ちんじゅふを つくろう!   作:TNK

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現実の方が、神ゲーでした

蒼い空、白い雲。

ディーゼルエンジンの駆動音と共に道端の石ころを弾き飛ばす音が時折聞こえてくる。

ガッタガッタと揺れて、傍らにあるペットボトルがたぷんたぷんと音を立てる。

 

右手には海が見えて、左手には壁……否、崖が見える。

 

「……hey、提督」

 

「ん?

どうしたの、金剛。

車の冷房効き過ぎた?

温度上げる?」

 

「イエ、それは問題ないデス。

……なんで、私達二人ダケ、こうして車に揺られているのデスカ?」

 

そう。

僕達は今、海岸線を車で移動していた。

二人きりで。

 

時は遡る。

 

 

 

「作戦だー!

ねえ、何時なの!?

速く速くぅー!」

 

「大規模作戦ですか……やはり、今の艦載機では不足ですね。

どうしましょうか……」

 

「おいおい、来た早々大規模作戦かぁ?

そりゃー私が来たんだからやれるって思うのは解るけどよぉ、順序ってもんがあるだろ?」

 

「ようやく、デスカ。

お役目を果たす時が来たようデスネ」

 

わいのわいの、姦しいとはこの事か。

四人でこれなら前世の鎮守府の百数十人態勢だとどうなっちゃうんだろうな、と思いつつ、僕は手を鳴らす。

 

「はーい、注目。

……まず最初に説明しておくけれど、作戦の事については僕は前から聞いてはいました。

だけれどここまで早くなるとは思っていなかったから、皆には話してませんでした。

で、これからの事についてなんだけど……。

正直想定していたよりも艦娘が少ないです」

 

「じゃー、提督はどれだけ艦娘が居れば満足なの?

確かに、私と鳳翔さんと金剛と摩耶じゃ足りないとは思うけど」

 

「ある程度戦闘経験を積んだ艦である事が前提で、駆逐、軽巡、重巡、戦艦、空母それぞれ五、六隻ずつ。

装備にもよるけど、それぐらいあればどうにでもなるとは思うよ。

……流石にそんなのは今の段階じゃ無理だから、せめて六隻は欲しい。

艦種は何でも良い、どんな偏り方をしようとも、その上での運用を考えるのは僕の仕事だからね」

 

悪名轟く初期イベント海域。

だがその実はシステムの理解不足、準備不足に依る物が大きい。

その二つに置いては現状も大差ないレベルではあるが、今回に関しては現代艦の戦力も期待出来る。

 

だけど、流石に六隻は居ないと話にならないよね。

 

 

 

「……デハ、その不足している二隻を補う為に、どうするんデスカ?

はぐれをhunting?」

 

「うん、それも勿論して貰うよ。

でも、確実に二隻分欠片が手に入るとも限らないし、それをするのに僕は必要ないからね。

だから、金剛のように僕達以外に発生した艦娘が居ないか捜しに行ってきます。

その為に一人護衛が欲しい」

 

「護衛……ですか?

その、ただ捜索するだけならば、大丈夫だと思うのですが。

陸地や川の河口は陸軍の方々が防衛してくれているのでしょう?」

 

「うん、そうだよ鳳翔さん。

だから陸と海で予算争奪をしているのは現代も同じなんだけど、まあそれはひとまず置いておこう。

ただの目撃情報だけで捜索する訳じゃなくて、深海棲艦の分布で異様に発見が少ない所とかも含めて総合的に居そうな所を探すつもりだからね。

その候補の中には孤島とかもあるから必要かな、って」

 

「……欠片を見つける効率が落チテハ、本末転倒デハ?」

 

「ああ、そこは問題無い。

三隻も四隻も今やっている、釣って先制攻撃、という狩りの方法だと効率は変わらないからね。

空母がもう一隻居たら釣りの効率も多少は変わっただろうけど、ね」

 

「おいおい、あたしはお呼びで無かったってのか?

気に入らねぇなあ」

 

「誰もそんな事は言って無いって。

実際に大規模作戦となれば打たれ強い戦艦・重巡は大歓迎だよ、これはあくまで釣りの話。

話を戻すよ。

かといって沖に出て行ったら離脱出来ず撃沈、なんて事も有り得るかもしれない。

それは無いにしても帰還の際の危険はまま有るからね。

増えたのは重巡と戦艦。

射程は長いけど、釣りが出来るほど長い訳じゃないし……牽制じゃなくて致命打になっちゃう。

撃沈じゃなくて轟沈させたら流石に欠片も回収出来ないからね。

という訳で……」

 

 

 

僕は割り箸を四本束ねて持ち、艦娘四人がそれぞれ一本ずつ摘まんでいる。

要するに、くじ引きだ。

 

島風、無し。

鳳翔、無し。

摩耶、無し。

 

金剛。

 

「……me?」

 

割り箸の先が赤いマジックで塗り潰されている。

 

「you」

 

当たりだ。

 

 

 

「……てなわけで、君がくじ引きで選ばれたから。

それじゃ不服なのかい?」

 

「……なんで私ガ……」

 

「そりゃ、くじ引きだもの。

仕方ないさ」

 

「……それより、本当に艦娘が居るんでスカ?

コレデ十か所目デスケド、まだ一人も見つかって無いじゃないデスカ」

 

「そろそろ飽きてきた?

それなら大丈夫、この場所で候補地は終わりだから。

それに……今度は期待に応えられると思うよ。

次の場所は町でね」

 

車が長く緩いカーブを抜ける。

その先には大海原と。

 

「通称、霊の立つ浜。

……硝煙臭い霊魂なんて、こんな街には出て来ないと思わないかい?

それこそ、フィリピンなどの激戦区なら兎も角、ね」

 

外目からも見て取れるような、寂れた街が広がっていた。

 

 

 

「ここは、元は漁港を中心に栄えた街だったそうでね。

ま、深海棲艦が出てからは見ての通りさ」

 

「陸軍が防衛しているのデハ?」

 

「そんなそこかしこに砲台を作れるはずもないし、仮にした所で弾薬だって行き渡る筈もない。

現代だって輸送網は相当なレベルで進歩してはいるんだけどね、大口径の弾薬を運ぼうとするとなると中々。

というか、運送業に就いている危険物取扱い者が居ないのさ。

少なくとも、輸送網を構築できるくらいの人数は、ね。

……と、駐車駐車」

 

看板に錆の生えたスーパーの駐車場に車を止める。

 

「じゃ、聞き込みといこうか」

 

 

 

私の鼻は火薬の匂いでいっぱいだ。

まあそれも当然だけど。

 

私は"玉"を玉皮の内側に並べる。

それを終わらせて、均す。

同じ作業をもう一回やって、半球が二つ出来上がり。

 

それを素早くくっ付けて。

一丁、打ち上げ花火の出来上がり。

 

「ふぅー。

疲れるねぇー」

 

額の汗を拭って。

背後から、パチパチと音がする。

振り向くと、そこには手を叩く一人の男が居て。

 

「お見事。

手慣れた物だね。

どこでこんな技術を覚えたのかな?

軽巡洋艦、北上さん?」

 

何故か、私の艦種を知っている。

 

「ねー、あんた、誰?」

 

 

 

「僕は……提督。

君みたいな艦娘を指揮するのが今の所の仕事かな」

 

「ふーん。

階級ってどんくらいなのさ?

提督ってだけじゃ階級判んないよねー」

 

「あー、実は今はまだ正式に認められてる訳じゃなくてね。

認められるのが目下の目的さ。

中将と渡りは付けてあるんで、後は実績を積むだけ」

 

「へー、そうなんだ。

大変だねー。

あ、立ち話もなんでしょ。

さ、奥の方でゆっくりしましょー」

 

 

 

「いやー、まさか提督さんだけじゃなくて金剛も居たとはねー。

あ、お茶でいい?」

 

「あ、ハイ。

……北上は、何故ココでこんなコトヲ?」

 

「こんな事たぁーまた。

……ま、そうだね。

最初から話しますか」

 

 

 

「まず最初なんだけど。

陸さんの砲撃か、あるいは航空機の爆撃かで、沈んだ軽巡級?それが浜に流れ着いてたんだって。

その中に有った不思議な光の欠片を触って、ぴかって光って、まー私が出て来たって感じ」

 

淡々と北上は喋っていく。

視線を右上に、左上に、思い出すように。

 

「……その、触った人は?」

 

「この街にいた花火師でね。

老人で、娘も孫も居なくて。

で、寿命で死んじゃった。

……だから、名実ともにここは私の城って訳よ」

 

もっと、長い話になると思ってたんだけどねぇ。

いざ話してみたら、こんなもんだったか。

 

そう呟く北上は、どこか寂しげで。

その事については、僕は何も言える事が無い。

 

だから、僕は不躾にいかせてもらうしかない。

 

「君の城、とは言うけれど。

戸籍は持っているのかい、北上さん?

無ければ遺産贈与としての形にも出来ないと思うけれど」

 

「……流石提督さん、って所?

うん、それは事実だよ。

だから提督さんが役所かなんかに駆けこんじゃえば、私は追い出されるだろうね。

だけどさ……」

 

そして、北上さんが僕に突きつけたのは単装砲で。

 

「……北上さん、君、もしかして」

 

でも、それはボロボロだった。

撃てるかどうかも怪しい位。

 

「……あ、解っちゃうの?

……うん、そうだよ」

 

「あたし、もう撃沈されちゃってるんだー」

 

そういう北上さんの声色は、あっけからんと乾いていた。

 

 

 

「……え、マジ?」

 

「マジよマジ。

あ、だけどこれでも撃てるっちゃ撃てるからね、そこんとこよろしく」

 

「言っておきますガ提督、私はアナタを援護しませんカラネ。

最初に脅したのはアナタデス。

私としてはアナタからいち早く解き放たれテお役目を果たしたいンデスカラ、今ここで撃たないのはせめてもの礼儀だと思ってくだサイ」

 

「あ、うんそれは別にいいんだ。

……え、どうやって陸に上がって来れたの?」

 

「ん?

ああ、それは簡単な話。

浜辺に近かったから流れ着いたのよ」

 

「……沈んでからどれくらいに目を覚ましたの?」

 

「一時間くらいかなー。

……いやいや、今はそんな話をしたいんじゃ「いよっしゃあああああ来たあああああああ!」な、何!?」

 

金剛も、北上も、驚いた顔で僕を見ているけど、今僕はそんな事を気にしている余裕は無かった。

 

艦娘、轟沈後も救助可能!

 

「神か」

 

そういや北神様だった。


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