◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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エピローグ

「まさか、本当におんしらが此処まで来るとはの」

「わはは、これで俺も晴れてノーネームに戻れるってもんだよ」

 

 そんな会話をしていたのは、白夜叉と珱嗄。サウザンドアイズの下層支店内白夜叉の私室にて二人、向かい合っている。白夜叉の姿は、最初に会った頃の十六夜曰く和服ロリの姿で、珱嗄もいつもの青黒い着物を着ており、空間が和装であることもあって、中々の風情を感じさせる光景がそこにあった。

 白夜叉は用意され、少し温くなったお茶を一口啜ると、その金色の瞳を珱嗄に向ける。その表情は不満気というより、どちらかというと満足気だ。

 

 珱嗄はそんな白夜叉に対してゆらりと笑って眼を伏せた。こんな会話をしている理由は、話の中にあるノーネームに関わるからだ。

 

 アジ=ダカーハとの一戦、ひいてはノーネームとの戦いから、およそ2年の時が経っていた。

 

 あの日、珱嗄から旗を取り戻したノーネームは、珱嗄の鍛錬や自主訓練の末に強くなっていき、この箱庭で快進撃を遂げていた。無名であった時には出来なかった多くの事が、旗を取り戻したことによって出来るようになったのだ。

 まず、上層に上がる事が出来るようになり、功績を挙げれば挙げるだけ、手に入れた名前がどんどん有名になっていくのだ。すると、ノーネーム……ああ、今はもうノーネームではないのだが、彼らのコミュニティに入りたいという者も多くなり、更に彼らと同盟を組もうとするコミュニティも多くなった。

 

 その結果、旗を取りあげられる以前、最強時代のノーネームのメンバーではなく、十六夜を始めとしたノーネーム復興時代のメンバーが先導になり、彼らのコミュニティはその勢力を瞬く間に増して行った。今や、下層では相手になる様なコミュニティはそういない。ギフトゲームに出場すれば上位に必ず喰い込んでくるし、十六夜に至ってはあらゆるギフトゲームで1位を独占しようとしているらしく、現在23戦23連勝、1位独占記録を更新中である。

 まぁ、珱嗄の出場するギフトゲームには必ず出て来なかったことから、独占記録というのも変な話だが。

 

 さておき、そういう訳で快進撃を遂げている彼らのコミュニティは今……本拠の所属階層を上げようとしていた。七桁の外門に位置していた彼らは、旗を取り戻した段階で六桁の外門へと上がっている。ソレを今から、五桁へと引き上げようとしているのだ。五桁、といえばかのアジ=ダカーハの出現した煌焔の都のある階層だ。

 彼らの実力ならば、2年でこのペースは随分と遅いと思われるかもしれないが、十六夜達は珱嗄が戻って来るのを待ってから四桁以上に進もうと思っている。四桁に進むには、確実に珱嗄の力が必要になって来るからだ。

 

 そして、その時はやってきた。白夜叉の補佐役としてノーネームを離れていた珱嗄は、彼らが五桁に上がるということで、コミュニティに戻ることになったのだ。

 

「おんしがいなかったら、あの小僧共は今も尚旗を取り戻そうと躍起になっておったじゃろうな?」

「わはは、いやいや……どうだろうね。あの日の段階で、あいつ等は俺に一矢報いる事が出来る位には強かったんだし……案外、2年も経てば旗も取り戻してたんじゃね?」

「前から思っていたが、おんしかなり自己評価高いよな」

「己を知りて、人は前に進む事が出来るんだよ。俺の場合、自分の実力を知っているから自信家なんだ……ぶっちゃけ、俺に勝てる奴そういないし」

「まぁこの前私の付き添いでサウザンドアイズの本拠に行くべく、四桁の外門を潜った時なんか、強い奴らに対して片っぱしから怒りを買っていたしなぁ……しかも無傷で帰って来おったし」

「いや、あの時は俺も結構きつかったよ。反転無しじゃ四桁が限界だね」

 

 呆れる様に苦笑する白夜叉に、珱嗄はゆらゆらと笑う。

 

「それで……今日呼びだしたのは何の様だ? 本当なら今頃十六夜ちゃん達と合流してる時間なんだけど」

「……おんしを呼び出したのは、魔王連盟についてだ」

「ああ……」

 

 白夜叉の言葉に、珱嗄は成程と頷く。

 魔王連盟、かつてアジ=ダカーハを復活させたコミュニティだ。まぁあの時は珱嗄が強制したわけだが、それでも多くのコミュニティに大きな被害を与えた事には変わりない。

 実はあれ以降、ノーネームと金髪金眼の少年――『殿下』と呼ばれていたあの少年と仲間達はかなりの頻度で衝突している。なんでも、ペストと十六夜を取り込もうとしているらしく、なんども嫌らしく襲撃してくるのだ。

 

 今の所十六夜達は負けてはいないものの、殿下達もやはり手強い様で、追い詰めても一歩届かずいつも逃げられている。彼らは魔王連盟の中で頻繁に動いている面子なので、是非とも捕まえたい所だが……何分混世魔王のギフトやリンのギフトもあって、こと遁走においては凄まじい能力を持っている。捕らえるのはそう簡単ではない。

 

「最近、北部六桁の階層でマクスウェルの悪魔が頻繁に現れているらしい」

「ふーん……ウィル・オ・ウィスプのリーダー目当てじゃねぇの? ほら、アレって結構なロリコンじゃん」

「いやまぁそうかもしれんが、奴はロリコンでも強い。六桁のコミュニティで対抗出来るとすれば、小僧共やウィル・オ・ウィスプとかじゃろうな……おんし、これから小僧共の所に戻るのじゃし……五桁に上がる前に奴をどうにかしてってくれんか?」

「わははっ……仕方ないなぁ、一つ貸しにしておくぜ」

「うーむ……これで12個めの貸しか……増えていくばかりじゃな。面倒掛ける」

「面倒なら大歓迎だ、迷惑は掛けられたくないけどね」

 

 珱嗄はそう言って立ち上がり、部屋を出る。そのままもう自分の家の様に慣れ親しんだサウザンドアイズ支店内を歩き、外に出た。空高く、偽物の太陽がさんさんと光り輝いていた。

 

「うーん……それじゃ、行きますか」

 

 珱嗄はそう呟いて、十六夜達の待つ……始まりの場所、今はもう本拠ではないが、七桁に置かれた拠点へと向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「おせぇよ、珱嗄」

「悪いね、白夜叉ちゃんと話しこんでたんだ」

 

 拠点に戻って来た珱嗄を見つけると、十六夜達は直ぐに駆け寄ってきた。来るのが遅いと少しばかり不満気な顔をしているが、中々どうして……彼らはこの2年で随分と逞しい顔立ちになっている。十六夜はもう19歳、高校生を卒業し大学に入るか、二年に上がる頃の年齢となり、身体も大人の体格へと成長していた。まだ未成熟だった身体は、既に出来上がっており、以前とは格段に強くなっているのが見た目と貫録で分かる。

 そしてそれは飛鳥や耀も同じであり、飛鳥は17歳に、耀は16歳となった。

 飛鳥はまだ成長期真っ只中ではあるが、元々の教養の良さと丁寧な佇まいから、既に大人の魅力を醸し出しており、スタイルも段々と出る所は出て、引っ込む所は引っ込み始めている。

 耀は16歳ということで、本格的に成長期に入ったようだ。幻獣や動物の身体能力や特性を恩恵として身に付けることができる彼女は、成長期に入って瞬く間に身長が伸び、今では飛鳥と並んでいる。すらりと伸びた足は長く、そしてまだあるよりはない方だった胸も2年前の飛鳥と同等位には膨らんできた。髪もショートだったのが少し伸び、首の根元程にまで伸びていた。

 三人の問題児は、2年という時を経て見た目も実力も凄まじい成長を遂げていたのだ。ちなみに、ペストやレティシアは種族や身体の性質から特に変化なし、リリやジンは多少背が伸びているようだが、まだ幼さの残る顔立ちのままだ。

 

 問題は黒ウサギだ。

 

 彼女は2年前の時点で随分と抜群のスタイルと美貌を持っていた。にも関わらず、その成長は止まらなかったらしい。胸は巨乳から爆乳へと成長、且つ形と肌の張りは美しく整ったまま、そしてヒップもウエストモより肉付きが良く、そして引き締まっている。抜群のプロポーションが、究極のエロスタイルへと進化を遂げていた。

 更に、彼女は精神面でも大きな成長を遂げている。珱嗄によって十六夜達と鍛えられた黒ウサギだが、最も実力を伸ばしたのは彼女だろう。最早ちょっとやそっとのことでは感情を昂らせることはなく、2年前は良く見れた赤い髪の黒ウサギは、今ではそう見れるものではない。

 

 十六夜達が悪ふざけの過ぎる行動を取ったとしても、今ではうふふと笑って大人の笑みを浮かべながら窘めるように止めている。かといって揶い甲斐がないかと言われれば、そうでもない。弄れば嗜虐心をくすぐる反応を返してくるから、今でも十六夜達は黒ウサギを弄っては面白おかしく日々を過ごしている。

 ただ、最近では黒ウサギに求婚してくる男が増えたので、十六夜達は内心ハラハラしながら露払いをしていたりする。

 

「珱嗄さん、お帰りなさい」

「お帰りなさい、アホ師匠」

「お帰りマスター」

「変わらないな、マスターは」

「お帰りなさい、珱嗄さん!」

「ま……お帰りだ、珱嗄」

「お帰りなさい、珱嗄さん。お元気そうで何よりでございますよ」

 

 上から、耀、飛鳥、ペスト、レティシア、ジン、十六夜、そして黒ウサギだ。

 成長した面々は、随分と雰囲気が変わった。既に珱嗄とほぼ同じ位の背丈に成長した十六夜とハイタッチして、珱嗄はゆらりと笑う。お帰り、と言われて悪い気はしない。

 

 そして、

 

「やぁ珱嗄、調子はどうかな?」

「ようなじみ、絶好調だ」

 

 安心院なじみ。アジ=ダカーハを倒し、珱嗄と死に別れる覚悟を決めた少女が、珱嗄を迎え出た。実はあの後、なじみは直ぐに珱嗄が別の世界へと移動するかと思っていたのだが、なんと珱嗄、気まぐれでもうちょっと残ることを決定、もう少しだけ共にいれることになった。

 あの時のなじみはがっくりとこけて、シリアスな雰囲気をぶち壊されていたが、表情は嬉しそうだったのを珱嗄は覚えている。

 

「さて……皆、白夜叉ちゃんから頼まれごとだ。この依頼を済ませて、さっさと五桁に上がろうぜ」

 

 珱嗄の言葉に、ノーネーム……いや、もうノーネームではないのだった。とにかく彼らは珱嗄の言葉にまたかと首を振った。そして不敵な笑みを浮かべながら、仕方ないとばかりに自分に気合を入れる。十六夜は拳を打ち鳴らし、飛鳥は十字剣を軽く振るい、耀は腕をぐいっと伸ばす。黒ウサギはいつも通りにそんな三人を笑顔で見守っていた。

 

 珱嗄はそんな彼らに、わははと笑った。中々どうして、ノリの良い面子になったものだ。というより、珱嗄の様なコミュニティに育ったと言えるだろう。

 

「それじゃ、行きますか」

『おう!』

 

 珱嗄の言葉に、全員が頷いた。

 

 そして珱嗄はまた、太陽を見上げる。この元ノーネームの拠点にある丘と、太陽……まるでこのコミュニティの旗を移した様な光景だ。

 十六夜達が笑い合っている姿と相まって、本当に輝きのあるコミュニティに成長したものだ、と感慨深くなる。

 

 わはは、と珱嗄は人知れず笑い―――そして、いつも通りに呟いた。

 

「うんうん……この箱庭、やっぱり面白いねぇ」

 

 元ノーネーム、そして現在はその名を取り戻したコミュニティの名は、

 

 

 ―――"アルカディア"

 

 

 日の昇る丘と少女が目印の、問題児だらけのコミュニティである。

 

 

 




これにて『問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生』完結でございます!


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