Operation Racoon City. Scenes U.B.C.S   作:オールドタイプ

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Mission report14 PM17:00i

 27days.1600 Racoon Park.

 

 無線の呼び掛けにより合流した隊員達述べ8名は、公園内の物置小屋の暖炉の奥の隠し部屋で今後について話し合っていた。

 

「これだけしか残らなかったのか?」

「そのようだな」

 

 夥しい数の感染者。迫り来る生物兵器。それらを退けながら今日まで生き延びてきた者達も既に満身創痍。

 作戦は遥か前から破綻。彼等には最早作戦を継続するだけの気力も、体力もなかった。

 

「とてもじゃないが任務を遂行できる状態じゃない」

「ヘリのピックアップによる脱出は考え直した方が良さそうだな」

 

 街からの脱出はヘリ以外にも幾つか方法がある。作戦開始前のブリーフィングでは副案として地上から車輌を確保しての脱出。街に流れる川を下っての脱出。街の外に繋がっている地下鉄からの脱出等がある。

 

 地下鉄からの脱出はアンブレラの研究施設から進出が可能であり、生存者の救出にはアンブレラの職員も混ざっていたため、そのような施設を使用することが想定されていたのである。

 

 街中に点在するアンブレラ施設のどこからでも繋がっており、こういった有事の際に施設職員が安全に脱出するための配慮なのだ。

 

 そのため、この手段は希望が非常に薄い。事態を察知した職員によって既に使用済みの可能性があるからである。足を運ぶだけ運んで肝心のものがなければ無駄足でしかない。

 

 本来ならば往復の便を出しての脱出なのだが、この規模のバイオハザードでは街と外の行き来はないと見て間違いはないであろう。

 

「突然で悪いがこの中に監視員はいるか?」

 

 白髪交じりの隊員が小さく呟いた。重苦しい空気の中での発言であるため、低い声が余計に重く感じる。

 

 声の持ち主は、壁にもたれ右肩に銃のハンドガードを乗せうつむいたままである。元からそういう顔なのか、今回の件でなのか、窶れた顔をしている。

 

「誰も監視員ではないのか?」

 

 彼の問いかけに答える人物はいない。

 

 それもそのはず、監視員とは本来の任務とは別の任務も請け負った人物であり、その任務内容は他の隊員とB.O.Wの戦闘データを収集するものであり、最優先事項である。監視員の存在は全隊員に衆知されていることではないが、これまでの任務等で決まって"派遣されては必ず生還"してくる人物もいたため、隊員内で"そういった人間"が存在するのではないのかと囁かれることになった。

 

 そして、監視員は特定の雇い主と契約を結ぶ。その期間はその雇用主ごとによるため、不定期であり、契約内容といった詳しい詳細も不明。

 ただ、隊員であれば誰が監視員になっても不思議ではなく、現にこの中にも監視員を務めた人物も存在する。

 

「......俺は監視員だ」

 

 このように自ら監視員であることを告げるものは今日まで皆無であった。監視員の悪い噂を知らぬ監視員はいない。監視員であることを明かすというのは良い判断であるとは言えない。信頼されることはなく、生存者の中で孤立する可能性が大きい。寝首をかかれたりしても文句は言えない。

 

「監視員のことをよくは知らなくとも黒い噂は知っているだろう。若干の語弊はあるかもしれないが、まぁ、概ねその通りだ」

 

 個人単位の話では良い判断であるとは言えないのかもしれないが、集団目線で言えばこの隊員の行動は良い方向に働いているであろう。

 

 ここまで生き残ることが出来たのは、個人個人の能力のところがほとんどであろう。しかし、監視員は生き残るために仲間を蹴落とした可能性がある。

 つまり、生き残っているのは個人の能力だけではなく、そういった行動を働いたのではないのかという疑念が隊員の中に存在するのだ。

 

 ここまで生き残った仲間を疑いたくはない隊員達だが、万が一自分が監視員によって蹴落とされる側になった時は......という猜疑心を捨てきれないでもいる。

 

 ほんの僅かな疑念が綻びを招き、様々なことが重なり集団が崩壊することはざらにある。

 

 この隊員はそれを防止するために声を上げたのかどうかは不明だが、当面の間集団に亀裂が生じることはないだろう。

 

 監視員であることを独白した隊員一人を"悪者"にすればよいだけだから。

 

 声を上げた隊員は外に投げ出されることも視野に入れ覚悟は決まっている様子。

 

「突然こんなことを言ったのは、監視員が持つ情報を共有したいからだ」

 

 情報を共有したいという隊員であるが、突然すぎるカミングアウトだけでなく、監視員という存在の実態を知っている隊員にとってこの人物は信用できなくなってくる。

 

 仲間を騙し、陥れ、切り捨てる。それが監視員のやり方。

 

「もちろん俺も情報は持っている。この街から脱出するためのな」

 

 街からの脱出。隊員達にとってこれほど渇望することはない。次々と傷付き倒れる仲間達。次に倒れるのは自分?

 

 死のイメージが頭から離れず、死に脅かされ満足に仮眠もとることが出来ない彼らは、現実と虚構の区別がつきづらくなっている。

 

 限界はとっくに越えている。後は限界の先がいつまでもつか、時間との勝負である。

 

「その情報とは何だ?」

 

 それでも隊員達は毅然とした態度で振る舞い続ける。自らの弱いところを、弱っているところをさらけ出すことは死に直結することを知っているからである。

 

「この街の地下にはハイヴと呼ばれる研究施設がある。その研究所に行くには、二つのルートがある。街の地下から直接行くのと、街の外れにある館から列車を使うかだ」

 

 ハイヴ。

 

 ラクーンシティに数多く存在するアンブレラコーポレーションの研究施設の1つ。街の10分の1の市民が働く職場でもある。

 他の施設に比べ、地下深くに位置し、研究内容も職員の一部しか知らされていない。一般の職員は事務的な業務がメイン。

 

「何でそんなこと知ってる」

「俺を雇ったクライアントが、ハイヴ内のモノを持ち帰るよう命じたからだ。そのためのルートと脱出法も」

「自分一人だけ脱出するきだったんだな」

「仲間達と行くはずだった。だが、仲間は道中で全員Type-103α型ネメシスに殺された」

「それで一人おめおめと逃げおおせたってわけだ」

 

 この場にいる全員が同じ境遇である。彼への暴言ではなく自分自身に言い聞かせているのかもしれない。

 

「ちょっとまて、Type-103って言ったな何だそれは?」

「人間をベースにした現段階では最強のB.O.Wだ。T-ウイルスによる強靭な肉体と桁違いの戦闘力を誇る。俺がいた小隊はソイツ一体に全滅させられた」

 

 説明中の彼は唇と体を若干震わせている。恐怖と怒り。その両方の感情によって。

 

「一個小隊を全滅させるほどのやつなのか!?」

 

 タイラントタイプのB.O.Wの存在を知らない隊員達はどよめく。

 彼らの知る知能を持ったB.O.Wはハンタータイプがほとんど。そして、そのどれもが訓練された一個小隊を全滅させるだけの力がないのも知っている。

 

 彼の話を聞き頭の中で比較することで容易にタイラントタイプの危険性を理解することができる。

 

「そんなのが街の中に彷徨いてるのかよ」

「出会わなかくて良かったぜ」

 

 タイラントタイプなるものが闊歩していることを知った隊員達は、出会わなかった幸運を喜ぶが、この先街で活動することに対して尻込みする。

 

「ソイツと遭遇したらどうする?」

「まともに戦って勝てる相手ではない。見たら逃げるしかない。と、話が少し逸れたな。ハイヴの場所だがアンブレラ支社ビルから入れる。ラクーン大学の直ぐ側だ」

 

 本社からの指示によって街を裏から支配するアンブレラの支社。早くから状況を察知したことにより、既にビルはもぬけの殻に近い。

 

「来た道をUターンか」

「直ぐ出発するか?」

 

 まもなく二日目の夜を迎えようとしている。夜道を出歩くのは得策ではないが、タイラントタイプをはじめとした多くのB.O.Wと、まだ見ぬ未確認の脅威のことを考えれば、悠長にしている暇はないであろう。

 

「もちろんだ」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 4人一組のスタックを二つ形成し、一同は夜の影が迫るラクーンシティ内を進行する。

 

 隊の違う者同士、初めてチームを組んでいるが、そこは訓練された兵士であるため、即興のチームであっても連携は完璧であり、動きは非常にスムーズである。

 

 周囲の感染者に気づかれぬよう、チームはサイレント主体で動く。多くの装備を身にまといながらも、無駄な音は一切出していない。足音さえ。

 

 移動中は会話することなく、アイコンタクトと手先信号のみ。それぞれがそれぞれの役割を理解しているからこそできる。

 

 戦闘を避けられない状況にあっては、死角からのナイフで一瞬で対処。音だけではなく、光といった視覚情報も感染者達は認識するため、自ら明かりを使うこともない。

 

 奇跡的に感染者としか遭遇しなかった一同は誰一人欠けることなくビルへとたどり着く。ラクーンシティでも一、二位を争うサイズのビルは恐ろしく生物の気配がしない。

 

 正面入り口の両サイドについた隊員達。両スタックのポイントマンが意思を合わせ、クロス突入を行う。後続の隊員もそれに合わせビルへと侵入していく。

 

 受付のある一階ロビーは整った状態を保っていた。血痕や死体といったものが見受けられない。感染者も。

 

『アンブレラ社へようこそ。アンブレラ社は全世界に向けた製薬製造のみならず、様々な分野で皆さんの生活をサポートしています』

 

「不気味なぐらい静かだ......」

 

 その空間は正に異質そのもの。まるで、この場所だけ何事もなかったかのように。

 

 "何もない"社内に響き渡るアナウンスがそれを物語る。本来なら多くの職員と来訪者で会社は賑わいを見せていたであろう。

 

「恐らく全員地下から早々に脱出したのだろう。証拠と共に」

 

 ロビーは一般見学者用と、職員用で入り口が異なっている。社員データを照合して開く扉の先が社員の職場。そのためのコンピューターは粉々に破壊されている。

 

「社員のデータまで隠す必要があるのか?」

「事後検証の際、政府の手が入り職員に繋がる。そこから情報が漏れることを恐れているのだろう」

 

 (監視員)は扉の横の僅かな窪みを引っ張り壁の一部を開く。中には手動入力の数字入力タイプの機械が埋め込まれている。

 

「何をしてる?」

「扉を開くためのもう1つの手段としてのパスコードだ」

「社員データ整合のくせして、番号入力で開く扉とかセキュリティ緩いな」

「普通だったら警備員が常に扉を見張っている上に、あくまでも非常手段だからな」

 

 手慣れた手付きで番号を入力していく。『番号確認......ロック解除』という文字が映し出され、カチッという音と共に扉のロックが外れる。

 

「それも雇い主からか?」

「ハイヴに入るための手段は作戦前から知らされていた。コードが変えられていないことを祈っていたが、通じたみたいだ」

 

 (監視員)を先頭に奥へと進む。彼を警戒してか、先程から事あるごとに先頭へと立たせている。

 それ自体は口頭で伝えられたものではなく、そういった空気からなっている。彼もその事を感じ取り、何も文句を言わずにそれにしたがっている。

 

「ここからエレベーターで移動する」

 

 エレベーターのボタンを押しエレベーターを呼び寄せる。少し狭めのエレベーターは大の男8人が詰め寄るとギリギリの広さ。

 

 ここで再び(監視員)は窪みを引きパスコードを入力する。

 

 それはハイヴへと続かせるためのコードであり、通常ハイヴまで続く階のボタンは存在しない。

 

 入力を終えるとエレベーターは地下20階へと静かに動き出す。移動の間暫しの沈黙が訪れる。

 

 静寂を破ったのは黒人の8人の中でも一際大柄な隊員である。

 

「あんたの雇い主はあんたにハイヴで何をするよう指示していたんだ?」

 

「なぜそんなことを?」

「ただの脱出方法のために連中が秘匿する情報を教えるはずがない。何らかの特別な理由がないわけがない」

 

 それを聞き(監視員)は黒人の隊員の顔を見ると、小さく何度か頷く。そして再び正面を向き口を開く。

 

「受けた指示はハイヴ内のあるものの回収だ。詳細は不明だが、ハイヴの奥にあるソレを街の外に持ち出すよう言われた」

「監視員なのにか?」

「俺も疑問に思った。監視員の仕事ではないからな。他の監視員に比べ俺は監視員としては従順ではなかったからかもな」

「得体の知れないことによく乗ったな」

 

 (黒人)を皮切りに、それまで沈黙していた隊員達も話に加わる。

 

「あとは見返りが良かったからだな。たったそれだけで連中は20万$支払うと言ってきた」

「作戦の成功報酬丸々の金額だ」

「俺達の倍貰えるとしても俺はごめんだな」

 

 談笑混じりの会話に8人間の空気が少し和らいだ感じとなる。元々仲間同士であり、こうして生き残り合流したのも何かの縁。歪み合う必要などどこにもない。

 

「......そろそろ着くな」

 

 階の表示はBF20階を示す。エレベーターはピタリと泊まり、静かに扉が開かれる。

 

 開かれた扉の先の光景に一同は息を飲んだ。

 

 扉の先には死体の山が築かれていた。スーツ姿の者。白衣の者。警備服の者と。死屍累々。エレベーターの前から目に入る至るところに。

 

 慌てふためいてハイヴに流れ込んだ様子というよりは、"意図的に集められた"ように見える死体の山。

 

 全ての死体に総じて言えることは、身体中を引き裂かれ、一部を大きく食いちぎられている。今のところ起き上がる気配はしないが、この中を歩く気にはなれない。

 

「これは一体どういう状況なんだ......」

「ハイヴの職員も、会社の連中も皆いるんじゃないのか?」

「この中を進みたくはないぜ......」

 

 全員が後戻りを考えた矢先に異変は起こる。

 

「な、何だ!?」

 

 大きなは地響きと共に、その場に立っていられないほどの揺れが起こる。揺れの影響かエレベーターの上方が落盤し、岩石とともにエレベーターの天井が落ちてくる。

 

 8人はそれに気づくと速やかにエレベーターの外に出た。

 

「全員無事か?」

 

 負傷者を出すことはなかったが、落盤によりエレベーターは二度と使えなくなった。

 

「......どうやら進むしかなさそうだ」

 

 8人は死体の山道の方に向き直す。地上から遠く離れた地下へと閉じ込められた8人。彼らの進む先には果たして、"何があって何がいるのか。"

 


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