表参道を少し進むと、巨大な大鳥居が参拝客を出迎える。下から見上げてみると、かなり大きく感じた。
ちなみに、この大鳥居は28メートルもあるらしく、総重量は100トンにも及ぶらしい。90式戦車二両分もあるわけだ。
そんな大鳥居を見上げて、しばらくアホ面を晒した後、神社の作法に従い、軽く会釈をして鳥居をくぐった。
大鳥居をくぐると、まず目に入るのが、日本軍の父と言われる大村益次郎の銅像だ。
どうでも良いけど、この人の肖像画って、おでこが広いっていうか、めっちゃ頭が長く見えるんだよな。
銅像はそこまでじゃないんだが、それでも、やっぱりおでこが広く見える。
そのまままっすぐと進み、神門をくぐり、まずは拝殿で普通に参拝を行う。
平日にもかかわらず、参拝客の数は意外と多く、拝殿の前には少し長い行列が出来ていた。
しばらく並んで待っていると、俺の順番がやってきた。
賽銭箱に小銭を入れ、さて、何を願おうかと思ったが、願い事の内容を何も考えていなかった。とりあえず、軍人らしく国家安泰を願うことにする。あと、ついでに家内安全も。
参拝を済ませた後は、参集殿に向かい、昇殿参拝と玉串奉納の手続きを行う。事前に連絡を入れていたので、手続きは問題なく進んだ。
英霊を奉る神社だからと言って何か特別な作法があるわけではなく、普通の神社で受ける祈祷と内容自体は何も変わらない。
宮司さんに大幣を振ってお祓いをしてもらい祝詞を奏上してもらう。その後は、受け取った玉串を神前に奉納し、参拝は滞りなく終了した。
ちなみに、軍人としての最後の務めのつもりだったので、奉納時の氏名は、旧姓の秋月で行っている。
その後、俺はある場所に案内してもらった。
そこは、明治維新以降、帝國のための尊い命を捧げた英霊達の芳名が刻まれている場所だ。
誰でも知っている歴史上の人物から、大東亜戦争をはじめとして、今日に至る戦役で散華した将士の御霊が奉られている。
そして、その中には、あの日、対馬星系での戦闘で戦死した、対馬警備隊の将士や、俺の座乗艦『あまつかぜ』に乗組み、脱出が叶わず戦死した将士達の名前があった。
そこだけが妙に真新しく、一目で最近追加されたものであることがわかった。
俺はその前にたたずみ、最敬礼を行った。
あの時、俺がもっとうまくできていれば彼らが命を落とすことは無かった。なんて、思いあがるつもりはない。
だけど、もっと他にやりようがあったのでは無いかとは、未だに考えてしまうことがあった。
無理に戦端を開かず、三笠さんの本隊が到着するまで、監視だけにとどめていたら、結果はどうだっただろうか。
本隊と合流すれば、戦力的にはこちらが圧倒的に上だったし、案外、リャンバンの連中もあっさりと降伏したかもしれない。
そうすれば、敵味方共に、犠牲が少ない状態で解決出来たかもしれない。
俺が二年間も眠りこけることは無かっただろうし、三笠さんがガンさんに殴られることも無かった。
俺を対馬失陥を阻止した英雄と呼ぶ人もいるが、たまたまそうなっただけでしかない。
そして、そのために何人もの部下が命を落としている。
以前、俺が入院している時に、戦死者の遺族を装った連中が押しかけてきたことがあった。
あの連中は質の悪い集りだったが、実際に肉親を失った遺族がいるのは事実だ。
のうのうと生き延びてる俺を、彼らはどう思っているだろうか。
何人も殺しておきながら、自分が傷ついたり死んだりするのが怖いという理由で退役すると知ったら、どう思うだろうか。
今更あれこれ考えたところで、何かが変わるわけでは無い事は分かっている。それでも、こうして英霊達の前に立つと、考えずにはいられなかった。
「秋月さん」
声を掛けてきたのは、祝詞を上げてくれた宮司さんだった。
神職の装束で無ければ、どこにでもいるお爺ちゃんと言った感じの人だ。
「若い頃にはいろいろなことがあるものです。私には、軍事の事はわかりません。彼らが何を想い、その尊い命を散らしたのかも、ご本人にしかわからないことです」
「はい……」
「あなたがもし、彼らの死について、責任を感じ、何らかの後悔の念を抱いているのでしたら」
好々爺然とした表情を崩すことなく、宮司さんは俺の全く予想外の言葉を発した。
「存分に、心行くまで後悔なさってください」
耳を疑った。
正直、ありきたりな励ましや慰めの言葉でも出てくるのだろうと思っていた。
だけど、掛けられたのは、俺が予想していたのとは全くの真逆だった。
間抜けに口を開けて、呆気にとられる俺の間抜け面がおかしかったのか、宮司さんは眦を下げ笑みを深めた。
「後悔の念というのは、次があるからこそ、生まれるものなんです」
「つ、次……?」
「ええ。次です」
いったい、どういう意味だ……?
宮司さんが何を言わんとしているのか、さっぱりわからないぞ。
「あの時ああしていれば、こうしていればと考えてしまうのは、あなたが前に進もうとしているからなんです。前に進もうとしているからこそ、過去の自分の決断や行動が正しかったのか、思い悩んでしまうのです。次に生かすために。次こそは悔いることが無いようにするために。後悔とは、いわば教訓なのです。そう考えれば、それほど悪いものでは無いと思いませんか?」
「教訓……」
中々に斬新な意見だと思った。
だけど、言われてみれば、そうかもしれないなと頷ける部分もあるのは確かだ。
「私ぐらい歳をとってしまうと、失敗しても、後悔なんてしなくなるんです。前に進むことを止めてしまった人間の思考です。どうせ、老い先短いのだしという諦観なのでしょうね。ですが、あなたは、そうではありません。存分に思い悩んでください。そして、自らの糧になさってください。それが、若者の特権です」
後悔を糧にか。話は分かるが、そう呼ぶには、代償が大きすぎる気がするんだよなあ、俺の場合は。
だけど、宮司さんが俺を慮ってくれていることだけは理解できた。
宮司さんからしたら俺みたいな小娘なんて、年齢的に見て孫みたいなもんだろう。
そんな小娘が深刻そうにしているのが、いたたまれなかったのかもしれない。
「少し気分が楽になりました。ありがとうございます」
「いえいえ。大したことではありません。お時間があるのでしたら、遊就館も見学なさっていってください」
「はい。是非」
俺は宮司さんに丁寧に礼を述べ、社殿を後にした。
宮司さんの説法(?)のおかげで、ちょっとだけ、心が軽くなったような気がする。
我ながら単純だとは思うけど、この際深く考えないことにした。そのほうが、精神衛生上良さそうだ。
社殿を辞した後は、宮司さんの勧めどおり、遊就館を見学してみることにしよう。
俺は、前世で靖國神社に参拝したことが無いので、当然、遊就館を見学したことも無い。
1Fにゼロ戦とか陸軍の野砲とか泰緬鉄道で使用された蒸気機関車が展示されているという事を、ネットの情報で知っていたくらいだ。
こちらの世界でも、きっと同じようなものだろうと思っていたのだが。
「想像してたのと違う……!」
遊就館の建物はかなり大きく、まるで、国立博物館のようだ。
更に、建物の前には、ゲートガードのようにゼロ戦が鎮座している。
一般の人がゼロ戦と聞いて思い浮かべるであろう、翼端の短い、改良型のエンジンを搭載した零式艦戦五十二型だ。
深緑色と灰色のツートンカラーが、舞い散る桜の花びらに良く映えている。
やはり大戦機が珍しいのか、写真を撮っている参拝客が大勢いた。もちろん俺も、携帯端末のカメラ機能でパシャパシャと撮りまくった。
本物なのかレプリカなのかはわからないが、ミリオタの俺は、いやが上にもテンションが上がった。
正面入り口から館内に入ると、3Fから1Fまで吹き抜けの構造になっており、大東亜戦争時から現在に至るまでの、旧軍や自衛隊の運用した兵器が所狭しと展示されていた。
他国からの輸入品やライセンス生産品も含め、結構な数の航空機や戦闘車両が所狭しと陳列されている様は、壮観の一言に尽きる。
1Fから3Fまでは吹き抜けになっていて、上から見下ろす形で展示されている兵器や装備を眺めることが出来た。これはもう、立派な軍事博物館だ。
それだけでも、俺的には十分満足できたのだが、これだけ見て帰るのもあれなので、館内の資料もきちんと見学いくことにする。
展示されている資料は、旧帝国陸海軍や自衛隊時代の資料を中心に、帝國がどのように成立し、今日まで国体を維持して来たのかをわかりやすく解説されていた。
そこで俺は、ゲームでは知らなかったこの世界の歴史を知ることが出来た。
『インペリアルセンチュリー』では、人類が地球から雄飛して幾星霜もの歳月が過ぎた宇宙時代としか語られていなかったので、とても興味深いものだった。
そこで知った我が八紘帝國の歴史はこうだった。