ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。   作:ちゃんぽんハット

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お久しぶりです!ちゃんぽんハットです!
いやー、1週間ほど空いてしまい申し訳ありません。
その分、今回は少し長めです。

今回は学校に挨拶に行くところからスタートです!

それではどうぞ。


田舎暮しその5

家を出発してから4時間後、俺はようやく学校へと辿り着いた。

 

ふぇ~ん、足がもうガクガクだよ~ん。

早くお家帰りたい~。

いやそしたらまた4時間歩き続けなければならないのか。

うむ、超しんどい。

 

自転車通学はしていたものの、基本ヒッキーな俺には山道を4時間歩くというのはもはや苦行であった。

 

これは、あれだな。電動チャリ買おう。

フツーのチャリでもさすがにきついし。

それにばあちゃんの金だしな。

人のお金って素敵!

まあそれは後でいいか。

 

げんなりとしながらもさっさと用事を済ませようと思い、学校の門をくぐる。

 

土曜日ということもあってか、学校に人の気配はあまり感じられず、せいぜい運動部が校庭で部活動に励んでいるくらいである。

その数も田舎だからだろう、非常に少なかった。

 

俺は力を制御するために心を落ち着ける。

 

これからあの日以来、家族意外の人と初めて接触する。

自然と背中を冷たい汗がツーッと流れた。

 

やはり最初くらい誰か家族と来るべきだったのだろうか。

 

しかし、これから俺はこの見知らぬ土地で一人で(ばあちゃんはいるが)生きて行かねばならない。

 

そう考えると、いつまでも家族に甘えている訳にはいかなかった。

 

俺のために色々としてくれた家族の期待に応えなければ。

 

そして俺自身をどうにかするためにも。

 

大丈夫、落ち着け、力は抑えられる。

 

そう頭の中で何度も切り返し、出来る限り気持ちを落ち着かせてから、俺は職員室へと向かうのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

来賓客用のスリッパに勝手に履き替え校内に入ると、外見同様になかなか年季が入っていた。

全体的に木造で出来ており、外から吹き付ける風で時折ガタガタと鳴る。

古い匂いのする校舎に、どこか懐かしさを感じた。

うん、嫌いじゃない。

 

さて、職員室はどこだろうか。

 

そう思って辺りに案内板がないかキョロキョロすると、すぐ隣の教室の入口の上に『職員室』と書かれたプレートがあるのが見えた。

 

一応今日来ることはすでに伝えてあったので、誰かしら担当の先生はいるのだろう。

中から僅かに光が漏れていた。

 

未だ緊張が僅かに残る足取りで、扉の前まで歩いていく。

 

もう一度大きく深呼吸をして、決心を固める。

 

大丈夫、落ち着け、平常心だ。

 

ゆっくりと、それでいてしっかりとした力で扉を3回ノックした。

 

コンコンコン

 

「どうぞー」と中から女性の声が聞こえる。

 

震える声をなんとか絞りだし、「失礼します」と言って扉をガラリと開ける。

 

職員室の中央付近の机に、一人の女性がいた。

入口にいる俺を見ると、ちょいちょいと手招きをする。

入ってこいということらしい。

 

俺は指示通りその女性教師の席まで歩いて言った。

 

「やあ、君が比企谷か。よく来たね」

 

椅子に座ったままそう労いの言葉を掛けてくれる先生。

野暮ったく見えやすい白衣を見事に着こなしている彼女は、長い黒髪の似合う非常に綺麗な人だった。

雰囲気はキリリとしている。

見るからに出来る女というやつだ。

 

若いな……二十歳くらいだろうか。

そんな事を考えながら、差し出してくれた椅子に一礼して腰を下ろす。

うむ、と頷くと先生は挨拶をしてきた。

 

「初めまして、比企谷八幡君。私はこの学校で国語の教員をしている平塚静だ。よろしく」

 

爽やかに自己紹介をする平塚先生。

 

この人何かカッコいいな。

男前臭がぷんぷんするぜぇ!

つーか白衣着てんのに国語の先生かよ。

いや似合ってはいるのだが、なぜなのだろう?

 

っていけねえいけねえ、いつまでも黙ってないで俺も挨拶をしなくては。

 

ここは一発、爽やかに決めてやろう!

 

 

 

「…………比企谷です。…………よろしくっす」

 

 

 

ぼそりとそう言うのが限界だった。

 

何だよしょうがねえだろ!

こちとら未だにトラウマがちょっぴし残ってる上に、家族意外と話すのなんて久しぶりなんだぞ!!

下手したら心の声聞こえて来ちゃうし!

これでも頑張った方なんだからね!

もし悪口でも聞こえた日には、八幡引きこもっちゃうから!

そうなったら全部あんたたちのせいよ!

ぷんぷん!

 

……心の中ならペラペラ喋れるんだがな。

 

対する平塚先生は、俺の挨拶を特に気にすることもなく会話を続けてきた。

 

「比企谷は、千葉の総武高校にいたのだったな」

 

「うっす」

 

「都会の方からわざわざこんな田舎までよく来てくれたものだ。……ああ、勘違いしないでくれ。別に皮肉を言ってる訳ではない。君の事は大いに歓迎しているよ」

 

「どもっす」

 

「ふーむ、口数は少ない方か。結構結構。転校してきた理由は聞きはしないよ。大して重要なことでもないからね」

 

「あざっす」

 

その気遣いは非常に有り難かった。

聞かれても上手く答えられる気がしないし、そもそも答えたくもない。

 

にしても俺の返事適当だな。

わざとやってる訳ではないのだが、コレが精一杯だった。

まああちらも気にしている様子はないし、別にいいだろう。

 

平塚先生はおもむろに引き出しから封筒を取り出し、それを俺に渡した。

 

「これは、学校に関する資料だ。私が一々説明しなくてもそれを見ればある程度の事はわかるはずだ。」

 

これまた嬉しい配慮である。

今はあまり人と会話をしたくなかったから丁度いい。

この人はとても気が利くようだ。

本当に出来る女なのだろう。

やだ、八幡惚れちゃいそう。

 

「……わざわざ、どうもっす」

 

「気にすることはない。私も手間が省けるしな。分からないことがあったらその都度聞いてくれ」

 

「うっす」

 

よし、これでもう終わりだろう。

やった!何事もなく帰れるぞ!

後は初めてのお使いを終わらせて帰るだけだ!

そう思ったのだが、

 

「さて、折角ここまで来てくれたのだ。校舎内に誰もいないが、今のうちに学校を案内しておこう」

 

先生の提案に一瞬体がかたまる。

 

…………え、まだ帰れないのん?

 

「なんだ、何か用事でもあるのかね?」

 

顔に表れていたのだろう。

気を使って俺に尋ねてくれる先生。

 

「あ、いや、その…………お願いします」

 

しばらく考えたが、俺は今日案内してもらうことにした。

よくよく考えてみると、生徒がほとんどいない今のうちに校舎内を把握しておいたほうがいいと判断したからだ。

まあ、今日は調子もいいしな。

それに嫌な事はさっさと終わらすにかぎる。

 

「そうか、ならば行こうか」

 

そう言って立ち上がる先生。

 

俺も立ち上がろうとしたその時、ガラリと扉の引かれる音がした。

誰だろうと振り返ろうとする前に、その人物は大きな声で挨拶をした。

 

 

 

 

「やっはろー静ちゃん!来ちゃった♪」

 

 

 

 

パタパタとこちらに駆け寄ってくる少女。

 

その姿に、俺は目を奪われた。

 

そこには絶世の美女がいた。

 

これまで見たことがないほど美しく、そして神々しいオーラを放っている彼女。

 

肩の上辺りで短く切り揃えられた艶々と光る青みがかった黒髪。

 

ぱっちりとした二重の目。

 

すっと伸びた鼻。

 

プルプルとした口び………………

 

いや、ダメだ。

俺の語彙力じゃあこの美しさを表現することができない。

 

とにかく、とにかくだ。

突如表れたその少女は、この世の者とは思えないほどに美しかったのだ。

 

 

『ん?この子……』

 

 

ふっと、目の前の少女から心の声が聞こえる。

 

はっ!しまった!

あまりの衝撃に集中が解けてしまったのだ。

まずい、早く落ち着かないと!

 

慌てて深呼吸を数回して、気持ちを落ち着ける。

 

スー……ハー……スー……ハー……よし、大丈夫。

 

小町との練習の成果が出ているみたいだ。

ありがとよ、小町。

今度会ったらいっぱい撫で撫でしてあげるからな!

いや、それは俺の欲望か。

 

そんな事を考えられるくらいには落ち着きを取り戻す俺。

 

すると突然、彼女があっと叫んだ。

 

「君が転校生の比企谷八幡か!」

 

「…………そっすけど……なにか?」

 

「いやー、君がね……そっかそっか……ふんふんなるほど」

 

そう言ってジロジロと俺を見る少女。

な、なんだこいつ?

なんかちょっと緊張しますぞ?

 

俺が少し後ろにたじろぐと、平塚先生が彼女に話し掛けた。

 

「こら陽乃、比企谷が怖がっているだろう」

 

「えー、そんな事ないよねぇ?」

 

「…………いや、あの……」

 

「明らかに怯えているだろう。その辺にしとけ」

 

「ちぇー、静ちゃんのけちんぼ。そんなんだから30才にもなって結婚出来ないんだよ」

 

「な、な、な、な!今は、それ、そんな事関係、な、な、ないだろう!それに私はまだ30ではない!アラサーだ!そして先生と呼べと何度言ったらわかるのだ!」

 

地雷を踏まれたのだろうか。

ものすごい動揺を見せる平塚先生。

あれ、少し涙も見えたような……

いや、気のせいだろう。きっとそうだ。

てかアラサーなのか、超びっくり。

 

「アラサー静ちゃんは置いといて……やっはろー比企谷君!私はこの学校の2年生で君と同い年の雪ノ下陽乃だよ!陽乃もしくはハルルンって呼んでね♪」

 

目元にピースをしながら挨拶をする雪ノ下陽乃。

あざとい挨拶も何故だか彼女には異様に様になっていた。

 

「……比企谷、八幡、っす。よろしくっす」

 

「うん!よろしくー!」

 

俺のぎこちない挨拶を意にも返さずニコッと微笑む彼女。

 

ふと、先程から気になっていたことがあった。

 

「……あの、なんで、俺の事知ってるんすか?」

 

そう、雪ノ下陽乃は俺を見るなり比企谷八幡だと言ったのだ。

どこかで会ったことがあっただろうか……

 

「まあそんな事はどうでもいいじゃない♪」

 

「…………へ?」

 

「それよりさー比企谷君、君はどうしてこんな田舎に来たの?それもこんな時期に!」

 

「あ、いや、あのそれは……」

 

「ねえ、なんで、どうして?」

 

「えっと…………」

 

「早く答えてよー!」

 

「…………」

 

俺の質問には答えず、逆に凄い勢いで質問をしてくる雪ノ下。

 

つーかまずい。

こいつのせいで徐々に焦ってきた。

このままだと力が……

 

そう気持ちが揺れだした時、

 

 

「いい加減にしないか陽乃」

 

 

さほど大きくはないが、鋭い声で厳しく叱る平塚先生。

ジロリと雪ノ下を睨み付ける。

 

しかし彼女はなんてことない顔で反抗する。

 

「ちょっと静ちゃんは黙ってて」

 

「黙るのはお前の方だ陽乃。突然そんなに迫っては彼に失礼だろう。今すぐ止めるんだ」

 

なおもムーっと先生を睨み返す雪ノ下だったが、溜め息を一つ吐いて引き下がった。

 

「すまなかったな比企谷、困らせてしまって」

 

「あ、いえ……ありがとうございます……」

 

「いつもはこんなにしつこい奴ではないのだが……君が来たのがよっぽど嬉しかったらしい」

 

「ごめんね、ちょっと興奮しすぎちゃった♪」

 

やれやれと肩をすくめる平塚先生と、てへっと舌を出して謝る雪ノ下。

この二人は何だか仲がいいみたいだ。

 

「それにしても陽乃、今日はずいぶんとテンションが高いみたいだな」

 

「まあまあそれは置いといて♪今からどこかに行くところだったの?」

 

「ああそうだった。ちょうど比企谷に学校を案内するところだったのだ」

 

「ほうほう……私も行っていい?」

 

「別に構わんが。いいかね、比企谷?」

 

「……別に、いいっすよ」

 

正直に言えば来てほしくなかったが、断っても無駄な気がしたので承諾する。

それに反対でもしてまた面倒なことになるのは、ごめんこうむりたかった。

 

やった!と可愛らしくガッツポーズをする雪ノ下。

 

「それじゃあ早速レッツゴー!」

 

元気いっぱいの彼女に続いて俺たちも歩き出そうとしたその時、平塚先生の携帯が鳴った。

電話にでる先生。

 

「はい平塚です……はい……はい……わかりました。今すぐそちらに向かいます……ではまた後程、失礼します」

 

短い会話を済ませて電話を切ると、先生は申し訳なさそうな表情をした。

 

「すまない二人とも、急な用事が入ってしまった。1時間ほどで終わると思うのだが……悪いが陽乃だけで案内してやってくれ」

 

「え、ちょっ……」

 

「はーい、任せて静ちゃん!お仕事頑張ってねー♪」

 

「……陽乃、分かっているとは思うが……」

 

「大丈夫だよ心配しないで、約束は守るから

…………たぶん♪」

 

「……はあ。ほどほどにするんだぞ」

 

そう言ってテキパキと荷物をまとめると、平塚先生は足早に去って行った。

 

 

 

……えー……まじかよ、この人と二人きりとか。

大丈夫かよ俺。

 

割りと真剣に心配になってきた。

 

くそっ、とにかく落ち着け。

少しでも動揺すると一気に持ってかれる。

平常心だ、平常心。

そうだ、小町との練習を思い出せ。

俺はあれほどの苦行……ではなかったが修行を積んだんだ!

たかが美人の一人くらい相手に出来なくてどうする!

やれ!

やるんだ八幡!

男になるんだ!

 

 

 

「それじゃあ行こっか♪」

 

「…………ひゃい」

 

 

 

やっぱりダメな気がする。

たった二文字を噛んでしまった。

 

いつ力が解放されるかも分からない状況で、俺は雪ノ下陽乃に続いて校内を見て回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの日比企谷は……

 

 

いや、もう言わなくてもいいだろう。

 

 

 

─得てして、不幸というのは続くものである─

 

 

 

 




ついに陽乃がまともに出てきました!
いやはや嬉しいものです。

しかしこの陽乃、まだ全力の半分も……いえ、そのうち、というよりは次回になればわかると思います。

それと遅くなりましたが、お気に入りや評価、そしてたくさんの感想、本当にありがとうございます!
とってもとっても嬉しいです!

期待に応えられるよう頑張りますので、応援よろしくお願いいたします!

次話は、早めに上げられそうです。

それでは今日はこの辺で。

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