木の葉の里は今ある騒ぎに陥っていた。
既に木の葉崩しによってその力を大きく失った木の葉に、その事実は木の葉に対して更なる追い打ちをかけた。
――――日向ヒアシ、および宗家の全滅。
かろうじて生き残ったのはそこには居合わせなかったヒナタとヒアシの側近二人、そして何故か殺されずにそのまま放置されていたハナビの四人だけだった。
ヒアシの娘である幼い二人だけが宗家の生き残りとなり、それ以外の宗家は全て惨殺されたという話だった。
全ての人々が、その事実に、耳を疑い、そして絶望した。
うちはイタチによるうちは一族の虐殺、大蛇丸による木の葉崩し、そして日向一族宗家の惨殺。
時を経て、木の葉は衰退していく。
まるでそれが運命であるかのように、それが必然であるかのように、それが戒めなのだと言わんばかりに、木の葉は着々と地に墜ちていく。
うちはイタチにせよ、大蛇丸にせよ、そして今回の下手人にせよ、木の葉は自分達が生み出した者によって着々とその葉を食われていくのだ。
とある学者は言う。
――――人は外的要因によって滅ぶのではない、あくまで自滅によって滅ぶ生き物なのだと。
◇
木の葉の里にある忍専用の病院、そこのある病室にて二人の子供がそれぞれのベッドに寝かされていた。
そこの病室のドアの傍の廊下でアスマ、紅、ガイの三人の上忍が集まっていた。
「サスケの方はどうだ?」
鬼鮫にやられた傷を一瞥した後、アスマは隣の部屋のドアに視線を向けながらガイにサスケの事を聞いた
「左手首を折られ、全身に打撲、だがそれ以上の事はされていない。問題は――――」
「精神、か……」
紅が深刻そうに呟く。
先ほどサスケの前で堂々とイタチの木の葉侵入を暴露してくれた一人の上忍を頭に思い浮かべるも、今は他に考えるべき事があると判断した紅はそれを頭の隅に追いやった。
まだ新しい火影が決まっていないこの状況では何とも言えないが、アオバはしばらく給料を差っ引かれるくらいの事はされるだろう。
「あの場に自来也様がいてくれて助かった。おかげでナルトも無事で、サスケも生きて帰る事ができた。こっちの件については後で考えるとする。問題は……」
冷や汗を搔きながら、ガイは心配そうな顔で目の前の病室のドアを見やる。そこの病室には現在、ハナビとネジがベッドで寝かされている。
ネジは全身に深い切り傷を負わされ、身体がバラバラにされるその寸前まで追いやられていた、そして何よりその精神は崩壊し、しばらく目を覚ましそうにはなかった。
ハナビの方も直接やられはしなかったものの、目の前で大切な人がバラされた瞬間を見せつけられて今やネジと同じように精神が崩壊していた。
「ヒナタとハナビ、そしてヒアシさんの側近二名以外の宗家全員を皆殺し、か……。かつてうちはを滅ぼしたイタチでもない限りできない芸当だぞ、こりゃ」
拳を握りしめて冷や汗を掻きながらアスマは苦渋の表情で言う。
木の葉崩しに続いて、これだ。
生まれ育った里がこうも急激に衰退していく様を見てしまい、しかも上忍である自分は何もできない始末。そんな不甲斐ない自分が吐き気を催す程に情けなかった。
そんなアスマを横目で見た紅は何も言えず、悲しそうに目を細めた。
「ヒアシさんの遺体は暗部が処理してくれるそうだ。最も、原型を留めていたのは四肢の部分だけだったが……」
『……』
沈黙して項垂れる紅とアスマ。
ガイの言葉からして、犯人はおそらくヒアシの四肢を切り落とした後、残る胴体を跡形もなく無惨に切り刻んでバラし、残ったのはバラバラに飛び散った内臓や骨の破片と血液くらいなものだった。
――――どんなに、無惨な死に方だったのだろうと。
そしてそこまでする犯人は一体どのような思惑があってこんな事をしたのだろうと。これ程の惨状を作り上げた犯人に対して怒りを抱きながら。
――――だが、正直よかったかもしれない。
そんな中、ガイは二人とはまた違う考えを持っていた。
日向ヒアシが殺された事自体は嘆くべき事態だった。
しかし、カカシという同期を通じて暗部や根の闇を見てきたガイにとって、跡形もなく解体された事はむしろよかったのかもしれなかった。
血継限界を持つ忍はその希少価値によって例外なく、その死体を調べ上げられ、解剖され、弄られてしまうものだ。
暗部はともかく、根の者たちはそういった事だってやりかねない。
だから、ああいう風に調べ上げられ弄り尽くされる余地もなくバラバラにされるのはある意味よかったかもしれないと、不謹慎だと思いながらもガイはそう考えていた。
「紅。この事はもうヒナタには伝えたのか? ヒナタの担当上忍はお前だろ?」
「……………………伝えたわ」
アスマの問いに紅は暫しの沈黙の後にそう答えた。
その答えにアスマとガイは目をパチクリさせながら紅を見る。
いくら何でもまだ下忍に成りたての子供にそれを伝えるのは酷すぎないか。先のサスケの件だってある。どのような意図があって伝えたのかガイとアスマは疑問だった。
「イタチの事だって、アオバ上忍が言わずともいずれサスケに知れ渡っていた。火影様が亡くなられた今、情報の統制や秘匿は暗部のみに委ねられている。だけど木の葉崩しで里内部の情勢が混乱している中じゃ、とてもじゃないけれどそんな事は難しいわ。いずれ伝わるくらいなら……今の内にはっきりと言っておいた方がいい」
組んだ両腕を心なしか力ませながら、紅は答えた。
紅の答えを聞いたアスマとガイはそうか、と納得したように紅から目を逸らした。
彼女なりに悩んだ末の判断だったのだろう。
イタチの件だってタイミングが悪かっただけで、こんな状況の中じゃいずれサスケにも伝わっていたに違いない。
ならば今の内に伝えておいた方が、本人にそれを受け入れる時間を与えるという意味でも得策だ。
「あの子は今私の所で預かってるわ。心ここに在らずっといった感じでいつも天井を見上げてる。……受け入れるには、少し時間がかかりそうだわ」
「……そうか。それにしても、屋敷の死体から判断して下手人はおそらく――――」
「ええ、犯人はおそらく『
「忍界一の猟奇殺人鬼、とうとう木の葉の中にまで入り込みやがったか……」
賞金首を中心として老若男女、腕の立つ忍問わず襲い掛かる殺人鬼。
顔も名前も判明しておらず、被害者は皆体をバラバラにされている事から忍界でいちばん恐れられているS級犯罪者の一人だ。
それが木の葉に入り込んできた、しかもイタチと鬼鮫が侵入しているタイミングでだ。
大蛇丸、イタチ、鬼鮫に続いてこの正体不明までもが侵入してきた。
この短期間の間にS級犯罪者が入り込みすぎだろうと三人は心底で愚痴る。やはり大蛇丸の木の葉崩しが発破となってしまったのだろう。
今の木の葉は、穴だらけすぎる。
「……実はな、その正体不明とヒアシさんが殺り合っていたと思しき場所で、ある物が見つかったらしい」
「……ある物?」
「それって?」
犯人について話し始めた二人に対して、ガイはある事を話そうと口を開いた。
「あのイタチと、えっと~……」
「干柿鬼鮫ね」
「そうだ! イタチとその干柿なんたらが着用していた物と同じ模様の衣類が落ちていたらしい。……何故か焦げていたらしいが」
「「!?」」
ガイのその発言に2人は目を見開いて驚愕を露わにした。
それが何を意味するのかは語るまでもなかった。
「“正体不明”も暁に所属している……そういう事か、ガイ?」
「断定は出来ん。だが可能性は十分にある!」
「じゃあ、その三人は最初からグルだったって事? 私達に予め自分達の侵入を悟らせて、警戒がその二人にいっている間に、その隙にもう一人侵入させて宗家を皆殺しにさせた」
今まで出てきた話を元にし、紅が頭の中でそれを整理しながら推測を口にする。もし“正体不明”が暁に所属しているのだとしたら、今の所考えられる線はソレだ。
しかし、何処か引っかかりを覚えたアスマは自分の考えを口にした。
「……だが、それにしては妙じゃないか? カカシは奴等の目的はナルトの九尾だと言っていた。カカシは過去に暗部に所属していた。俺達が知らない情報もたくさん知っているだろうし、あの口ぶりじゃあ暁の目的はまるで尾獣集めにあるかのようにも聞こえたぞ?」
「それじゃあ順序がまるで逆じゃない。それだったら一方が囮になってもう一方がナルトの中の九尾を取る算段だったって事に――――まさか……」
「組織の事とは関係なしに、それぞれ別の思惑で行動していた。そう言いたいのだろう、アスマ?」
「……まあな」
自信なさげに目を逸らしてそう答えるアスマ。
線としてはまだ紅が推測した物の方が強いので、アスマも自分の推測にはあまり自信をもってはいないようだ。
そんな会話をしていた、その時だった――――
「ぅ……あぁ、あああぁぁッッ!!」
「「「!?」」」
病室のドアの向こうから悲鳴が聞こえた。
「この声は……ネジか!」
自分の部下の悲鳴を聞いたガイは即座にドアを開けて病室に入る。
アスマと紅も一度互いに顔を見合わせた後に互いに頷きながらガイに続いて部屋に入っていく。
「あぁ……ち、ち、うえ……ぇ、あ゛あ゛あ゛ぁっ……」
体中を包帯に包まれ宛らミイラのような見た目になりながらも、苦しそうに、苦渋の表情で、苦悶の声を上げて亡き者を呼ぶ様は正に亡霊と言って差し支えない程に、ネジの精神は崩壊していた。
「ぢぢう゛え゛……っ、い、ぢうえ、ぁヴぁ……あ゛ぁっ!」
「大丈夫か!? ネジ、しっかりしろ!」
ネジは悪夢を見続ける。
喉を裂かれ、倒れる父親。完膚なきまでに『殺』された
二つの悪夢を交互に見続け、更に彼は地獄のどん底へと落とされていた。
「アスマ! 急いで看護婦を呼んで鎮静剤を! 後止血剤もお願い!」
「分かった!」
その様子を見かねた紅がアスマにそう呼び変え、返事をしたアスマはすぐに看護婦を呼びにへと部屋を出て行った。
「とりあえず包帯を巻き直すわよ。騒いだ拍子に傷口が開いちゃってるわ!」
「……ッ、すまない、紅。恩に着る!」
自分の部下が危機に瀕している中で、自分以外の二人の上忍がこの場に居合わせてくれた事はガイにとってはこの上なく幸運だった。
包帯を巻き直してる途中で、アスマが看護婦を連れて戻ってきた。
「皆さん、今から鎮静剤を打ちます! 患者の身体を傷に触らぬように注意しながら押さえつけてください!」
看護婦の言う通りに三人はネジの身体を押さえつける。
傷に触らないように細心の注意を払いながら、紅とアスマがそれぞれネジの右腕と左腕を、ガイは両足を押さえつける。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ……、ぢぢう゛え、ぢぢうえ゛、ぢぢう゛え゛ぇッ……!」
「鎮静剤、打ちます!」
ネジの慟哭とも取れる魘され声を聞いた看護婦は顔を少し歪めながらも、冷静に鎮静剤をネジの二の腕に打ち込む。
「ち……ち、うえ……」
未だに亡き父親の事を呼びつつも、安定した息遣いとなって次第に沈静化していくネジ。しかし、その表情にはいまだに苦悶と悲壮が渦巻いており、最後にガイやアスマ、紅の三人に衝撃を残す一言を呟いて眠りについた。
「にい、さん――――」
『――――ッ!?』
一斉に目を見開く三人。
ガイは慌ててネジの顔を覗き込む。
しかし当のネジは鎮静剤の効果により既にすやすやと安らかな眠りについていた。
「……ネジに兄貴なんていたのか、ガイ?」
当然のように思った疑問をアスマはガイに問いかけた。
「……いいや。担当上忍の俺が言うのも何だが、そんな話は聞いた事がない」
否、とガイは答える。
「だけど、担当上忍になるのなら、その部下の家族関係とか調べていた筈でしょう? だったら――――」
紅もまた問いかける。
そもそもガイは人の名前を覚える事が大の苦手な人種だ。調べていた所で、そこにネジに兄がいたという事が判明していた所で、本人の頭に残っているかどうかが疑問だった。無論、そんな事はないだろうが、念の為に問い合わせてみたのだ。
「調べたさ」
ガイはきっぱりと答えた。
「ネジだけじゃない、リーも、テンテンも、あいつ等が俺の部下になる直前まで三人の事は家族関係は粗方調べたさ。特にネジに関しては複雑な事情がある。だから徹底的に調べた。……だが、ネジに兄がいたなんて情報はなかった。血のつながりがないという線で身の回りの人物も調べてみたが、ネジの兄貴分のような存在は誰一人としていなかった」
当時の事を思い出し、ガイは顰め顔で語る。
ネジは日向一族宗主の弟の息子という事もあり、他の二人よりもより綿密に家族関係や人間関係、または本人の経歴などを調べたが、そこに彼の兄らしき人物の影など何処にもいなかったのだ。
「じゃあ、今のは単にネジが意味もなく口走ったという事か? もしくはハナビやヒナタを見て自分も兄弟が欲しいという願望が口に出ただけじゃ……」
「――――いいや」
アスマの推測に、ガイはまたもや否、と否定した
「根も葉もないが、少なくともこんな状況で、しかもこんな状態で、最後に父親を呼ばずに兄の事を呼んだ。つまりネジにとっては、“兄さん”と呼んだその人物は、父親と並ぶくらいには大きな存在なのかもしれん」
少なくも、願望したり想像する程度で出てくるような言葉ではないとガイは断言した。根も葉もない言葉だが、しかしガイが言ったからこそであるからか、不思議と説得力を感じさせた。
言い終わったガイは再びネジの方に顔を向け、アスマと紅もまた続いてネジの方を見やる。
自分が入っていいような話ではないと感じた看護婦はでは私はこれで、と言い部屋から退散していく。
三人は部屋から出て行く看護婦にお礼を言って再びネジの事について話し始めた。
「まさか、ガイ。お前は『正体不明』はネジの兄貴だって……そう思っているのか?」
「可能性としてはゼロじゃないわ。……いいえ、むしろ私は得心が行くわ」
「紅?」
突如挟んできた紅の言葉にアスマは訝しむように紅を見る。
「むしろ、そうでなければネジが生き残っている理由に納得が行かないわ。……もし、犯人がネジのお兄さんなのだとしたら、少なくとも宗家を恨む理由は十分に持っているでしょうし……」
「……日向ヒザシの仇、か?」
「ええ。それに……『正体不明』の犯行手口からしてまず日向一族の者だって想像できる者はまずいない。だからこそ、『正体不明』はこれまで特定されずに連続殺人犯になり得たのかもしれないわ」
「なるほどな」
聞けば聞くほど、考えれば考える程質の悪い殺人鬼だと、三人は『正体不明』の事を思う。無論、『正体不明』がネジの兄であるという可能性自体は決して高くはないが、在り得ない話でもない。
「……俺の調べ不足という可能性もある。今一度ネジの経歴やその周りを調べ直して、それでも出てこないようであれば……知っていそうな人物に聞くしかない」
「私も協力するわ。ネジの事もそうだけど、うちのヒナタの事だってあるし。……アスマは?」
ガイに協力を申し出た紅は、アスマの方へ向き、問いかけた。
――――貴方はどうするの?
ガイや紅がネジの事について調査するのは、今回の件の被害者が自分の部下の中にいるからだ。担当上忍として自分の部下にしてやれる事はしなければならない。例えソレが、里の
だが、アスマは先述の二人の担当上忍という訳でも、ましてや深い関わりがある訳でもない。
無関係のアスマがこの件に首を突っ込む義務などないのだ。
そんな紅の気遣いを読み取ったアスマは、フ、ほくそ笑み、答えた。
「おめぇ等がやるっていうのに、俺がやらねえなんて選択肢はねえだろう。俺も首を突っ込ませて貰うぜ」
ガイもまた笑う。
「里がこんな状況では、俺達上忍が前線に駆り出される事はない。しかしだからと言って、何もしないのは熱い青春にかける者として恥ずべき行為だ! 俺達は俺達で、前線に出るであろうあいつらにしてやれる事はしなければな! 同じ青春を共有する者として!」
ガイの暑苦しい言葉を軽く聞き流しつつも、ガイとアスマもまた同じような決意を胸にした。
その時だった。
ガチャ、とドアが開く。
そこには、満身創痍の一人の男が入ってきた。
◇
「ハァ、ハァ、ハァ……」
木の葉の里の夜の街中を、一人の男が息を切らせながら歩いていた。
「くそ……こう、なる、事は……分かっていた筈なのに……」
男は目立った外傷こそはないものの、破裂するような内臓の痛みを必死に堪えながら、千鳥足で街中を歩く。
「ゲホッ、ゲホッ……!」
街灯の明かりのスポットに入ったと同時、男はせき込み、口からドス黒い血を吐きだした。……人体から飛び出したばかりの血は、本来ならば酸素をまだ多く含んでいるためその色は鮮血の如く真っ赤な筈なのに、彼が吐き出した血は
それほどまでに、男の内臓は異常をきたしていたのだ。
「くそっ、くそっ……分家の、連中め……!?」
己の不甲斐なさと、悔しさのあまり涙が出た。
男は今は亡き日向ヒアシの側近
使えるべき主を失い、そして共にいるべき家族ともいえる存在を突然失くした彼は行き場を失い、もう一人の側近と共に酒場で酔っ払っていたのだ。
己の矜持も、誇りも忘れ、ただただ自分が日向一族宗家の者であるという過去の栄光に縋り、もう一人の側近と共に荒れながらそれを語り合っていたのだ。
その最中、襲撃にあった。
自分達が酔っ払っているタイミングを見計らって襲撃してきた者達。
彼らの額に付いていたあの模様は忘れもしなかった。それもその筈である。それを彼らに付け、彼らを鳥籠の中に押し込めて縛り付けてきたのは紛れもなく
態々額当てを付けずに襲撃してきたのはおそらく、自分達宗家に対する当てつけなのだろう。そんな彼らの思いを、男は否定する事はできなかった。
自分がこうして体よく宗家に残れたのも、運がよかったのに過ぎないのだ。自分だって巡り合わせが違えば分家に落とされ、もしくはそこに生まれ呪印で縛られて宗家に尽くさせられていた事だろう。
そう、単なる巡り合わせの違いでしかなかったのだ。
彼の主であったヒアシ、そしてその双子の弟であったヒザシに関してもそうであったが、もしヒナタとハナビ、一方が宗家となり、もう一方が分家に落ちる時、今は亡きヒアシはどう思うのであろうか。
ヒアシとヒザシの場合は先に生まれたか後に生まれたかの違いで宗家か分家を決められたが、ヒアシはちゃんと次女のハナビを正式な後継者として任命する事を表明していた。これはヒアシ様なりの、彼の父親を反面教師として学び取った結果だと男は考えていた。
ヒアシは口にする事はなかれど、その本心ではただ後に生まれたか先に生まれたかの違いで自分と弟を宗家と分家に分けた事を恨めしく思っていたに違いない。判断材料としては明らかにおざなりで、そして早計にも程があるだろうというヒアシなりの思いの顕れなのだろう。
現に弟の息子として生まれてきたネジは、ヒアシの娘二人をはるかに凌ぐ才の持ち主だった。後に続く者の才能を見るのであれば、むしろ宗家にすべきなのは弟の方であったと、主ヒアシは常々考えていたかもしれない。
だからこそヒアシは今度こそ、先に生まれたか後に生まれたかの違いではなく、きちんと才能という明確な基準を以て長女と次女、どちらを跡取りに選ぶかを決断した。跡取りを選ばなかった方に関しても、彼女が呪印を刻まれぬ機会に恵まれぬよう、精一杯日向家から遠ざける事で双方の娘の安寧を願っていた。
「は……ははは」
今は亡き主の葛藤を思い出し、男は自嘲した。
「何やってるんだよ……俺……」
一族の宗主と、そして一人の親という二つの立場の間で葛藤しながらも、それでも精一杯向き合って娘の安寧を願い続け、そして二人の甥に懺悔し続け、そんな思いを長年抱えながら一族を引っ張ってきた男がいたというのに、自分は一体何をしているのだ。
高々、自分の拠り所を失ったくらいで、過去の栄光を幻視し、酒場で飲み耽るという愚行。更には予測できたであろうにも関わらず、その隙を突かれて襲撃されるという失態。
ああ、すべて己の不甲斐なさが招いた事だ。
自分の他いたもう一人の側近は先の襲撃で命を落とし、自分は何とかここまで逃げ伸びる事ができた。
――――ならば、今自分がすべき事は……。
気が付けば、木の葉の病院まで辿り着いていた。
その病院のある病室の窓を見つめる。
――――あそこの部屋には確か、ハナビ様とネジが……
「――――ッ!?」
突如、殺気を感じた男は少ないチャクラを振り絞って白眼を開いた。
眼の周りの血管が浮き上がると同時、視界が三百六十度に広がる。
「なッ……、もうここまで……くそっ!?」
白眼に映った
留めないつもりでいた……複数の物陰に隠れている
――――……ッ!? 既に院内にも入り込んでいるのか!?
最悪の事態を目の当たりにしながらも、男は内心で納得する。
そもそも宗家と分家の事情を知っているのは木の葉の中でも一部の者だけだ。偶然にも中忍試験の会場に居合わせていた観客たちはネジの告発を機に知ってしまったみたいだが、それでもほんの一部の者達だけだ。
日向一族宗主の娘が入院しているこの状況では、院内に日向一族の者が多くいても違和感などあるまい。
だとすれば余計に急がねばならなかった。
白眼を開き、同族が見張っていない廊下を選びながら走る。
もちろんこっちの動向は向こうも白眼で見張って把握しているであろうが、やらないよりはましである。
――――間に合ってくれ!
ただその思いを胸に廊下を走り、階段を駆け上がる。
やがて、その部屋のドアへとたどり着き、取手を回して開く。
「ハナビ様……ッ!?」
彼女の名前を呼んだその時――――
背中に、何かが触れた。
それが何であるかは、白眼を開いていた男にはすぐにわかった。
後ろから、柔拳を見舞われたのだ。
「ご、ハ――――」
その認識を最後に、男はうつ伏せに倒れる。
薄れゆく意識の中、必死に前を見上げ、そこにいる三人の人影が目に入った。
――――ああ、彼が今まで、ハナビ様を看てくれていたのか。
おまけに三人とも木の葉ではそれなりに名の知れる上忍ではないか。
彼らなら……彼らなら……。
「頼む……どうか……」
体を這いずらせ、呆然と佇む三人へと近寄る。
「どうか……ハナビ様、を……」
その言葉を最後に、男の意識は断絶した。
◇
「そうか、白眼の回収は叶わなかったか……」
頭の下半分から右眼あたりまでにかけて包帯で包み込んだ老人、志村ダンゾウは幾ばか落胆するように呟く。障子越しに見える片膝をついた彼の部下らしき影が頭を下げて謝罪した。
「申し訳ありません。回収した白眼は既に、瞳力としても、目としても機能せぬ状態でして……」
「日向の異端児め……己の獲物は何が何でも他人に弄らせんという訳か」
宗家の屋敷の死体から回収した白眼は皆、瞳力としての力も、そのチャクラも既に失われており、あたかも完全に死んでいるかのようだと部下から報告を受けたダンゾウは、現在忍界を恐怖に陥れる猟奇殺人鬼を思い浮かべ、表情を変えずに忌々しげに呟いた。
「よい。やりようはまだいくらでもある。暫し下がっていろ」
「はっ」
そう言って、部下の影は退散していく。
そしてダンゾウは更に思考に耽った。
元々、うちは一族と同等の爆弾を抱えていた日向一族であったが、まさか今になって爆発寸前にもなるとは思わなかった。
生まれつきの呪いを抱えているうちは一族とは違い、日向一族は自分達で自分達を呪った一族。そしてその呪いも周囲には対して影響を及ぼさない類であったからこそ、ダンゾウの中で日向一族はうちは一族よりも優先順位が低かった。
……だが、そうもいかなくなった。
本来ならその爆弾をコントロールする筈の宗家が、刹那の間に惨殺され、分家の呪印を起動できる者はほとんどいなくなった。
積年の恨みを抱えた
そうなると自分が決断するまでの時間も残されてはいまい。
「報告です、ダンゾウ様」
「……何だ?」
「先ほど、酒場で酔っ払っていた宗家の生き残りが分家の者達に襲われたそうです。このままでは……」
「つくづく……時間とは待ってはくれぬ物よ」
ダンゾウは立ち上がり、部下に命令してくれた。
「分家の連中はもはや争いの種にしかならぬ。生け捕りにして白眼を回収する程の余裕も此方にはない。分家の奴等は皆殺しにせよ」
何せ、日向一族はうちは一族と比べ、歴代の規格外とはともかく、一族の総体としてみるのであれば圧倒的に強い。
開眼条件が緩い、ないしは必要としない白眼はその開眼率がうちは一族の写輪眼と比べても圧倒的に高いのだ。
故に一族全体の実力はうちは一族よりも高い。
生け捕りにして白眼を回収する余裕などないだろう。
「襲撃にあった宗家の生き残りはもはや長くはあるまい。白眼は奴の遺体から頂くとしよう」
「はっ」
「それと宗家の娘共に関しては暫く保留にしておく。だが長女や日向ネジに関してはよく気を配っておけ。前線にでも出されたりすれば呪印がない事をいい事に敵に白眼を持ち帰られる可能性も出てくるだろう。――――行け」
ダンゾウの命令と共に影は姿を消した。
「さて――――」
ダンゾウは再び机の書類を向かい合い。
思考に耽った。
今回の件でうちは一族に続き、日向一族もまた絶滅の一途を辿る事になる。
例え里の牙を折ってでも、火種を絶つことで里の平和を測る……それが彼ら「根」のやり方である。
「ヒルゼンよ。光を浴びる木の葉であるお前が死に、
「葉が枯れようと、根が無事ならまた新しく生える。今度は儂が、根であると同時に、葉になってみせる」
前回で死の線についての設定が問題になった件……はっきり言って今でも分からぬ
いくらググっても分からぬ。
……分からないからこのままでいこうと思います。
というか、もし動いてるんだったら型月の直死持ちはどんだけ超人なんだよ!(志貴と式)