-----
お兄さんはしばらく走っていた。
後ろから迫ってくる音がだんだん大きくなってきている。
「くっそ・・・足はえぇな・・・」
荒い息を吐きながらひとりごちる。
「ど・・・どうしよう・・・どうすれば・・・」
僕はお兄さんの背で考える。僕を捨てればお兄さんは助かるんじゃないか、そんな考えが脳裏をよぎる。だけど言葉にはしない、僕だって自分の命が大事なんだ。
「おい、いったん隠れてやり過ごすぞ」
隠れてやり過ごす?
「でも、前に行かれたら町までかなり遠くなっちゃうんじゃ・・・」
「いや、あいつ人間を食うって言ってたよな?俺らが見つからなかったら後ろの奴らを・・・その、食いに戻るんじゃないか?」
僕は僕なりに考える。
そうか・・・追っては来ているけどあいつ僕たちを食べるって言ってたんだよな・・・
それなら獲物が見つからなければ仕留めた獲物を取りに戻るだろう。
「それなら、そこに大きめの藪がありますしそこに隠れましょう。」
「あぁ、そうだな。そこなら二人くらい隠れられる」
大きい藪の中にお兄さんと身を潜める。
足音は近くから聞こえてくる。そろそろ僕らの視界に入ってくるだろうか?
唐突に、僕は後ろから肩を叩かれた。
後ろから・・・後ろからだって!?
「ヒッ・・・」
すぐにその手が僕の口を押さえる。
「バカ、坊主・・・俺だ」
後ろで誰かがつぶやいた。
この声・・・傭兵さん!?
「傭兵さん・・・生きてたんだ・・・」
ぼろぼろの姿で、苦い顔をした。
「なんとかな、生き残りは・・・三人だけか。よく無事だったな坊主」
お兄さんのほうを見ながら少し笑顔を浮かべる。
「はい、僕はお兄さんにおぶってもらってなんとか・・・」
「流石に子供を見捨てんのは寝覚めが悪ぃからな・・・それより、そろそろ来るぞ」
傭兵さんが合流して安心してしまった。まだ危機は去っていないんだった・・・
三人ともすぐにまじめな顔を作り藪の中からこっそり街道をのぞく。
少し手前、僕らを見失ったからなのかきょろきょろと周りを見回しながら巨体が歩いてくる。
僕は手を合わせ、きつく目を閉じ祈る。
どうか・・・どうか見つかりませんように・・・!
そのまま魔物は僕たちの前を通り過ぎ・・・足を止めた。
ばれた!?
僕は・・・死ぬの?
母の作ったご飯を食べて、父親の店を手伝って、たまにお使いに行って、ゆくゆくは店をついで商人になって・・・そんな日々が続くと思ってた・・・
イヤだ!死にたくない!!
そんな思考が僕の頭を満たしていた。
魔物はその場で辺りを見回し・・・戻ってきた。
もうだめなんだ。そんな諦めが沸いてきた。
そんな僕の絶望を知ってか知らずか・・・魔物は僕たちの前を通り過ぎそのまま歩いていってしまった。
ズシン、ズシンと足音を残しながら歩いて戻っていく。
たす・・・かった・・・?
そのまま足音が聞こえなくなるまで僕たちはずっと藪の中に潜んでいた。
しばらくして、僕たちは藪から抜け出した。
傭兵さんとお兄さんがかすかに笑顔を浮かべて話し始めた。
「助かったのか・・・」
「一度止まった時・・・ばれたかと思ったぜ」
僕は未だ緊張しているのか、体が強張ったまま動けないでいた。
そんな様子を見て傭兵さんが優しく話しかけてくる。
「坊主、運が良かったなぁ!俺たちは助かった!」
その言葉にようやく僕は体の緊張が解けた。
「それに、走ったおかげか隣町・・・オラドゥールまですぐ近くだ」
そうか、そんなに走ってたのか。
魔物はもと来た道を戻り、町までもすぐ近く。僕にも希望が戻ってきた気がする。
「魔物がいる森で野宿なんてごめんだ、さっさと町まで行こう!」
お兄さんがそんな事を言い、僕たちは生き残ったことに感謝しながら次の町に向かった。