ちんじゅふを つくろう!   作:TNK

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流石にそろそろ更新した方が良いかな、という訳で更新です。


その時、空に流線型の影が差した

「……ねー、落ち着いた?」

 

「はい……」

 

火薬の匂いと共に北上のボロボロの単装砲が黒煙を上げる。

 

「……本当に、撃つのがやっと、と言った所デスネ。

精度も何も無いデス」

 

「でしょー?

艤装も付けたって海上に立つ事すら出来ないし。

流石にこれじゃあどうしようもないのよねー。

幽霊なんて言われてたら、本当に艦娘としては幽霊みたいな感じになっちゃった」

 

「あ、やっぱりあの噂は君で良かったんだね……。

ともあれ、交渉といきたいんだけれど。

どうだろうか、僕のほうには君の戸籍の用意とこの……工場の権利云々のゴタゴタを何とかする事が出来る。

僕が求めるのは、君の事」

 

「ありゃりゃ、お熱いラブコールどうもありがと。

でも、見ての通り私は廃艦物だよ?」

 

肩を竦めて北上は言う。

その言葉は事実なのだろうけれど、まだあきらめるには早い。

 

「そこは……まあ、大丈夫だと思う。

妖精さんって言ってね、艤装を修理してくれる艦娘側の存在がこちらには居る。

轟沈ものの損傷だから手間はかかるだろうし、確かにどうにもならない可能性だってあるけれど、やる価値はある」

 

「うーん、でもそれじゃ駄目だった時は私にできる事ぁ無いしなぁ……」

 

「いや、そんな事は気にしなくても良いよ。

その不確定要素も含めて、僕は良いって言っているんだ」

 

「いやー、そうはいかないでしょ。

対等じゃないじゃん。

交渉は対等にしろって教えられたんでねー、爺ちゃんに。

……あ、そうだ。

ちょっと来てー、見せたい物が有るんだー」

 

 

 

「……倉庫の一角か……でも、北上さん、ここには何も無いように見えるけれど?」

 

「えー、あるでしょ、この袋が。

……ほら、これ覗いてみて?」

 

そう言って、北上は一つの袋を取り出した。

それは俵一つ分くらいの袋で、ただの火薬が入った袋か何かかと思った故に僕は何も無いと思った。

 

「……え、これまさか」

 

「そー、私が生まれた元っぽい欠片……の粉。

いやー、状態良いの無かったし、私が触っても何にもならなかったからさ。

場所取るし粉にしちゃってたんだよね。

……これ、要る?」

 

これキロ単位あるんじゃないか?

どれだけの深海棲艦を倒してくれば、これだけの欠片の粉になるんだろうか。

 

「……うん、とりあえず要る。

……あ、ちなみに欠片は人間が触ると艦娘になるんだ。

だから北上さんが触っても何も起こらなかったのは当然だったんだよ。

更に言うと欠片の大きさで出てくる艦種が変わるらしくて、最低が駆逐艦。

で、その最低サイズを下回ると妖精になるんだけど……。

粉かー……」

 

ここまで小さいと妖精さんすら出てくるか怪しい物だ。

逆にこの袋の粉全部が一つと認識される可能性もあるけど……それこそ何が出て来るのか。

 

大和どころか、下手すると某宇宙戦艦の方が出て来そうだな……そんなの出て来ても扱いに困るけど。

 

「妖精ねぇ……?

よく解らないけど、粉じゃ駄目なんでしょ?

じゃあさー、焼き固めちゃう?」

 

「……えっ?」

 

 

 

「じゃー、行きますよー!」

 

赤々と燃える炉に、北上は全ての粉を入れた大きな釜を放り込む。

何で出来るのかと聞いたら、これも件の老人に教わったらしい。

 

その老人は何処まで教えたんだ一体。

こんな技術花火にすら使わないと思うんだけど。

それとも知ってる事を全て詰め込んだんだろうか。

 

それを覚えられた北上も北上だが。

あれか、工作艦の名残なのか

 

「えー、何が出来るんだ、これ……?」

 

「まー、それは出来てからのお楽しみ。

だから眼を背けた方が良いよ、失明するから」

 

とりあえず、煌々と白く燃える釜の中を覗く前に僕は眼を逸らした。

 

 

 

たぷん、と釜の中に波が立つ。

 

僕が指を突っ込んだのだ。

無論冷ましてある。

というか煮え滾ってる液体に指を突っ込むほど馬鹿じゃない。

 

「……液体だ」

 

「液体、だねぇ」

 

何か変化はあったのだろう。

粉が溶ける様な水分なんて無い環境だし。

 

「……どうしようか、これ」

 

「どーしましょっかー、これ」

 

結果として。

焼き固めるどころか、液体となった。

 

何か有る、のは確かだろう。

 

液、液か……。

 

「……ねえ、北上さん。

艤装自体は沈まずに、保管してあるんだよね?」

 

「そだよー。

一応保管してるけど……それがどしたの?」

 

「それ、ここに持って来てくれないかな?」

 

 

 

「……で、この艤装をどうするのさ?

さっきも言ったけど、壊れてて使い物には「そぉい」……なにしてんのさ」

 

僕は液体を艤装にぶちまける。

 

「……嘘ぉ。

マジで?」

 

「よっしゃ、思い付き大成功」

 

思い付きと言うよりは、原作知識と言った方が正しいけれど。

でも思い通りに行くかはそれこそ運次第だったから、やはり思いつきのほうが正しいだろう。

 

錆び付き、至る所に穴の開いた艤装は、液体がかかった所から元の鉄の輝きを取り戻していく。

まるでかさぶたの奥から正常な皮膚が現れる様に。

 

詰まる所、この液体は高速修復剤だったのだ。

 

 

 

「……金剛、此処に居たんだー。

提督さん、だっけ?

地味に探してたよ」

 

艤装が直り、爺さんが残した工場の心配が無くなった今、私が提督の提案に乗らない理由は無くなった。

 

戸締りを済ませて、出立の準備を済ませて。

最後に、って事でこの街を見て回ってた。

 

思い出は、ある。

事実、浸っても居た。

 

けれど、もう用を成さなくなって錆び付いた灯台。

その下に見つけた彼女の姿が、その感傷を好奇心にすり替える。

 

「……北上、デスカ」

 

「そーだよ、北上さんだよー。

どうしたのさ、こんなところで?」

 

「……イエ。

特にやる事も無いノデ」

 

そう言ってぼうっと水平線を見つめる金剛の姿は、何かを考えているようで。

そして、彼女が何を抱えているか朧気に解る程度には、私は"人"生経験豊富だったりする。

 

「ふーん。

……ねえねえ。

何か悩みが有るんだったら、相談に乗るよ?」

 

「……悩み、デスカ。

そんなもの、私ハ……」

 

「抱えていない、っては言い切れないでしょ。

……私は別に金剛の敵でも無いし、口が軽いって訳でも無いよ?」

 

「……別ニ、北上。

アナタの事を信用していないという訳では無いノデス。

ただ……どう形容シタモノカ」

 

あー、解るよ。

艦娘に……人になりたての時って、持て余すんだよね、感情をさ。

 

けど、それならそうで聞く側としてはやりようがあるんだよね。

 

「じゃ、こうしようか?

質問するからさ、はいかいいえで答える。

……案外、こうする事で整理がついたりするもんだからさ」

 

私の言葉に、金剛はゆっくりと頷く。

 

「じゃ、一つ目ね。

……どうしてあの提督さんにあそこまで辛辣なのさ?

嫌な事でもされたの?

嫌いなの?」

 

「……嫌い、という訳では有りマセン。

ただ……」

 

「ただ?」

 

「……ただ。

どこか……余裕が有るンデス。

そんな状況でも無いノニ。

いや、余裕があるというより……まるであらかじめ"知っていた"ヨウデ」

 

「知っていた?

何を?」

 

「……私が、あの提督と出会った時の事は、既に話しましたカ?」

 

「いや?

聞いてないよ」

 

デハ、と金剛はその顛末を教えてくれた。

 

「問題なのは、その時……私の事を金剛型だと言った時デス」

 

「そこのどこに疑問を差し挟む所があるのさ?」

 

「解りませんカ?

……私は……私達金剛型は、"四隻"あるノデスヨ?

"何故ほぼ同じ形の金剛型の一番艦である私だと解ったノデスカ?"」

 

「あ……」

 

勿論、金剛型はそれぞれに特徴が無い、とは言えない。

例えば二番艦の比叡なんかは、大和型の装備のテスト艦として改修を受けた際、艦影までもが変わるほどだった。

 

だけど、だとしても。

艦としての一部しか現れていない艤装を見ただけで、艦の個体まで解るはずもない。

 

「嫌いと言うよりは……得体が知レナイ。

だから、私は彼を信頼デキマセン」

 

「……なるほどね。

でもさ、あの提督さん、少なくとも私達の扱いを良くしようとはしてくれてるじゃない?

それは認めてあげてもいいんじゃないかな」

 

「……解ってイマス。

けれど……」

 

「うん、解るよ。

信頼はしなくても良い。

けれど、信用はしてあげていいんじゃないかな?」

 

「……信用、デスカ」

 

「そ。

別に、人への評価は最初に決めたままにしなければならないって訳じゃないよ?

人の評価なんて水物なんだから」

 

「……ソウ、デスネ」

 

金剛は日が落ちようとしている水平線を見つめる。

私も自然と水平線を眺めた。

 

 

 

「……という訳で、北上さんが仲間になりました。

こっち側としてはこんなもんですね。

それでは取り敢えず、留守にしてた間の報告をお願いできますか?

鳳翔さん」

 

「はい」

 

僕達が戻ってきた頃は、ちょうど鳳翔たちはイ級狩りをしていたようだった。

だから、僕達は海岸で彼女らを出迎え、そのまま流れでそれぞれの報告をする事になった。

 

島風、鳳翔、金剛、摩耶、北上、そして僕。

全員集合した上で、僕は鳳翔さんに留守中の出来事を聞く。

 

「駆逐艦か軽巡洋艦の艦娘が出来そうなサイズの欠片が一つ。

そして妖精さんが出来そうな程度の欠片が幾つか。

これだけです。

……申し訳ありません、もう少し集めておきたかったのですが……」

 

「いや、一つ確保出来ただけでも上出来でしょう?

ありがとうございます、これで六隻は間に合った。

では早速」

 

僕は鳳翔さんたちが集めてくれた欠片へと触る。

 

眩い光が走り。

 

「俺の名は天龍。

……フフフ、怖いか?」

 

「せやな」

 

……天龍。

天龍型一番艦のこの艦は、日本海軍初の近代型巡洋艦である。

完成当初は世界水準を誇った彼女だが……如何せん大正時代生まれと来ては仕方がない。

 

艦これに関して言えば、一言で言えば燃費が良い代わりに性能が低いと言った所か。

 

弁護するとすれば、艦これは提督の手間暇によって性能を底上げする事が可能である故に、愛さえあれば最前線にも立てると言った所だろうか。

強さは兎も角として愛されている艦娘ではある。

 

まあ、そういう事を一切合財まとめてオブラートに包まず一言で言ってしまえば。

正直、弱い。

 

「……とりあえず、これで6隻か。

よろしく、天龍」

 

「おうよ!

大船に乗ったつもりで居ろよ!

何せ、世界水準だからなぁ、俺!」

 

「えー、でも天龍って正直弱」

 

「駄目だって島風。

こーゆーのは空気を読まないと」

 

ナイスセーブ摩耶。

 

それに、現状では頼れる存在だというのも確かだ。

 

残りの小さな欠片に触る。

そして出て来た妖精さん達は見た事の無い姿をしていた。

 

全員がセーラー服を着ている。

と言っても女子高生のような姿では無い。

海軍服としてのセーラー服だ。

 

その妖精さん達は、艦娘達を一瞥すると、金剛に向かって一斉に集まっていく。

 

「Why!?」

 

それはさながらグンタイアリが獲物に向かって群がる様で、正直気色悪い。

群がった妖精さん達は、金剛の艤装へと"納まっていく"。

 

そして最後の一人が何処からか艤装へと入り込んだ時。

 

全員の視界が暗くなった。

否、違う。

影だ。

 

頭上を見上げる。

そこには、紅色の湾曲が。

 

「金剛、艤装を解除しろおおおおおおおおお!!」

 

咄嗟だった。

そしてそれは幸を奏したようだった。

 

艤装を外した金剛がへたり込んでいる。

いや、金剛だけでは無い。

島風も、誰もかれもが姿勢こそ違えど座り込んでいた。

 

「……メンタルモデルタイプでもあるのかよ……」

 

メンタルモデル。

それは蒼き鋼のアルペジオという作品の単語である。

 

要するに、艦船の制御をする人、あるいは人型の事を指している。

 

「……皆、これは秘密にしようか……」

 

ぐったりとしながら、皆頷いた。

 

えー、みたいな顔をしているセーラー服の妖精さんの事を、僕は凸ピンした。


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