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ガタゴト、ガタゴトと森の中の街道を馬車が走る
今日は天気がいい、とても良い陽気の中馬車は調子よく進んでいく。
「この調子なら予想より早くつきそうだなぁ」
僕は乗合馬車のなかでひとりごちる。
「おう坊主、お使いか?」
僕の隣、乗合馬車の最後尾に座っていた戦士さんが話しかけてきた。
鎧を着込み使い込まれた感じの剣を持っている。たぶん乗合馬車の傭兵さんだろう。
「はい、隣町まで届け物を」
僕が当たり前のように応えると傭兵さんは笑顔を浮かべた。
「子供一人で隣町までねぇ、この辺は本当に平和だよなぁ。俺は傭兵始めてから魔物なんて数えるほどしか見たことねぇし」
そう、町の外には魔物が出る。
魔物が出るといっても街道は定期的に兵士が巡回をしているし、馬車には必ず傭兵が乗っているから乗れさえすれば子供でも安全に移動できる。
「本当に平和ですよね。僕は一度も見たことがないし魔物なんか本当にいるんですかね・・・あぁ疑っているわけじゃないんですよ、噂では遠くの町が滅ぼされたとか聞きますし」
傭兵さんは少し苦い顔をしながら笑った。
「はは、坊主がそう思うのも仕方ない。俺だって自分が最前線で戦ってなければ疑ってたかもなぁ」
最前線・・・最前線!?
「傭兵さんって・・・もしかして騎士団の方なんですか!?」
僕は驚きを隠せない、騎士団は言わずと知れた超エリートだ。
「あぁ、元・・・だけどな。片目がやられちまってな、戦うのに大きな支障は無いんだが・・・なに遠くが見え辛いだけだ、元騎士団として剣の腕は確かだから安心してくれよ」
そんな話をしてると唐突に馬車が止まり前から声がかかった。
「おい傭兵、ちょっと前見てくれ。ありゃなんだ?」
傭兵さんはちょっと面倒くさそうにしながらもすぐにまじめな顔を作った。
「おう・・・だめだ、遠すぎてよく見えん。俺の目が悪いのは知ってんだろ?」
御者のおじさんも手でひさしを作り目を細めて遠くも見ている。
僕も後ろから見てみたがだめだ、よく見えない。
「まぁいいや、俺がちぃっと見てくるからここで待ってな。」
傭兵さんが馬車から降り前へ歩いていく。
ある程度歩いて、そして剣を抜き切り払った。
そのまま何事も無かったかのように歩いて戻ってきた。
「おう、どうだった?」
御者のおじさんが傭兵さんに尋ねるとニカッっと笑った。
「あぁ、魔物だったが下級のゴブリンだ。何も問題なかったよ。」
言いながら馬車に乗った。
「そうかい」
御者のおじさんは短くそれだけ言うとすばやく馬車を走らせた。
そのまま馬車が進み魔物の死体の側を通った時だった。
ヒュッと風を切る音が聞こえた気がした。
馬の悲鳴が聞こえすさまじい衝撃と共に唐突に視線が横にずれた。
いったい・・・何が・・・
ズリズリと、僕は馬車の中から這いずり出た
一体何が起きたのかはわからなかったが、馬車が横倒しになったのだけはわかった。
「いつつ・・・一体なんなんだよ」
「くっそいてぇ・・・何が起きた」
「なんなの?いきなり・・・」
とにかく周りを見ると何人か座り込んでいたり馬車から抜け出てくる人がいた。
ぱっと見た感じだと意識を失ったり大怪我をしている人はいないみたいだ。
ん?傭兵さんがいない?
「あの・・・だれか傭兵さんを見ませんでしたか?」
恰幅の良い・・・旦那さんの手当てをしていた奥さんが応えてくれた。
「さぁ、私は見てないけど」
ちょうど馬車から出てきたガタイのいいお兄さんが変わりに応えてくれた。
「あぁ、傭兵なら魔物がなんとか言いながら横の森に入って行ったよ」
まだ魔物がいたのか・・・
「まだまm・・・」
言いかけたところで横の森から叫ぶような声が聞こえてきた。
「全員走って逃げろ!中級の魔物だ!俺じゃ手に負えん!!」
その声と共に森から傭兵さんが飛び出してきた。
皆がきょとんとしてる中傭兵さんはすぐに続ける。
「いいから立て!走れ!この位置からならオラドゥールのほうが近い!」
ガタイのいいお兄さんが傭兵さんを見ながら顔を引きつらせていた。
「おいおい、中級の魔物って・・・嘘だろ、なんかの冗談か?」
その言葉に傭兵さんは顔を真っ赤にして怒った。
「冗談で言うわけがないだろ!いいかr・・・」
その怒鳴り声の途中で森からズシンと大きな音が聞こえた。
まるで地の底から響いてくるような・・・低い、地鳴りのような声だった。
「ニンゲン ウマイ クウ」
片言だが確かに人間の言葉を話した。
後ろで誰かが呟いた。
「知能がある・・・中級の魔物・・・」
なんで・・・こんなところにそんなのが・・・
「逃げろ!!」
傭兵さんが剣を構え怒鳴った。
その声を皮切りに皆叫び声をあげながら走り出した。
僕もすぐに皆に続いて走り出す。
走りながら手当てを受けていた恰幅のいいおじさんが叫んでいた。
「なんで・・・!何でこんなところに中級の魔物がいるんだ!!街道は・・・街道は騎士団が見回ってるはずだろ!!」
そんなのここにいる誰にもわかるはずが無い。中級の魔物なんて、それこそ遠くの・・・指定の危険地域にしかいないはずだ。こんな町の近くにいるはずが無い。
「なん・・・で・・・!なんで・・・!こんなことに!!」
僕もそんな愚痴を言いながら必死に走る、その横でまたあの風を切るような音が聞こえた。
「ヒグッ」
そんな音を残して、隣を走っていた恰幅の良い男性が倒れた。
「イヤァァァァ!!!あなたぁぁぁ!!!」
その男性の手当てをしていた女性が叫び足を止めた。
皆その声を聞いて驚き足を止めていた。
「バカ!足を止めるな、追いつかれるぞ!!」
ガタイのいい男性が女性の腕をつかんで走らせようとする。
「イヤ!はn・・・」
言いかけて女性の頭に矢が生えた。
「ヒッ!なん・・・なんだよ!」
僕は腰を抜かしへたり込んでしまった。
後ろからズシン、ズシンと音が聞こえてくる。傭兵さんはやられてしまったのだろうか・・・
「おい、さっさと逃げるぞ」
お兄さんが手を差し伸べてくる。
「あ・・・ごめんなさい、腰が・・・抜けて・・・」
僕は・・・立てない。ここで死んでしまうんだろうか・・・
ただのお使いだったはずなのに、危険なんて無い安全な旅だったはずなのに。
「チッ・・・仕方ねえか・・・」
お兄さんはそういうと僕に背を向けた。僕は見捨てられるんだろう、誰だって自分の命が一番大事なはずなんだから。
だが予想とは裏腹にお兄さんはその場でしゃがみこんだ。
「ほら、乗れ」
短くそう言うと顔だけこっちに向けてきた。
「でも・・・僕・・・」
「いいから乗れ!ガキの一人くらい担いでたって何もかわらねえよ」
お兄さんの背から見える横顔は笑顔だった。
「ありがとう・・・ございます」
僕はお兄さんの背にしがみついた。
後ろから聞こえる音はどんどんでかくなっている。
「急がないとやべぇな・・・しっかり捕まってろよ」
お兄さんの背に強くしがみついた。
「はい!ありがとうございます!」
お兄さんは僕を背負って、力強い足取りで走り出した。