男は転生者だった。
 男は特異な能力を与えられていた。
 しかしその力を振るったことは一度もなく、ただただ平凡な生活を送る一サラリーマンでしかなかった。
 そんな男の下に、一人のセールスマンが訪れる……。


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 思いつき劇場
 ツイッターに投稿するつもりが、思ったより長くなったので


ココロのスキマ

 男には前世の記憶があった。

 さほど鮮明に覚えてるわけでもないが、生まれ変わる際に何かに会ったことと、それに何かを貰ったような朧気な記憶もあった。

 とは言え、今の生に何かしら変わったことがあるわけでもなく、ごく普通に学校を卒業し、ごく普通の会社に就職し、取り立てて目立ったところのない女と結婚した。

 

 現状に不満があるわけではない。

 前世を焼き直したような平凡な人生ではあるが、前回は最期まで独身であったことを考えれば上手く行っていると言えよう。

 二回目であるが故の積極性の為せる技である。

 

 それでも、ふとしたときに無性に空しい気分に襲われることがある。

 そうしたときは、決まって行きつけのバーで一人、グラスを傾けることにしていた。

 今日もまた、いつもどおり一人で飲んでいた。

 ただ、その日に限って恰幅のいいスーツの男が隣の席に着いたことだけが、いつもと違っていた。

 

 やたらにこやかに、愛想よくも馴れ馴れしく話しかけてくる隣人。

 最初のうちは鬱陶しく思いながらも次第に絆されていき、酒の力もあって次第に口が軽くなっていく。

 気がつけば今まで誰にも語ったことのない前世についてや、小さくまとまった現状、そして形を成さないモヤモヤとした気持ちなどを、あたかも十年来の親友にでもするかのように打ち明けていた。

 

 そんな男に差し出されるは、一枚の名刺。

 

『ココロのスキマ、お埋めします

             喪黒福造』

 

 その名前を認識した瞬間、強烈な衝撃と共に男の脳内を埋め尽くしたのは、笑ゥせぇるすまんという前世の記憶より鮮やかに蘇るタイトルと、それに付随するあれこれ。

 隣の男、名刺が確かなら喪黒福造なのであろう彼は何事か語り続けているが、一切が耳に入らない。

 自分が生きているこの地について漠然と感じていた違和感が、ストンと胸に落ちる。

 

 ああ──そうか。この世界は、笑ゥせぇるすまんだったのか

 

 どうかしたのですか?

 暫くの間、驚愕の表情を貼り付けて固まっていた男に、喪黒福造は心配そうに問いかける。

 しかし、今の男にはそれも何かしらの企みがあってのものにしか映らない。

 

 相手は、喪黒福造だ。

 こいつの言葉に耳を貸したが最後、破滅的な未来が自分を待ち受けることは必定。それは、前世の記憶に由来する確信。

 ならば、自分がすべきことは何だ。

 

 そうだ、自分は守られなければならない。

 今の生活を。ちっぽけな幸福を。今世で手に入れた全てを。

 この、胡散臭い笑顔を浮かべる悪魔から!

 

 きっと、生まれ変わる際に自分が譲り受けた力は、今このときのためにあったのだ。

 立ち上がりざまに両の手に剣を生み出し、喪黒福造に向かって構える。

 今までに一度たりとも使ったことのない力だが、今ならどう扱えばいいのか手に取るようにわかる。

 

 ことここに至っても、そんな危ないものはお仕舞いなさいなどとフザケタことを抜かす喪黒福造に、男は双剣で斬りかかる。

 それは確かに急所を切り裂いたが、相手は本物の悪魔。この程度ではとてもとても安心できない。

 続けざまに虚空に幾つもの剣を生み出し、投げつけ、爆破させる。

 たちまちの間に、辺りは戦場もかくやと言ったばかりの酷い惨状に成り果てていた。

 

 だが喪黒福造の死体は確認できない。

 もっとだ、もっと確実に仕留めなければ。

 男は思うがままに全力を繰り出し……。

 

 

 

 

 

 

『……先日夜に起きた爆破テロの続報です。未だ犯人は特定されていませんが、犯行グループは数多くの刀剣類や爆発物を持ち込んだことが明らかとなっており、現在までに判明した死傷者は死者数36名、重軽傷者73名に上り、未だ増える見通しです』

 

 望み通りの大冒険ができなかったことに、随分と鬱憤が溜まっていたようですねぇ。

 それにしても人の話を聞かないお人です。皆さんは、もっと周囲の声に耳を傾けなければいけませんよ?

 オーホッホッホッホッホ……




 事件は魔術協会が隠蔽しました

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