ソードアート・オンライン《三人の勇者》   作:ホイコーロー

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10話《静けさ》

 攻略会議も無事に終え、宿に戻ってきた俺たち。しかし、今もなお緊張の糸は切れないままだった。

 

「(なぁ……どうしてこんなことになってるんだ……?)」

 

「(さぁ、なんででしょう……?)」

 

「(キリトの所為に一票。)」

 

「(なんでだよっ!)」

 

 そう、全てはあの時から始まった……。

 

 

 

 

『うーし! お互い腹を割って話し合った所で帰るとしますか!』

 

『別に、腹を割って話したわけじゃ……。』

 

『まぁまぁ、いいじゃないですか! 明後日にはボス戦ですし、早く帰って体を休めましょう!』

 

『はぁー、早く風呂に入りたい……『いま、ふろって、いった……?』……ッ!?』

 

 

 

 

「ってやっぱお前のせいじゃねぇか。」

 

「だ、だってあんな反応をするとは思わないだろ! 普通! 俺だってびっくりしたんだ!」

 

「あの時のアスナさん、怖かったなぁ……。」

 

 原因はアスナだった。

 現在、俺とキリトとコペル、ユイとユキノはそれぞれ同じ宿に、ハチマンは一人で別の宿に住んでいるのだが、《風呂付き》の宿となると数はかなり限られる。

 要は、俺たちの宿にしかないのだ。他の三人も、風呂を浴びるためにわざわざ俺たちの家に来るくらいだからな。

 そのことがアスナにバレて、というか隠すつもりはなかったのだが、あまりにアスナが強引だったのでどうしたものかと困ってしまったのだ。

 そして、当然のように俺たちは部屋から追い出されていた。

 

「早く休みたいです……。」

 

 宿の外に追い出され、疲れ切ったまま休むことも狩りに行くこともできず、俺たちは途方に暮れていた。正直、あまり人に見られたくない光景だな。

 

「ヨウ、何してんダ、あんたラ。」

 

 そんな時、歓迎されない来訪者が現れる。

 

「あ、アルゴ!? どうした、こんな時間に。」

 

「(アルゴ、だと……!? どうしてこんな時に……!)」

 

「(師匠はなんで慌ててるんですかね……?)」

 

「(……帰ろ。)」

 

 やって来たのは《アルゴ》という一人のプレイヤーだ。ただ、お察しの通り彼女は普通のプレイヤーではない。

 何を隠そう、アルゴはSAOでもそう多くない《情報屋》の一人なのだ。しかも、《鼠のアルゴ》との異名をとるほどの実力者だ。おそらく、一番信頼と実績のある情報屋と言っても差し支えないだろう。

 俺とキリトはβ時代からの知り合いでもある。ちなみに、《鼠》の由来はβ時代から顔に髭を書いていることだと言っておく。

 

 まぁ、具体的に何がまずいかというと

 

「(〜〜♬)」

 

 もちろん、アスナである。

 男所帯に一人、アスナが風呂を入りに来ているなんてことがアルゴにバレた日には、表の世界にいられなくなるとは言い過ぎであろうか、いや、言いすぎではない(反語)。

 

「いやー、明後日にはボス戦だっていうじゃないカ。ちょっと激励でもしてやろうと思ってヨ。」

 

「そ、そうかー。それはありがたいなー。」

 

「(馬鹿! 棒読みにもほどがあるだろ!)」

 

「……オイラとカッちゃん達の仲じゃないカ。遠慮すんなヨ。餞別も持って来てるから中に入れてくれないカ?」

 

「あー、そりゃ残念だな。今から狩りに行くところなんだわ。また明日にしてくれねぇ?」

 

「そ、そうなんす!」

 

「……おー、そうなのカ。そいつは残念ダ。」

 

 よしよし、その調子……。

 

「カッちゃん、なんか隠してるナ?」

 

「「「……ッ!?」」」

 

 そう言うが早いか、アルゴは俺たち三人の包囲網を潜り抜けて部屋の入り口へと向かう。

 ここで、俺たちの名誉のために言っておくが、アルゴは《敏捷》極振りの、カイトたちにも引けを取らないトッププレイヤーの一人だったりする。

 

「このアルゴ様に隠し事なんて、百万年早いんだヨ!!!」

 

 そう言って、アルゴが部屋の扉を勢いよく開けた次の瞬間

 

「……ッ!? きゃ、きゃアアァァァ!!!!」

 

 青いエフェクトに包まれた洗面器がアルゴの顔面に直撃した。

 ”いやー、洗面器でもソードスキルって発動するんだなぁ”、とキリトは後に語る。

 

 

 

 

「ヒドイ目にあったヨ……。」

 

「いや、自業自得じゃね?」

 

「アーちゃんがいるならそう言ってくれりゃ良かったじゃないカ。」

 

「だってアルゴ、絶対ネタにするだろ。」

 

「当たり前ダ。」

 

「「「反省しろ/してください!!!」」」

 

「ところで……あんたたち、まさか何か見てないでしょうね?」

 

「「見てない見てない。」」「……。」

 

 俺とキリトは否定するものの、コペルが顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 次の瞬間、俺たち三人の顔面に衝撃が走った。

 ”後にも先にも、あんなに見事な三連続投擲、二度とお目にはかかれないだろうナ”、とはアルゴの言である。

 

 ハチマンがいないのに気付いたのはそれから一時間後のことだった。

 

 

 

 

 第二回攻略会議があった晩のこと、俺はアスナに呼び出されて村の外れまでやって来ていた。

 まさか告白……? なーんてな。こんなシチュエーション、このエリートぼっちにかかればその真意などお見通しだ。

 きっとカイトたちが言ってた”風呂”がどうとかいう話についてだろう! ……あれ、帰りたくなってきた。

 いやいやいやいや。俺は実際、何も起きないうちにあの場を離れたわけだし、正直に言えばいいだけだ! よし! ノープロブレム!

 でも、いざという時のための心の準備はしておくか……。いざ、見せよう! 日々磨いてきた俺の 奥の手 (ザ・ジャパーニズ・ドゲザ)をな!

 

 待ち合わせの場所に着くと、既にアスナが立っていた。大丈夫、遅れてはいない。

 

「ねぇ、ハチマン君。」

 

「はい! 私は何も見ておりません!」

 

「何を言っているの……? あなた、確か、”SAOはいつかクリアできる”って言ってたけど……あれは本気なの?」

 

 あれ、何か全然予想してない話題が出てきたぞ……? えぇと、それって昼間のことか?

 

「あ、あぁ。そうだな。」

 

 こいつ、まだ変なこと考えてんのか。

 

「そう……。」

 

 なんなんだ、本当に一体……。どいつもこいつも明らかに”私、悩んでます”みたいな顔しやがって。はぁ……面倒臭ェ……。

 

「……お前、このゲームのこと、どう思う。」

 

「どうって……別に何も。」

 

「俺は、すごいゲームだと思うぞ、これ。」

 

「……。」

 

「今までだって、ナーヴギアを使ったゲームは数多く存在した。でもな、そのどれもがナーヴギアのクオリティに全く追い付かず、見るに堪えないものばかりだった。」

 

「そう、らしいわね。」

 

「その点、SAOはグラフィック、機能性、規模、それら全てにおいて破格的な次元だ。このゲームは、すごいゲームなんだよ。

 ゲームだったら、クリアできる。絶対に。そして、最後まで俺は生き残る。」

 

 それが約束だ。

 ……あれ、何が言いたいんだっけ。

 

「ま、まぁ、だから、そこまで悲観的になんな。お、お前だってきっと生き残れる、と思うぞ。」

 

 よ、よし、なんとか締めくくれた、か?

 

「……プッ……アッハハハ!」

 

「……。」

 

「ご、ごめん……あまりに最後がグダグダしたものだから……つい……フフッ……。」

 

 ぶっ飛ばしてやろうか、こいつ……。

 

「フー……。えぇ、分かったわ。じゃあ、もし私がピンチになった時には助けてくれる?」

 

「……は? どうしてそんな話になるんだ?」

 

「いいじゃない。減るもんじゃないし。ね、約束。その代わり、私も生き残るように頑張るから。」

 

「交換条件になってねぇ……。」

 

 滅茶苦茶かよ。

 ったく……柄にないことしようとするとすぐこれだ。やっぱやめとけばよかった……。

 

「……ありがと、ね。」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「う、ううん! 何も! じゃあ、また明後日はよろしくね、ハチ君!」

 

 そう言って、アスナは自分の宿へと帰って行った。なんなんだっての……。あれ、てかあいつ今、さりげなく渾名で読んでなかったか?

 

 はぁ……、やっぱ面倒臭ェ。

 

 

 




《朗報》
 アスナがデレた。

 あれ? 早くね?笑
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