ヴォルデモートのお辞儀講座です。

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ヴォルちゃんのお辞儀講座

 

 闇に覆われた魔法界。それを支配していたのは、自らをヴォルデモート卿と名乗る蛇顔の男と、「死喰い人(デス・イーター)」という下僕達によって。

 強大な闇の魔力と魔物達を操り、灰色の雲で覆われたイギリスで全てを牛耳っていた。そんな闇の陣営の幹部達は、ある屋敷に集められていた。それは、彼等の主人であり魔法界を支配している第一人者である最強の魔法使いーーヴォルデモート卿だった。

 薄暗い広い部屋を、暖炉の灯火が申し訳なさげに照らしていた。明るいはずなのに、温かいはずなのに、幹部達は何も感じる事などなかった。闇の帝王であり主人からの直々の招集。腕に刻まれた残酷な印が疼き、彼等は悟った。何かが起こった、という事を。

 

「ご主人様は何処へいらっしゃるのだ?」

 

 しかし、いつまで待ってもヴォルデモートはやってこない。遂に痺れを切らした白髪の男が、醜い皺顔を歪ませながらつぶやいた。すると、チリチリの頭を振るクマのある、勿体無い美人の女性は怒鳴った。

 

「黙りなグレーゴル! ご主人様はそろそろいらっしゃるはずだ」

「そうは言ってもレストレンジ、我々はもう一時間程この場所にいる。もしかして、間違いだったのではーー」

「殺しても良いんだぞ河童男ッ」

 

 女性の名は、ベラトリックス・レストレンジ。魔法界では珍しい純血の家系で、闇の陣営の副官であるレストレンジは、醜男であるグレーゴルに対して杖を向けた。最強の副官に杖を向けられ、いくら幹部とはいえグレーゴルは震え上がった。

 

「分かった、分かった...」

「ご主人様が何故お前のような奴を生かしておくのかが分からない」

「レストレンジ、純血は重んじられるべきだ」

「うるさいよグレイバック」

 

 レストレンジが鋭い視線を向けた先には、毛深く光る歯を持った狼男ーーフェンリール・グレイバックだった。闇の陣営側につく人狼で最も凶暴であり、リーダー的存在ではあるが、彼は「死喰い人」ではないはずだ。

 

「私が呼んだ客人だ。あまりカッカするな。レストレンジ、お前も好い加減敵対心むき出しの顔をおちつけろ」

 

 立派なシルバーブロンドの持ち主であるルシウス・マルフォイが、レストレンジをなだめた。この屋敷は彼のモノである。我が家で暴れられれば、ひとたまりもない。

 しかしながら、ヴォルデモートを待つ事に飽きてしまった幹部は、グレーゴルだけではなかった。いつまでもやってこない主人に少なからず苛立ちを覚える者さえもいた。ヴォルデモートを深く敬愛するレストレンジでも、少し不安になってきた頃合いだった。

 途端に、屋敷の大きな応接間の扉が開かれた。皆がその場所に目を向ける。青白い明かりが開かれた扉から流れ込み、冷たい空気は依然として温まらない事を実感した。誰の姿もない。一瞬息子のドラコの悪戯か?とも思ったマルフォイだったが、そんな事をする年齢ではないし、相手は闇の陣営の幹部達だ。出来るはずもない。

 

「何だ何だ!!」

 

「死喰い人」達は驚きに今まで我慢してきた気力を解き放ち、取り乱し始めた。皆杖を取り出し、扉の方へと向けた。我らが帝王ならば、きっと窓ガラスを破って入って来るはずだろうと、誰もがそう思っていた。だから、この扉を開けたのは別人だともーー

 しかし、その考えはすぐに打ち破られた。細長いテーブルのお誕生日席には、ある人物が座っていた。

 

「俺様...此処にいるんだけど...」

 

 その言葉一言一言に覇気を感じ、彼等は一気に杖を取り落とした。ギクシャクと首を動かし、その声先を見つめた。冷たい汗が真っ白な頬を伝わり、全身に鳥肌を立たせていた。

 そこには、人とは思えない男がいた。何処か着物に似せた闇よりも深いローブを身に纏った彼の顔は、恐ろしく目を塞ぐようなモノだった。細いナイフで切り込みを入れたような鼻、唇のない口、細い血の瞳ーー全てが全て恐れ多かった。

 

「まぁ座れ。俺様が待たせたのだからな。咎めはしない」

 

 我々の主人であるヴォルデモート卿は、酷く機嫌が良いようだった。幹部達は大慌てで元の席に座った。何とも言えない冷たい時と銘々の生唾を飲み込む音が重なり、奇妙な旋律を奏でていた。

 遂にヴォルデモートが静寂を引き裂いた。

 

「あっ...ごめんね、俺様が待たせたからみんな怒ったね...」

「め、滅相もございません! 我々はちっとも怒ってなどおりません! 寧ろ、悦びを感じているというか...」

 

 レストレンジが不自然な笑みでヴォルデモートの機嫌を取ろうとするが、彼は深くため息をついた。

 

「でもさ...俺様マグルに『服従の呪い』かけてお辞儀させてたんだよ...俺様結構待たせちゃったからさ...マグル多くて...」

「で、では! ご主人様の『ヴォルちゃんのお辞儀講座』をしてくださいな! いつも面白くって...!! ほら、拍手しろお前ら」

 

 レストレンジの無茶振りに苦笑を浮かべながら、「死喰い人」達は大きな拍手をヴォルデモートに捧げた。満更でもない様子で、闇の帝王は立ち上がって引き裂いたような口をニッと上げた。

 

「じゃあ始めるぜい! 『ヴォルちゃんのお辞儀講座』!!」

『わー...!!』

 

 皆どうにか楽しもうと歓声を上げた。しかし、この講座を何回聞いただろうか。ヴォルデモートが機嫌の良い日は、毎度毎度この講座を聞かされる。お辞儀好きなヴォルデモートのこの講座...一体何の意味があるというのだろうか。否、意味など皆無に等しいただの自己満足だ。

 ヴォルデモートは真っ白な骨のような杖を一振りし、ホワイトボードを出現させた。そして、そこに魔法で文字を書く。

 

「お辞儀の常識その①! 『お辞儀は45度』! 90度だと低すぎるし、180度なんて論外だ。皆、お辞儀は45度!」

 

 幹部達は手を叩く。

 

「お辞儀の常識その②! 『お辞儀はこちらも若干しよう』! 相手に深々とお辞儀をやらせるのは常識...だけど、こっちはちょっとで良いよ、お辞儀なのそれ?と言われても、闇の魔法使いだから俺様達問題ない! ポッターにやらせた時もそんな感じだったし」

 

「お辞儀の常識その③! 『お辞儀はマグルには容赦しない』! マグルとか穢れた血とか、そんなのはやって当然だからね皆。もしやらないようだったら殺すか、『服従の魔法』使えば一発だよ☆」

 

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 こんな何度も聞き飽きたヴォルデモートの講座がいつまでも続いた。その宵のマルフォイ屋敷は、渇いた拍手で満たされていたという。

 

 




ドラコ「眠れん」

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