生前のサガからある依頼をうけたと、先客は言う。
偽りの教皇であったサガの依頼したこととは。
やがて始まった聖戦、ミロはサガの意志をくんで意外な行動をとることとなる。。
とある方とTwitter上でやりとりしている中で浮かんだストーリーです。ハーデス軍の「走狗」となって進軍するかつての黄金聖闘士達と、12宮を守る黄金聖闘士達。彼らの思いを繋ぐ何か、を一つの花に託してみました。
執筆中の作品に繋げる伏線を盛り込んだら、思った以上に長くなってしまいました。。
(この作品はPIXIVに投稿されているものと同じものです。ご了承ください)
※誤字報告ありがとうございました
○「聖域の墓地にて」
海皇ポセイドンとの闘いが聖域側の勝利に終わり、地上はつかの間の平和を迎えていた。ただ、108の魔星が活動を始めようとしていることは聖域ではすでに察知しており、聖域に残された5人の黄金聖闘士達も引き続き厳戒態勢にあった。
長く降り続いた雨もあがり久しぶりに広がった青空の下、生き残った聖闘士、蠍座スコーピオンのミロは聖域のはずれにある墓地を訪れていた。
神話の時代より聖戦を闘ってきた聖闘士達はみな、ここに眠っている。いや、眠っているとはいっても、肉体がここにある者はまだよいほうで、激しい闘いの末、葬る亡骸すら消滅していまった聖闘士も多い。
粗末な墓標は、残された者達の、今は亡き聖闘士たちへの思いを受け止めるためにある、といってもよいだろう。
墓地のなかでも、さらに端、草が深く生い茂ったあたりへと、ミロはやってきた。右手に花を手にして。
彼の前には5つの墓標がたっている。アフロディーテ、デスマスク、カミュ、シュラ、そしてサガ。聖域に戻ってきたアテナを迎え撃ち、聖戦を迎えることなく散っていった5人の墓標は、訪れる者も少ないせいか草に埋もれ、気をつけて探さなければ見落としてしまいそうな程である。
ミロはその中の一つ、彼の親友であったカミュの墓標の前にかがむと手にした薔薇をそっと手向けた。
「聖域を離れられなかったとはいえ、私達はまた、青銅の少年たちを闘いに赴かせてしまった。彼らは小宇宙を極限まで燃やしこの闘いでも奇跡を起こし、ポセイドンを封印することができたが、彼らもまた生死に関わるほどの深手を負ってしまった。」
「間もなく本当の聖戦が始まろうとしている。もう十分すぎるほどに闘ってきた彼らはにかわって、今度こそ私達が先頭にたって闘うときなのだ。おそらく私達は皆、お前のところに行くことになるだろう。ここに来るのも、今日が最後かも知れぬな」。
そう呟きながらミロがふと墓標をみやると、自分が手向けた花の他に、真紅の赤い薔薇が手向けられている。
双魚宮に咲く毒薔薇、ロイヤルデモンローズ。それにあまりにもそっくりな薔薇である。誰がこの花を?ミロは思わず身構えた。
「安心しなさい、ミロ。その薔薇には毒の香気はありません。」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには、白羊宮を守護する黄金聖闘士、牡羊座アリエスのムウが立っていた。いや、一人ではない。隣にはまだ幼さの残る少女も立っている。
「どうした、ムウ。貴鬼の他にまた弟子をとったのか?」
「いやいや、この娘は聖域の麓、ロドリオ村の花屋の娘。その薔薇もこの娘が手向けてくれたものなのですよ」。ムウは少女に目をやりながら優しく語りかけた。
少女は、美しくも圧倒的な存在感のある2人の男の迫力に気圧されて緊張していたが、おもむろに口を開いた。
「はい、私はロドリオ村で代々花屋を営む家の娘です。聖域に花を届けるたび、こうして聖闘士さん達のお墓にも花をお供えしているんです」
「なぜ貴方がそのようなことを?」ミロは怪訝な顔で問いかけた。
「私の家は代々の聖闘士さんたちと深いご縁がありました。特に、200年前の魚座の聖闘士さまとは深い縁があったようで。。前の聖戦で魚座の聖闘士さまが亡くなられたあと、私のご先祖は双魚宮に咲く薔薇を教皇さまから分けていただきました。たいへんな苦労をしながら品種改良を続け、美しさはそのままに毒の香気がない薔薇を生み出すことに成功したのです。それ以来、私の家では代々、闘いで命を落とされた聖闘士さんたちにこうしてこの薔薇を手向けているのです。」
「そうであったか。感謝、する。」 ミロは滅多に見せない精一杯の笑顔で、少女に感謝を表した。
「ところで。。」 ミロは付け加えるように口を開いた。
「隣にある双子座ジェミニのサガの墓に供えられている、白い花。薔薇とは明らかに違うようだが、それはなにかな?」
ミロは問いかけた。たしかに、サガの墓には、真紅の薔薇の他に、純白の花が一束、そなえられている。
「それは。。」言いにくそうに少女が口を開いた。
「前の教皇様にお花を届けにあがった時、実は教皇さまから内密にお願いされていたのです。「私はもう間もなくしたら、この世の者ではなくなるだろう。私が亡くなったら、私の墓にはこの花を供えて欲しい。」と。そうして、神様のように優しかったあの教皇さまから、この花。。白いカーネーションを頂いたのです」
「ほう、あのサガがそのようなことを言うとはな。」いつの間にかこの場に現れた黄金聖闘士、乙女座バルゴのシャカが、彼らの後ろから声をかけた。
「そうですね。このムウ、サガと過ごした日々は決して長くはありませんでしたが、サガに花を愛でる趣味があったとは知りませんでした。自分の死を予期したかのような願い、何か意味があるのかも知れません」。ムウがサガの意図に思いをめぐらす。
その時、花屋の少女が、ふと思い出したように語り始めた。「カーネーションといえば、ふつう赤い花を思い浮かべますよね。母の日にプレゼントされるものも赤いカーネーションです。ただ、場合によっては白いカーネーションが選ばれることもあるのです。そのわけは。。」
「なるほど、自分の運命を察していたサガの、せめてもの願い、ということだったのかもな。花屋の娘よ、サガの最後の頼み、申し訳ないがこれからもよろしく頼むな」。
双児宮に目をやりつつ、ミロは少女に語りかけた。
○「沙羅双樹の園」
ミロと少女の邂逅から数日後の夜、ついにハーデス軍が動き出した。
ハーデスはサガの乱で亡くなった聖闘士たちを死の眠りから解き放ち、永遠の命と引き替えにアテナを抹殺するよう唆した。
シオンはじめ甦った聖闘士達は、これを、アテナの聖衣をアテナに手渡す絶好の機会ととらえ、ハーデスの誘いに乗ったふりをして聖域に戻ってくることにしたのである。目的はどうあれ、アテナ側からみればこれは重大な叛逆である。たとえアテナ側が勝利を収めたとしても、自分達の行為は決して許されることはないであろう。暗闇の中、まるで人魂のように妖しく光る死界の蝶、フェアリーが舞うなか、彼らはその決意をそれぞれの胸に秘め、聖域へと突入を開始しようとしていた。
聖域に向かうかつての聖闘士たちの中には、偽りの教皇であったサガの姿もあった。墓の下から目覚め、懐かしい聖域を無言で見つめるサガの視線に、ロドリオ村の少女がたむけた白いカーネーションが映る。無言でそれを拾い上げ見つめているサガに、同じく自分の墓にたむけられていた真紅の薔薇を手にしたアフロディーテが声をかけた。
「どうした、サガ。生前のお前には花を愛でる心があったようには思えぬが。」。
「アテナにたむけるには、よい花であろう?」。頭上を舞う死界の蝶に一瞬だけ視線を向け、続いてアフロディーテの手にある薔薇を見つめながらサガが答える。
「それならば、私のロイヤルデモンローズでもよいであろうに。何か理由でも。。」アフロディーテはそう言いかけたところで、何かに気がついたように口をつぐんだ。
「そうだな、アテナにたむけるのなら、その純白の花こそふさわしいのかも知れぬ。なぁ、サガ。。」
何かを察してそう問いかけたアフロディーテを見つめるサガの視線が、ほんの一瞬だが和らいだように見えた。
冥界からの刺客は、十二宮の宮を次々に突破し、アテナの居る神殿を目指し突き進んだ。ムウはかつての師であるシオンを前にしてほとんど抵抗できず、牡牛座タウラスのアルデバランや獅子座レオのアイオリアとも直接拳を交えることなかったのは、彼らにとっても幸いなことであった。しかし、次の宮は乙女座バルゴのシャカ。彼らを監視しつつ十二宮に入り込んだ冥闘士達では相手になるわけがなく、衝突は必死だろう。成すべきことを成すためには、黄金聖闘士でありかつての友でもあるシャカを手に掛けることになるだろう。ここで倒されたり足止めされれば、アテナの聖衣の秘密を伝える願いもかなわなくなる。たとえどんな手を使ってもこの宮は突破しなくてはならない。彼らの心は深い慟哭できしみ始めていた。
自らを無慈悲であるとするシャカはしかし、彼らに対し決して本気で闘いを挑んでこない。監視役の冥闘士もことごとくシャカに討ち果たされた。シャカは、これでサガ達が監視の目から解放されたと思ったようである。
このままお互い傷つけ合わずに済めばどんなによいことだろう。しかしハーデスの監視の目はまだ決して解かれていないのだ。シャカを倒さねば、前には進めない。。。サガ達は、シャカに誘われるまま、処女宮のかたわら、彼の死地となるであろう沙羅双樹の園へと足を進めた。
いかに神に最も近い男、シャカとはいえ、かつての黄金聖闘士を道示に3人も敵に回すのはあまりにも無謀であった。互角のように見えて、確実にシャカは追い詰められている。
それにしても、この3人が本気でかかってくれば、たとえシャカといえどひとたまりも無いはずなのだ。彼らはまだ何か迷っている、そして彼らが何かを隠しているようにしか、シャカには思えないのだが、おそらく彼らがそれらを口にすることはないのだろう。かつて黄金聖闘士の中でも最強を誇ったこの3人。彼らが頑なに口を閉ざしている以上、並大抵のことでは彼らが隠し通そうとしている秘密を察することはできないだろう。
最後の切り札を使うしかない、シャカはそう判断した。
「天舞宝輪!」 シャカと3人を仏法の極地、曼荼羅の世界が包む。
黄金聖闘士の中でも最も神に近い男、シャカ。その彼、最大の奥義であり、攻防一体の究極の陣形、天舞宝輪。この技が発動されてしまえば、もう3人には抵抗する術は無い。シャカが絶対的に有利なこの状況を打破するために、彼らが取り得る手段はただ一つ。聖闘士が3人がかりで放つ古代の奥義、圧倒的な破壊力を持ちながらも、1体1の正々堂々とした闘いをよしとするアテナによって禁忌とされた技、「アテナ・エクスクラメーション」である。この技を躊躇なく放つのか、アテナの禁忌を破ることへの戸惑いをみせるのか。。彼らの本心はそこに垣間見えることだろう。
彼らの決断を促すように、シャカは容赦なく、確実に技を放った。
「第一感、剥奪!」
放たれた小宇宙の圧倒的な力により、3人はまるで嵐の中を舞う木の葉のように吹き飛ばされた。黒曜石のように美しく、圧倒的な強度を誇る彼らの冥衣も、天舞宝輪の威力の前にはなすすべもなく砕かれていく。沙羅双樹の園に舞う冥衣の無数の破片、その中に、ごくわずかだが、冥衣の破片とも、沙羅双樹の花びらとも明らかに異なるなにかを、シャカは見いだした。
それは白い花びら、であった。純白の持つ冷たさもなく、かといって他の色にそまらぬ美しい白。。シャカはその花びらに見覚えがあった。
そう、数日前に聖域の墓地で目にしたあの花、白いカーネーションの花びらだ。
シャカの脳裏に、サガの墓に手向けられたその花の姿が、そして花を手向けたロドリオ村の花屋の少女の言葉が改めて浮かぶ。。
サガは、復活したその場で白いその花を見つけ、激しい戦闘で散ることのないよう、冥衣の奥に深く隠したのだ。シャカは、その花に込められたサガの思いを、そして目の前に虫の息で横たわっている3人の思いを瞬時に理解した。これでもう思い残すことはない。彼らが何を成し遂げようとしているのか、そこまではわからないにせよ、シャカにはもうどうでもよいことであった。後は彼らがハーデスに疑われることのないよう、自分が手心を加えてわざと負けたと察知されないよう、周到にお膳立てをするだけであった。3人の決断を促すように、シャカは淡々と技を放ち、サガ・シュラ・カミュの5感を次々に絶っていく。5感のうちの4感までも絶たれた3人は、ついにアテナ禁忌の技を放った。
「アテナ・エクスクラメーション!」
沙羅双樹を残して焦土と化した園から、シャカの姿は消えた。アテナへの伝言を伝えるべく、沙羅双樹の花びらにメッセージを残すための幻影を残して。。
○「免罪のスカーレットニードル」
沙羅双樹の園から処女宮へ戻ってきた3人を待ち受けていたのは、ムウ、アイオリア、そして4人の青銅聖闘士であった。シャカを倒された。。6人は明らかに怒りに打ち震えていた。
一方、自分達は5感のうちの4感までをシャカに絶たれ、とても戦える状態ではない。まともにやりあえば今の自分達では勝ち目はないだろう。しかし、ここを突破しなくては、アテナの元にたどり着くことは出来ないのだ。
彼らとの闘いを回避できないことを悟ると、3人は彼らと向いあった。自分達の意図を探ろうとしているのかまだ冷静なムウとは対称的に、怒りに我を忘れたアイオリアは容赦なく向かってきた。処女宮を飛びかう、彼のライトニングプラズマの閃光! シャカの天舞宝輪によって大きなダメージを受けていた3人の冥衣は音を立てて軋んでいるが、それでもサガはなんとかライトニングプラズマの威力を受け止めた。余裕は全く無い。ただ、これ以上の深手を負うわけにいかない。サガはアイオリアの拳を見切ることに全力を尽くしていた。
ムウはまだ攻撃をしかけてこない。青銅聖闘士でありながら黄金聖闘士に匹敵する力を持つ4人もまた、アイオリアと自分達の闘いを見守っているようだ。もしかすると、このまま処女宮を突破できるかもしれない。。サガの心にかすかな光が見えたその時、その希望を打ち砕く声が響いた。
「お前達はここから一歩も先へは行かせぬ!」 それは、この先の天蠍宮を守護するミロの声であった。直情径行、そして闘争心と正義感の権化ともいえるミロ。アテナの意向すら、自分の信念の前には退けることすらあるミロの出現は、3人を絶望の淵に突き落とした。
怒りに震えるミロを止められる者は、この聖域には誰もいない。ミロの必殺技、スカーレットニードルが容赦なく3人に放たれる。ミロの指先が赤く輝いた瞬間、圧倒的な強度を持つはずの冥衣には針で突かれたような穴が空き、蠍の針に刺されたような激痛が3人を襲った。その衝撃に、ダメージの大きかった冥衣はさらに砕かれていく。サガの胸を守るプロテクターがなすすべもなく砕け散ったその時、胸に忍ばせていたカーネーションの白い花びらが処女宮に舞った。
闘いの場にはあまりにも不釣り合いに舞う白い花びら。それは冥衣の欠片とともに、処女宮の中に充満する小宇宙が作り出す嵐のような渦によって舞い散っている。それはミロの目にもはっきりと映った。
ミロの脳裏には、聖域の墓地での出来事が去来した。サガの墓石に手向けられた、白いカーネーションの花。ロドリオ村の花屋の娘の思い、そして生前のサガの思い。怒りに我を忘れていたミロは、花屋の娘が語っていた、白いカーネーションの意味を思い出していた。
カーネーション、特に赤いカーネーションは、自分の母、または母のように慕う人への感謝の気持ちが込められているという。しかし、想いを伝える相手がこの世にいるとは限らない。不幸にして相手がこの世を去っていたら。。そんな時、人は、赤いカーネーションではなく、純白のカーネーションを贈ってきたのだという。
命ある者から、すでに亡き者への想いをこめられた白いカーネーション。サガはなぜそのような花を娘に頼んでいたのか。世間から見ればアテナへの叛逆、しかしサガにはサガの正義、地上を冥界や他の神からの攻撃から守るためには力ある者が地上を統べねばならない、という正義があったはず。そんな彼がなぜ花を依頼したのか。まさか死後も誰かに弔ってもらうことを望んだとも思えない。墓地でのやりとりの際には、ミロはサガの意図をはかりかねていた。
そして、なぜサガが今、その花を懐に忍ばせていたのか。アテナの前で改心しつつ自害したはずのサガが。。改心したはずなのに、これからアテナの命を奪うと非情ににも宣言しているサガが、なぜ。。。
闘いのさなかであるにも関わらず、ミロの意識は、サガの周りを舞う花びらに向けられていた。
「ミロよ」サガが口を開く。
「闘いのさなかに、集中力を切らすとは。。私達も舐められたものだな。まさか、この花が気になっているのか?」
サガは、まだ宙を舞う花びらを見つめるミロに問いかける。
「これから地上を去ることになるアテナ、せめて花くらい手向けてやろうと思ってな」 息も絶え絶えになりながら、かすかな声でサガが呟いた。
花。。アテナ。。。
サガの言葉をきっかけに、ミロはどうしてもわからなかった疑問への答えを見いだした。
あの花はサガが自分自身のために依頼したものではない。アテナのために依頼していたのだ。
生けるものから死したものへの想い、生きているものからはそのような意味を持つ花、ではすでに死したものから見たら。。
この花は、死したものから生けるものへの想いが込められた花。サガからアテナへの敬愛、追慕の想いが込められた花なのだ。
この聖戦の直前にアテナに叛旗を翻したサガ。彼を支配する、善と悪の二つの人格のうち、花屋の娘に接していた善の人格は、いずれ自分が死という裁きを受けることを覚悟していたのだろう。
冥王ハーデスは、かつての聖戦においても、死した聖闘士を利用して聖域へと攻め込んできた。そうなればハーデスは必ず彼らをまた利用するに違いない。彼らが易々と冥王の駒となるつもりなどないはずだが、それでも彼らはこうして聖域に攻め込んできている。しかも、前教皇であるかつての聖戦を戦い抜いた牡羊座アリエスのシオン、そして自分とともに黄金聖闘士であったデスマスク、アフロディーテと共に。
端から見れば反逆者以外の何者でもない彼らである。聖域を守護する聖闘士たちは彼らを倒すべく全力で立ち向かわなくてはならない。ハーデス軍もまた、彼らがまた裏切ることがあれば容赦なく彼らを消滅させるべく、厳しい監視の目を向けていることだろう。聖闘士達に彼らの真意を伝えることも叶わない状況、そこまで生前から見抜いたうえで、サガは、自分達のアテナへの想いが変わらぬこと、そして自分達の潔白を証明するために、この花を少女に託したのだ。
サガはアテナに害をなすつもりは初めから無かったのだ。
だとすれば。。サガが自分達を欺いてまで、満身創痍になりながらもアテナのもとに向かおうとするのには必ず理由がある。それが何か、神でもないミロにはまだわからないが、もしかするとそれはこの聖戦の行方を左右する重大なものかもしれない。
サガを、シュラを、カミュをここで殺してはならない。。ミロは決意した。
ミロは再びスカーレットニードルの構えをとると、静かに小宇宙を高めていく。構えられた指が赤く光り、サガ達3人に向かって赤い閃光が走る。14発のスカーレットニードルをすでに受け、満身創痍のサガ達にそれを避けるのはほぼ不可能だろう。サガ達は目的を果たせなかったことを静かにアテナに詫びつつ、自分達に向かう赤い閃光を見つめていた。
次の瞬間、サガ達は自分の目を疑った。自分達の心臓を貫くはずのスカーレットニードルが、自分達から逸れたのだ。いや、逸れたのではない、それらは確実に目標を貫いた。宙を舞う白い花びら。。白いカーネーションの花びら全てを、スカーレットニードルの閃光が貫き、花びらは無数の白い光と赤い光となって、消滅した。
「お前達に放ったとどめのスカーレットニードル、アンタレスは、花びらが代わりに受け止めてくれたようだな。身代わりとなった花にせいぜい感謝するがよい。 行け」
ミロは、静かに3人を見つめつつ、呟いた。何が起こったのかわからず立ち尽くす、サガ・シュラ・カミュ。そして彼らを見守るムウ達もそれは同様であった。
「ミロ!気でも狂ったのか!こいつらはアテナに害をなそうとしているのだぞ!」アイオリアが怒鳴る。
「大丈夫だ、こいつらにはすでにアテナに害をなす力は残っていない。後生大事に彼らが持ってきた花を捧げるのが関の山だろう。」ミロがアイオリアに問いかける。
「それに、我らの前で彼らに何が出来るというのだ?」
それを聞いて、サガ達の真意を測りかねていたムウもまた、ミロの真意、そしてサガの持つ花の意味に気がついた。
「そうですよ、アイオリア。彼らをアテナのもとに連れて行き、アテナの前で申し開きの機会をあたえてもよいではありませんか、それでよろしいですね、アテナ?」
ムウはアテナ神殿から成り行きを見つめるアテナに問いかけた。
「もちろんですとも。ムウ。彼らをここに連れてきなさい。」
アテナは静かに黄金聖闘士達に命じた。アテナの命令とあらば、さすがのアイオリアも抗することはできない。すでに虫の息となっているサガ達を背負い、ミロ達はアテナ神殿へと足をむけた。
3人が決死の覚悟でアテナに届けようとしている何か、そして、サガの懐にわずかに残された、白いカーネーションをアテナのもとへ届けるために。。