超機大戦SRXの二次創作もの。かつてエアロゲイターに精神操作を受け、ジュデッカを駆り地球の敵であった少女「レビ=トーラー」。現在、大戦は終結し、エアロゲイターより解放された彼女は地球連邦軍の保護下にいた。罪悪感から毎夜のように悪夢を見、居場所のない病院……自分だけが助けられて本当によかったのか…そう苦悩する日々が続いていた。そんな彼女をよく見舞にきてくれる彼。そんな彼と病院から外出したある日の出来事です

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マリオネットメサイア ~彼と、星の降る丘で~

 

 私には好きな人がいます。

 

 彼は、どうしようもないくらいのロボットマニアです。

 三度の飯よりも好きで、死んだら墓前には、線香ではなく超合金のロボットフィギアを飾ってくれと言うぐらいの、救いようのないロボットマニアです。

 でも私は彼のことが好き……いや、好きなんだと思う。

 どうしようもなくバカで……

 どうしようもなく間抜けで……

 どうしようもなくお調子者な彼……。

 それでいて、たまらなく優しくて、ほんのちょっとだけカッコイイ彼のことが、私は好きなんだと思う。

 この話は、私が病院に来て、彼と出会ったばかりの頃のお話。

 彼と、初めて、星の降る丘に行った時のお話し……

 

 

マリオネットメサイア ~彼と、星の降る丘で~

 

 

 ……私はよく悪夢を見る……

 しかし、私の場合にこの、よく、という表現は正しくない。正確には、私が目を閉じれば、いつもそこにあるのは悪夢で、私は眠ると必ず悪夢を見るということだ。ほんの数分のまどろみでも悪夢は私を見逃してはくれない。

 でも、病院というのは退屈な所で、日がな一日ベットに横になっていれば寝るなというも方が無理な話であり、私はその度に悪夢にうなされる。

 担当医や看護師たちは、寝ることは体に必要なことだと言うけれど、私は眠りたくない。眠ると必ず悪夢が私を待っているから。

 けれども、やっぱり病院という環境は私を眠りに誘い込む。点滴や薬の睡眠作用も手伝い、気づくと眠っていたといこともしばしばで、次に目を開けたときには決まって自分の病室の天井が目に入るのだ。

 夢の中での私は髪が長い。でも桃色のそれは作り物で、現実の私の髪の毛は肩にもかからない程度のショートだ。夢の中でのその長髪は、ジュデッカという名の牢獄に私を縛り付けておくための鎖なんだ。

 額には菱形のタトゥーが浮き上がり、唇にはなめらかなルージュ。

 ‘私’は冷たい微笑みを浮かべながら、ジュデッカと共に出撃する。

 地球側でバグスと呼ばれている無人兵器を引きつれ、その蛇のような機体で宇宙を駆ける。

 そして ─── 地球に降りる。

 眼下には街

 逃げ惑う人々

 悲鳴

 ジュデッカから放たれる閃光

 全てが無に帰す。

 たくさんたくさん、人が死んだ。

 たくさんたくさん、‘私’が殺した。

 本当の私は、やめて、とジュデッカを操る‘私’に泣きすがる。

 でも、‘私’は私の声を聴いてくることはなく、ジュデッカの命じるままにジュデッカを動かし続ける。ずっと冷笑を浮かべたままの自分から、私はいつも目をそむけるのだ。

 これが、悪夢。

 でも、悪夢はまだ終わらない。むしろここからが本番といえる……。

 私が自分から目をそむけた瞬間、見計らったように場面が変わる。

 私が顔を上げると、見たこともない見知らぬ場所で、これまた見ず知らずの人々が、少し距離を置いて私をグルリと取り囲んでいる。

 人数は……分からない。けどその人たちの目は悲しみに染まっていて、私が見ることのできない場所からも同質の念がたくさん感じ取れる。それは全部私に向いていて、まただ……と、どうしようもない罪の意識が込み上げてくる。

 一人の人が口を開いた。

 

「お前のせいだ」

 

 重くて、痛い呪文が唱えられる。

 その言葉を皮切りに、まるで湖に投げ入れた小石が立てる波紋のように、その呪文は広がっていく。

 

 ── 「お父さんを返して」 「お母さんを返して」 「お兄ちゃん何処にいっちゃったの?」 「お婆ちゃんを何処にやった!」 「私の恋人を返してください…」 「俺の弟を…!」 「お前が殺した!」 「白い十字架め!」 「アンタさえいなけりゃ!」 「皆死なずにすんだんだ!」 「殺してやる!」 「消えろ!」 「失せろ化け物!」 「死んじゃえばいいのに」 「!死んでしまえ!」 「死ね!」 「死ねよ!」 「死ね!」 「死ね!」 「死ね!」 「死ね!」 「死ね!」

 

 

  ── シネ ──

 

 

 悲しみ ── 怒り ── 憎しみ ── 殺意

 

 涙 ── 罵声 ── 暴力 ── 蹂躙

 

 そして、私は、何十本もの手に弄ばれる。

 殴られ、蹴られ、切り付けられ……でも、不思議と体は痛くなかった。

 悪夢と言っても夢だから、体に痛みを感じることはないのだろう。

 でも、心が痛かった。

 私が死ぬことでこの人たちが満足するなら、それでもいいと思った。

 それが……当然の報いだから。

 ── そして

 いつも、私の体がバラバラになる頃、私は夢から目を覚ます……。

 

 いつも、病院のベットで私は目覚める。

 病院のベットで眠っていた体は汗だくで、頬には何かが流れた跡で肌がガビガビになっていた。

 湿気が不快感をもよおすパジャマを脱ぎ捨て、新しいパジャマを着る。私服がない私にとって、患者用のパジャマだけは着ることが許された唯一の服だ。好き、ではない。長袖のそれは、私にとって肌を隠すためだけの布でしかないのだ。

 私は空の見える屋上へと足を運んだ。

 私が入院させられた病院は、戦争で怪我をした軍人たちのみを対象とした軍人病院だった。

 新西暦、地球は未曾有の窮地に立たされている。エアロゲイターと呼称される謎の異星人の襲撃。それに対し、地球側もEOT(エクストラ・オーバー・テクノロジー)と人型機動兵器PT(パーソナルトルーパー)で対抗。前代未聞の地球外知的生命体との戦争が勃発し、今も続いていた。

 ここは、その戦闘で負傷した軍人たちが運び込まれる病院。はっきり言って、私は鼻つまみ者だ。

 そんな病院の屋上にある、ベンチが私の指定席。ほとんど人が来ることはないに隠れ煙草を吸いに来る人が稀にいるぐらいだ。

 ちょっとした階段を上がり、金属製の扉に手をかけて押す。ギィィと扉が開き、その先には雲ひとつない青空が広がっていた。

 私は空が好きだ。特に、雲ひとつない快晴、いわゆる日本晴れというのはもっと好きだ。

 ベンチに座って空を眺める。

 秋が終わりに近づいているから、パジャマ一枚では少し肌寒いが、私はそれほど重症患者じゃないからどうという事はない。私に言わせれてもらえば、ここは三食ベット付き、監視カメラ付きの‘病院’という名の牢獄なのだ。

 DNA鑑定上は地球人らしい(詳しくは聞かされていない)が、私は元々エアロゲイター側の人間なのだから、この扱いは当然といえば当然だと思う。

 私は、洗脳されていたとはいえ、たくさんの人を殺しすぎた。そんな私を受け入れてくれたことに感謝するべきなのだろうけど、余計なことをしてくれたものだ、と感じることの方が正直多い。

 あんな悪夢にうなされるぐらいなら、あのとき殺されていた方がよかったのかもしれない、とすら思う。たくさん命を奪った私に 「生きたい」 なんて言う権利ないんじゃないだろうか……なんて哲学的なことを考えたりするようになったのも、あの時死なずに、今、生きているからだろう。なんかややこしい。

 頭上に広がる空に吸い込まれそうになる。

 空は私の全てを吸い尽くしてくれるような気がする。

 私には記憶がない。両親の顔も、兄弟がいたのかも覚えていない。

 覚えているのはジュデッカのコックピットと人々の悲鳴、そして不気味な仮面。

 ジュデッカの呪縛からは逃れられたけど、今はこの病院に縛られている。私が知っている外の世界は、この屋上から見える景色だけだ。

 ギィィ、バタンッ。

 扉が開いて閉まる音がした。誰かが屋上に来たんだ。

 

「よう、レビ! もう出歩いていいのか!」

 

 レビ。それは私の名前だ。私が覚えている数少ないことで、仮面の男が私に授けた名前。

 名前を呼んだ男の人を振り返る。

 

「リュウセイ、また来たのか?」

「なんだよ、その言い草。レビ、俺のこと嫌いなのかー?」

「いや、別に、嫌いというわけでは……」

 

 ブーブー言いながらもその若い男の人は、私が座っているベンチに隣り合わせに腰掛けた。

 彼の名前はリュウセイ=ダテ、軍人で階級は‘たぶん’少尉。私なんかを訪ねてくる、数少ない人物だ。他に私に会いに来てくれる物好きは二人いて、ライって金髪の人と、アヤっていう女の人。特にアヤは、私に昔亡くした妹の影を重ねているようで、身の回りの世話とかをしてくれていたりする。

 でもリュウセイはほぼ毎朝私に会いに来てくれる。なんでも、ジュデッカから私を取り出した地球側のエースパイロットらしい。私とも何度か戦ったことがあるらしいが、うろ覚えだ。

 それよりも、私にとって違和感を隠せないのが、彼が‘エースパイロット’という点である。どうも、そうは見えない。

 だって ──

 

「なあレビ。俺、今日は、お前にお見舞いの品持って来たぜ!」

「なに?」

「ジャーーんっ! 超合金ガ○キングフィギア1/144!!」

「いらない」

「ガァーーン!!」

 

 いつもこんな感じなんだもの。

 信じろというほうが無理(断言)。

 彼は、どうしようもないくらいのロボットマニアだ。

 三度の飯よりも好きで、死んだら墓前には、線香ではなく超合金のロボットフィギアを飾ってくれと言うぐらいの、救いようのないロボットマニアなんだ。

 私にはよくわからない。

 アニメにしろ現実にしろ、ロボットなんて所詮人殺しの道具なのに……。実際に乗っていた分、それがよく分かる。なのに彼は好きという。

 どうしてか、以前に訊いてみたことがある。

 

「スーパーロボットは男の永遠のロマンだぜ!」

 

 これが答えだ。

 男のロマンか……じゃあ、女の私には理解できないんだろうな。永遠のロマン……一千年後までロマンなのか、私には疑問だ。

 でも、ロボットについて語るときのリュウセイの目は輝いている。瞳に星が流れているように、彼は名前の通りリュウセイのように輝いている(ロボット話時)。私はその夢を見る少年のような瞳が好きなんだ。

 しかし、私に夢を見る権利も、語る権利もない。

 だって、たくさんの人の命と夢を奪いすぎてしまったから。

 

「じゃあこれはどうだ! 超合金マジン○ーZフィギア1/144!!」

「……そんなもの何処で手に入れてるんだ……?」

 

 私の気持ちを知って知らずか(たぶん知らない)、リュウセイは別の黒いロボットの箱を袋から取り出した。

 純粋に気になることを私が訊くと、リュウセイのにやけた顔で返答してくれた。

 

「へへー、気になる? レビもやっぱ気になる? 俺の入手ルートのこと」

「まあ、一応……いつも持ってくるし」

「じゃあ、いつか俺の行きつけ店に連れてってやるよ! ただし、先生の外出許可が下りたらな!」

「ふふ……期待しないで待ってる」

 

 外出許可なんて無理に決まってる。入院なんて表現しているが、実質は監視もいいとこだ。私を外に出すなんて真似するはずがない。

 

「おっ、レビが笑った」

 

 彼の声で自分が笑っていること気がついた。

 笑い方なんてとっくの昔に忘れたと思ってた。あの冷笑以外は。

 リュウセイたちと一緒にいると心が落ち着く、自然に笑える。

 でも、私にそんな権利あるのかな? そう自分に訊いてみる。

 そういえばアヤはリュウセイのことを、リュウ、って呼んでるっけ。

 いつか私も、彼をリュウと呼べるのかな?

 私とリュウセイのいる病院の近くの軍事基地が、やけに遠く見えた。

 

 

……こうして、私たちの時間は過ぎていった……

 

……私はまだ、よく、悪夢を見る……

 

……それは人並みの、よく、であり、前のような、よく、じゃない……

 

……でも、見ることが少なくなったのは確かなんだ……

 

……これもリュウセイたちのおかげだと思う……

 

……そんなある日……

 

 

「レビ! 先生の許可が下りたぞ! 今日だけなら、外出してきてもいいってよ!」

 

 私がいつものように屋上の指定席で空を見上げていると、屋上に駆け上がってきたリュウセイが声高に言った。

 

「だからぁ、外に出てもいいんだって! 今日だけだけど」

「ほ、本当か、それ?」

 

 担当医が外出許可をくれた、そのリュウセイの言葉を私はにわかに信じることができなかった。

 だって、ここは病院の名を借りた牢獄。囚人を外に出したりするそれがあるだろうか。

 確かに最近は少し監視の目も軽くなったような気もするが、それは関係あるのだろうか。

 もしかすると、リュウセイが担当医に無理を言って頼み込んだのかもしれない。でもリュウセイに説得なんて見合わないな。代わりににライがしてくれたのかも。それであの頑固な担当医が折れた。

 リュウセイは私の手を握った。

 

「さあ、行こうぜ!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 手を引いて、すぐにも走り出しそうなリュウセイに私はストップをかけた。

 

「あ、あの……私、外用の服がないんだ……」

「ああ、そうか。そういえばそうだな」

 

 私にはパジャマ以外の服がない。それも全部病院で支給されたものだ。

 ジュデッカから解放されて、そのときに来ていた服はボロボロになってたから捨てられたらしい。というのは恐らく嘘で、あの服も資料として没収されたのだろう。そして、私の手元には服の一枚も残ってはいない。

 服を持っていない少女。

 私は、無性に自分が情けなくなった。私はまだ子供で、自分で働いて服を買えないことを恥じる必要はないのだろうけど、リュウセイに誘われて、服がないから行かないなんて……羞恥心で顔が真っ赤になるのを感じた。

 でも、リュウセイは笑顔を私に向けた。

 

「ま、いいじゃんいいじゃん。服なんてアヤに借りようぜ! レッツゴウッッ!!」

「え!? ちょ、ちょっと……!」

 

 私はリュウセイに手を引かれて病院を出た。

 パジャマのままで基地内にあるアヤの自室に向かうのは、とても恥ずかしかった。

 でも、初めて外の世界が見れる。

 今まで何かに縛られていないことはなかった。昔はジュデッカに、今は病院に束縛されている。

 けど、それをリュウセイが断ち切ってくれ、私を外の世界に連れ出してくれる。外の世界はどんなのだろうか。いつも、空を眺めながら考えていたことに胸が膨らむ。

 子供っぽいと思っていた彼の手は、意外にも大きかった……

 

 ……幸いなことにアヤの部屋には私に合う服が一杯あった。

 彼女が小さい頃、まだ私ぐらいの年頃の時に来ていたという洋服がきちんと大事に保管されていたからだ。なんでも、物持ちはいいほうらしい。

 でもずっと洗ってないのだから汚れているのではないかと指摘すると 「大丈夫、定期的に洗ってるから、それに昨日洗ったばかりなのよ」 と意味ありげに笑っていた。彼女は私を着せ替え人形みたいに着せては替え、着せては替えを繰り返した。あ、リュウセイはもちろん外だぞ。

 小一時間ほど経過して、外に出てみる。

 待ちくだびれたリュウセイが廊下で寝ていた、ガーガーいびきを立てながら。その横では、ライが文庫本を読んでいた。

 私の用意ができたことに気がついたライがリュウセイの肩をゆすって起こそうとする。

 だが、中々起きない。ライはその端正な眉間に皺が寄ったかと思うと、次の瞬間にはリュウセイの脳天に手刀を叩き込んでいた。

 あまりの激痛にリュウセイは覚醒し、「おぎゃあああぁぁあっっ!!」とか絶叫しながら、廊下をゴロゴロ転げまわった。ちなみに手刀は義手(ライディウス合金製:リュウセイ談)の方だった。

 この二人はいつもこんな感じ。

 リュウセイがボケで、ライが突っ込み。ジグソーのピースみたいに繋げるとぴったりと当てはまる。そんないいコンビだ。喧嘩をよくしているのは仲のよい証拠なんだろう。ちょっとだけ羨ましい。

 無視を決め込むライにひとしきり文句を垂れた後、リュウセイは私に話しかけてきた。

 

「よっしゃ! じゃ、行こうぜィ!」

「うんっ」

 

 門を出るとき、私達をアヤが手を振りながら見送ってくれた。ライは窓越しにこちらを見て少しだけ笑っていた。

 兄弟みたいだな、と思った。

 アヤが優しいお姉ちゃんで、ライとリュウセイは無愛想と間抜けな兄、私が少し歳の離れた妹……それが私のイメージ。あながち間違いでもないような気がするけど、こんなこと考えているのはきっと私だけなんだろう。

 そして、私とリュウセイは近くの街へと繰り出した。

 余談だが、彼も私服だった。コン○トラーVというアニメロボットがプリントされたシャツを着ていて、一緒に歩くのが少し恥ずかしかったのは私だけの秘密だ。

 

 

 

 初めての街は、病院と比べ物にならないくらい賑やかだった。

 むせ返るぐらいの人、人、人。あまり人前に出ない私はすぎに人の波に酔いそうになる。

 たくさんの人垣を掻き分けながら歩いたのは、私には初めての経験だった。

 初めにリュウセイは私を映画館に連れて行ってくれた。

 あんなに巨大なスクリーンを前にした経験も、私の人生にはなかった。私の見たことのある画面といえばせいぜい病院の娯楽室にある、お世辞にも大きいとは言えないテレビぐらい。それも、病院にも娯楽が少ないから入院している軍人が群れていて、見ることなんて叶わない。

 映画の中の主人公は躍動し、友と共に悪をなぎ倒して行く。

 楽しかった。映画の内容が「マジン○ーZ対デビ○マン 空中大決戦」なんて、アニメーションだったけど、初めての映画はとても楽しかった。

 映画館を出て次に入ったのは喫茶店。

 店内を見回すと、さっきの映画の主人公のような格好をしている中年や、猫耳のヘアバンドをつけたお姉さん、ロボットみたいな着ぐるみの人でいっぱいだった。

 変な客層だな、とリュウセイに訊くと彼は、コスプレ喫茶だからな、と答えた。

 コスプレ? なんだろうそれは?

 記憶を失っている私には知らない世界がたくさんある。

 コスプレ喫茶と呼ばれたこの場所も、初めての私には奇妙な世界に見えた。

 けど、私も地球人らしいから、エアロゲイターに連れて行かれる前に、この世界の住民だった可能性もなくはないわけで……でも、首を横に振ってその考えは否定する。可能性はある。しかし、ない、とあえて断言したいわけで……。

 でも、そこで食べたパッフェは甘くて美味しくて、病院の質素な食事からは考えられない甘さ、これが食べれるのなら、この世界もあながち悪くはないな、と食べ物で心揺らぐ私がいるわけで……。

 そんなわけで……私たちはそこに結構長居をした。

 昼食もそこで済ませて、私たちは店をあとにした。

 相変わらず街は人で埋め尽くされていた。

 けれども、目が覚めるようなの大きな声が、どこか店から、外に出ると同時に聞こえてきた。

 

「只今よりタイムサービス!! 超合金ロボットフィギア、全品80%オフ!! さあ、寄っといで!!」

「80%オフッ!? マジで!!」

 

 当然、リュウセイはそれに反応しちゃうわけで……。

 あ、その店に走ってちゃった。店の前には太い男の人たちが行列になっていた。

 あの中に入られると、リュウセイを見つけるのはちょっと無理だな……そう思ったそのとき、彼が急に私を振り返った。どうやら、私がいることを思い出したらしい。

 

「行ってきていいぞ。私は、ここで待っているから」

「サンキュー! 悪いなレビ! ほんの少しだけ待っててくれ!」

 

 彼は列の中に飛び込んでいった、あっという間に姿が見えなくなる。

 でも、「これは俺んだあぁー! とか「あ、あれは、超レアのゲッ○ーロボ!?」とか聞こえてるから、あの中にいるな、ということはすぐに分かる。私は人ごみの中で彼を待つことにした。

 

……五分経過……

 

……十分経過……

 

 随分待ったけど彼は戻ってこなかった。

 好きなことをしていると時間が過ぎるのを忘れるというが、今の彼がきっとそれなんだろう。20%の値段のロボットフィギアたちに目移りしすぎて迷っているのか、彼のことだから手当たり次第に取りすぎて料金計算で時間を食っているのかのどちらかだと思う。

 彼が私を街に連れてきてくれたのだから、少しぐらい彼のわがままを許してあげなくちゃ。

 けれど、初めての街で独りになるというのは心細かった。

 独りで誰も自分を見てくれないという感覚は、あのジュデッカの中を少し思い出させる。

 あの中には何もなかった。

 あるとすれば、孤独と束縛。

 そして、‘私’はいつも笑っていた、人の死を楽しむように。

 気が重くなって、うついてしまう私。

 その私の肩を誰かが叩いた。

 リュウセイが帰ってきたと面を上げるが、そこに立っていたのは見ず知らずの男性だった。

 

「お嬢ちゃん。こんなところに一人でどうしたんでゲスか?」

 

 その醜悪なにきび面のその男は、鼻息を荒げて私に近づいてくる。微妙に頬を紅潮させたそいつに見覚えは私にはなかった。

 

「誰?」

「迷子でゲスか? お兄ちゃんと一緒に遊ばないでゲスか?」

「だから、誰?」

 

 語尾がゲスな下衆だ。

 何なんだろうこの人は。

 二度、きつめに訊いてやると気分を損ねたらしく、そいつは私の手を乱暴に握ってきた。ヌルヌルと脂ぎっていた。

 

「や、やめろ! 離せ!」

「五月蝿いでゲス。何も言わずについてくるでゲス」

 

 脂、ギトギト、気持ち悪い。私は、鳥肌がたってしまうほどそいつに嫌悪感を抱いていた。

 でも、それ以上に私は怖かった。そいつが私をどうするつもりなのかと、恐怖を覚えた。

 何処かに連れて行かれるのだろうか。いつかもそんなことがあったような気がする。戻らない記憶がフラッシュバックし、そいつ顔があの男の仮面にダブっていた。

 ──逃げろ! 帰れなくなるぞ!──

 取り戻せない記憶がそう告げた時、反射的に、私はそいつに歯を立てていた。

 ガリッ。そんな音が聞こえた気がした。

 

「っ……!? この、テメエ、ちょっと可愛いからって、いい気になるなでゲス!」

「あっ……!」

 

 噛み付いたそいつの指からは少しだけ血が垂れていたが、私はあっさりと引き剥がされてしまった。

 歯形のついた手を伸ばしてくる。

 

「テメエは売り物でゲス。痛いのは困るでゲしょ? キズモノになりたくなかったら、大人しくしてるでゲス」

「うう……っ!」

 

 精一杯の抵抗も空しく、声が出せないように私は口を押さえられてしまった。助けを求めて声を出そうとしても、うーうーと声にならぬ声がそいつの指の隙間から漏れるだけで、手の中から逃げ出そうにも非力な私では無理だった。

 これって誘拐!?

 直感した。間違いない、これは誘拐だ。そうでなくとも、犯罪の類には違いない。

 連れ去ってどうするつもりなのだろう? 

 売り物、と言っていたから私は何処かに売られるのだろうか。私にとって未開の土地へ、荷物のように運ばれていくのだろうか。また、縛られるのだろうか……ジュデッカにそうされたように。

 

「うぅー……!」

 

 目で助けを求める。

 しかし、道行く人々はこんな街中にひとさらいがいると考えていないのか流れてゆくだけだ。いや、違う。無視しているんだ。さっき目が合ったのに、助けてと目で訴えたのに、その人は面倒ごとはゴメンだと言わんがばかりに目を背け、スタスタと足早に立ち去ってしまった。何故なの? 私がたくさん人を殺したから? 

 夢を思い出す。

 

 悲しみ ── 怒り ── 憎しみ ── 殺意

 

 涙 ── 罵声 ── 暴力 ── 蹂躙

 

 そいつの手の数は二本だけれど、まるで無数の手に押さえつけられているようで、悪夢の住民たちに重なって見えた。

 夢の中では、私はバラバラになるまで暴行される。殴られ、蹴られ、切り付けられ……それでもいいと思った。それが償いになると思っていた。心のどこかで報いを受けることを望んでいた。私の中には、それだけの罪を犯したのだから仕方ないと、どこか諦めに似た感情が巣食っていた。

 でも現実となると、怖かった。

 ── やっぱり

 怖くて怖くてたまらなかった。

 そうだ、リュウセイ……リュウセイは何処? 

 目を走らせ彼を探したが、目に入るのは濁流のような人の動きだけだった。

 そいつは小さな声で呟いた。

 

「久々にじょうだまでゲス。兄貴たちにも連絡するでゲス」

 

 そいつは携帯電話を取り出してダイヤルを押し、仲間に連絡を入れていた。その仲間が到着すれば私は連れて行かれるだろう。溢れるほど人はいるのに誰も気がついてくれない、もとい、何もしようとはしない。

 もうだめだ……、

 脳内をその言葉が満たしたとき、聞きなれた人なつこい声が私の鼓膜を揺する。

 

「おい、アンタ、人の連れに何してんだ!」

「っ……!?」

 

 リュウセイは、両手いっぱいのロボットフィギアの詰まった紙袋で両手をふさぎながら、私の口を押さえつける男に怒鳴りつけた。それは怒りの声だった。私は、もごもごと彼の名を呼んだ。

 仲間との会話で、彼の接近を察知できなかったそいつの行動はワンテンポ遅れていた。

 

「やっ、やばいでゲス! に、逃げるでゲス!」

「逃がすかッ!!」

 

 気づいたそいつがリュウセイを振り返ると、彼は左足を上げ、体をひねりながら右手を後ろに回していた。それは手荷物を投げる前の準備動作だ。そして、右手には超合金のロボットフィギアがそれこそ山のように突っ込まれた紙袋。リュウセイは振りかぶって ── それを ── 投げた!

 避ける暇なんてなかった。

 そいつが私を置いて逃げ出そうとした瞬間には、そいつの顔面に重くて、何より硬い、正義のスーパーロボットたちがめり込んでいたからだ。

 そいつは鼻血を噴きだしながらぶっ倒れて気絶した。擬態語で形容するならバタンキュー。それはあまりにあっけなかった。紙袋は、投げられたとき発生した遠心力で底がやぶけてしまっていた。

 

「大丈夫かレビ! 怪我ないか?」

「リュ……リュウセイ……」

 

 リュウセイは投げたフィギアそっちのけで私の心配をしてくれた。

 

「お、遅いぞ……この、バカ」

「悪い……いや、本当に悪かった。ゴメンな。初めてなのに一人にするべきじゃなかったな。怖かっただろ、本当にゴメンな」

「い、いいよ……うん、許す、来てくれたから……」

 

 いつもどうりの口調で彼に礼を言えた。私は、安堵の笑みを浮かべた。

 でも、その私の顔を見る彼の表情は困惑している。

 

「お、おい、レビ。泣くなよぉ……」

 

 リュウセイは情けない声を出した。

 泣くな? 

 私は泣いているのか?

 手で拭うと、しょっぱくて、生温かい液体が頬を伝っていたのが分かった。

 私は笑いながら泣いていた。間抜けな彼の顔に安心したからだろうか。自分が泣いていると自覚すると変に目頭が熱いなと気づく。顔面の筋肉はひくつきながら笑顔を作っていた。

 

「あ、あれ? なんで……?」

 

 全ての感情をごちゃ混ぜにしたような、訳の分からないものが私の中で渦巻いている。

 リュウセイは両手のひらを合わせ、拝むように頭を下げた。

 

「悪かった! このとおり反省してる、許してくれ!」

「や、やめろ、別に気にしてないから……助けに来てくれたんだから……だから、そんなに頭を下げるな」

「で、でもよぉ……」

「いいんだ……私だって、何故自分が涙を流しているのか分からないんだから……」

「分からないってお前……変な奴」

「ふふ……私もそう思う」

 

 私とリュウセイは声を上げて笑いあった。

 私は情けない顔して心配している彼を、彼はきっと笑いながら泣いている私を見ながら笑った。リュウセイ、情けない顔……、レビこそ泣きながら笑って変な顔だぜ……。

 街中をいく人たちは、私たちに怪訝な目を向けていたが、変なものを見たなぁという程度に去ってゆく。

 河の流れよりも感情少なげな人の流れの中で、私たちは明らかに浮いていたが、私は少しも気にならなかった。

 リュウセイは持っていたもう一つの紙袋を差し出して、

 

「はい」

 

 と私に手渡した。

 

「なに?」

 

 と私が訊くと、

 

「戦利品」

 

 と答えた。

 

「いらない。どうせフィギアなんでしょ?」

「遠慮すんなよ」

「してない」

「まあ、持っとけって」

 

 紙袋を押し付けると、ひとさらい男の近くに転がった紙袋を取りに行った。その紙袋は見事に底が抜けていて、袋として機能しなくなっていた。ちなみに私の袋の中身は 『超合金 マジン○ーZ(海賊版にしか見えない限定版)』 他多数。

 リュウセイは飛び散ったフィギアをかき集めながら、私に言った。

 

「そうだ。レビ、気分治しにいい所連れて行ってやるよ」

「いい所?」

「俺しか知らない、俺の秘密の場所だ」

 

 リュウセイが自信ありげに胸を張る。

 秘密の場所……ごめんリュウセイ。

 リュウセイが秘密なんて言葉口にしたら、フィギアに囲まれて悦ってるリュウセイしか想像できないよ……。

 さっきの店で代わりの袋をもらおう、と言ってリュウセイは立ち上がった。

 しかし、それは彼の足元で目を覚ました手が、彼の足をガッチリ掴んだ。

 

「逃がさないでゲス!」

 

 手の主は、私を誘拐しようとしたゲス野朗だった。

 

「な……っ! 起きてたのか!?」

「当然でゲス! テメエが油断して近づいてくるこのチャンスを待っていたでゲス! 兄貴たちにぶっ殺してもらうでゲス!」

 

 兄貴。さっき電話していた相手だ。突然電話が切れたのを不審に思いここに向かっているかもしれない。だとすればこの場所に留まるのはまずい。私はズッシリ重たい紙袋を持つ両手を、ぎゅっと握り締めた。

 私はそいつの後ろに回りこむ。リュウセイと言い争っているのでそいつに気づいた気配はない。

 

「偉そうなこと言っといて結局人任せかよ?!」

「何とでも言うでゲス! 兄貴たちは強いでゲス! りんごを片手で握りつぶせるでゲス! パンチ力は150kgでゲス! ざまあみろでゲス! 兄貴たちにかかればテメエなんか三秒でひき肉でゲ ── ゴェッ!」

 

 そいつの最後の声は、ひき蛙が潰れた声を連想させた。

 私が 「えいっ!」 と振り下ろした紙袋が、まだ地面に吸い付くように伏せていたそいつの後頭部に見事に命中したのだ。鉄の城を含む不意打ちに、そいつはあっさりと白目を剥いて気絶していた。打たれ弱いのかもしれない。

 突っ伏したままのそいつを放置して、私たちはさっさと街をあとにした。

 

 

 

…………

 

 

 

 それからしばらくして、透き通る青の空は黒く染まり星が輝きだしていた。

 私は空が好きだ。特に、雲ひとつない快晴、いわゆる日本晴れというのはもっと好きだ。空は私の全てを吸い尽くしてくれるような気がするから。

 でも、夜の空は少し苦手だ。私の全てを吸い尽くしてくれるような気がするのは同じだけど、その暗さはジュデッカと悪夢を思い出させるから。

 私とリュウセイは夜になるまでの時間を全て移動に費やしていた。

 病院には戻らず、リュウセイの言う秘密の場所を目指していた。普通なら足を踏み入れないような山道を彼の後ろについて歩いた。舗装どころか整理すらされていない獣道は二人並んで歩くには狭く、はぐれないようにゆっくりと徐々に登ってゆく。

 これが世間一般の病人なら途中で昏倒していてもおかしくない道のりで、彼が私を病人としてみていないのが一目瞭然だった。私の場合、病気ではなく監視という意味合いで病院に入院させられているだけだからだ。身体的に見れば健康そのものである。

 だからといってこんな険しい道病院の中にあるはずもなく、私の息は上がっていた。秋も終わりに近づき冷え込んできている中に吐き出される私の息は、少しだけの間だけ白く曇りそして消える。

 もう一分張りだ、とリュウセイの声に励まされ行き着いた場所は、先ほどまで獣道とは違い開けた丘だった。背丈の低い草が一面に茂っていた。

 

「見てみろよ、レビ」

 

 リュウセイが丘の向こうに広がる光景に指差す。

 

「……すごい……」

 

 そう呟く私の瞳は、彼の指が指し示すものに目を奪われる。

 私の眼下にはあの街があった……高さも横幅も形状も違う建築物が立ちならんでいた。木々のように所狭しと隣接する建物たちは、コンクリートジャングル、そう形容できる。それが夜になり煌々と光る様は、昼とは違う二重人格的な側面を街が持っているように私に思わせた。

 

「空見てみろよ」

「うわ……星がたくさんある……」

 

 リュウセイに言われて空を見上げると、網膜に煌く星々が映りこむ。

 私は夜の空が苦手だった、だってその暗さはジュデッカと悪夢を思い出させるから。だから病院にいるときは夜の空を見上げないようにしていた。

 でも、目の前に広がっているそれは私の苦手意識を払拭して余りあるほどに素晴らしかった。雲ひとつない空に大きく居座る満月と、点々と好き勝手に陣取り光を放っている星は天然のプラネタリウムだ。流れ星が一つ落ちた。

 

「……ここがリュウセイの秘密の場所……?」

「ああ……俺は星降り丘って呼んでる。あっ、ほら、また流れ星が降っただろ。ここ流れ星がよく見えるんだよ。だから星降り丘。本当の呼び名は俺も知らねえけどよ……だって俺たちにとってここが何だ、どんなだ、なんてこと、関係ないだろ」

 

 星降り丘、それが彼の付けた名前らしい、私は訊いた。

 

「星降り丘……そういえば……リュウセイって、名前は流星からきてるのか? 名前の由来は流れ星?」

「そういえばそうだな。今まで考えたこともなかったぜ」

 

 リュウセイは本当に考えたことがないように、星を眺めていた。

 また一つ、流れ星が落ちる。リュウセイが言った。

 

「知ってるか? 流れ星が消えるまでに三回願い事が言えたら、神様が願い事叶えてくれるんだぜ」

「……なにそれ?」

「なんだ、知らないのか? よーし、じゃあ見てろ、お手本見せてやるから」

 

 私が頷くと彼は次の流れ星を待ち構え満天の星空を凝視し始めた。しかし、そうそう流れ星が流れるはずがない。

 流れ星に三回願い事? 

 それで願いが叶う? 

 まさか、そんな非科学的なことが起こるはずがない。

 流れ星って、確か太陽の周りを公転する小天体が、地球や他の天体の大気に突入したときに発光したもののはずだ。夢がないって言われそうだけど、そんなものを神様が見ているはずがないし、まして願い事なんか叶うはずがない。もし本当に叶ったとすれば、それはその人がそれほどにまで願い、その願いをかなえるために邁進したからに違いない。他力本願では願いは叶わないんだ。

 それに私には願い事がどうとか、夢がどうとか言う資格はないんだ。

 だって、たくさんたくさん、私は奪った。人の願いを。人の夢を。人の命を。

 だから願ったりしちゃいけないんだ……地上の街を見下ろしながら、私は思った。あそこに輝く光の数だけ人の夢が生きている。私が奪った数より少ないかもしれないけれど、あそこには人の願いが生きている。人の夢の力が生み出した人工の光は、まるで天上の星と対を成す地上の星だ。

 と、そのとき、一条の光が流れた。

 

「超機大戦SRXがアニメーション化されて毎週土曜日午後六時から全世界で同時放映されますよにッッ!! 超機大戦SRXがアニメーション化されて毎週土曜日午後六時から全世界で同時放映されますようにッッ!! 超機大戦SRXがアニメーション化されて毎週土曜日午後六時から全世界で同時放映されますようにッッッッ!!!!」

 

 リュウセイの願い事だった。

 長かった。

 全てを三度述べ終わったとき、流れ星はシッポすらも残してはおらず、その姿を消してから6秒ほど経過していた。オーラが伝わってきたが、全力で入魂した彼の願い事は徒労に終わった。

 

「…………まぁ、こんな感じだ。レビもやってみろよ」

 

 ちょっぴりしょげたリュウセイが私を向き言ったが、その言葉に私は無言で首を横に振った。

 

「どうしたんだよ? レビもやれって、願い事」

「……私に願い事をする資格なんてない……」

「レビ……」

 

 言いたいことが伝わったのか、リュウセイも黙り込んでしまった。重い沈黙が丘に流れた。もしかしら数秒だったのかもしれない。けど、私には何時間にも感じられた。

 その沈黙を追い払い、先に口を開いたのはリュウセイだった。

 

「レビ、お前、ジュデッカに操られてたときのこと気にしてるだろ?」

「…………」

 

 そのとおりだった。

 人間、心の中に閉まってある本当のことを言われると、どうしてよいか分からなくなることがある。今の私がまさにそれだった。堪らなくなり目を逸らした。

 

「あれは仕方なかったんだ。ジュデッカの呪縛は強力だった。自分ひとりの力じゃ抗えないくらいに。レビが操られて戦ってしまったのは仕方ないんだ。だから、そんなに気に病むな」

 

 リュウセイの慰めに私は反論した。

 

「……そんなの詭弁だ……私が殺してしまった人たちがそんな言葉で納得するはずない……操られていたので殺すしかありませんでした、なんて……言えるはずないよ……」

 

 悪夢に出てくる人たちが脳裏に浮かぶ。

 目の奥が熱くなり涙がこぼれそうになるがなんとか堪えた。

 

「……そんなの……自分勝手にもほどがあるよ……」

「でもよ、レビ。俺たち戦争してるんだぜ」

 

 戦争という言葉にいやに現実感があった。

 

「俺だって、R-1に乗って、地球の平和のためにエアロゲイターと戦争してるんだ。戦場に情けなんてない、まして相手が異星人だし尚更だ。それなのに俺が今ここにいてレビと話せてるってことは、それだけあちら側の人間を犠牲にしてるってことだろ?」

「……うん」

 

 頷く私にリュウセイは続けた。

 

「それを軍は評価するんだ、たくさん殺しましたね、偉いですね、ってな。それで俺は少尉だし。要するに戦争の道具として利用されてんだよな、俺は……そしてレビには力があって、それをエアロゲイター側が利用した……戦争の道具として。そんで戦争でたくさん人が死んだ。戦争、戦争、戦争、戦争。全部戦争が悪いんだ……そう思わなきゃやってられねえ……前に進めねえよ……」

 

 リュウセイの苦々しい声を聴く。

 

「俺たちまだ二十年も生きていないガキだぜ? 俺なんて、初めてPTに動かしたときゲームの延長としか思わなかったもん。ロボットに乗れることがただ嬉しくて、撃墜されてももうワンプレイすればいいや、程度にしか考えてなかったんだぜ? 何も分かってないんだよ、俺たちは。それこそ耳クソのひとかけらほども。そんな俺たちにお前が悪いとか、償いをしろとか言えるかよ?」

 

 分からなかった。

 無知は罪だ。知らなかったでは済まされない世の中にいくらでもある。私もそうだ。知らないうちに記憶を消され、知らないうちに操られ、知らないうちに人を殺した。これは罪だ、許されるはずがない私の罪だ。

 

「俺は戦争が悪いと思い込まないとやってられねえ……だから戦争を終わらせるんだ、さっさと」

 

 見つめるリュウセイに私は何も言えなかった。

 

「もう無理すんなレビ。やっちまったもんは仕方がねえ。でも未来はまだだろ? 未来はまだ終わっちゃいないだろう?」

 

 彼が私の頬をそっと拭ってくれた。溢れていた液体が一瞬途切れ、また頬に沿って流れ出す。体が熱い。喉はカラカラだ。気づけば私は泣いていた。

 リュウセイは私の肩に手を回し、抱き寄せた。

 

「レビ、俺たちは立ち止まれない。だから、泣いちまえ。思いっきり泣いちまえ。そんでもって嫌なもん全部吐き出して、前に進むんだ」

 

 その後のことはあまりよく覚えていない。

 ただ彼の大きな胸に飛び込んで声を上げて泣いた。

 涙と鼻水を流しながら思いっきり泣いた。

 胸が張り裂けそうなほどの声を始めてあげたような気がする。

 泣いている間、彼は私の頭をやさしく撫でてくれた。胸に顔をうずめていたから分からなかったけどきっとやさしい表情をしていたと思う。きっと、彼のコン○トラーVシャツはぬれてシワクチャになっていただろう。

 穏やかな声で彼は語りかけていてくれた。

 念動力があるのが嫌になった時期があったと言っていた。

 

「だけど、俺はレビを救えた」

 

 だから、この力も捨てたもんじゃないと言っていた。他の言葉は興奮してて忘れてしまったけど、それだけははっきり覚えている。

 どれ位泣いていたのだろう。

 私が泣き止んだとき、何かが体と心から抜けたような気がした。私は無知だからそれが何かは分からなかったけど、それは私の中に残っていたジュデッカではないかと思った。私の根底に憑いていたジュデッカが涙と一緒に私の中から押し出されたのではないだろうか……。

 それと同時に、私の体の奥底からは力が激流のように湧き出してきていた。眠っていた生きる力だった。

 

 ……進みたい……リュウセイと一緒に……進んでいきたい……

 

 ……リュウセイに助けられたこの命を無駄にしないためにも……私が奪ってしまった命に償うためにも……私は、生きて、前に進む……

 

 

 流れ星が流れた。

 一際大きくて輝いていた。

 その流星に願いごとをした。

 三回、心の中で唱えた。

 リュウセイは、何をお願いしたんだ、としきりに訊いてきたが教えてあげなかった。

 その夜、私は始めて彼のことをリュウと呼んだ。

 結局その夜は病院には帰らなかった。

 その夜私は、彼と、星の降る丘で……星を見上げなら夜をすごした。

 

 

 

…………そして翌日…………

 

 

 

 病院、私の病室で私は、

 

「本当にバカねー」

「ご、ゴメンなさい~……」

 

 見事に寝込んでいた。

 病院パジャマにマスクに氷嚢という見事なまでの風邪引きさんスタイルで、毛布を何枚も重ねて布団の中でがちがちと震えていた。

 体温計を見つめるアヤはその数値の高さに驚きながらも、呆れていた。もちろん赤い私の顔を見てである。

 チラッと検温の結果を示してくれた。 『39.0℃』 と表示されてある。

 

「と……溶ける、体が……」

 

 擦れた声で呟いた。

 結局あの後、私とリュウは星降り丘で星が綺麗だなーとかあれは何座かなーと話をしているうちに眠くなり、二人揃って丘の芝生をベット代わりにして寝てしまったのだ。季節は秋、そして冬への変わり目。要するに夜は冷える。そんな当たり前のことを私は忘れていた。

 あのときは泣きに泣いて興奮状態にあったから寒いのなんてへっちゃらに寝てしまったが、私の体は外的要因(寒さ)に敏感に反応していたようだ。ちなみに悪夢は見なかった。リュウと一緒にお花畑を走る夢だった。

 

「あの寒い中一晩中外で寝てたんじゃ、そうなって当然よ」

 

 アヤは完全に呆れかえっていた。

 私は熱を出して寝込んでいた。あんな中で寝袋もなしに寝れば当然だろう。風邪も引こうというものだ。

 担当医の話では下手をすれば凍死だったそうだ。病院に帰ってこなかった私たちを心配してアヤたちが捜索をしていなければ終わっていたかもしれない。助けられた今だって鼻水は垂れ、喉はがらがら、体中の間接が痛いし脳みそも溶けそうだ。体が発熱しているので外気が冷凍庫の中のように冷たく感じる。リュウと走ったお花畑は、天国の入り口だったのではないかと今更ながらに思った。

 もう二度と野宿はしないと心に誓わされた今回の一件で、私には二つほど分かったことがあった。

 一つは、世間でよく言われているバカは風邪をひかないというフレーズ、これは嘘だ。大嘘だ。

 だって ──

 

「う~んう~ん、熱いよ~、寒いよ~、気持ち悪いよ~。ライ~、おかゆ食わせてくれよ~」

「黙れド阿呆」

 

 リュウも38.7℃の熱を出して寝込んでいるんだもの。

 あ、ダメだ、これじゃリュウはバカだって暗に言ってるみたいじゃないか。あれ? なにを言ってるんだ私は? あ~、どろどろでなにもかんがえられない……。

 リュウはライの義手チョップ(弱)を受けて沈んだ。高熱のあまり目の前のアヤが霞んで見える。

 

「ア、アヤが三人に見える~?」

「あらら、これは相当きてるわね」

「バカに付き合うからこうなるんだぞ、レビ。以後気をつけろ」

 

 ライがリュウを思い切りけなす。リュウは目を渦巻きにしていた。

 私が今回の一件で分かったことの二つ目。

 それは神様が本当にいるってことだ。

 病人が熱でおかしくなった思ったか? そうじゃない、私はまだ正気だ。本当に神様はいるんだ。

 だって ──

 

「はい、注射をしますからお尻を出してうつ伏せになってください。あ、お連れの方、手伝ってあげてください。熱で動くのは辛いでしょうから」

「分かりました。ライ、リュウをお願い」

「了解しました」

「それから研修医くん。君はそっちの男性の方をよろしくお願いします」

「はい、分かりました」

「では、1・2の3で一緒にいきましょう」

 

 どんな形であれ、流れ星の願いは叶ったんだから。

 お尻を突き出させられながら、朦朧とした意識の中でリュウを見た。まだ目を回していた。

 

『1・2の3ッ! 斉射!』

 

 二人の声が重なった。

 注射されたお尻が少しだけ痛かった……。

 

 

 

 ~リュウと一緒にいられますように~

 

 

 

 マリオネットメサイア ~彼と、星の降る丘で~  FIN

 

 

 

 

 

 




「にじファン」に投稿していた作品の移転テストです。

超機大戦SRXのリュウセイ=ダテとレビ=トーラーが好きなので、大昔につい書いてしまった作品です(笑)
意外と長文になってしまいましたが、読みやすいように書いてみたつもりです。
当時はスーパーロボット大戦OG2は出てませんでしたので「マイ=コバヤシ」ではなく「レビ=トーラー」になっています。
OGシリーズでの彼らの掛け合いは微笑ましくて、見てて楽しいですね(リュウセイが鈍感なのでなかなかくっくかないというのがまたいい)

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