【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったのなら(連載版) 作:taisa01
モモンガ日記3
九月一日
長期の出張から帰ってきた我が家、というのが正しいのだろうか。スレイン法国からナザリックに帰還した時、えもいわれぬ懐かしさのようなものを感じた。
たった一週間の外出。
この世界に転移? してから数ヶ月。
ここが帰るべき場所と感じている事実に、自分の認識がずいぶんと変わったことを自覚した。
形式こそ違うが王国・帝国・法国の三国家がナザリックの傘下に加わった。細かい報告は明日の定例会だろうが、まさか神に祭り上げられるとは思わなかった。デミウルゴスからも事前に神権政治の有効性については聞いたけど、いざ傅かれると逃げたくなるのは鈴木悟の意思というよりも、いまだ抜けない小市民的感覚が原因なのだろう。
同時に、人々の喝采や応援を受けて戦うのは正直気持ちの良いものであった。承認欲というものだろうか。
どちらにしろ、ギルドのみんなを迎える準備が整った。
あと、帰ってきて早々だが、ペロロンさんとラインハルト対策会議を開催した。
なぜこれを優先したかというのは、どうも嫌な予感がするからという曖昧な感覚によるもの。しかし曖昧な感覚というのは言語化できない経験の積み重ねからの警告であると、あの憎たらしいリアルの上司は言っており、身に染みているからこそ何を置いても優先することにした。
まず、ラインハルトの設定。装備。できることなどを共有する。もちろん最後のスワスチカが完成してグラズヘイムが完成したらという前提条件でだ。
分析した結果は、そうだろうと思っていたがマジモノの怪物だった。自分も法国の戦闘で十分以上に化け物になったと自覚したが、そんなものを軽く超越する化け物だった。
もし荒野や森のような空間を制限されないステージで戦闘をすれば、対軍仕様のアウラ並。屋内の接近戦に限定してもギルメン四十人のスキルを併用できるびっくり箱。パンドラズ・アクターのパンドラは女神の名でもあるが、その語源は神々からの贈り物、つまり総てのものの贈り物という意味があった。そのアクターだから、贈り物を駆使する演者。名は体を表すとはいったが、こうもはまるとは思ってもいなかった。
とはいえ、活路も見つかった。
原作の流れだ。そのためにぺロロンさんには事前に動いてもらって、内部から切り崩してもらうしかない。
合図も決めた。殺傷力も高く、中盤以降で使用してくると予想されるコンビネーション。これが発動したら、合図ということで細部を詰めたが、正直まにあうだろうか。
同時に他の意見もあるかもしれないということで、今日のことは内密にして明日は、知恵者を交えて会話することにした。
九月二日
三国の詳細報告を受けた。NPC達の行動力が怖すぎます。日記を見返して約一か月前に侵攻を指示して、結果を出すとかどんだけ迅速かつ効果的に仕掛けたんだよ。もちろん、王国の腐敗にしろ、帝国の圧政にしろ、ほころびがあったのはわかる。だからって的確かつ迅速すぎだよ。
それはさておき、アルベド、デミウルゴス、ペロロンさん、ウルベルトさん、ぶくぶく茶釜さんを呼んで食事がてらパンドラズ・アクター相談した。
もしやと思ってカマをかけたが、どうやら速攻でラインハルトは攻撃をしかけてくるようだ。仕込みの時間が無い。ぺロロンさんの切り崩しがうまくいくかが、勝負の分かれ目になりそうだ。
それとは別にNPCに対する面白い考察あった。設定の記述量で、設定に忠実になるか、それとも創造主の影響を受けるか分かれるというもの。その点、パンドラズ・アクターやアルベドは設定通り。設定記述が少ないアウラやセバスは創造主の影響を多分に受けていると予想される。実際設定を確認するとその仮説は案外正しいかもしれない。NPC人格分析の指針の一つになるだろう。
それにしても戦わないという選択肢か。
悪くはないとおもった。
でも、たぶんそれはできぬ相談なのだろうと逆に腹がくくれてしまった。
パンドラズ・アクターの設定を書いたのは自分であり、ゲームの獣殿をイメージした。もちろんイメージでしかなく、流出や形成はできない。でもソレらしくイメージしながら書いたのだから、戦いを戸惑うという理由こそありえない。
問題はなぜ戦うのだろうかということだ。原作の獣殿は「全てを愛している」→「しかし触れてしまえばみな壊れてしまう」→「ならば全てを破壊しよう。破壊し尽くした先に自分でも破壊できぬモノがあるかもしれない」という、ある意味サイコパス的な愛と闘争本能が合い混ぜになった根源である。
ではパンドラズ・アクターは?
メモ:復活後BARでみんなで食事
九月三日
ご立派様の報告が定期的に紛れ込んでくる。最初の一回は本当にミスだったのだろうが、今は確実に俺の反応を見るためにアルベドが紛れ込ませているのだろう。
さて、現状では先月妊娠した貴族男児について、まだ母体内だがDNA検査を実施し100%人間であるという結果か。またゴブリンなど早熟な種、アンデットとゴブリンによる異種族間での臨床がはじまり100%か。
ある意味すごいな。
男性側だけとはいえ不妊治療というリアル世界でもまだ解決しきれていない問題を解決してしまうとは。
「安全性を考慮すれば三代ほど様子見をすべし」と知見が書かれているが、これが私がアルベドに襲われるまでの猶予かもしれないな。
九月四日
カツ丼……うま……
薬膳・・・・・・かゆ・・・・・・うま・・・・・・
九月五日
アイテム整理を行おうと宝物殿に行ったら、パンドラズアクターがいたので話し込んでしまった。
子が親を越えようとするのは当たり前か。まさかそんな理由だとおもわなかった。パンドラズ・アクターの性格形成のうち95%は設定だが、残りの5%、ここに私が家族や仲間を求めていた要素が詰め込まれてしまったのだろうか。
だからこそ、戦わないという理由がないことがわかった。
しかし急ぐ理由とはなんなのか?
パンドラズ・アクターは回帰し幾つかのパターンを知っている
→この後、私またはパンドラズアクターが戦うことができなくなる
→戦うことで知らせたいことがある
→今回の周回で問題があり回帰を発生させる
→早期戦闘以外にもう未知がない
わからん。どれもソレらしい回答だけど、同時にコレじゃないとも感じる。
なによりもう一つのキーワード。私の真の渇望。まあ、これについてはこうやって書いてみてわかった。パンドラズ・アクターの5%に詰め込んだ思い。
家族や仲間を欲する事
たぶんこいつなんだろうな。でも、なぜこいつが戦うことに直結するんだ?
九月六日
やられた。
たしかにすぐに仕掛けてくるとおもったが、まさか昨日の今日で仕掛けてくるとは思わなかった。終わり方も予想外だったが、どうやらパンドラズ・アクターの思惑に乗れたようでよかった。
「モモンガの自殺因子」という設定が、「モモンガと戦闘開始すると、自分では止められない」という枷になっていたとはおもわなかった。あいつが納得? しなければ何度でも自殺まがいなことをしてやり直すつもりか? そうなると爪牙の奪い合いだけでは面白くもない。
さてどうしたものか。
この間のみんなとの会話ではないが、ヒロインとヒーローを別途用意するか? ヒーローは私の子供ってことだよな。アンデットに後継者作成ってむりだよな。じゃあヒロインはだれだ?
メモ
・グラズヘイムおよびスワスチカはパンドラズ・アクターが死亡してもそのまま残っている。ワールドアイテムの影響と考えられる。
・爪牙の呼び出しはできなかった。やはり起点はパンドラズ・アクターだろう。しかし未だ自分の内側に、爪牙とのつながりを感じているから、パンドラズ・アクターはある意味門なのだろう。
・玉座の間の復旧仕様はユグドラシル時代と同じ。金額も同じ。ただしゲームのように一瞬とはいかず再生に時間が若干かかるようだ。
・左腕はアルベドが回収していった。何に使うのだろう。
九月七日
パンドラズ・アクターと仲間達が無事復活できた。本当に良かった。もし失敗したら発狂していた自信がある。いや、パンドラズ・アクターの話を聞く限りでは発狂し、死を望んだのだろう。
細かい話は明日円卓でということで、今日だけは自由ということにした。外に出ても良いが他に迷惑をかけず、案内役を一人以上つけること。そして明日十時までに戻ることを条件に解散となった。
そんな中、たっちさんとタブラさんに話をした。
タブラさんには、アルベドの設定を勝手に改変してしまったことをどうしても謝りたかったからだ。しかしあっさり許してくれたが、責任は取るようにといわれた。アルベドが相手と考えるとそれはそれで悪くないと感じていたし、たしかに責任は取るべきだ。ただ「これがNTRの感覚。すばらしい」という小声は聞かなかったことにしよう。
続いてたっちさん。こっちは単純で家族のことだ。聞けば調べたいが、荒れた時期も実際にあったそうだが、一人より組織と考えられるぐらいに安定したそうだ。というより調査に協力することを条件にペロロンさんと私の策に乗ってくれたという。
現状についてグラズヘイム内でみんなで相談や検証した時、最終的に二つの可能性に集約したそうだ。
一.ゴーストダビングによる政府または企業の人格シミュレーション実験。
二.本当の意味での異世界転移。
一番可能性が高いのは一のパターン。この可能性が高い理由は、ギルメンの最後の記憶がそれぞれラストログインであること。加えて、二年ぶりぐらいにログインしたへろへろさんが、その間二年分のリアルの記憶だけほとんど思い出せないこと。ログイン時間が短かったため、ゴーストダビングが不完全だったのでは? という考察。実際、いくらブラック企業で時間感覚が怪しくなっているといっても、直近二年間より、ログインしていた三年前のほうが思い出せるというのは普通におかしい。この場合、リアルはピンピンしてるので問題ないだろう。むしろそうなら、これを機に全力で冒険というか人助けの旅に出たいそうだ。それなんて水戸黄門? またはロードスの自由騎士?
可能性は低い方が、本当の意味で異世界転移。この場合、リアルがどうなっているかわからない。なんせ自分の知識の向こう側の事象なのだから。しかし、その場合はこの世界独自の技術・情報を収集する必要がある。そう考えると、結構たいへんだろう。少なくとも過去の調査だけではなく、竜王などこの世界の力あるものと対話なり対立することとなるのだから。
どっちにしろ調査というのは賛成だ。それはこの世界において未知を探索する冒険にも等しい行動なのだから。
九月八日
久しぶりに埋まった円卓を前に感涙したのはしょうが無い。
仲間たちとの会話はすごく嬉しいものだったが、めんどくさいとも感じてしまった。もっともそのめんどくささも、ある意味喜びにつながっている時点で、自分も相当仲間に依存しているのだなと感じる。
みんなやりたいことも多いようだ。
例えばこの自然を保護しつつ楽しみたいという層。未知の冒険に繰り出したい層。
しばらくは地盤を安定させつつ、わかる範囲で情報を集め、ゆくゆくは調査兵団を派遣するかたちになるのかな。そのとき自分はどんな位置付けになっているのだろう。
でも、わくわくしているのは確かだ。
九月九日
プレイヤー不参加でイベントが行われたらしい。
パンドラズ・アクターの部下の女の子二人が説明に来た。プレイヤー復活記念に先月から給与代わりの配布しているポイントを使ったオークションを行うそうだ。ナザリック侵攻というマイナス印象を払拭し、さらにポイントの使い道を示すことで、労働意欲を向上させる目的か。
なるほど。たしかし面白い企画だ。
そこでパンドラズ・アクター編集 ナザリック侵攻 ディレクターズカット版の映像クリスタルと交換でいらない私物が欲しいとのこと。
そんなわけでいくつかいらないアイテムなどを渡した。
あとシーツや普段使いしていたペンなども指定されたので渡したが……価値があるのだろうか?
映像クリスタルはとりあえずぺロロンさんと見た。
お? 前日譚としてパンドラズ・アクターの王都上空での演説も入ってる。てかぺロロンさんかっこよすぎてワロタ。
ほんとうにプロローグのような演出になってナザリック侵攻へ。
戦闘シーンにBGMついてるし、無駄に手が込んでる。みんなの戦いも結構熾烈だったのだが、デミウルゴスの歓待は逆にらしいといえばらしいな。
ぺロロンさんのシャルティア告白シーンのBGMに吹いた。ぺロロンさん床を転げまわってたが、はたから見るとすごく様になってて悔しい。
逆に戦ってるときはノリノリで詠唱してたけど、今みると恥ずかしさのあまりに精神抑制が働きまくりだった。
そのあとDiesについて語りあかしてしまった。
九月十日
いつものご立派様報告書の続報が入っていた。
何々。モモンガ様のDNA採取に成功、試作品の完成。アルベド様に納品。
DNA? まさか……おや? だれか来たようだ
九月十一日
セバスに「昨夜はお楽しみでしたね」と言われ、気恥ずかしくなり逃げ出した。
ペロロンさんに「昨夜はお楽しみでしたね」と言われて、感情抑制よりも早く殴った。
タブラさんが「新しい価値観!」と叫んでいたが、なにも見ないことにした。
パンドラズ・アクターに「昨夜はお楽しみでしたね」と言われて、「お前のキャラ的にそれは言っちゃいかんだろ」と突っ込んだ。
まったく騒々しい毎日だ。