◇2 リリカルなのはにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

112 / 112
最終回です。


格闘技で繋ぐ絆

 公式大会もついに後半戦へと突入しようとしている。

 

 競技者としてはまだまだ新参者であるヴィヴィオたちは、この大会で自分の実力と公式戦という状況で競い合うことの本質を理解してきた。

 この場にいる全員が、自分なりのプライドと気持ちを持ってここに来ている。今までの練習の日々と、自分が格闘技に賭ける思いの強さ、その原点。誰にも負けないと思ってきたのに、それでも上には上がいる現実がここにはある。

 

 支えてくれた人、応援してくれた人、そんな人々の為にも勝利を得たかった。それでもどうにもならない現実は数多くの涙を生んで、挫折と後悔も生んだ。おそらく競技を辞めた者もいるだろうし、これをバネにもっと強くなった者もいるだろう。

 ヴィヴィオたちもそうだ。

 勝ったヴィヴィオやアインハルトは負けた者の気持ちを背負っているし、負けてしまったコロナやリオはもがき苦しむくらいの悔しさを感じている。

 

 進むしかないのだ。

 

 それでも、自分の強さを証明したいのなら。

 誰かと拳を合わせる喜びを感じていたいのなら。

 痛みも苦しみも悔しさも、たった一瞬の勝利の為に抱えて進み続けるしかないのだ。

 

 競技者は皆言う。

 

 ―――痛いし、苦しいし、辞めたいと思うことはいっぱいある。

 

 正直な話、勝ったところで何か得するわけでもない。

 上にいけば賞金も出るだろうし、優勝者の肩書きはきっと多くの名声と栄光を約束するだろうが、だからといって必ず幸せになれるわけでもないし、年を取れば過去の栄光になっていくのもわかり切っている。

 それでも戦い続ける、強くなろうとする。

 

 何故?

 

 それでしか証明できない何かがあるから、それで繋がった絆があるから、それが自分を変えてくれたから、なにより、それがなにより好きだから。

 競技を続けられさえすれば、勝てなくてもいいなんて思う人はいないだろう。やるからには勝ちたいと思うのは、当たり前の感情だ。

 

 勝つのが好き、戦うのが好き、競い合うのが好き、通じ合えるのが好き。

 

 戦いの中には色んな好きがあって、その全てが闘技場の上では許される。

 だから戦うのだ。

 

 ―――試合の中には、ドラマがある。

 きっと観客には理解できない会話があって、拳を合わせる二人にしか理解できない熱がある。

 長々と語ったが、それでも競技にあるのはシンプル。

 情熱と、全力だ。

 

 今日もヴィヴィオとアインハルトは試合に挑む。

 相手は強敵で、上位選手で、チャンピオンだ。如何に珱嗄の特訓で強くなったとはいえ、新人の快進撃もここまでだ。易々と勝てる領域ではない。

 既に二人は控室に入っており、各々集中力を高めているところだろう。

 

 対して珱嗄はコロナとリオを連れて、早めの昼食を取っていた。

 二人の試合は昼過ぎからなので、会場に人を持っていかれて殆ど人気のない広場のベンチに、珱嗄を挟むように三人で座って売店のホットドッグを頬張っている。

 

「……今日、ヴィヴィオたち勝てるかなぁ」

「大丈夫だよ、きっと」

 

 けれどリオとコロナは心半ばな様子で、ホットドッグの味も楽しめないような表情で会場を見つめていた。

 やはり挫折はせずに済んだものの、昨日の敗北が堪えているのか空気は少しくらい。

 

 珱嗄はそんな二人を見つめながらホットドッグを食べ終えて一息。

 そして軽く手を拭いてから、その手をぼーっとしている二人の小さな頭にポンと置いた。

 

「ヴィヴィオたちのことはヴィヴィオたちが頑張ることだから、心配しなくてもいい」

「珱嗄さん……」

「でも……」

「そんなことより、今は自分のことを見てやれ」

「「!」」

 

 珱嗄の言葉に、コロナとリオはハッと気づかされるように肩を震わせた。

 昨日、珱嗄の計らいで色んな実力者たちに話を聞かせてもらう機会があり、そこで得られた話はどれも含蓄があり、今後の自分達の糧になる言葉が多かった。

 頑張ろうと思えたし、もっともっと強くなろうと心が熱くなったのも確かだ。

 けれど、それでも、負けたのだ。

 これからも頑張ろうと思うし、進んでいけると思う。

 でも、だとしても、二人は全力を尽くして負けた。その事実は覆せないし、すぐに立ち直れるほど軽い事実でもないのだ。

 

 だから二人はその事実から目を逸らすようにヴィヴィオたちの心配をしていた。応援しているのは本当だ。

 けれど、珱嗄には二人が考えたくないことがあるからそうしているように見えたのだ。

 

「まぁ、俺も人に何かを教えるなんて得意じゃないからな……大事なことを忘れてたよ」

「……」

「……」

 

 珱嗄の大きな手の温もりに、なんだか込み上げてしまって俯く二人。

 

 珱嗄はもう何百年、敗北を経験していない。

 最初の方では勿論負けたことがあるし、悔しい思いもしたことがあるけれど、それでも何百年と経つ内に忘れていたのだ。全力を尽くして、それでも負けるということは、とても悔しいことなのだと。

 

「泣かせてやれなくてごめんな」

 

 励ましたくて、何か奮い立てるものを与えたくて、そうして考えた結果の食事会だったけれど、珱嗄は負けた二人に悔しさを噛み締めさせてやれてなかった。

 敗北を消化できない内に、次への道を示し、走らせようとしてしまったのだ。

 

 コロナとリオは珱嗄のそんな言葉に、とうとう堪え切れなくなったのかポロポロと涙を流した。コロナは横に倒れて珱嗄の胸にこめかみを寄せ、涙を隠すように俯きながら泣き、リオは感情のままに珱嗄の服を握ってその顔を胸に埋めた。

 外だから、二人は大きな声をあげない。

 それでも、静かに流す大量の涙が、二人の悔しさを表していた。

 

「よしよし、後で顔を洗おうな。真っ赤な目で応援するわけにもいかないだろ」

 

 それから二人が泣き止むまで、しばらくそのまま珱嗄は二人の頭を撫でていた。

 

 

 ◇

 

 

 そして、試合は始まっていく。

 敗北者の涙を踏み越えて、それでも戦いは続く。

 

「ヴィヴィオさん、そろそろですよ」

「はい、気合い十分です」

「……コロナさんたちは大丈夫でしょうか?」

「あはは……大丈夫ですよ、パパが付いてますから。ああ見えてちゃんと父親らしいところもあるので」

 

 ヴィヴィオとアインハルトは控室で張りつめた緊張感の中、じき始まる試合にアップを始めている。アインハルトはチャンピオンと、そしてヴィヴィオも上位選手との勝負になる。それぞれ強敵が相手である故に、コロナたちのことは珱嗄に任せて目の前の試合に集中しなければならない。

 

 トーナメントの組が違うので、ヴィヴィオとアインハルトはこの予選を勝ち上がって本戦に上がらなければぶつからない。

 

「アインハルトさんはチャンピオンとですよね……頑張ってください!」

「はい、ヴィヴィオさんも」

「もちろん! 本戦でアインハルトさんとまた勝負したいですし!」

 

 シュッシュッ、とシャドーで拳を放ちながらヴィヴィオは笑顔を浮かべる。

 アインハルトもまた、ヴィヴィオの屈託のない笑顔につられて笑顔になる。

 

 二人はストライクアーツを通して出会い、そしてここまで様々な共通点を持って競い合ってきた。古代ベルカの聖王と覇王の子孫であり、同じ虹彩異色であり、どちらも格闘技をやっていて、同じ師匠を持ち、同じ技を伝授され、そして同じ大会に出場している。

 

 あまりにも数奇な運命で引き合った二人。

 

「はい……その時は負けません」

「あははっ! じゃあ約束ですよ、お互い勝ち上がって……本戦で勝負しましょ!」

 

 小指を差し出すヴィヴィオに、アインハルトも応える。

 

「はい、お互い全力を尽くしましょう」

 

 強さを証明するために始めた覇王流、今でもその気持ちは変わらない。

 けれど、今のアインハルトには他にも大事なものが出来てしまっている。それを大切にしたい気持ちも本当なのだ。

 

 だから、強さの証明も、ヴィヴィオとの約束も、どちらも果たす。

 珱嗄の影響だろうか、随分と欲張りになってしまったな、なんて思いながら、それでもこの温かい約束にアインハルトの胸はいっぱいだった。

 

『予選一組、アインハルト選手。準備をお願いします』

 

 そこへアインハルトを呼ぶアナウンスが流れる。

 

「では行ってきます」

「はい! 頑張ってください!」

 

 ヴィヴィオに送り出され、アインハルトは控室を出る。

 

 ―――試合が始まる。

 この先、二人にどのような未来が待っているのかはわからない。

 

 けれど、試合の中で彼女達は繋がれる。

 拳を合わせ、魔法と技の全てを尽して戦い抜いたその先には、きっと何か輝かしいものが待っている筈だから。

 

 そう、繋がっていけるのだ。

 

 格闘技を続ける限り、何度でも。

 

 

「さてっ、私もいかなきゃ」

 

 

 控室の扉が開かれた。

 

 

 




 半端なところですが、今回で最終回です汗
 原作公式戦までと決めて書いていたので、こんな形になりました。
 正直俺達の戦いはこれからだ!的なエンドですが、どう考えてもこれ以降の話はおそらく珱嗄が一切動かないと思うので、ここまでとさせていただきました!汗

 今後の原作を知っている方もいるかもしれませんが、これ以降珱嗄シリーズでリリカルなのはは書かないです。
 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 そして続く珱嗄シリーズ最終章ですが、色々な案をいただきました。
 幾つもの案を挙げていただき、本当にありがとうございます!
 多くの方々が珱嗄シリーズに期待してくださっているんだなと思うと、本当に嬉しく思います。
 にじファン時代から数えるとなんと10年も続く珱嗄シリーズですが、本当に大長編となりました。正直ここまで続ける気は当初ありませんでしたが、次は? 次は? と皆さんが楽しみにしてくださっているのを感じて、気がついたらいつのまにかここまで書いていました笑

 では、次で珱嗄シリーズは最後となります!
 色々な案を受けて、題材を決めさせていただきました。

 次回は!

 珱嗄シリーズ最終章
 『◇6 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生』

 珱嗄シリーズ、最後までお付き合いいただければと思います!
 ご期待ください!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》(作者:こいし)(原作:問題児たちが異世界から来るそうですよ?)

めだかボックスの世界に転生し、早3兆年とちょっと。地球すら消え去った世界で宇宙を漂う珱嗄は手紙を手にする。▼『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし』▼手紙を読んだ珱嗄は娯楽主義という性格から笑い、嬉々として異世界へと移る。チート過ぎて無敵な主人公は、問題児…


総合評価:4560/評価:6.51/完結:107話/更新日時:2014年07月26日(土) 18:54 小説情報

◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》(作者:こいし)(原作:とある魔術の禁書目録)

問題児の世界を終えて、神様の下へやって来た珱嗄。新たな力を手に入れて転生した先は、とある魔術の禁書目録の世界。▼珱嗄は暗部や魔術師や超能力者などの様々な強敵相手に、どのような無双をみせるのか。▼ほぼ全ての戦闘で相手をおちょくる珱嗄。貰った力はほぼ最弱の能力、さて、どうなる?▼時系列的には妹達編開始位です。▼※原作知識の不足により細かな設定の無知や独自解釈があ…


総合評価:7318/評価:6.68/完結:105話/更新日時:2019年09月13日(金) 14:46 小説情報

◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》(作者:こいし)(原作:めだかボックス)

リリカル世界に転生した珱嗄が物語を終えて次に向かった先の世界の話。 魔法の力を失い、新たに物語に則ったスキルを手に入れた。チートなスキルばかり保有するキャラクターばかりの世界で、珱嗄は何をもたらす?▼※大幅な原作崩壊とキャラ崩壊などありますので、ご不快に思われる方もいらっしゃると思います。頭を空にして読んでいただける方以外はブラウザバックを推奨いたします!▼…


総合評価:4447/評価:7.31/完結:89話/更新日時:2015年04月18日(土) 17:25 小説情報

◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》(作者:こいし)(原作:HUNTER×HUNTER)

 ごく普通の世界で、ごく普通な楽しみを、異常なほどに求めた男、仙道桜が、神様の世界の偶然で死んでしまった。▼ 偶然とはいえ、人間を殺してしまった神様達は、桜を転生させることに。桜は転生先で名前を変え、貰った能力を鍛えつつ…原作に関わって行くことにするのだった。▼※大幅な原作崩壊とキャラ崩壊などありますので、ご不快に思われる方もいらっしゃると思います。頭を空に…


総合評価:5409/評価:6.26/完結:74話/更新日時:2013年09月08日(日) 02:45 小説情報

◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》(作者:こいし)(原作:戦姫絶唱シンフォギア)

 かつてあらゆる世界を渡って生きてきた人外、泉ヶ仙珱嗄が最後にやってきたのは、戦姫絶唱シンフォギアの世界だった。▼ しかしこの世界で彼は今までの強さを放棄した影響か、過去の記憶を全て失ってしまっていたのである。彼が彼らしく生きるために必要だったものは、なんだったのか、ソレを彼は思い出すことができるのか。▼ そして訪れる戦いの時を、彼はどう生きるのか。▼ バラ…


総合評価:3063/評価:8.44/完結:71話/更新日時:2020年07月05日(日) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>