◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
公式大会もついに後半戦へと突入しようとしている。
競技者としてはまだまだ新参者であるヴィヴィオたちは、この大会で自分の実力と公式戦という状況で競い合うことの本質を理解してきた。
この場にいる全員が、自分なりのプライドと気持ちを持ってここに来ている。今までの練習の日々と、自分が格闘技に賭ける思いの強さ、その原点。誰にも負けないと思ってきたのに、それでも上には上がいる現実がここにはある。
支えてくれた人、応援してくれた人、そんな人々の為にも勝利を得たかった。それでもどうにもならない現実は数多くの涙を生んで、挫折と後悔も生んだ。おそらく競技を辞めた者もいるだろうし、これをバネにもっと強くなった者もいるだろう。
ヴィヴィオたちもそうだ。
勝ったヴィヴィオやアインハルトは負けた者の気持ちを背負っているし、負けてしまったコロナやリオはもがき苦しむくらいの悔しさを感じている。
進むしかないのだ。
それでも、自分の強さを証明したいのなら。
誰かと拳を合わせる喜びを感じていたいのなら。
痛みも苦しみも悔しさも、たった一瞬の勝利の為に抱えて進み続けるしかないのだ。
競技者は皆言う。
―――痛いし、苦しいし、辞めたいと思うことはいっぱいある。
正直な話、勝ったところで何か得するわけでもない。
上にいけば賞金も出るだろうし、優勝者の肩書きはきっと多くの名声と栄光を約束するだろうが、だからといって必ず幸せになれるわけでもないし、年を取れば過去の栄光になっていくのもわかり切っている。
それでも戦い続ける、強くなろうとする。
何故?
それでしか証明できない何かがあるから、それで繋がった絆があるから、それが自分を変えてくれたから、なにより、それがなにより好きだから。
競技を続けられさえすれば、勝てなくてもいいなんて思う人はいないだろう。やるからには勝ちたいと思うのは、当たり前の感情だ。
勝つのが好き、戦うのが好き、競い合うのが好き、通じ合えるのが好き。
戦いの中には色んな好きがあって、その全てが闘技場の上では許される。
だから戦うのだ。
―――試合の中には、ドラマがある。
きっと観客には理解できない会話があって、拳を合わせる二人にしか理解できない熱がある。
長々と語ったが、それでも競技にあるのはシンプル。
情熱と、全力だ。
今日もヴィヴィオとアインハルトは試合に挑む。
相手は強敵で、上位選手で、チャンピオンだ。如何に珱嗄の特訓で強くなったとはいえ、新人の快進撃もここまでだ。易々と勝てる領域ではない。
既に二人は控室に入っており、各々集中力を高めているところだろう。
対して珱嗄はコロナとリオを連れて、早めの昼食を取っていた。
二人の試合は昼過ぎからなので、会場に人を持っていかれて殆ど人気のない広場のベンチに、珱嗄を挟むように三人で座って売店のホットドッグを頬張っている。
「……今日、ヴィヴィオたち勝てるかなぁ」
「大丈夫だよ、きっと」
けれどリオとコロナは心半ばな様子で、ホットドッグの味も楽しめないような表情で会場を見つめていた。
やはり挫折はせずに済んだものの、昨日の敗北が堪えているのか空気は少しくらい。
珱嗄はそんな二人を見つめながらホットドッグを食べ終えて一息。
そして軽く手を拭いてから、その手をぼーっとしている二人の小さな頭にポンと置いた。
「ヴィヴィオたちのことはヴィヴィオたちが頑張ることだから、心配しなくてもいい」
「珱嗄さん……」
「でも……」
「そんなことより、今は自分のことを見てやれ」
「「!」」
珱嗄の言葉に、コロナとリオはハッと気づかされるように肩を震わせた。
昨日、珱嗄の計らいで色んな実力者たちに話を聞かせてもらう機会があり、そこで得られた話はどれも含蓄があり、今後の自分達の糧になる言葉が多かった。
頑張ろうと思えたし、もっともっと強くなろうと心が熱くなったのも確かだ。
けれど、それでも、負けたのだ。
これからも頑張ろうと思うし、進んでいけると思う。
でも、だとしても、二人は全力を尽くして負けた。その事実は覆せないし、すぐに立ち直れるほど軽い事実でもないのだ。
だから二人はその事実から目を逸らすようにヴィヴィオたちの心配をしていた。応援しているのは本当だ。
けれど、珱嗄には二人が考えたくないことがあるからそうしているように見えたのだ。
「まぁ、俺も人に何かを教えるなんて得意じゃないからな……大事なことを忘れてたよ」
「……」
「……」
珱嗄の大きな手の温もりに、なんだか込み上げてしまって俯く二人。
珱嗄はもう何百年、敗北を経験していない。
最初の方では勿論負けたことがあるし、悔しい思いもしたことがあるけれど、それでも何百年と経つ内に忘れていたのだ。全力を尽くして、それでも負けるということは、とても悔しいことなのだと。
「泣かせてやれなくてごめんな」
励ましたくて、何か奮い立てるものを与えたくて、そうして考えた結果の食事会だったけれど、珱嗄は負けた二人に悔しさを噛み締めさせてやれてなかった。
敗北を消化できない内に、次への道を示し、走らせようとしてしまったのだ。
コロナとリオは珱嗄のそんな言葉に、とうとう堪え切れなくなったのかポロポロと涙を流した。コロナは横に倒れて珱嗄の胸にこめかみを寄せ、涙を隠すように俯きながら泣き、リオは感情のままに珱嗄の服を握ってその顔を胸に埋めた。
外だから、二人は大きな声をあげない。
それでも、静かに流す大量の涙が、二人の悔しさを表していた。
「よしよし、後で顔を洗おうな。真っ赤な目で応援するわけにもいかないだろ」
それから二人が泣き止むまで、しばらくそのまま珱嗄は二人の頭を撫でていた。
◇
そして、試合は始まっていく。
敗北者の涙を踏み越えて、それでも戦いは続く。
「ヴィヴィオさん、そろそろですよ」
「はい、気合い十分です」
「……コロナさんたちは大丈夫でしょうか?」
「あはは……大丈夫ですよ、パパが付いてますから。ああ見えてちゃんと父親らしいところもあるので」
ヴィヴィオとアインハルトは控室で張りつめた緊張感の中、じき始まる試合にアップを始めている。アインハルトはチャンピオンと、そしてヴィヴィオも上位選手との勝負になる。それぞれ強敵が相手である故に、コロナたちのことは珱嗄に任せて目の前の試合に集中しなければならない。
トーナメントの組が違うので、ヴィヴィオとアインハルトはこの予選を勝ち上がって本戦に上がらなければぶつからない。
「アインハルトさんはチャンピオンとですよね……頑張ってください!」
「はい、ヴィヴィオさんも」
「もちろん! 本戦でアインハルトさんとまた勝負したいですし!」
シュッシュッ、とシャドーで拳を放ちながらヴィヴィオは笑顔を浮かべる。
アインハルトもまた、ヴィヴィオの屈託のない笑顔につられて笑顔になる。
二人はストライクアーツを通して出会い、そしてここまで様々な共通点を持って競い合ってきた。古代ベルカの聖王と覇王の子孫であり、同じ虹彩異色であり、どちらも格闘技をやっていて、同じ師匠を持ち、同じ技を伝授され、そして同じ大会に出場している。
あまりにも数奇な運命で引き合った二人。
「はい……その時は負けません」
「あははっ! じゃあ約束ですよ、お互い勝ち上がって……本戦で勝負しましょ!」
小指を差し出すヴィヴィオに、アインハルトも応える。
「はい、お互い全力を尽くしましょう」
強さを証明するために始めた覇王流、今でもその気持ちは変わらない。
けれど、今のアインハルトには他にも大事なものが出来てしまっている。それを大切にしたい気持ちも本当なのだ。
だから、強さの証明も、ヴィヴィオとの約束も、どちらも果たす。
珱嗄の影響だろうか、随分と欲張りになってしまったな、なんて思いながら、それでもこの温かい約束にアインハルトの胸はいっぱいだった。
『予選一組、アインハルト選手。準備をお願いします』
そこへアインハルトを呼ぶアナウンスが流れる。
「では行ってきます」
「はい! 頑張ってください!」
ヴィヴィオに送り出され、アインハルトは控室を出る。
―――試合が始まる。
この先、二人にどのような未来が待っているのかはわからない。
けれど、試合の中で彼女達は繋がれる。
拳を合わせ、魔法と技の全てを尽して戦い抜いたその先には、きっと何か輝かしいものが待っている筈だから。
そう、繋がっていけるのだ。
格闘技を続ける限り、何度でも。
「さてっ、私もいかなきゃ」
控室の扉が開かれた。
半端なところですが、今回で最終回です汗
原作公式戦までと決めて書いていたので、こんな形になりました。
正直俺達の戦いはこれからだ!的なエンドですが、どう考えてもこれ以降の話はおそらく珱嗄が一切動かないと思うので、ここまでとさせていただきました!汗
今後の原作を知っている方もいるかもしれませんが、これ以降珱嗄シリーズでリリカルなのはは書かないです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
そして続く珱嗄シリーズ最終章ですが、色々な案をいただきました。
幾つもの案を挙げていただき、本当にありがとうございます!
多くの方々が珱嗄シリーズに期待してくださっているんだなと思うと、本当に嬉しく思います。
にじファン時代から数えるとなんと10年も続く珱嗄シリーズですが、本当に大長編となりました。正直ここまで続ける気は当初ありませんでしたが、次は? 次は? と皆さんが楽しみにしてくださっているのを感じて、気がついたらいつのまにかここまで書いていました笑
では、次で珱嗄シリーズは最後となります!
色々な案を受けて、題材を決めさせていただきました。
次回は!
珱嗄シリーズ最終章
『◇6 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生』
珱嗄シリーズ、最後までお付き合いいただければと思います!
ご期待ください!