この小説は東方project様の二次創作です。原作と異なる所が多々あります。
気に入らない点もあるとは思いますが、しばしのあいだお付き合いくださいm(_)m
すこしでもお楽しみいただけたら幸いです。
冬。
秋のだいだい色の雰囲気はすっかり無くなり、草木はじょじょにその身を枯らしていく。
あそこまで青かった空は薄墨のように、乾いた日の光りを地にそそぐ。
寒空の下、わびしいまでの木枯らしは枯葉を巻き上げると、そのまま道の脇に置いていってしまう。
道行く大人たちは物憂いな面持ちでつま先を見つめ歩く。
そんな静けさを打ち破るような音が聞こえた。
「こどもは風の子」
どこかで聞いた、誰が作ったのかもわからない言葉。
それは本当に日常というものを風刺している。
道のど真ん中できゃあきゃあ騒ぐ、こどもたちは今日も元気だ。
「こーら。道に広がらない。他の人の迷惑だろ」
「はーい」
元気よく返事を返す彼らを見て、
頭にのせる異様なデザインの帽子、手にはチョーク。
彼女は幻想郷のこどもたちに勉学を教える寺子屋の先生であり、同時にワーハクタクという妖怪という面も持つ、すなわち半妖なのでである。
今は寺子屋の休み時間だ。
(この寒いなか、よくまああんなに薄着で……)
昨日は雨、そして今日は曇りという天気で幻想郷には鬱とした空気がただよい、活気を無くしていた。
師走も押し詰まり、初雪でもふれば幻想郷の美しい雪景色が楽しめたのに、そう肩を落とす慧音。
しかし、けらけらと無邪気に笑う彼らを見るとつい口元が緩んでしまう。
そんな彼らがそこまで夢中になっているもの、それは彼らが取り囲んでいる少女が手に持つモノだった。
傘。
どうやら少女はくるくると回した傘の上に、茶碗だの鞠だのを乗っけて「傘回し」をやっているらしい。それを一心不乱に見る子や、すげー、と感嘆をもらしながら皆、夢中で見入っている。
「ふふん。もっと驚きなさい。さあ、その下駄も追加するわよ! それっ!」
いっそう強い「すげえ!」が水面の波紋のように投げられる。当の本人はその歓声を聞き、得意げそうに鼻を鳴らす。
少女がより回転を早めクライマックスに差し掛かると思いきや、傘を閉じ、計三つの小道具をすべて手でキャッチ。
決まった。
一気に湧き立つ黄色い歓声を見届けると、彗音はゆっくりと子供たちに近づいた。
「ほらほら。もう休み時間は終わりだぞ。お姉ちゃんにありがとうを言ったら戻れー」
合唱のように「えー」なじり声が響き渡るが、如何せん詮方ない。
子供らをさっさと寺子屋にいれる彗音。
この劇を彼らにはあまり見せたくはなかったのに、慧音は心のなかでそう呟く。
なぜなら、
「ったく………。妖怪付喪神がこんなところで何をしたいのだか」
その声を耳にし、傘回しの少女は「しまった」とでも言いたそうな顔をした。
まるで夜遊びしていたところを友達の親に見つかってしまったかのように、嫌そうな表情だ。
「な、ハクタク風情が何の用よ。なんだっていいじゃないっ」
振り向いた少女。
それは、
「ははん。それであんな変なマネを」
「へ、変とは何よ!そうやって大人は私のことを馬鹿にして!」
「それはいいとして、ハクタク風情とはなんだ風情とは。付喪神から堕ちた妖怪ごときが何を言うか」
「お、堕ちてなんかないわよ!ただ、妖怪の方がなんていうか、その……ああもう!」
気色ばんで噛み付く小傘。
真夏の空の様な、水色の髪。同色の服とスカート、胸元には、「一メ」とも「-×」というただの模様にも受け取れる意味深な刺繍がほどこされている。
自分で入れたのだろうかはどうであれ、小傘にとっては可愛くも自分という存在を具体化したチャームポイントなのだろう。
「はいはい分かった。ともかく、ここに来て一体何がしたかったんだ?」
「それはもちろん、ガキっ子らを驚かせにきたのよ!」
彼女は付喪神でも、普通の付喪神とは違う。持ち主に捨てられた傘の付喪神がそれにへそ曲げて人の恐怖を求むようになった、妖怪のような付喪神。それが彼女だ。
ここで疑問が浮かぶ。
なぜ、そんな仮にも「元神様」が子供相手に驚かせようとしているのか。
その答えは単純だった。
「つまり、あまりにも脅かしの程度が低すぎて大人はおろか子供すら驚かなくなったから今度は芸事で驚かすしかない、ということか」
慧音がその言葉を口にした瞬間、小傘の体にピシィ!という衝撃が走った。
例えるなら、言の葉がそのまま槍と化し、触れてほしくない心の繊細な部分を一突きにされた様な――
まさに「グサッ」という効果音がふさわしい、そんな様子で小傘は体を硬直させる。
「驚かしかたに迫力が無い」などということは、今までにでも何度も言われたことだが、今回はそれらとは少し事情が違うこともあり、
おもむろに、自分の持つ傘に目をやる。
野暮ったい、茄子色――
おもちゃの様な目と口の模様――
餅のような、舌状の何か――
今までさして意識はしていなかったが今気付いた。
「この傘って、ダサい……?」
ぽろり、と出た小傘の素直な感情に、慧音は優しい笑顔でうなずいてやる。
哀れみにも似たそのほほえみに、小傘は身をわなわなと震わせると、
「うるさいうるさい!どうせ私はダメな付喪神ですよっ!うわもう恥ずかしい……」
顔を手で覆う小傘。うう……、とうめき声をもらす。
そのとき、肩に妙な感触をおぼえた。
「小傘姉ちゃんはダメじゃないよ。ウチらにとっては大事だよ?」
ふわっとした髪の感触が、ほおに伝わる。
見ると、少女が後ろから抱きついていた。
「シオリッ…………。あんた、いい奴ね……」
花柄模様の臙脂色の小紋に、肩までの茶色い髪。
「
十二才ぐらいか、ほかの無邪気な子供らとは違い、お姉さん的な頼りがいもある利発そうな、それでいて可愛らしい猫のような顔立ちをしている。
そーだ、小傘ねーちゃんはいい人だぞー、とあどけない声が他の子供たちから響く。
「もともと私はいい子よ。ただ、子供たちなら驚かせられる小傘姉ちゃんはすごいね、ってこと」
「それ……ほめ言葉?」
さーね、と首をふり、にししと笑うシオリ。利発といより、悪賢い猫のような印象を与える。
なんだとー、とむくれながらシオリを追いかける小傘。
「じゃ、小傘姉ちゃん。今日も送ってね」
ぜえぜえと荒い息を吐きながらも、そう言ったシオリの顔だけはちゃんと見る。
「ふん、いいわよ。この続きをしましょ」
とか言いつつ、内心嬉しかったのだ。
いつからだろう。
小傘は、人の子が好きになっていた。
あの日、色が嫌という理由で茄子色の傘は捨てられた。
持ち主はさっさと新しい傘を買い、こちらなんか見向きもせず行ってしまった。
独り、雨のなか傘は思った。
どんな雨でも、どんな風でも、自分は耐え忍んで人間を守ってあげたのに。
人間とはこんなに非情なものなのか。
それなら、仕返しをしてやろうじゃないか。
こうして、傘の付喪神は妖怪となった。
それが、「多々良小傘」だった。
つむじを曲げた唐傘は、人を驚かし、人を驚かす。それだけを飽きもせず繰り返した。
しかし、こちらの脅かしもやがて通用しなくなり、小傘は悩んだ。
思い屈した心を抱えたままも、試行錯誤して、その生き方を続けてきた。
そんななか、人里を眺めていると気づいた。
「驚く」という感情は何も、すべて恐怖というものでもないのだと。
感動し、喜ぶ。それらがベースとなったものも「驚き」なのだと。
そうと知ってしまえば簡単だった。
傘での芸、得意な鋳物での芸――それらは幼い子供たちにとって「驚き」のものだったのだ。
人間の子供の前で、凄いことをする。それだけでいつもの何倍の驚きの感情を得られた。小傘はたびたび人里に出向き、それに自分も、子供らも夢中になった。
人の子をダシに使った――無垢な感情を利用しただけなのか。
すべてその感情とは言い切れない。
自分の傘のデザインをからかう子もいたが、なんだかんだ言って彼らは「かわいい」「おもしろい」、「おどろいた」と、言ってくれた。
すこしずつ、情を感じてきた。
そんななかで出会ったのがシオリ。
芸を始めてから少したったある日。
自分の芸を見に来た子供たちのなかに見知らぬ顔を見とめ、小傘はこいつも驚かしてやろうとたくらんだ。
彼女もそこらの無知な小童と同じだと思ったのが間違いだった。
より完成度をあげた芸に彼女は拍手すると、小傘の手をとり、
「すごかったです。あなた、名前なんというのですか?」
小傘が自分の名前を告げると、彼女は言った。
「私はシオリ。寺子屋のお姉さんよ。あなたの芸、とっても驚いた!」
彼女が「驚いた」と発したとたん、次々と真似するように「驚いたよー」が他からあがった。
どうやら彼女は寺子屋生徒の最年長として、まとめ役、指揮役らしい。
子供たちを連れて小傘の前に来てくれることは、驚きを集めるのにとても助かった。
他の子供たちとは違い、年のそこまで離れていなく、なおかつ大人びた彼女は驚かしのエモノというより、色々と話をきく興味深い相手だった。
しだいに仲を深め、いつしか「シオリ」「小傘姉ちゃん」と呼ぶまでだった。
いつしかシオリを可愛く思い、妹みたいに接している自分がいたのだった。
「おーい。小傘姉ちゃん」
ふと、そんなことに首を巡らすと頭上から聞きなれた声が降りかかってきた。
木の上。
見るとそこには、シオリがいるではないか。
足をぶらぶらさせながら、熟れたミカンを撫でている。
「どうしたの?浮かない顔して。陽気じゃないお姉ちゃんはらしくないよ」
「い、いやいや。何でも……はは……」
「はあ、私より年上なのに、この嘘の下手さ……」
呆れたような顔をするシオリ。そんな彼女にこのときばかりは腹が立った。
自分の回想のなかからシオリが出てきた気がして、目の前の少女を真っ直ぐ見れない。
しかし、どうしても聞きたいことがあった。
それが、湧き水のようにふつふつとつのりだす。
「ねえ」
「もし、私が妖怪だったら、どうする」
沈黙が間を巡る。
言ってしまった後、後悔した。
答えを聞くのが怖い。
しかし、シオリは木から飛び降りると、
「やっぱり。今さらって感じだよ。いままで隠していたつもりだったの?」
「え」
「小傘姉ちゃんが人間じゃないってこと。会ったときから知ってたよ」
そう言って、「にしし」と笑う。
声が出なかった。
驚き半分、嬉しさ半分。
「シオリ」
「今日、いっしょに帰ろ」
気づけば、二人は団子をくわえ、歩いていた。
水を張った大きな器に、オレンジ色の絵の具を垂らしたよう。
夕焼けの空に、シオリの髪は金色に染まっている。
「ふうん。それで小傘姉ちゃんは妖怪に」
「そうだよ。だから道具は大事にしなきゃだめなの」
「お姉ちゃんが言っても説得力がねえ………。私より背は高いのに」
そうけらけら笑う。むくれる小傘。
「そういえばさ。あんた親は何しているの?」
そう聞くと、すこしシオリの顔に影が差した。
「お母さんお父さんは居ないよ」
「えっ」
頭が真っ白になった。
「妖怪に喰われて死んだ。私が小さい頃」
さしてつらくも無いように。幼い頃の失恋でも語るような口調だった。
「がぶっとね。どんなやつかは忘れた」
「だから今は私と弟で暮らしている。親戚の伯母さんに助けてもらって」
回る。
言葉が回る。
ぐるぐると、言葉がただの音になる。
「妖怪に喰われて死んだ」
それが、頭のなかにあたっては壊れ、そのまま破片となって突き刺さる。
聞こえない。
聞きたくない。
「あのとき、みんなみんなが小傘姉ちゃんみたいな妖怪だったら良かったのに」
「まあ、今となっては大して悲しくも無いけど。横暴だったし」
やめて。
これ以上、言わないで。
気づけば、その場を飛び出していた。
「ちょっ?!お姉ちゃん、どこ行くの!」
声は雑音となった。
走った。
ひたすら走った。
目まぐるしく変わる景色にお構いなく走り、足をとめる。
ついたのは川原だった。
まさか。
あの子がそんな身とは。
信じたくない――。
「よお」
聞きなれた声が響いた。
赤い空に映る、黒い影。
青の矢印、赤い鎌。
渦巻きの服に、三又の槍。
正体不明の怪物、封獣ぬえ。
「どうしたのさ、小傘」
「別に」
「あーあ。冷たいなあ。分かるよその気持ち」
「あんたになんか分からないよ」
「あんたとはひどいね。いつもはぬえぬえ言ってるくせに」
「今だけは友達のぬえじゃない。あんた」
ぺとりと、厭な感触がほおに伝わる。
まるで首筋に刃物をあてられたような、おぞましい冷たさ。
「見てたよ」
その言葉に、心臓が止まる。
「人間の女の子のつらく悲しい過去を聞き、居たたまれなくなったんでしょ」
「分かるけど分からない。やっぱりあんたは妖怪じゃないね。仏さまかなにかかもよ」
声が黒板をつめで引っ搔いたようなものに変わる。
「妖怪でもない小傘が、妖怪として馴れ馴れしくあいつらと親しくなっても」
「『妖怪』というモノのイメージを、誤解させるに過ぎないんだよね」
「小傘、私はあんたのために言っているの。人間はどうでもいいけど、あんたが悲しんでほしくは無いんだ」
小傘のただならぬ様子を察したのか、若干口調がやわらいだ。妖怪としての性格が否が応でも出てしまったのだろう。
しかし、垣間見えた真剣なぬえの素直な気持ちなど、今の小傘には無意味だった。
ぬえも面と向かって優しい言葉をかけられるような素直な心は持ち合わせていない。皆無だ。
入り乱す小傘を見て、呆れたように一瞥した。
そして、正体不明の怪物にもどる。
愉快な傘回し。
優しいお姉ちゃん。
体が次の言葉を拒絶する。
「いつかきっと痛い目にあうよ。覚悟しな」
夕焼けはきれいだ。
いつもはそう思っているかもしれない。
茜色が真紅に、日の光りはまるで涙のように。
――空が血を流していた。
この作品に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
お楽しみいただければ嬉しいです。
わちきちゃん。
非公式だけど、この呼び名は本当に可愛い……
これを書いて、急に小傘ちゃんが好きになってしまいました。私のなかの小傘って村のガキっ子をからかいながらも可愛がるお姉さん的なイメージなんですよね。(メ●リー=ポピンズ)だからこれもこうなりました。
わちきちゃんマジ天使(ё。-)(目のアレ、オッドアイなのでしょうか)
それでは、改めてこの小説や長々とした下らない後書きを読んでくださった皆様に心より感謝申し上げます。
ご意見、ご評価、ご感想のほど、頂けたらうれしいです。
[追記]この小説はやたらとモブキャラ多い!