亜神と龍 作:自衛隊隊員A
ピニャは伊丹、ロゥリィ、テュカ、レレイ、そしてフユノを前にして語る言葉が見つからず固まっていた。
昨日はこの四人と一匹に協力を命じる立場だったが………。今は違う。
今の彼女は惨めな敗残者。街を守れたのだから見方によっては勝者なのだろうが、あいにく傲慢なある兄と違い自分に協力してきた者の勝利は自分のものなどと戯れ言を言う気はない。今回の勝者は「ジエイタイ」と名乗る軍勢だ。
彼らが今この瞬間敵になったら、ピニャにはどうすることも出来ないだろう。そして間違いなく民達は「ジエイタイ」に味方する。彼らを歓喜で迎え入れる。守ってくれる力を持つ者を優先する。
人とは後のことより一時的は自分の利益に釣られるからだ。
もし彼らが開城を要求してきたら、ピニャは膝を突き慈悲を請うことだろう。そこまで考えピニャは奥歯をギッと噛みしめた。
『………未来ヨリ今、今ヨリプライド………知恵ガ有ロウト無カロウト、人間ッテノハ単純ダナ』
「?何か言ったぁ?」
ふとみるとフユノが何かを呟きロゥリィが尋ね返していた。フユノは何でもないと呟くとそのまま黙った。
「捕虜の権利はこちら側にあるものと心得て頂きたい」
傍らに立っていたハルミトンの言葉にようやく意識を今に戻す。
健軍一等陸佐はレレイに通訳してもらいながら交渉する。
「イタリカの復興に労働力が必要という貴方の意見は了解した。それがこちらの習慣なのだろうが、せめて人道的に扱う確約を頂きたい。我々としては情報収集の為に、数名の身柄が得られればよいので確保されている捕虜の内、3~5名を選出して連れ帰ることを希望する。以上約束して頂きたい」
「ジンドウテキという言葉の意味がよく理解できぬが………」
レレイも大変だ。なんとか意味を伝えようと考えている。仕方ない、手伝ってやるか……フユノはレレイの代わりに口を開く。
『人道的ッテノハ、マアコノ場合ハ過酷ニ扱ウナッテ事ダナ』
「喋った!?」
「喋った……そういえばそんな報告も…………」
ハルミトンと健軍はフユノが人の言葉を発したことに驚く。健軍はハルミトンの反応を見て察しただけだが、報告にあったことを思い出す。
「……良かろう。此度の勝利にそなたらの貢献は著しいのでな、妾もそなたらの意向を受け入れるに吝かではない」
レレイがフユノとピニャの言葉を健軍に報告する。
「それにしても、改めてすごいのねぇ、ジエイタイって………」
ロゥリィは遠ざかってイタリカの東門の惨状を見ながら感想を声に出す。俺はロゥリィの膝の上で背を撫でさせながらロゥリィの声を聞く。
『文明レベルガ違ウカラナ………発展シタ科学ハ魔法ト区別ガツカナイトハ良ク言ッタモノダ』
「魔法でもあれは無理」
まあ今の魔法ではな。昔は結構すごかったけど。
「……フユノ、考え事?」
『イヤ、別ニ………』
「お師匠が若い頃を思い出しているみたいな顔してた」
『オレノ表情ワカルノカヨ………』
ん?複数の馬と人の気配。窓まで飛び顔を覗かせるとリアル宝塚歌劇団が見えた。
そのうち一人、金髪縦ロールの女が自衛隊を止める。
「どこから来た?」
「我々、イタリカから帰る」
応えたのは富田だ。富田の片言の特地の言葉に宝塚歌劇団は明らかに見下したような反応をする。他人の劣っているところをバカにするのは何時だって変わらないな。ま、愉悦感に浸りたいんだろ。可愛いものじゃないか。
「どこへ?」
「アルヌス・ウルゥ」
「なんだと!?」
「何!すると敵か!」
富田よ、ここは携帯もない後進文明だぞ。お前等の協定を今別の方角から来たこいつらが知っているはずないだろう。一応、お前等はこの世界の人間から見たら異世界の侵略者何だぞ?攻めてきたのはこの世界でも、そんな非こいつらは認めないだろうからな。
案の定正義に燃えた目で悪を断じようとする者の目で自衛隊を睨んできた。
両者お互いの武器を構えにらみ合う。縦ロールが富田の襟首をつかみあげ凄む。
「もう一度、言ってごらんなさい。貴様等はどこから来て、どこへ行こうとしている?」
あ、富田の顔が赤くなった。こう言うのが好みのタイプ?変わってるな、前世の俺ならこんなの間近で見たら美しいと思うより可笑しいと思って大笑いするぞ。
「イタリカから来て、アルヌス・ウルゥへ向かう」
と、相手がますます殺気立つのを見て伊丹が手を出さないように命じて車を降りる。
「えっと、失礼。部下が何かいたしましたかね?」
伊丹は相手をに刺激しないように言ったが恐らくこいつらは初陣だ。何せ、未知の相手に警戒を越して殺気を向ける素人。恐らくお姫様の部下だろう。
そしてこいつらはお姫様から救援の要請を受けたはず。精神的にはあさって、本来ならとっとと向かいたい。だが異世界の民も放っておけない。こんなところだろう。
そんな時に伊丹の間延びした声はしゃくに障ることだろう。
「降伏なさい」
「お、落ち着いて…話せばわかります」
「ええぃっ!お黙りなさい!」
そしてとうとう伊丹に手を出し、自衛隊も殺気を出す。剣だけ扱える素人集団と銃を扱う玄人集団、一方的な戦いが始まると思いきや桑原が待てと命じた。
「今は逃げろ、逃げろっ、行け!」
伊丹の叫びと共にエンジンの轟音があがり、土煙が上がる。その音に驚いた馬達を押さえている間に俺たちはあっという間に遥か彼方へと移動した。
しかし結んだその日に協定違反か………よりによって往来の許可を許したフォルマル伯領の中で……。
連絡手段がないこの世界じゃ末端が協定を結んだことを知らずに帝国の兵に攻撃。それを口実に帝国がその国を攻める。
もともとそのつもりでわざと末端の兵が多いところを通る帝国は初めから準備していて、これは何かの間違いだと慌てて取り繕う国を滅ぼす。帝国がよく使う手だ。馴染みある分あのお姫様はそちらに連想するだろうな。
きっと顔を赤くして部下に憤り、結末を想像して青くなる百面相を披露することだろう。さて、プライドを取るか命を取るか………。
「……イタミ、大丈夫かな………」
「これからどうするのぉ?」
テュカは伊丹のいる方角、つまりイタリカの方角を心配そうに見つめ、ロゥリィはハルバートの柄を弄りながら声を出す。ロゥリィはやるきだな、漢字で書くと殺る気。
「夜を待って侵入しましょう」
『堂々正面カラ行ケバ良イジャネェカ。イタリカノ民ハ間違イナク味方シテクレルゼ?』
「一応、立ち退く約束でしたし………」
『先ニ協定破ッタノハ向コウナンダガナ………』
真面目だねぇ。まあ向こうもイタリカを占拠する異世界の住人、しかもその住人は今のところ無敗の軍。情報を引き出すために殺される事はないだろうし、お姫様もそんな馬鹿な選択をする愚か者には見えなかった。
それに、詫びとして好待遇、さらにはまず間違いなく無かったことにしようとしてあの金髪縦ロールに伊丹を肉体で懐柔させようとするだろう。伊丹は確か魔法少女趣味だったか?年増に興奮すんのかねぇ?
まあそこは生理反応か。それに、どうせあのプライドの高いお姫様が部下を小隊長にしか見えない伊丹に抱かせるのも、同じぐらいプライドの高そうな縦ロールが(伊丹は手を出せないだけ)自分が倒した相手に抱かれる決心をする前に俺たちが到着するだろうな。
『取リ敢エズ夜マデ待ツカ………ロゥリィ、暴レルナヨ』
「暴れないわよ。状況にもよるけどねぇ……」
『………………』
まあ、大丈夫だろ。
それに向こうが先に協定を破っている訳だし、問題ないか。