ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。   作:ちゃんぽんハット

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お久しぶりです!

また更新が遅くなりすみません!

今回は八幡がぶっ倒れた所の後から。

それでは、どうぞ!


田舎暮しその7

目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。

病院などの白いものとは違う木の天井で、木目が人の顔のようだった。

 

ここは……

 

ゆっくりと体を起こして辺りを見回す。

大きめの棚に並べられた大量の薬品。

隣に白いシーツの簡素なベッドが一つ。

体重計や身長測定器。

白衣を着た後ろ姿。

 

……保健室か?

 

ぼんやりとする頭の中でそう考える。

そういえば先程からエチルアルコールの臭いが鼻をついているな。

間違いない、保健室だ。

 

しかし何故俺はこんな所に……

 

すると、俺が起きた気配を察知したからだろうか。

白衣を着た人物が、クルリと椅子を回転させてこちらを伺った。

 

「お、目が覚めたようだね。調子はどうだい?」

 

立ち上がって近づいてくる平塚先生。

 

……てか平塚先生かよ。

白衣が違和感なさすぎて分からなかった。

 

よいしょと言ってベッド横の丸椅子に腰かけると、俺のおでこに手を当ててきた。

ひんやりとした冷たさが気持ちいい。

 

「ふむ、熱はないようだ」

 

そう言って優しげな笑顔を向けてくる。

 

なにこの人可愛いすぎるんですけど。

てか今おでこに手が……

この人もしかして俺のこと好きなんじゃね?

これは先生と生徒との禁断の恋物語待ったなしですな!

え、違いますか?違いますよねわかってます。

 

慣れないことに嬉しさと恥ずかしさと戸惑いの入り交じった不思議な気持ちになる。

顔が妙に熱くなった。

 

「どうしたんだね、顔が真っ赤だぞ?」

 

ふふっと大人の笑みを浮かべる先生。

 

それに俺は真面目に答える。

 

「そりゃ顔も赤くなりますよ。こんな可愛い人に、人生で1度はやりたい彼女とのスキンシップ第5位をされたんですから」

 

ちなみに第4位は肩を叩かれて振り向いたらほっぺに指がプス。

わーいひっかかったとか言っていたずらされたい。

その後俺もいたずらしちゃいたい。

ついでに第3位より上は全部R18なので割愛する。

 

俺の発言が予想外だったのだろうか。

今度は平塚先生が顔を真っ赤にして口をあわあわとした。

 

「かっ、か、かわいい!?かっ、か、かか、彼女!?」

 

「そうやって恥ずかしがる先生も凄く可愛いです。結婚したいくらい」

 

「けけけけけけけ、けっこんんんん!?」

 

あうあうと言ってプシューと空気が抜けたように体を縮こまらせる。

……結婚…いや、私と彼は生徒で……しかし……とぶつぶつ言っている。

 

どうでもいいけど、あわあわとかあうあうってアワアワとかアウアウみたいに片仮名より平仮名の方がかわいいよね。

くぱぁはクパァでもどっちでもエロいけどな。

 

突然はっとして、我にかえる先生。

咳払いをして姿勢を正すと、真剣な表情で俺に話し掛けてきた。

 

「君は思いの外よく喋るのだね。もっと無口なのかと思っていたよ」

 

「俺は結構饒舌な方ですよ?」

 

「最初に会ったときはそうでもなかったがね」

 

「それは可愛い先生相手に緊張してたんだと思います」

 

「ま、また可愛い……んんん!!まあそれは置いといてだ。本当に具合は悪くないかね?」

 

「はい、どこも悪くないですけど……」

 

ふとそこで、先程から気になっていたことを尋ねてみる。

 

「あの、何で俺は保健室にいるんですか?」

 

「…………覚えていないのかね?」

 

軽く眉間にシワを寄せて尋ね返してくる。

 

俺も眉間にシワを寄せて考えてみるが、何も思い出せなかった。

 

「すいません、先生に挨拶したところまでは何となく覚えてるんですけど、その後はさっぱり」

 

「…………そうか。どうやら、よほどショックが大きかったようだな」

 

足と腕を組んで考え込む平塚先生。

その姿も知的な彼女にはよく似合っていた。

 

それにしてもショックとは一体……

 

俺は何とか思い出そうとするのだが、結果は先程と同じだった。

 

すると、よしっと言って何かを決意した平塚先生がベッドに腰をかけてきた。

俺との距離がぐっと近くなる。

鼓動が少しうるさくなった。

 

「比企谷、少し失礼するよ」

 

「え?」

 

何がと聞き返す前に、俺の体を柔らかな感触が包み込んだ。

 

煙草の匂いが混じった、しかし甘くていい香りが鼻をくすぐる。

 

少しだけ上がる体温。

 

こ、これは…………抱きつかれてる!?

というより抱き締められてる!?

顔が豊満なお胸に挟まれてる!?

 

そう理解するのに数秒かかった。

 

妹と母親以外に初めて感じる女性の感触に興奮を押さえきれず、身体中の血液が一点に集まってくる。

 

ま、まずい!

このままでは本当に禁断の恋物語が!

いいのか!?いいのか俺!?

やっちゃってもいいのかよ!?

いや待て落ち着け、俺には小町という愛すべき存在が……

しかし小町は血が繋がってるし……

それにこんなに可愛くておっぱいもおっきくて大人なお姉さまとにゃんにゃんできる機会なんて今後訪れる訳がない!

…………ごめん小町。

お兄ちゃん、ちょっくら頂の景色をいただいてくるよ。

 

天から聴こえてくる「おあがりよ!」の声に素直に従って、いただきますと手を合わせようとしたその時。

 

 

 

 

『落ち着いてくれ比企谷』

 

 

 

 

唐突に、心の声が聞こえてきた。

 

 

 

そう、平塚先生の心の声が。

 

 

 

…………………………ん?

 

 

 

 

……………………………心の、声?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──次の瞬間、俺はある少女とのやり取りを思い出した。

 

 

 

 

 

─『よろしくね、私とおんなじ不幸な子♪』─

 

 

 

 

 

──ッッッ!!!

 

 

 

思い出した!

 

俺はさっき彼女と……雪ノ下陽乃と……っは!?

 

つい先程まで忘れていた恐怖が、ゾゾゾッと体の下から這いずってくる。

 

集まった血が一気にサーっと降りていく。

 

目は泳ぎ、体が小刻みに震えている。

 

はあ、はあ、はあ、はあ……!!

 

段々と呼吸が乱れてきて、今にも部屋から飛び出したかった。

 

否、もうすでに立ち上がろうとしていた。

 

しかし──

 

 

 

 

 

『落ち着くんだ比企谷』

 

 

 

 

 

それは、心の声によって食い止められる。

 

 

 

 

…………せん、せい?

 

 

 

『私は君の敵じゃない』

 

 

 

…………

 

 

 

『君のことを本気で心配している人間だ』

 

 

 

…………

 

 

 

『だから逃げたりせずに私の言葉を聞いてほしい』

 

 

…………

 

 

 

『頼む、私を信じてくれ、比企谷』

 

 

平塚先生の心の声、本音の訴え。

 

うそ偽りのない言葉に、不思議と恐怖が薄らいでいく。

 

血がゆっくりと本来の流れを取り戻していった。

 

体の震えも止まり、呼吸も段々と整ってきた。

 

そして平塚先生は、俺の頭を優しく撫でてくる。

我が子を慈しむように、優しく、優しく。

 

なぜだろう。

家族でもない人にここまで安心感を感じているのは。

 

不思議だ。

先生の心の声は、体育館や担任から聞こえてきたのと違って、全然嫌じゃない。

 

心の声が、俺を蔑むものではなかったからだろうか。

それとも抱き締められていたからだろうか。

それはわからない。

けれど、全身を包み込む温もりはとても心地よかった。

 

それからしばらく、俺は黙って撫でられ続けたのであった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

俺が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、平塚先生は優しく語りかけてきた。

 

「どうだね、少しは落ち着いたか?」

 

「…………はい……ありがとう、ございます……」

 

「おや?口調が元に戻ってしまったな?」

 

「いや、さっきのは……その」

 

「わかってるよ、冗談だ」

 

愉快そうに声をあげて笑う。

その格好は未だに俺を抱き締めたままなので、耳に心地よく響いた。

 

笑い声が消えると、また優しく語りかけられる。

 

「急にこんなことをしてしまってすまない。もう離そうか?」

 

「…………もう少し……お願いします」

 

「ふふふ、素直なのはいいことだ」

 

少し恥ずかしい気はするが、今はこのままでいたかった。

 

別にやましい気持ちなどはない。

本当だよ?

おっぱいが大きいとか、おっぱいが柔らかいとか考えてないから。

頭の中は真面目なことでおっぱいおっぱいだし。

 

ピンク色の妄想を頭の隅におしやり、疑問に思っていたことを尋ねる。

 

「……あの、どうして、こんなことを?」

 

「ん?それは、突然君が思い出したりしたら、恐怖でまたダメになってしまうと思ってね。こうすれば少しは落ち着くだろう?」

 

「……はい」

 

「それに、私の本音を知ってくれれば、少しは安心するだろうってことさ」

 

ウインク付きで答えが返ってくる。

その先生が本当に可愛くて、うっかりプロポーズしてしまいそうだった。

まあしませんけど。

 

「……あの、平塚先生は、俺の力のこと、知ってるんすか?」

 

「ああ、陽乃から聞いてね。安心してくれ、彼女はもう家に帰らせたから」

 

「……あいつのことも?」

 

「もちろんだとも。全く、ほどほどにしとけとあれほど言ったのに……いや、無理にでも止めなかった私も悪かった」

 

「そんな、ことは……先生には、感謝してます」

 

「そう言ってもらえるとありがたい。まあそういう訳で、私は君たちの能力について少しばかり詳しいのさ。だからこういう手を使わせてもらったのだよ。一応言っておくが、私は力を持ってはいないからな?」

 

再度頭を撫でてくれる。

 

この先生は本当に優しい人なのだろう。

たかが生徒の一人で、その上今日初めて会った俺にこんなにも優しくしてくれるのだから。

 

「なあ比企谷」

 

ふと先程までより少し真剣みを帯びた声で話しかけられる。

 

「陽乃のことをどう思う?」

 

「…………」

 

その問いに俺の表情が暗くなった。

思い出したくもない、あの恐ろしい瞬間は。

 

「陽乃のことを怖いと思うかね?」

 

「…………はい」

 

「そうか……」

 

少し寂しそうな目をする先生。

 

「本当は、優しいやつなんだがな……」

 

「…………」

 

「彼女も彼女なりに苦労してきたのだよ」

 

「…………」

 

「今ではあんなに明るく振る舞っているが…………いや、これは本人から直接聞いた方がいいだろう」

 

「…………」

 

「ただ、これだけは覚えておいてくれ」

 

体を少し離して真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。

 

「陽乃は君とおんなじだということだ」

 

「…………」

 

「だから、陽乃のことを嫌いにならないでやってくれ」

 

懇願するようなその目を、俺はそらすことができなかった。

 

……俺と同じ。

本当にそうなのだろうか。

 

いや、きっと違う。

雪ノ下陽乃は俺みたいなボッチじゃないはずだ。

あんなに可愛くて明るくて、誰からも好かれるに決まってる。

 

けど……

俺は今の彼女しか知らない。

というより、会ってまだほんの少ししか経ってない。

そんな俺が彼女をどうこう言う資格はないだろう。

昔はもしかしたら辛い思いをしたのかもしれない。

 

そもそも俺と雪ノ下は同じ被害者だろ。

何を怖がる必要がある?

むしろ痛みを分かち合えるかもしれないじゃないか。

 

なら……

 

少しだけ歩みよってみよう。

 

こんなクソ田舎に来たんだ。

だったら少しでも変わらないと。

今までみたいに逃げてるだけじゃだめなんだ。

俺は……変わるんだ!

 

熱い思いを胸に、心の中でそう決心するのだった。

 

「ちなみに陽乃はこりずにしつこく君に付きまとうと思うが……まあ頑張ってくれ。骨は拾ってあげよう」

 

前言撤回。

やっぱし八幡お家帰る。

だってもう嫌な予感しかしないんだもの。

それに、人間そんな簡単に変われたら苦労しないしな。

 

「はっはっは!比企谷は見ていて飽きないな。面白い顔をしているぞ」

 

どこか少年のような笑みを浮かべる先生は、抱き締めていた腕を解いてベッドから降りた。

 

あっ……

べ、別に名残惜しいだなんて思ってないんだからね!

 

「さて、帰るとしようか。車で送ってあげよう」

 

うーんと伸びをしながらそう提案してくれる。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「なーに気にするな。……それにしても、目を覚ました時とは別人だな」

 

「…………すいません」

 

「別に責めてるわけではないよ。けどきっと、あれが君の素なんだろうな」

 

「…………」

 

「ふふふ、気なんか使わずにまた前みたいにしていいんだぞ。その……か、可愛いとか……けっこん、とか……」

 

後半は顔を真っ赤にしながら小声で言ってきた。

 

あああ!!

何で俺あんなこと言っちゃったんだよ!!

バカバカバカ、八幡のナルシスト!

この変態!スケベ!八幡!

いや自分の名前罵倒してどうする。

 

自分の発言を思い出して悶えていると、

 

 

『うああ、私はなんてこっ恥ずかしいことを!!生徒相手に……あああああ!!いかん!彼は生徒だ!まだ早すぎる!それに年の差が……ってまたなんてことを考えてるのだ!!!ぬああああああ!!………………はあ、結婚したい。帰ってジャンプ読も』

 

 

恥ずかしさの頂点にいた俺に先生の心の声が聞こえてきた。

 

…………この人なんか思ってたのと違うぞ。

可愛いは可愛いんだけど……

うん、多分残念な人だ。

間違いない。

もう誰かもらってやれよ……

てかジャンプ好きなのね。

ちょっと親近感湧くわ。

 

初めの印象とは全く違う平塚先生の一面を垣間見て、少しだけ、ほんの少しだけならこの人には歩みよってみようと思うのだった。

 

そして……できることなら彼女にも。

 

 

その後、顔が真っ赤な平塚先生の後に続いて、これまた顔が真っ赤な俺は保健室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、家に着いて自転車を買っていないことを思い出し、再び4時間山道を歩いたのはまた別の話である。

 




陽乃が出てこなくてすいません。

でも平塚先生も可愛いからお許しを。

進み方はゆっくりですし、亀更新ですが、気長にお付き合い願います。

それでは今日はこの辺で。

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