◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
これはまだ、クロゼが生きていた頃の話。
グリードアイランドから帰って来たクロゼは、修行中の珱嗄の為にちょっとした趣味として料理を始めた。何かを作ったり操ったりすることがかなり得意なクロゼは、とても器用だった。
少しづつ料理は上達し、今ではそこらの料理人顔負けの実力を持っている。得意料理はチャーハンだ。この料理には珱嗄の舌も唸らせている。
「さて、今日は何にしようかね」
クロゼは外へ料理の材料の買い出しに来ていた。買い物かごを片手にうんうん唸っている男の姿は、なんというか主夫だった。
「あらあら、クロゼちゃん! 今日も買い物?」
「あ、肉屋のおばちゃん。おう、今日も飯作ってやらないといけないからな」
「全く、クロゼちゃんにこんなに尽くされて……相手は幸せ者ね!」
「ははは、まぁアイツはアイツで頑張ってるからな。誰かがねぎらってやらないと」
「男前ねー! 私がもう少し若かったらほっとかないよっ!」
クロゼは料理をするようになってから随分と親しまれる様になった。肉屋のおばちゃんや、魚屋のおじちゃん、八百屋のお姉さんや、料理器具店のお爺さん等々、真摯に付き合ってくれるクロゼに親しくしてくれる人が多いのだ。
故に、たまにおまけしてくれたりする。
「今日は何を作るんだい?」
「そうだなぁチャーハンにしようかな」
「クロゼちゃんの得意料理ね! いま必要なお肉持ってきてあげる!」
「お、ありがとうおばちゃん!」
「いいのよ、彼女さんをしっかり支えてあげるのよ!」
クロゼは彼女と言われ、首を捻った。相手は珱嗄なのだが、どうやら少し勘違いがあるようだ。だが、クロゼは訳も分からずとりあえず頷いておくことにした。
「おう! 頑張るぜ!」
こうして少しづつ勘違いが生まれるのだった。
◇ ◇ ◇
さて、それからしばらくして、クロゼは材料を全て集めた後、宿屋の調理場を借りて料理を作っていた。作るのは勿論チャーハンだ。
「~♪」
鼻歌交じりに下準備を始める。炊いたご飯や、切り刻んだ人参、玉葱、ひき肉、ピーマン、タケノコ、油、醤油、胡椒、塩、卵を準備する。
なんとこの男。米を炊くのに釜戸を使うのだ。なんと手の込んだチャーハンを作るのだろうか。
「さて、それじゃあ作ろうかな」
卵を割り、溶く。そして油を布いたフライパンを火に掛け、そこへ卵を投入。菜箸で卵を掻き回しながら、そこへ炊いたご飯を投入した。そして、卵と油を絡ませるように炒める。そして、少し絡んできたとこで人参、ピーマン、タケノコ、ひき肉を投入し、同じ様に炒める。
ご飯が卵でコーティングされ、人参やピーマンに火が通る。そして、クロゼはそこへ醤油や塩、胡椒を適量振りかけた。そして、付け加えとしてにんにくをすり下ろした物を少量投入した。
さらに炒める。そして、段々といい匂いが充満していく中で、クロゼは火を止め、余熱で少しだけ炒めた。
そして、皿へと盛り付けた。そこで、調理場に人が入って来る。クロゼは振り返るとそこには珱嗄がいた。どうやら匂いに誘われて来たようだ。
「珱嗄ぁ、飯出来たぞー!」
「あいよー」
クロゼはニカッと笑って珱嗄にそう言う。珱嗄はそれに対し、楽しみだとばかりにゆらりと笑って、そう答えた。
◇ ◇ ◇
全てが終わった後の珱嗄は、夜に思い出す。隣で寝ているピトーの頬をつついて、空を見上げた。星が満天に広がる夜空に、漆黒に塗りつぶされた空に、クロゼの事を思い出す。
良くも悪くも、様々な部分で珱嗄を支えてくれた男。最初は弟子で、後の友人で、最後は親友だった。
だが、その男はもういない。骨も、服も、なにもかも燃やして無くなった。珱嗄の手元にあるのは、あの戦いの後念能力で修復した陽桜を納めた漆色の鞘。黒珱のみ。
「………あの時のチャーハンは美味かったなぁ……まぁ俺の作った奴の方が美味いんだけど……まぁなんだ、愛情とか誰かの為に作った物ってのは……総じて凄まじいものだ。この黒珱がそれを証拠付けてる」
珱嗄はゆらりと笑う。
「なぁクロゼ。お前は最高の親友だったよ」
珱嗄はそう言って、遅ればせながらの弔いをする。心の中で、クロゼへと感謝の気持ちを伝える。転生という人生を変化させる出来事を終え、強くなったとはいえ、天涯孤独な珱嗄の、初めての友人。それがクロゼ。そして、珱嗄の為に命すら掛けてくれた本当の親友。
珱嗄はまだ子供だ。人外というほどに生きていない精神年齢30代程でしかない子供だ。脆弱な子供だ。弱々しい人間だ。
だから、クロゼの為に、涙を流した。一筋だけ、涙を流した。
こうして、クロゼと珱嗄の友情は続いていく。まだまだ続いていく。そして、珱嗄が本当に死んだ頃にまた会えるだろう。それくらいの我儘なら、許してくれるだろうさ。
この友情は、本物なのだから。
女子力クロゼです。
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