高く孤独な道を往け   作:スパルヴィエロ大公

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僕は高校時代、職場見学で日本科学未来館に行ったっけなー。

……文系クラスの人間にまで行かせるとか、学校バカなの?死ぬの?



※本編とは関係な(ry


第三話 教室は、ある日突然悪魔の遊園地へと変貌する。

熱いストーブに手をかざすと一分が一時間ぐらいに感じるが、可愛い女性と一時間話していても一分程にしか感じない。それが相対性だ。

 

如何に俺が理系科目が苦手でも、アインシュタインのこの言葉ぐらいは知っている。

覚え方は簡単。ストーブが地獄、即ち平日。美人が極楽、即ち休日。

学校で一日過ごすのと、休日家でのんびり過ごすのとでは明らかに時間の流れが違うのだ。

一日は二十四時間と誰が言った?怒らないから正直に言ってごらん。

 

―――そんな訳で、来る前はあれほど待ちに待ったゴールデンウィークも、あっさりと終わってしまった。今日からしばらくは、またクソ面白くもない灰色の学校生活だ。

 

ちなみに連休中俺が何をしていたかと言えば、一人家でお留守番。小町と両親は家族旅行に伊豆へ行っていた。

別に置いていかれた訳ではなく、この歳になって家族旅行など面倒なので留守番役を買って出たのだ。

両親はあっさり了承、小町は出かける前日まで家事のいろはをみっちり教え込む条件でどうにか納得してくれた。

……俺、そこそこ家事経験あるからね?コンビニ弁当やインスタント食品で過ごすほど自堕落ではないのに。どうも小町は過保護すぎて困る。

 

「職場見学さー、どこ行くか決めた?」

 

「俺、ディスティニーランド行きたいんだけど。接客学びたいとか言えばイケるんじゃね?」

 

さて、クラスでは約二週間後の職場見学でまたまた盛り上がっていた。

千葉県内、お隣東京の中で行きたい職種を決定、三人組でそれぞれの職場にお邪魔するという体験学習だ。

 

……そう、俺の大嫌いな"グループ学習"である。

 

この手の授業では大抵、弱い立場の人間が損な役目を押し付けられるのが常だ。全員の分のレポートを代わりに書かされたりとかな。

じゃあぼっち同士が組めばいいかというと、それも違う。コミュ力がない連中でグループを編成すれば物事が進んでいかない。

最弱×最弱の解は最強にはならない。どちらにしても踏んだり蹴ったりなのである。

 

ふと、戸塚と同じグループを組めたら楽しくやれそうだな、と思ったりする。

だがあいつとまともに話したのは、あのテニス騒動の時以来一度もない。メアドやトークアプリのアカウントのやり取りもしていない。

俺には話しかける勇気などこれっぽちも持ち合わせていないし、戸塚は戸塚で新生テニス部の活動で日々忙しい。

つまり、既に俺と戸塚とは"ただの顔見知りのクラスメイト"でしかないという訳だ。今後それ以上に発展することは絶対ないだろう。

 

取り敢えず今は、あの葉山グループの連中とだけは同じ班にならないように祈るのみ。ただでさえ苦行なのに地獄と化すこと間違いない。

リア充といっしょ!とかやめてほしい、そんな番組あったら即座にボイコットしてやるまである。

 

兎に角あいつらの行きそうな場所は避けなければいけない。さて、俺の行くべき職場は―――

 

 

「おい、比企谷。この職場体験行先希望書の内容はなんだ?」

 

そして放課後。俺はまたまた平塚先生から呼び出しを受けた。

この人も懲りないな……俺が入室するまで煙草吸ってたの、臭いでバレバレだぞ。慌てて消しても遅いわい。

 

「特に問題があったとは思いませんけど……」

 

「もしそう思うなら、もう一度よく自分の目で確かめてみろ」

 

突き出された希望書を、言われた通り目を凝らして読む。

 

 

「行先:鳳凰堂書店

 

理由:本と本屋が好きだから」

 

 

シンプルイズベスト。しかし学校からの経路も印刷した地図を貼ってきちんと説明している。手を抜いたわけではない。

 

勿論書いた理由とは別に、日頃この本屋でラノベを購入しているからという理由もある。

何より駅前のモール内の本屋と違い、どちらかといえばマイナーで総武高の生徒もあまり訪れない。つまり葉山らリア充軍団と同じ班になる可能性はぐんと低くなる。

 

勿論そんなことを書けばこの担任が難癖をつけてくるに決まっているので、心の中に留めておいた。

では、一体全体何が問題だと言うのだろうか?

 

「まだ分からないのか?なら教えてやろう、まず学校から近過ぎる。

楽をしたいという理由で選んだな?正直に答えろ」

 

いいえ、同じクラスのリア充と一緒になりたくないからです。

……とは言わないが、にしても邪推が過ぎるぞ先生。

 

「遠ければいいってもんでもないでしょう。

それに学校からすれば、生徒がきちんと職場見学に行ったか監視できる利点もあります」

 

「では、この理由はなんだ?本と本屋が好き、こんな小学生並の理由で許可されると思ったか?

いや、小学生だってもう少しまともな理由を書くぞ。もう一度聞く、君は楽をしたいからここを選んだんだろう?」

 

何という誘導尋問。ハイとしか言わせない圧力。

こういうときだけ国語教師の力を発揮しないでほしいのだが。

 

「俺は純粋にそう思ったからそう書いたまでです。大体、みんな職業に興味を持つきっかけなんて似たようなもんでしょう。

飛行機が好きだからパイロット、おもちゃが好きだから玩具メーカー、ゲームが好きだからゲームセンター……」

 

「屁理屈をこねるのもいい加減にしろ。大人しく理由を白状―――」

 

「じゃあ、先生はなぜ教師に?子供が好きだから教師になったんじゃ?」

 

「今、私のことは関係ない!」

 

うわぁ。見事に話を逸らしやがった。これだから体育会系脳筋は困る。

 

教師である以上、この担任だって子供が嫌いということはないはずだ。

ただ、同じ子供でも素直で社交的でスポーツ好きの子供は好きで、逆に理屈っぽく内向的でインドア派の子供は嫌いなんだろう。

そして俺は後者のカテゴリーに属する、と。だからこうして先生に目を付けられ、下らない事でネチネチ言われなければならない訳だ。

 

嗚呼、やはり学校なんてクソ喰らえだ。何が社会を学ぶ、だ。

 

「……兎に角、先生の言うように不真面目な理由からじゃありません。だから変更するつもりもないです」

 

「そうはいかん。この職場を選んだのは君一人だけだ、書き直して再提出してもらう。

言っておくが、これはグループ学習だからな。一人で回りますなんて言い訳が通じると思うなよ」

 

はぁ、そうですか。本当に集団行動がお好きな事で。

……というか、最初から君一人しかいなかったから変更してもらえないかって言えば穏便に済んだんじゃないですかね?

そうしなかったのは結局俺がムカつく生徒だからか。

 

「……分かりました。来週までに書き直して再提出します」

 

「よし、ならさっさと下校したまえ。寄り道しないように」

 

もう面倒臭くなったので大人しく従っておくことにする。

つーか高校生で真っすぐお家に帰りましょうだなんて、誰が守ってると?小学生だって学校からの塾通いなんて当たり前だっつーの。

 

 

そして、瞬く間に次の週になる。

俺の見学先は本屋から近所の精肉店になった。相変わらず平塚先生は渋い顔を崩さなかったが、他に志望している生徒が二人いたのでどうにか通った。

 

「……」

 

「……何?」

 

で、これがメンバーである。

一人は佐藤という男子、丸眼鏡におかっぱのモブキャラ臭が半端ない奴だ。俺も人のことは言えんが。

そしてもう一人が川崎という女子。ポニーテールで割と美人なのだが、不機嫌そうで印象はあまりよろしくない。例によって俺も人のことは……。

つまりは、見事に余り者ばかりが集ってしまった訳だ。先行き不安でしかない。

リア充共と組むよりはまだマシだがな。

 

「あ、いや、その、これからよろしく」

 

「……」

 

「……それなら、名前くらい名乗ったら?」

 

ふぇぇ、みんなこわいよぅ……。佐藤は軽く会釈して自分の席へと戻ってしまい、川崎は冷淡な対応。つか俺の名前知らないのかよ……。

職場見学が終わるまでの辛抱と言い聞かせ耐える。さっさと来週の金曜日になってほしい。

 

と、言っても。

我がF組では別の懸念事項があった。主にリア充グループの連中の、見学班の編成が中々決まらないのだ。

 

要するに誰と一緒になれるかで、自分の立ち位置というのが決まってくるらしい。

特に葉山・三浦の二名は大人気である。何とか二人とお近づきになりたい奴、二人から引き剥がされまいとする奴。

雰囲気を見ているだけで一目瞭然。下手にカーストが高いのも考え物だな。

 

そして、ここ数日、クラスでは黒い噂も流れている。

葉山グループのメンバーの悪口が拡散されているというのだ。

メール、トークアプリ、裏サイト……。内容は昔万引きの常習犯だったとか暴力沙汰に加担してたとか、そんな感じらしい。

何故知ってるかって?皆ヒソヒソ話してるのを偶然聞いたんだよ、悪いか。

 

皆が問題にしているのは、悪口の内容そのものより、誰が言いだしたか。

そりゃ、いくら何でも総武高にそこまでの問題児がいるとは信じがたい。……傍から見りゃ三浦とか明らかにヤンキーっぽいけどな。

 

もっとも、本気で許せない、卑怯だなんて誰もが非難しているわけでもない。

誰が言いだしたか分かれば、そいつを排除できる。即ち、ライバルが一人減る。

皆がその機会を虎視眈々と窺っているように思えた。その所為でクラスの雰囲気は最悪。

常にギシギシと、教室の床のように音が鳴っている感じだ。

 

全く、嘆かわしい。たかがグループ学習の班に、気持ち悪いくらい拘りを持ちやがって。

 

「……はぁ。馬鹿みたい」

 

隣の川崎が、異常に小さい声でポツリと呟く。まあその気持ちは分かるぜ。

するといきなり俺の方へと視線を向けてくる。

 

「な、何だ?」

 

「ヒキガヤ、だっけ?あんたも馬鹿らしいって思ってんでしょ、この騒ぎ。顔に出てるよ」

 

「あ?いや、まぁ……」

 

確かにそうだ。でもそんなバレてたか?

いつもポーカーフェイスを貼り付けているつもりだったのに、女子は皆千里眼でも持っているのか。

つかお前、俺の名前知ってんじゃん。それでも敢えて社交辞令として名乗るべきだろって?それができたらぼっちは苦労しねぇよ。

 

じっと俺の顔を見つめてくるので、却って目を逸らしづらくなる。川崎はまだ何か話したいと言うのか?

なら、何か話題のタネは……。

 

「……その、川崎さんは何か知ってるのか?」

 

「何って」

 

「その、俺も噂の経緯をよく知らなくてな……」

 

誰にも聞かれていないことをその都度確認しながら、慎重に話す。聞かれたら俺たちが疑われる。

 

「あたしだってそこまでは知らない。ただ、悪口流されてるのは戸部と大和って奴の二人だってことだけ」

 

確か、常に葉山とくっついている取り巻きだ。そして、取り巻きには確かもう一人……。

 

「……あ」

 

犯人、と決まった訳ではない。だがこの事実が知れ渡った時、状況からしてそのように扱われるのは。

 

「……あたしから言い出しておいてなんだけど、答えが分かっても口に出すのはやめておきなよ」

 

「あ、ああ」

 

そう、恐ろしいくらいに分かってしまう。

 

この騒動の結末が、どんなものになるのか。

 

 

そして、二日後。

いつものように小町を送り、総武高へと到着、教室の扉を開けると。

 

 

「悪口チェーンメールの主犯、クラスのみんなを傷つけた裏切り者の大岡。土下座して謝罪しろ!」

 

 

黒板に赤いチョークで大きく書かれた文字。

教室の中央には、葉山の取り巻きの一人であった男子、大岡。猿のような人懐こいひょうきんな普段の態度とは裏腹に、顔面蒼白でその場からぴくりとも動かない。

そしてその大岡を、クラスの連中が遠巻きに眺める。いや、包囲していると言うべきか。

誰も大岡の肩を持とうとする奴はいないらしい。

 

当然だ。コイツが消えればその座を貰えると思っている奴がごまんといる。葉山グループの一員の座を。

 

「あんさぁ、大岡くんさぁ。ここに書かれてることってマジなん?……正直に言えよ」

 

「ち、違、俺」

 

「前から怪しいと思ってたんだよねー、いっつも人の顔色ばっか窺っててさぁ。……まさか本当にやるとは思わなかったけど」

 

「う、あ……」

 

おろおろとするばかりで、何一つまともに反論できない大岡。徐々に包囲の輪が狭まっていく。

 

そして数分後、葉山と三浦到着。

後ろには由比ヶ浜……と、黒髪ロングの人が。戸部に大和もいる。全員が一斉に目を剥いた。

 

暫く黙っていた葉山は、やがて大岡の方へ歩み出る。

その口から出た言葉には、普段のような明るさは欠片もなく。こいつも、鼻から大岡を疑ってるクチか。

 

「……大岡。これはどういうことか説明してくれないか」

 

「俺、おれは、その」

 

「……大岡。あんた、マジキモいんだけど。そこまでしてあーしらとくっつきたかった訳?

童貞。ベタベタ気色悪いんだっての」

 

更に、女王の痛烈な一言が追い打ちをかけ。

 

 

大岡は、壊れた。

 

 

「おれはぁぁぁぁぁ!!やってねぇ、やってねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」

 

突然奇声を上げ、周りの机と椅子を蹴り飛ばし振り回す。

慌てて葉山たちが取り押さえようとするが、既に遅かった。大岡は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、叫びながら教室を飛び出していく。

 

暫くして、教室ではまたヒソヒソ話が始まる。なんだあれ、動物園のサルみたい、頭おかしいんじゃないの。

 

「大岡くん……」

 

「……」

 

例外は、戸塚と川崎。前者は証拠もなく犯人扱いされた大岡に同情し悲しみ、後者は一連の騒動の不自然さに気づいている。

 

そう、どう考えたっておかしい。

もう最初から大岡を犯人に仕立て上げたいという思惑が働いている。

 

動機は分かる。では、それは一体誰が計画し実行したのか?

まさか、このクラスのほぼ全員が―――

 

バカ、このくらいで怖気づくな。散々学習したはずだぞ?学校とは、"こういう場所"なんだと。

 

「よし、全員席に着けー……おい、なんだ、この有様は」

 

教室に入るや否や、中の異変に呆然とする平塚先生。

……おい、なんで俺を睨む。いくら何でも逆恨みが過ぎるぞ。

その後改めて全員に着席を促し、黒板の文字を消す。嗚呼大切な証拠が……何やってんだ、この担任。

そして何事もなかったかのように、出席の確認が始まる。

 

 

翌日から、大岡が学校に来なくなったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 




終わりです。予告通りの胸糞エンドになりました。

感想欄で大岡が切られるのでは?と予想した方、正解です。てか何故分かった(;´∀`)

まあ、原作で彼を雪ノ下がどう評していたか。これを知っている方は多分お分かりいただけると思います。

なお、大岡はあくまで"犯人扱い"されただけであり、真犯人なのかは分かりません。
では、誰が真犯人なのか?


それも、分かることはありません。この物語では。
もうクラスの中では、大岡が犯人だと、決まってしまっているのですから……。


「死刑にしましょう。現場での目撃証言はあやふやだけど死刑にしましょう。
(中略)証拠も証言も関係ない。高級外車を乗り回し、ブランド服に身を包み、フカヒレやフォアグラを食べていたのだから死刑にしましょう。
それが「民意」だ。それが民主主義だ。
「民意」なら正しい。皆が賛成していることならすべて正しい。

(中略)

冗談じゃない!!本当の悪魔とは、巨大に膨れ上がったときの「民意」だよ」

(ドラマ『リーガル・ハイ』より)


現実には、古美門のようなカリスマは存在しないのだよね。





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