ミノタウロスに殺されそうになったベル君。助けられた女性に一目惚れをし、強くなることを決意。でももしその女性も彼に一目惚れをしていたら・・・?
短編です。

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出会いは一目惚れ

 ミノタウロスに襲われていたところを女性に助けられたベル・クラネル。ダンジョンに出会いを求めていた彼は望んだ立ち位置とは真逆ではあるものの、ダンジョンで運命的な出会いを果たしていた。ミノタウロスの返り血でトマトのように真っ赤に染まった自分の顔が、熱を帯びているのが分かった。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 こちらを伺う女性。金色の髪に黄金の輝きを宿す瞳。容姿端麗が常の神々に匹敵する美に都市最強の一角と歌われる剣技。

 迷宮都市(オラリオ)最強派閥のひとつ【ロキ・ファミリア】に所属する『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。

 ベルは彼女に一目惚れをした。

 そして逃げた。力のあらん限り、おそらくミノタウロスから逃げたときより速く走って。

 

 

 

 

 アイズの頬が朱に染まっていることに気づきもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の夜、ベルはバベルを中心に八本走るうちの一つ、西のメインストリートに面した豊穣の女主人のカウンターに腰掛けていた。

 駆け出し冒険者であるベルにとって驚愕の値段を誇る料理にクラッとしつつ、何か自分でも頼めるようなものは無いかと冷や汗をたらして、目を皿のようにしながらメニューを凝視している。

 そこにベルをここへいざなった店員、シル・フローヴァが近づいてきた。

 

「決まりましたか? ベルさん」

「し、シルさん。えと、その……ぱ、パスタを一つ」

「はい。まずはパスタを一つ、ですね!」

 

『まずは』 

 

 その言葉にベルは軽く引くつきながらも、朝彼女からもらった弁当のこともあって、そのことを簡単に否定することは出来なかった。

 流石に、頼んでいない巨大魚の姿揚げまでも提供され、その理由が自分のことを大食漢だと女将(ミア)さんに嘯いたシルだと聞いたときには、張本人の彼女を恨めしく見つめはした。

 そんな最低限の抵抗はしたものの、予想外の料理の登場にただでさえスカスカの懐はほとんど限界。早くお暇しないとファミリアの今後に関わる瀬戸際まで来ていた。

 ベルは決心して、目の前に置かれた巨大魚の姿揚げを食べようとフォークを手に持つ。コレを食べたら今日のところはお暇させてもらおう。

 

 と考えた矢先のことだった。

 

 

『おい、あれみろよ』

『……! 【ロキ・ファミリア】かよ……』

 

 【ロキ・ファミリア】ベルはその言葉を聴いて硬直する。

 つい先日助けられたファミリアだ。集団で入ってくる彼らの最後尾にあのアイズ・ヴァレンシュタインも歩いている。

 

(ヴァ、ヴァレンシュタインさんだ……!?)

 

 ベルは予想外の再開に、顔を思わず伏せた。シルが近づいてくる。

 

「ベルさん。どうしたんですか?」

「へっ!?……い、いえ。なんでもないです」

 

 体調でも悪いんですか? と聞いてくるシルにベルは顔を上げて否定する。

 そんなベルの様子を見て、シルは何かを感じたのか【ロキ・ファミリア】のほうに視線を向けた。

 

 

「……あの方たち。【ロキ・ファミリア】はよくうちに来てくれるんです。主神であるロキ様がうちのお店のことをいたく気に入って下さって」

 

 それはいいことを聞いた。ベルはシルにそうなんですか。と答えると今度もまたここに来ようと決心した。

 

(憧れのあの人に追いつくために頑張って、お金もためてここに通い続けたら……)

 

 あの人(憧れ)も僕の事を見てくれるかもしれない。

 ベルはテーブルの下で力強く拳を握ると、食事を再開しようとフォークを再び手にとる。視線は少しばかり彼女に向けながら。

 彼女のしぐさ一つ一つに目を奪われながら、ベルは食べ物を口に運んでいく。心とお腹が満たされて、いよいよ最後の一口を嚥下する。

 口をぬぐって、飲み物を飲み一息ついた。そろそろお暇しよう。次に会うときは、少しでもヴァレンシュタインさんにふさわしい男になって……。ベルは口元を緩ませながら席を立とうとした。

 そのときだった。【ロキ・ファミリア】の獣人の一人がベルのことを槍玉にあげて罵り始めたのだ。

 少しだけ浮いた腰が力なくぺたんと椅子に落ちた。心の中で何かが削れる音がした。

 アイズ・ヴァレインシュタインがベルを守るためなのか感情を露にしていることも余計にベルの心をえぐった。

 物静かそうな彼女があそこまで感情を高ぶらせるとは、とベルも驚いていたが【ロキ・ファミリア】のメンバーも瞠目しているようでこれはなかなかに珍しいことらしい。

 ベートという獣人は酔いが回っているためかまだそのことに気づいていない。むしろ自分の話に突っかかってくるアイズの対応にベートはより攻撃的になった。

 

「そこまであのトマト野郎を庇うってんのかよ! アイズ!?」

「……だったら、何だって言うんですか」

「ベートもアイズたんも落ち着きや。な?」

「うるせえ、ロキ! おい、アイズ。じゃあよ、俺とあいつ番になるならどっちが良いってんだよ?」

「いい加減にしろベート!」

「ベート、君、酔ってる? ……風に当たってきなよ」

「ババアとジジイは黙ってろっ……! で、アイズ。俺とアイツどっちがいいってんだよ!? どっちに(メス)としてむちゃくちゃにされてえんだ!?」

 

 ベルの心はもう限界に近かった。削れるものが無くなり音は痛みに変わった。胸をぎゅっと握る。お腹から全部出て行きそうだ。

 

「私は────」

 

 目をぎゅっと瞑った。次の言葉で紡がれるであろう獣人の名前を聞けばと思うとベルはいよいよおかしくなりそうだった。

 

「あの子が、いい……です」

 

 酒場の時間が止まる。ついで誰かが発したうめきのような驚きにつられて連鎖的に酒場内は轟いた。

 

「お、おい待てよアイズ、嘘だろ!? お、俺よりあのトマト野郎を選ぶってのかよっ!?」

「あ、あ、あ、あ、あアイズたん!? うそやろ!? うそやんなあっ!?」

「アイズ……?」

「ンー、でもその子って他のファミリアの子じゃないのかな?」

「せ、せや!アイズたんうちは認めへん!認めへんで!?」

 

「それでも……」

 

 再び酒場は静まり返る。アイズの言葉を聴こうと聴衆は息を呑んだ。

 

「私は、あの子に……その、……無茶苦茶にされたいです」

 

 声の嵐が酒場を包む。誰何が続き、獣人は髪と目を白くさせ気絶、神はこんなんって……うそやろ!?と涙目になり、ハイエルフは頭が痛いと両目を瞑り、片手を顔につけて溜息をつく。小人(パルゥム)は親指をしきりになめるも何も良い考えは浮かばないようだった。

 

 ベルはそれを聞いて驚き、慌てふためく。

 

(ヴァ、ヴァレンシュタインさんが僕をっ!? で、でもそれはあくまであの獣人の人と比べたらってことで……で、でも無茶苦茶にされたいって……。それって、つまり……!?)

 

 ベルは顔が赤くなるのを止められなかった。その様子に気づいたシルがどうかしましたか、ベルさん? と尋ねるもベルの耳には何も入ってこなかった。

 ぐるぐるととした纏まりの無い考えの中で、ベルの中に生まれたのは本能による回避だった。

 しかし体がそれを実行しようとするも、うまく動かない。ぐるりと椅子を酒場の出口に向けて飛び出そうとしても、腰が抜けていたのか床にへたり込む形で倒れてしまう。

 喧喧囂囂な周りと違い都市最強の一角を誇るアイズがそれに気づくのは当然だった。

 ベルの前にいつの間にかアイズは立っていた。

 

 ────頬を僅かに朱に染めて。

 

「また、会えたね……」

「……っ!?」

「自己紹介がまだ、だったよね……?」

「えっ、あ、あの……」

「アイズ・ヴァレインシュタイン。アイズって、呼んでほしい」

「べ、ベル・クラネルです……」

 

 自己紹介を済ませればアイズはベルの手をつかむ。立てる? という問いにベルははいぃいと力ない声を出し、ふら付きながらも立ち上がった。

 

「さっきの話」

「へうっ!?」

「……聞いてた?」

「あ、あの盗み聞きするつもりは……!?」

 

 ベルが顔を真っ赤に染める。

 それを見たアイズは女神をも魅了するような笑みを浮かべた。

 

「して、ほしいな」

「え……?」

「……無茶苦茶に」

「!?」

 

 その瞬間アイズも赤くなった。ベルも負けじと更に赤くなる。

 いつまでもつないでいる手をアイズは自分の胸にまで持っていく。

 やわらかく、そして熱い。心の音の高鳴りがベルの耳に入る。そこに自分の心臓の音が重なり、まるで一つに溶け合っていくような感覚をベルは覚えた。

 キュッと手に力が加わる。

 

「……だめ?」

「~~~~~~~っ!?」

 

 赤く染めた頬と潤んだ瞳で懇願するように尋ねてくるアイズに、ベルはもう言葉に出来ない悲鳴しか出せなかった。

 握られた手を引かれる。

 

「行こう?」

「……はぃ」

 

 顔を俯かせ、耳を真っ赤にさせたベルと微笑を浮かべるアイズは夜の街へと姿を消していった。

 

「うそや、うそや、うそやろ。なんやこれなんやこれなんや、なんなんや」

「フィン、放って置くつもりか……?」

「ンー。僕たち(童貞処女)じゃあちょっとむりかなあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル君遅いなあ……」

 朝方になっても帰ってこない眷族に、ヘスティアは今度こそ待って入られないとコートを着る。

 可愛い子供が心配でたまらないと言った具合にドアへと向かい、ノブを捻ろうとすると

 

「むびゅ!?」

「……あ、神様。ご、ごめんなさい」

「その声は……ベル君!? ベル君なのかい!?」

「……はい、神様。今、帰りました」

 

 べるくーん! そういって全身で抱きついたヘスティア。ドアにぶつかったくらいがなんだい! ベル君が帰ってきたんだ!

 

 しかしベルに抱きついたヘスティアの鼻腔に嗅ぎなれない匂いが混ざってきた。

 

「ベル君……どこ行ってたんだい?」

「……」

 

 ベルは抱きつくヘスティアを地に下ろしその青い瞳を、力の抜けた何か達観したような顔つきで見下ろしていた。

 

「ベル君……?」

 

 よくよく見ればベルの服装が乱れている。扇情的とも言っていい。左肩のラインなんて鎖骨まで丸見えだ。首筋にはなにか跡のようなものが……よく見れば鎖骨にも付いている。

 

「どうしたんだい……? その傷」

 

 

「……神様」

「なんだい?」

 

 

 ベルの赤い瞳。儚げで、あまり見続けると壊れてしまいそうな、ナニかやりきったような感じが垣間見えるその瞳に、ヘスティアの青の瞳は僅かに揺れた。

 そのときパズルのピースが何かかちっと合わさったような音がヘスティアの頭の中で聞こえたような気がする。

 

 ……まさか

 

「僕……大人になりました」

「ベルくうううううううんんんんんんんんっ!?」

 

 オラリオに女神の悲鳴が聞こえた。都合二回。

 




誤字脱字、アドバイス等いただけると嬉しいです。 
追記 2/13 冒頭にある表現の重複を修正。
    2/14 冒頭部分すこしイジリました。内容に変化はないです。

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