やはり俺が護廷十三隊隊士なのは間違っている。   作:デーブ

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第六話 比企谷八幡と雪ノ下雪乃は再び虚と交戦する。

 

 

 

 

 

「鶴見さん。少し、私たちの話し相手をしてくれる?」

 

珍しく母性を感じさせる優しい声音で、雪ノ下は留美を部屋に招いた。

 

「うん・・・」

 

ホッとした様子で留美が室内に足を踏み入れる。

 

俺は扉を閉めて、留美に続く様に元居た場所に戻った。配置的には雪ノ下、俺、留美が三角形になって腰を下ろしている感じか。

 

「こんな遅くに付き合わせてしまってごめんなさいね」

「別にいい」

 

雪ノ下の言葉に答えた留美は、本当に気にしていない様だった。

俺はそんな留美を横目に捉える。

 

何故かは知らないが、留美は家に帰る事を恐れている。

元々、虚と戦おうとするトチ狂った村だ。彼女の家庭に何か問題があるのかも知れないと思い、呼び止めたのだが・・・・。

 

さて、どうしたものか。

 

生憎と俺に気の利いた事など言えない。

いきなり家庭の事情を突っ込んでも良いが、幾らなんでもそれは直球過ぎる。

本人の触れられたくない話題にメスを入れて、あーだこーだ言っても、この子の心は落ち着かないだろう。

 

ホントにどうしたモノか。俺は無意識に手に顎をやりそうになるが、その瞬間に雪ノ下が口を開いた。

 

「貴方は、この村の事をどう思っているのかしら?」

「・・・」

 

沈黙を返した留美の肩は、わずかに揺れた様に見えた。

そんな風に見えてしまったから、心なしか彼女が怯えている様に感じてしまう。

これは気のせいなのか? この村の異常性からして、そう言いきれないのが怖い。

 

「質問を変えるわね。貴方はこの村での暮らしは長いの?」

「・・・うん。尸魂界に来てからずっとだから」

 

少しの間があったが、今度はきちんと答えが変えて来た。

 

「この村は好き?」

「・・・・っ」

 

雪ノ下の放ったその問いに、留美は再び沈黙で答える。但し、今回は息を呑む音がモロに聞こえて来たが・・・。

俯き押し黙るその姿は、見ているこっちを心苦しくさせた。

それ程までに、留美は何かに堪えていた。

 

俺は、そっと彼女の背中をさする。

 

「留美、話したくないなら話さなくて良い。もうこの話は終わりだ。ただ、一人で抱え込むのが苦しくって、耐えきれないってんなら我慢せず吐き出しちまえ」

 

俺がそう言うと、雪ノ下が信じられないモノを見るかの様な目で見て来た。

 

まあ、自分でも柄にも無いこと言ったと思うよ。

よくこんなイケメン発言出来たもんだな俺・・・。こういうのは葉山の役目だろうに。

 

「ハチマン・・・?」

「お前が抱えてる問題を聞いたところで、俺達がソレを解決してやれる確証はない。けど、誰かにぶちまけてスッキリする事もあるだろ? 人の愚痴とか、言う分には超気持ちいいしな」

「ハチマン最低。それに、そこは嘘でも絶対解決してやるって言ったら?」

 

留美が冷たい視線で俺を見て来る。ちょっと? だんだんこの子雪ノ下化して来てません? 元々容姿似てるのに『ブリザードアイ』まで使っちまったら、まんま小さい雪ノ下じゃねぇか。

 

「バッカお前、んな無責任な事言えるかよ。俺は出来るか分からん約束はしない!」

「情けない事を誇らしげに言わないでくれるかしら? 気持ち悪いわよ、比企谷八席」

 

・・・酷い言われようだな。そこは堅実な男とか言ってくれてもいいんじゃないの?

 

雪ノ下が得意の毒舌を遺憾なく発揮したところで、「スー、ハー」と、留美の呼吸を整える音が聞こえて来た。

俺達が顔を向けると、

 

「あのね・・・」

 

留美の喉から絞り出された声は、とてもか細かった。

が、それでも彼女はしっかりと口を開いた。

 

「私・・・嫌いだよ・・。今のこの村が・・とっても・・嫌い」

 

静寂が生まれる。留美の悲痛の声に、こちらの胸も張り裂けそうになった。

 

「・・・どういう事か、話してくれる?」

 

今にも泣き出しそうな留美の頬に雪ノ下がそっと触れる。彼女の手の温もりに、留美は堰を切った様に嗚咽した。

 

そんな彼女を、雪ノ下は何も言わずに抱きしめる。さながらそれは、姉が、怖い夢を見て泣いた妹を慰めているかの様だった。

 

暫く雪ノ下の胸で泣き続けた留美は、やがて、目を擦りながら顔を上げた。心なしか、さっきより顔色が良くなっている様な気がする。泣いた事が功を奏したのだろう。

 

「ごめんなさい・・・」

 

留美がか弱い声で謝った。雪ノ下の死覇装が所々涙で濡れてしまっている。

 

「いいのよ」

 

が、当然雪ノ下はそんなこと気にしておらず、

 

「さ」

 

優しい声で続きを促した。

留美はコクっと頷き口を開く。

 

「この村の村人ってなんか変でしょ? 人間味が無いって言うか・・・」

「ああ」

 

その言葉に同意する。

と同時に、俺は村長の気持ち悪い感じを思い出した。

 

「でもね、前は普通だったんだよ。皆村人思いで、優しくて・・・。少なくとも、村総出で虚退治を手伝おうなんて無謀な真似、するような人達じゃなかった」

 

そうか、昔は普通だったのか。

でもまあ、そうだよな、前からそんなだったら、この村は虚に挑んでとっくに滅んでる。

 

ただ、以前まともだったと言うのなら、留美は村人たちの豹変をずっと見て来た事になる。

それは相当ツライ事だろう。気を許していた者達がトチ狂っていく姿など、見ていて気持ちの良いものではない。

 

「一体いつ頃から村人はおかしくなったの?」

 

雪ノ下のこの問いに、留美は恐ろしい過去を口にする。

 

「この村って、前にも何度か虚に襲われてるんだ。その度にどんどん皆おかしくなっていっちゃって・・・。多分、もう私以外皆おかしいよ・・・」

 

再び、留美の瞳に涙が滲む。雪ノ下が彼女に寄り添う。

 

その傍らで、俺は内心驚愕していた。

それは多分、雪ノ下も同じだ。

 

だってあり得ない。

 

以前にも村が虚に襲われただと? それも一度じゃなく何度も・・・。

何故そんな村を、今まで瀞霊廷はノーマークだったんだ・・・? 何故、そんな大惨事を尸魂界は記録していない・・・。

いや、俺が知らないってだけで、記録自体はされているのか? 

 

俺は疑問の視線を雪ノ下に送る。

それに気づいた雪ノ下も、困惑顔で首を横に振った。あの雪ノ下が知らないとなると、本当に記録がないと考えた方が良いだろう。

これは一体・・・。

 

と、そんな事を考えていると、俺の脳裏にふとある疑問が浮かんだ。

 

「待てよ・・? というか、そもそもなんで虚共はこの村を襲ったんだ?」

 

呟きともとれる声に、雪ノ下が反応する。

 

「どういう事?」

「ここは尸魂界ッスよ? 瀞霊廷と多少距離は離れていますが、それでも死神の総本山に変わりはない。そんなトコ、わざわざ何度も襲撃しますかね・・・?」

「確かに、そう言われると不自然ね。襲撃が一度だけなら、偶然と片付ける事も出来たのだけれど・・・」

 

俺の言葉に同意し、雪ノ下も思案顔になる。

 

「そう言えば、今回森で交戦した虚の群れも、進路を妨害しているのにも関わらず、この村を目指していたわね。というより、寧ろアレは―――」

「―――この村に逃げ込もうとしていた」

 

言葉の続きを引き継ぐと、雪ノ下は神妙な顔で頷いた。

 

しかしそうなると・・・。

この村の住人の中に虚が紛れているという捉え方も出来てしまう。

俺達死神に襲われているのに、味方のいない場所にわざわざ逃げ込みはしないだろうからだ。

 

だが、あくまでもこれは可能性の話である。

虚が村人に紛れているとなると、単純に変化能力の様なモノが必要になる。そして俺達の霊圧探査能力に引っかからないだけの霊圧制御力も。

その二つを兼ね備えた虚が、そうそういるとは思えなかった。

 

まあ、もしかしたら一体ぐらいはいるかも知れないが、村人虚説を挙げるのであれば、紛れている虚は一体ではないだろう。

虚共が、あれだけ必死になって逃げ込もうとした村の戦力が一体だけとか、理屈に合わないにも程がある。

しかし、そうすると、高度な変化能力と霊圧制御能力を兼ね備えた個体が複数存在する事になってしまう。

 

俺には、どうも、それが現実味のある話とは思えなかった。

 

ならば最も可能性が高いのは一つだ。

俺は森での戦闘の最中、雪ノ下に言われて考えついた可能性を口にする。

 

「この村にあるのかも知れない。あの窮地を切り抜けられると虚共に思わせる何かが」

 

恐らく、手に入れたら霊力が高まるとか、そういうモノだろう。

俺の言葉に雪ノ下も頷いた。

 

「私も、虚との交戦中似たような事を考えたわ。それに、それならこの村が虚に襲われ続けている理由にも納得がいく」

 

今度は彼女の言葉に俺が黙って頷いた。

 

「留美、この村になにか特別な力を宿した物とかあるか?」

「え、あ、えーっと」

 

まるで、いきなり話を振られて戸惑う子供の様な反応をする留美。てか、一応留美の話し相手になるって体だったのに、いつの間にか放置してたな。ごめんね。

 

「昔やってた、村の子供たちが丈夫で強い子に育つようにって祈願するお祭りで使われる数珠があったと思う。でも、本当にそんな効果があるかどうかは分かんない・・・」

 

「そうか。十分だ。ありがとな」

 

留美に礼を言って雪ノ下を見る。無言でアイコンタクトをして俺達は立ち上がった。

恐らくそれだ。俺は、留美に言った。

 

「その数珠が保管されてるとこへ案内してくれ」

 

 

 

 

 

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月明かりの遮られた森の中は思いの外暗い。

まるで初めから何も存在していなかった様に思える無明の闇から、一人の男の声が聞こえて来る。

その声を辿って、見つけられる声の主の姿は、この暗闇の中でも比較的目立ついで立ちをしている筈だ。

男の服装は、一般隊士の黒一色の死覇装とは違う。彼は黒地の死覇装の上に、純白の羽織を纏っていた。加えて、髪も銀。肌も、少し不気味なくらいの白。

見事の黒白のコントラストを奏でるその男は、その痩躯の周りに一匹の地獄蝶を羽ばたかせていた。

 

「ハイ、わかってます。今んとこ順調ですわ」

 

白い男は地獄蝶に向かって語り掛ける。

 

「その件についても・・・。ハイ・・・、けど良いんですの? わざわざ僕をこないな所に寄越して。バレへんやろか?」

 

地獄蝶から帰ってくる泰然自若な声に、白い男の喉から笑みが漏れる。

 

「まあ、とりあえず僕は傍観しますんで、あとは上手い事やって下さい」

 

 

「藍染隊長」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここか」

「ここの様ね」

「うん。ここ」

 

俺と雪ノ下は、留美の案内で、ある祠の前に来ていた。

俺達が通って来た森とは反対側の森の中だ。

俺は、祠の扉を開け放つ。中には、留美の言う通り数珠が入っていた。

 

「これが例の・・・、特別力は感じないわね・・・」

 

雪ノ下の呟きに、俺も同意するしかない。祠に入っていた数珠は、色も形もありきたりで、ここまで近寄っているのに霊圧一つ感じない。

 

「だから言ったのに、この数珠に特別な力なんて・・・」

 

俺達の落胆を感じ取ったのか、留美はそう言いながら、祠から数珠を引っ張り出した。その雑な扱いが、この数珠が無価値である事を強調している。

 

「ま、そうそう簡単に原因究明なんか出来るわけねぇか・・・」

「ええ、そう―――」

 

突如、雪ノ下の言葉が詰まる。俺も背筋を撫でられたような悪寒がした。

 

ゾワリと、嫌な霊圧が背後で膨れ上がったのだ。

膨れ上がったと言っても、霊圧知覚を鍛えている死神でなければ感知できない程度だが・・・・。

霊圧の発生源は例の数珠。今、留美が手に持っているそれから発生していた。

 

「留・・・美?」

「なに?」

 

俺の声に、留美はキョトンとした様に答える。今しがた起こった霊圧上昇にまるで気付いていない様である。

 

「いや、なんでもない・・・」

 

俺は、努めて動揺を声に出さない様に返事を返す。

 

分からない。今の霊圧はいったいなんだ?

ともすれば見逃してしまいそうな小さな霊圧。しかし、一度感じ取れば見過ごさずにはいられない嫌な感触。

 

そんな霊圧が、留美が触った瞬間数珠から発せられた。

 

雪ノ下を見るが、彼女も俺と似たような状況の様だ。ここで結論は出そうにない。

とりあえず、俺達は、留美から数珠を引き離す事にした。

 

「鶴見さん。一応ソレをこちらで預かりたいのだけれど、良いかしら?」

「え? う、うん」

 

留美は少し戸惑いながら雪ノ下に数珠を手渡す。

雪ノ下は物を受け取ると、一度ソレを良く観察し、薄い結界を張った。

 

「さて、戻りましょうか」

「ああ」

 

何でも無いような声でそう言う雪ノ下に、俺は同意する。

俺達から有無を言わせない圧力を感じ取ったのか、留美は何も言わずに頷いた。

 

横を歩く雪ノ下の顔は険しい。

そして、恐らく俺の顔もだ。

それもそのはず。

 

あの数珠はなんなんだ・・・・?

留美の手から離れた後も、気色の悪い霊圧を放っていたぞ。

まるで、留美の霊圧がトリガーになって、数珠の中に宿る霊圧が目を覚ましたかのように・・・。

 

今は、雪ノ下が縛道をかけたおかげで何も感じないが・・・。俺には、何か良くないモノを呼び覚ましてしまった様な気がしてならない。

 

どうか、これが杞憂であってくれ。

 

そう願いながら、俺は足場の悪い森の道を歩いた。

しかし、悲しいかな。俺の願いというモノは大体全て叶えられないものなのだ。うん、知ってた。

 

森を抜け、村に出る。

中を暫く歩くと、俺達は違和感に気付いた。

 

「家の明かりがついている・・・?」

 

雪ノ下の呟きが合図だったかの様に、一棟の家の扉が開く。それは、先程まで俺達が身を置いていた家で、出で来たのはこの村の村長だった。

 

彼は俺達に駆け寄り、ゴマすりの様に手を合わせ、尋ねて来る。

 

「おお、これは死神様。今までどちらへ?」

 

なんと答えるべきか。とりあえず、祠へ数珠を取りに行っていた。とは言わない方が良いだろう。多分。

俺は無難な理由をでっち上げ答える。

 

「別に、散歩だ」

 

すると、村長は癖なのか、またも恭しく大仰に腕を開き

 

「おお、そうでしたか。お二人は仲のよろしい事で・・・しかし・・・」

 

ここで、急に老長の声が低くなる。

眼光さえ鋭くなり、その鋭眸は真っ直ぐ留美に向けられた。

 

「何故留美も一緒に?」

 

さっと、留美が俺の背中に隠れた。震えているのが伝わってくる。

 

「寝つけないみたいだったからな。別に良いだろ?」

「ええ、構いませんよ」

 

村長は笑みを浮かべて答えた。しかし、その笑みは微笑み過ぎていて、気味が悪い。

 

つーか、構えよ。夜に子供連れ出して散歩って、普通俺等キレられても文句言えないぜ?

留美の事を心から想っていれば俺達の行いを許せる筈がない。それなのに、コイツは・・・。

俺は村長の態度に憤りを覚えると共に、ある一つの可能性を思い至った。

 

――――コイツ・・・まさか・・・。

 

しかし、俺がその考えを思い起こす前に、村長に声を挟み込まれる。

 

「死神様、一つお聞きしてよろしいですかな?」

「・・・なんだ?」

「祠に行きましたか?」

「・・・!」

 

村長の口から放たれた言葉は俺達にとっては意外なモノだった。

―――意外と鋭い。

 

「行ったんですね。では、数珠はどうしましたか?」

「さあ、祠までは行ったが、数珠なんて知らないな。そんな物、どこにあったんだ?」

 

そう応えると、村長は肩を揺らし、

 

「またまた・・・。死神様は冗談を仰る」

「いや、冗談じゃ――――」

 

ここで、俺は気が付いた。

 

一つ、また一つと、家の扉が開き、そこから村民が姿を現す。どこか、人間味のないふらついた足取りだ。

村人は村長の様に此方に近づいて来ることはなかったが、じっと顔を向けてきている。

彼等の顔に表情はなく、只、能面が顔面に張り付いているかの様だった。

 

明らかに異常な光景だ。

俺は、あえてお道化た様に村長に言う。

 

「何コレ? 少し遅めのお出迎えですか?」

「ええ、そうです」

 

俯きながら村長は言葉を紡ぐ。

 

俺は、いや、俺達はもはや此処にいる村人達から嫌な感覚を感じ取っていた。先程までものとは違う、殺意を孕んだ明確な悪意――――虚の霊圧を。

 

「お出迎えです」

 

そう、顔を上げた村長の目は血の様に赤い。他の村人も、皆一様に瞳を怪しい赤に染めている。

 

来る―――――!

 

俺と雪ノ下は、即座にその場から飛び退いた。

と、同時に、老人の身体が凄まじい爆風に包まれる。

煙が晴れた時には既に村長の姿はなく。

一体の虚が姿を現した。この現象が、村のいたるところでほぼ同時に巻き起こる。

 

『祇御珠を寄越せぇ!』

 

まるで血を吐く様に叫んだ元村長は、今や大きな蜘蛛型の虚へと変貌していた。

 

『祇御珠』というのは、雪ノ下が預かっている数珠の事だろうか? まあ、それしか心当たりもないし、そうなんだろう。

そんな事より・・・

 

「ちっ、嫌な予想が当たったな」

「ええ、そうね」

 

独り言のつもりだったが、雪ノ下が同調した事で会話みたいになってしまった。違うからね。俺、上官にタメ口きいたわけじゃないからね?

 

「うそ・・・皆・・・」

 

半ば現実逃避的な意味合いを込めてそんな事を考えていると悄然とした留美の呟きが聞こえて来た。俺達は一瞬彼女を見た後、再び自然を前に戻す。

 

眼前に広がるのは虚、虚、虚、虚。

恐らく、留美を除く村人の全員が虚に変容していた。

つまり俺達は・・・

 

「虚の村に逃げ込んでたってわけか。クレイジー過ぎんだろ・・・」

 

知らなかったとはいえ、自分たちの命知らずさに眩暈がする。

それは、雪ノ下も同じな様で

 

「全くね。まさか、虚に怪我を治療されるなんて・・・」

「・・・大丈夫ですよね? 途中で虚になったりしないで下さいよ・・・?」

「・・・バカな事言わないでくれるかしら・・・」

 

雪ノ下が冷たい目で此方を見て来る。やばい、流石に今の質問はアホ過ぎた。話を変えなければ・・・。

 

「そ、それにしても虚共はなんで俺等を今まで襲わなかったんスかね?」

「・・・確かにそうね。村に着いた時、私たちは弱っていたのだからそこで片をつければ良かったはず・・・。・・まあ」

 

次の瞬間、蜘蛛型虚が白く太い糸を吐き出した。俺達は二手に分かれる形でソレを躱す。

雪ノ下は刀に手をやり、言った。

 

「どちらにせよ、その理由を知る為には、まずこの場を切り抜けなけれならないわね」

「でしょうね・・・」

 

俺は斬魄刀を構え、囁く。

 

「留美、怖いだろうけどちょっと我慢してろよ」

「う、うん」

 

留美が怯えながらもしっかりと頷くのを確認して、俺達は刀に霊圧を込め出した。

 

「敵の数が多い。短期決戦で行くわよ」

「了解」

 

そして、己が魂の力を斬魄刀を介して解放させる。

 

 

「引き込め『陰浸』!」

 

「降り積もれ『白吹雪』!」

 

 

俺の刀から黒い影が、雪ノ下の刀からは白い吹雪が出現し――――

 

黒白の霊圧を存分に滾らせ、俺達は戦火へと身を躍らせた。

 

 


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