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僕たちは今、軍用馬車に乗り王都アンヴェラッハに向かっている。
さすが軍用馬車というべきか、乗り心地はあまりよくないがその進みは速い。
この馬車のおかげでかなり時間を短縮でき、助かったのは確かだが僕は素直に喜べなかった。
徒歩で王都に向かっていたはずの僕たちがどうして軍用馬車に乗れたのか。
それはフラングを出発してすぐのことだった。
僕たちは決意を新たに王都に向け街道を進んでいた。
すでに暗くなり始めていたが、起伏も少なくよく整備された平原の道であり見通しもいい。
ぎりぎりまで進もうというレオンさんの指示で日が暮れても進んでいた。
日が沈み、あたりが暗がりに包まれたころレオンさんとフーガさんが野営の準備を始めた。
僕は野営の経験などなくあたりを見渡していた。そして街道の先にたくさんの明かりを見つけた。
「レオンさん、あの明かりって何でしょう?」
レオンさんは野営の準備をしていたが手を止め僕と同じ方向を見る。
「あれは・・・野営だな、規模も大きいしきちんと統率も取れてる。もしかして騎士団か?」
騎士団?もしかしてフラングの救援に来ていた部隊だろうか。
「騎士団だと?何でこんなところに・・・」
いつの間にかフーガさんも準備を止め同じ方向を見ていた。
「もしかしたら敗走して後続を待っていたのかもしれません、一度合流してみるのはどうでしょう」
「そうだな・・・よし、野営は中止だ。とりあえずあそこに合流しよう。魔物の可能性もある、警戒は怠らないように」
レオンさんの指示の元、荷物を片付け歩き出した。
陣地に近づいてみれば正体はすぐに判明した。
魔物だったなんてことはなく、入り口に鎧を着た二人組みの兵士が立っていたのだから間違いはない。
入り口の兵士は無造作に近づいてきた僕たちに槍を構えた。
「ここは騎士団の野営地である!貴君らは何者か!」
「サザラント王国第一騎士団所属特殊兵装小隊隊長レオンです、この部隊はどこの者ですか?」
兵士は見事な動作で構えを解き敬礼で返してきた。
「失礼いたしました!シュバイン伯爵揮下、第三騎士団です!」
それを聞き皆一様に顔をしかめた。
「あの人か・・・」
「めんどくさい奴が出てきたな・・・」
「あらあら・・・」
「ブタ野郎・・・」
シュヴァインという人がどういう人かは知らないがみんなの反応はこの通りである。きっとあまり褒められた人ではないのだろう。
「皆様がご到着なされたと伝令を走らせます、申し訳ありませんがしばらくこちらでお待ちください!」
そう言って一人が中に走っていく。
貴族様か・・・皆があってる間僕はどうしようなどと考えているとフーガさんに肩を掴まれた。
「おいヨアン、これからブ・・・貴族に会いに行くわけだが何も喋るな、質問されても俺達でフォローするからごまかせ。下手に言質をとられるとものすごくめんどくさい」
そんなことを言ってくる。
「わかりました。商人の息子として、人付き合いで隙は見せられません!」
僕はいっそう気合を入れる。
しかし、いったいどれだけ嫌われてる人なんだろう、逆に興味がわいてくる。
「お待たせいたしました!伯爵自らお会いになるとのことです!ご案内いたします!」
走って戻ってきた兵士に連れられ陣地内を歩く。
「おかしいな・・・戦ったにしては装備が綺麗過ぎる」
「あれが指揮官だしな・・・嫌な予感がする。ヨアンまじで喋るなよ、何があってもこらえろ」
そんなに覚悟が必要なことなのかな・・・いったい何を言われるのか、まさか戦ってませんとかじゃないだろうし・・・
とにかく何を言われても大丈夫なように気を落ち着かせてよう。
すぐに一等豪華なテントが見えてくる。たぶん、ここにいるんだろう
「こちらが伯爵のテントです、少々お待ちください」
案内をしてくれた兵士が中に入っていった。
「リリア、大丈夫か?」
そんなことをレオンさんが言い出した。
何か問題でもあるのだろうか。
「大丈夫、それに私がいないとあの豚が何を言い出すか分からない」
そしてすぐに入れと偉そうな声が聞こえた。
「さぁ、行きましょう。ヨアン君は私の後ろに」
「黙っていればいい、私もフォローする」
「はい」
短く返事だけをして、レオンさんの後ろについて豪華なテントに入っていく。
レオンさんたちは入ってすぐにひざまずいた。それに習い僕もすぐに同じ体制をとる。
「第一騎士団所属特殊兵装小隊隊長レオンです、夜間にもかかわらず拝謁の栄を賜り恐悦至極にございます」
「ぐふ、面を上げぃ」
その声にレオンさんたちが顔を上げる、僕もあわててそれにあわせ正面にいる人を見た。
そこにいたのはあらゆるところが金や銀、宝石で装飾され成金趣味ここに極まれりと言わんばかりに存在を主張している服をまとった豚だった。
いや、豚呼ばわりは豚には失礼か・・・腕や足も拭くがはちきれそうなほど詰まりあごも見えない。それは偉そうに一目見て高価だと分かる椅子に座り欲にまみれた汚い目でリリアさんを見ていた。
「うむうむ。リリアは今日も可愛いのぉ」
リリアさんは顔を俯かせたまま小さくうなづいただけだった。
「それで、わしの側室になる決意は固まったかのぅ」
「ッ!」
リリアさんは鋭く肉塊をにらみつけるがすぐに顔を俯かせた。
「申し訳ありませんが、その話はまたの機会に。今現在の状況をご報告させていただきたいのですが」
レオンさんが立ち上がり一歩踏み出した。
「チッ!空気の読めん奴だ。まぁいい、報告せよ」
何だこいつ・・・目の前にいるだけで不快感が沸き立つ。
それからレオンさんがオラドゥールからフラングまでのことを報告していく。
その報告の間も、ねっとりとした不快な視線はずっとリリアさんを捕らえたままだった。
「以上が現状となっております」
いつの間にか報告は終わっていた。
「うむ」
レオンさんにわずかに視線を向け短くそれだけを吐く。
「それで、なぜ第三騎士団はここに駐屯しておられたのですか?」
レオンさんの問いかけに、信じられない言葉が返ってきた。
「ふん、一目見て多勢に無勢であったからな。すぐに引き後続を待っておったところよ」