ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。 作:ちゃんぽんハット
にもかかわらず少し短めですが、勘弁して下さい。
今回は陽乃と八幡のドキドキランチタイム☆
ちなみに彼女らにバレンタイン(笑)は関係ありません。
それではどうぞ。
「さあさあ、入って入って~♪」
そう言って、中に入っていく雪ノ下陽乃。
おっかなびっくりしながら、言われた通りに彼女に続いて中に入る。
彼女がカーテンを勢いよく引くと、薄暗かった室内が急に照らされ、思わず目をつむってしまった。
眩しい、ものすごく眩しい。
徐々に慣れてきた目をゆっくりと開ける。
雪ノ下は、教室の最奥に入り口と対面する形で設置された立派な机にちょこんと座り、俺の方を向いていた。
逆光のせいで、その表情はよくわからない。
「適当な席に座っていいよ」
入り口付近で突っ立ったままの俺は、その言葉に素直に従い、教室の中央の2列の長机とセットになったパイプ椅子のひとつ、6つあるうちの一番彼女から離れた椅子に腰かける。
どちらとも特に話し出すこともなく、しばらくの間沈黙が流れていた。
やけに静かなこの空間に、居心地の悪さを感じる。
場所は変わって生徒会室。
学校を案内された時に訪れてはいたが、中に入るのは初めてだった。
気まずさを紛らわすためにも、キョロキョロと目線だけで室内を見渡してみる。
といっても生徒会室はさほど広くなく、机と椅子の配置は先程説明した通りで、他には学校関連の資料らしきものが入った棚や備品などしかなかった。
目を引く点といえば、教室の片隅にひっそりとたたずむ、大きなノッポの古時計くらいであった。
どうやらすでに百年ずっと動いた後らしく、針の刻む音は聞こえない。
ひと通り室内を観察し終えると、タイミングを見計らっていたのだろうか、雪ノ下が声をかけてきた。
「このまま黙ってるのも何だし、とりあえずお昼ご飯食べよっか♪」
「…………おう」
引っ張られながらも辛うじて持ってこれた弁当を広げようとすると、俺の真横の席がスッとひかれた。
ガチャンとパイプ椅子が軽く軋む音と共に、甘くていい香りがする。
…………おいどういうことだ。
「…………なんでこっちくるんだよ」
「え?なんでって、一緒にお昼食べるためだよ?」
「いやそうじゃなくて……お前の席はあそこなんだろ?」
そう言って先程まで雪ノ下が座っていた机を指差す。
すると彼女は、少しだけ驚いたような顔をしていた。
「どうしてそう思うの?」
「別に……いつも生徒会室で飯食ってて、2年生で、おまけに皆の人気者とくれば、生徒会長だろうってことは予想がつく。そんで一つだけ偉そうな席があれば、確実に生徒会長のだろ。……そんだけのことだ」
俺の説明を聞いて、ほぉーと小さく声を漏らす雪ノ下。
しまった。少し喋りすぎたか?
ここに来て、個人に対してここまで饒舌に喋ったのは初めてな気がする。
まあ、ばあちゃんとかは除くが。
いかんいかん、説明を求められるとつい話しすぎてしまう。
これは俺の悪い癖だ。
小町にもよく「お兄ちゃんのドヤ顔+長い解説って、お好み焼きとご飯一緒に食べてるみたいに重いよね」と謎の例えを貰ったほどだ。
ええやんお好み焼きとご飯一緒に食うたかて。
ソースと炭水化物の相性は無敵やで!
千葉県民の俺はしないがな。
するのは関西の人間と軽音部の女の子くらい。
(かなり偏見かもしれない)
しかし意外にも、彼女はそれほど嫌そうな顔はしていなかった。
「ちょっと驚いちゃった。意外に比企谷君は頭が回るんだね……ふふふ♪」
何が面白かったのか、楽しそうに笑っている。
よかった、どうやら喋りすぎたわけではないらしい。
ちょっとだけ安堵する。
それから少し落ち着いて、ふとこいつとの距離が近すぎるのをどうしようかと思ったが、多分何をやってもこの距離は変わらないので放っておくことにする。
今の俺はブッダ今の俺はブッダ煩悩退散悪即斬!
気を取り直して弁当の包みを開けようとしたのだが……
「いやー私てっきり、力を使って心の中を覗き見したのかと思ったよ~♪」
あっけらかんとした声が、教室内に嫌に響いた。
…………こいつ、人が触れたくなかったことを……
しかし、面と向かって言われては無視することもできない。
俺は慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと応答した。
「…………俺は、あんな力、使わないから……」
「えー、使わないんじゃなくて、使えないんでしょ?というより、コントロールできないんだよね?」
「……ッ!!…………例えコントロールできたとしても、俺は絶対に使わない」
語気を少しだけ強めて、そうはっきりと宣言する。
軽く彼女を睨み付けると、その底の見えない真っ黒な瞳の中に吸い込まれそうだった。
何だよお前の目はブラックホールなの?もしくはダイソンなの?
じっと俺の目を見返してた雪ノ下は、ふっと目線を斜め下に下ろすと、少し寂しげに言葉をつむいだ。
「そう、だよね……こんな変な力、誰も好んで使ったりしないよね……私もそうだし……」
悲しげな様子と憂いを帯びたその声に、つい同情心がわきそうになった。
しかし、そこでふと立ち止まる。
…………いや、こいつこの前嬉々として力使ってたよね、しかも俺に対して。
超絶楽しそうに、なんなら爆笑までしていた。
どの口が言えるんだよ……
「あ、勘違いしないでね?この前のは、その……つい暴走しちゃって。悪気は全然なかったんだけど……困らせちゃったよね?」
なおも同じ調子で申し訳なさそうに語りかけてくる。
なんだか、本当に悲しんでいるように見えてきてしまった。
いやいや、よく考えろ八幡。
これは演技だ間違いない。
あのときの雪ノ下の心底楽しそうだった姿を思い出せ。
あいつのせいで俺はぶっ倒れたんだ。
困ったなんてもんじゃない、軽く絶望しかけたんだぞ。
それに平塚先生に迷惑かけたし。
抱き締められたし。
いい匂いしたし。
おっぱい当たってたし。
あとおっぱいが当たってた。
……あれ、いいことの方が多くね?
「うん、静ちゃんにも後で怒られちゃった……でもね、いつもは私、そんなに力使ってないんだよ?静ちゃんとの約束ちゃんと守ってほどほどにしてるし……だから、その……」
そう言って力なくうなだれて俯いてしまう雪ノ下。
そこに嘘は感じられず、彼女が本当にか弱い少女のように見えたのだった。
……あの日、平塚先生が言ったことを思い出す。
雪ノ下は本当は優しい女の子であること。
そして俺と同じ人間だと言うこと。
そうだ、こいつは俺と同じ被害者だったじゃないか。
そりゃいくら明るく振る舞っていたって、本当は辛い生活を送っているのかもしれない。
むしろ辛いからこそ、こんな底抜けに明るいのかもしれない。
それなのに俺は…………
少しずつ、俺の中にある疑心が溶けていく。
自分の性格が嫌になる。
変わろうと決意してここに来たのに、結局俺は何にも変わっちゃいねえじゃねえか。
人と自分の間に壁をつくって、すぐに言葉の裏ばかりを読んで……
「比企谷君は何も悪くないよ……ただ、私が……」
今にも消え入りそうなその姿に、胸を締め付けらる。
目にはうっすら涙のようなものも浮かんでいて、今にもこぼれ落ちそうだ。
今まで明るく振る舞っていたぶん、余計に悲哀が浮き彫りになる。
……ったく、何やってんだか俺は。
こんな俺と正面から向き合ってくれる彼女に、こんな悲しい思いをさせるなんて。
そろそろ腹をくくろうぜ。
人は簡単に変われるもんじゃない。
けど……隣にいる、俺と同じ境遇にいる少女一人くらい信じてやれるくらいには……男になれよ!
少しくらい傷ついたって、立ち向かって行けよ!
家族の思いに、平塚先生の思いに、そして……
雪ノ下陽乃の思いに応えてやれよ、比企谷八幡!
だから俺は、その第一歩目として、雪ノ下陽乃の言葉を信じることにする。
変わるなら、今しかない!
決意のこもった眼差しで彼女を見つめる。
俺と目が合うと、ニコッと顔を綻ばせた。
「ありがとう、こんな私の言葉を信じてくれて」
「別に、気にすんな……俺もその、疑って悪かったよ」
頭をしっかりと下げて謝罪をする。
彼女にいらん不安を与えたんだ、このくらいはして当然だ。
「いいよそんな頭下げないで、別に私不安になんかなってないし!」
「俺がやりたいだけだから、気にすんな」
これは俺のけじめでもある。
これからもっと雪ノ下との距離を縮めるための。
「そんなこと思ってくれるなんて……私ちょっと感動しちゃった♪」
嬉しそうに、かつどこか奥ゆかしい感じのする雪ノ下の微笑み。
や、やめろよ、照れるじゃねえか……
「もー、照れなくてもいいのに~♪」
いや、なんかこういうのって今まであんまりなくてさ、だから…………
…………………………………………いや、ちょっと待て。
「ん?どうしたの?」
………えと、なんで、俺の地の文と会話してんの?
「地の文?なんのこと?」
まさにに今この瞬間のことだよ!
いや、地の文は置いておくにしても……
…………もしかして…………
「…………お前、俺の心の声、聞いてる?」
「…………あは、ばれちゃった♪」
……………………………………………なん、だと?
♪つづく♪
弁当……食べてねえなこいつら。
次回も二人のドキドキランチタイム(嘘)は続きます。
のんびりと続きをお待ち下さい。
いつも呼んでいただきありがとうございます!
それでは今日はこの辺で。