かった。必ず勝とう」

それだけ言うと、行洋は踵を返す。

 

 

 

 

【緒方・ヒカル・アキラ・社】

 

 

ピンポーンと。

塔矢邸の玄関の呼び鈴が鳴り、

「あ、やっと来た」とヒカルが碁盤から顔をあげる。

「社、玄関でてくれないか。進藤、食べたゴミとか片付けてくれ。僕は湯のみ洗ってお湯沸かしてくる」

と、アキラに言われ、社は玄関に向かったが、普通は家人が玄関に出るものではと思いつつ、客が来ることを予め知っていたような2人の素振りだった。

知人だと分かっているから、アキラも社に玄関に出るよう頼んだのかもしれない。

しかし、昨日から三日間、北斗杯の合宿をするというのに、誰か客が来るような用事をわざわざ作らなくてもいいのではないだろうか。

せっかく集中して碁を打とうというのに、気が緩んではしないだろうか。

それとも、誰か囲碁関係者とか……とまで考えて、ガラス戸越しに人影が透ける玄関のカギを開けた。

「誰だ?」

「オッサンこそ誰や?」

玄関を開けたそこに、白スーツに緩めたネクタイと、どこからどう見てもヤのつく自由業の人物に、社は関西人根性を出して、負けじとガン垂れた。

売られた喧嘩は買わねば男ではない。

「ああ?俺は今機嫌が悪いんだ。口の聞き方には気を付けろ。だいたいアキラくんはどうした?」

社の睨みにも全く動じることなく、緒方が不機嫌に言い捨てる。

しかし、それに答えたのは社ではなく、廊下をドタドタ忙しく足音を立て走ってきたヒカルだった。

「もう!遅いよ緒方先生!」

「何が遅いだ。俺の都合そっちのけでいきなり呼びだしやがって。だいたい、この礼儀知らずなコイツは誰だ?何でここにいる?」

「そいつは社。関西棋院のヤツでさ、今度の北斗杯で一所に出場するんだ。それで昨日から泊り込みで合宿」

「や、社清春です。さっきは緒方先生と知らんと、すんまへんでした……」

「コイツが北斗杯にねえ…」

頭の先から足先まで舐めるように品定めする視線で緒方が言う。

「それはいいが、何で俺がいきなり出場するわけでもない北斗杯の合宿に呼びされなきゃならん?北斗杯の団長は倉田だろうが。倉田はどうした?」

ガキの面倒見は御免だとばかりに緒方が問えば、

「倉田さんには今回の合宿は伝えてません」

「何故?」

「今回の合宿の目的が、社を鍛えるためだからだよ」

「ええ!?俺かい?そんなん一回も聞いてへんで!?」

「今言っただろう?」

「今回の北斗杯、絶対に韓国に負けたくない。とくに高永夏には」

「韓国がどうかしたのか?」

「本因坊秀策を、佐為を馬鹿にした!佐為があんなヤツに負けるわけないのに!」

「高永夏に負けたくないのは絶対だけど、高永夏の韓国にも負けたくない。そのためには、社がまだまだ不安だ。だから」

「俺にコイツを強くしろってか?」

「違うよ。これから2日間、佐為が社に付きっきりで指導して徹底的に叩きあげる。そうなると塔矢が1人になるだろ?だから、佐為が社を指導している間、塔矢と打って欲しいんだよ」

「佐為がマンツーマンで指導だと?!」

ヒカルの言葉に、緒方の顔が悪鬼と化し、言ったヒカルではなく、話が全く見えていない社を睨みつける。

「えっ!ええっ!?俺の合宿とかサイ?が付きっきりでワイを指導とか全然話が見えへんのやけど!それより何で俺そんな睨まれるんでっか!?」

「これは佐為たっての希望だから、緒方先生が何言ってもダメだからね!」

「佐為の指導で社が強くなるのはいいんですが、たった三日間の合宿で強くなるには不自然だし変な疑いを誰かが持つかもしれません。そこで表向き、緒方さんとも対局し指導したことにしておけば、不自然さは多少薄くなる」

「緒方先生、協力してくれたら、佐為と一日中打てる券二枚あげる」

ヒカルの交換条件に、緒方がピタリと静止する。

そしてじっくり十秒葛藤した後、緒方が振り返ったのは社の方だった。

「社……」

「は、はいっ!」

「お前、佐為をこれから二日間も独占しておいて、北斗杯で無様に負けてみろ……。日本には帰って来れんと思え」

 

 

 

【行洋・ヒカル】

 

ヒカルの双眸が俯き細められ、長い睫毛が不安げに震えた。

歴史に名を残す大棋士を背負うのに、まだ子供のヒカルには荷が勝ち過ぎていると行洋は内心改めて思う。

何故、佐為が宿ったのはヒカルなのか。

何をどう考えたところで、誰にも答えは見つからず、神が答えてくれるわけでも

ない。

だが、考えずにはいられなかった。

「私が守ってみせる」

「……先生?」

「君も、佐為も、私が必ず守ってみせる。誰にも君たちを傷つけさせはしない」

揺るぎなく断言する行洋に、ヒカルと佐為、2人の瞳が見開かれる。

「でも……」

何かを言おうとして言い淀む。

ヒカルの脳裏に浮かんだのは春の授賞式で、たくさんの関係者に囲まれた行洋であり、テレビや新聞に映る行洋の姿だった。

囲碁界を支える大棋士が、プロ自分などに関わり続けて、その名誉や経歴、名前に傷をつけはしないか?

行洋と違い、プロになりたての自分なら失うものは殆どない。

いまならまだ間に合う。

お互い何もなかったことにして、密会する前の関係に戻れば行洋にこれ以上迷惑をかけることはない。

そんなヒカルの心情を見透かしたように、

「君は君でいていいのだよ。そして佐為も佐為であればいい」

決して答えを急かさず強引に意見を押し付けるのではなく、静かに、落ち着きを崩さず、行洋は優しく語りかける。

「………うん」

 

 

 

【芹澤・乃木】

 

「それはどなたの棋譜ですかな?見た覚えがないのですが、韓国か中国、海外の棋士の棋譜とか?」

1人、集中して棋譜並べをしていたところに声をかけられ、芹澤はどう答えるべきか一瞬逡巡したが、

「……saiです」

本当に誰かに声をかけられず、集中して1人で棋譜並べをしたいのであれば、自宅ですればいい。それをわざわざ棋院でしているのだから、誰かが芹澤に気付いて声をかけたとしても責められる云われはどこにもない。

「saiですか?芹澤先生もsaiに興味を持たれていらっしゃったとは知りませんでした」

「つい最近ですよ」

「アマという噂ですが、これだけ打ててアマというのも信じられませんな。百歩譲ってアマとしても、以前はプロとして活躍していた棋士というならば納得も出来るのですが、それらしい人物もいない」

「saiはアマ……」

そう、saiはアマだったのだ。

去年のプロ試験に合格するまでは。

 

 




結局使わなかったネタ集です。
没にするってわかってて面白半分書いてたネタもありました。
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