ちんじゅふを つくろう! 作:TNK
「つまりー、今はあの戦争から結構経った世の中で。
世界は同時に深海棲艦に襲われて。
シーレーンを取られちゃって、どうしましょー、って感じなの?」
「そうそうそういう事。
あ、もうちょっと引き上げて、確かここら辺から出て来てたから……あれ、おかしいな」
島風がイ級の頭を吹っ飛ばしてから、僕は島風にその死骸を持って貰っていた。
またあの妙な光の石を……多分艦娘の元を探す為である。
「でも、なんでこれまで私達が生まれて来なかったの?
結構倒せてるんでしょ?」
「あ、"生まれる"んだ君達。
それはね、多分火力過多だったからだと思うよ。
イージス艦になったからって口径は人間サイズと比べると大き過ぎるからね、そりゃこんな体の中心にある欠片なんて形も残らないよ。
何体か死骸を調査したらしいけど何も見つからなかったのも、同じ理由だろうね」
「なるほどねー。
……っていうかまだなのー、提督?
そろそろ手が痛くなってきたんだけど」
「そんな事言ったら僕なんか立ち泳ぎしながら探してるんだぞ、もうちょっと我慢してくれ」
で、見つかりませんでしたとさ。
……まあ、予想出来た事ではあるんだよ。
いくら軍艦の口径が大きいからって、何体も調査してるんだからそれだけじゃ見つからない方がおかしいんだ。
深海棲艦はあの欠片が有る個体と無い個体が有るんだろう。
この事実が解った所で、多分軍はよほどの事が無い限り艦娘を手に入れる事は出来ないだろう。
艦砲じゃ過剰だからといって普通の銃じゃ当たり前のように弾かれるし。
多分深海棲艦同士で撃ち合ったんだからこうなったんだろうね、多分艦娘が深海棲艦を撃沈しても同じようになるんだろう。
だから現実問題として、艦娘は艦娘が倒す事によってしか出現しないだろう。
これまでの事は多分凄い発見だ。
このどれか一つだけの情報でもかなりの価値が有るんだよ。
「だからっ、いい加減機嫌っ、直してくれないかなっ!?
というかっ、この水上スキーでバランス崩して辛うじてしがみ付いてるようなっ、運び方はちょっっと、きついんですけどぉっ!?
手繋ぐだけってさぁっ、これ離したら僕死ぬよぉ!?
離さなくても死ぬかもしれんよこれっ!?」
びったんびったんいってるよ僕。
多分無事に陸地についてもムチウチなってるよ僕。
「だって、運べっていったの提督だもん」
「そうだけどさっ、いってぇ舌噛んだァ!」
「じゃー他にどうしろってのさー。
抱えるのだって無理だし」
出来るとすればお姫様抱っこ……は嫌だわ。
尊厳とムチウチを量りにかけ、僕は男らしい決断をする事にした。
「水上スキーの時間じゃあぁぁぁぁぁ!」
「あー……疲れた」
後半は上手い事水上スキー出来て結構楽しかったけどね。
「でさー、提督。
私達、なんでこんなとこ居るの?」
「島風、あのね?
予定した時間になっても来ない船の乗客と、水上を走る奇妙な少女とかまともな所に行けない訳ですよ」
「なんか面倒なんだね。
にしても現代って凄いね、受付に誰もいない宿屋とか。
ラブホ? だっけ?」
「まあ、うん。
こっちだと知り合いあまり居ないし、艤装付けたまま泊れそうな場所なんてこういうところくらいしかないんだよねぇ。
だから、今後、誰であろうともここに二人で来たという事は言わないように!
いいね!?」
「わ、解ったよう。
でさ、提督!
これからどうするの?」
「島風はどうしたいんだい?」
「そりゃー、私がどういう存在か知ってるんでしょ?」
「…………。
アーチョットワカラナイナーオシエテホシイナー」
「えーっとね?
私は島風で、艦娘。深海棲艦の敵。人間の味方」
「……それだけ?」
「え、それだけだけど。
それで充分でしょ?
それより提督ー、何か私変なの」
グゥゥ。
結構大きな音が響く。
「お腹が痛いし、変な音も出るの。
補給してないからかなぁ?
でも燃料はまだ残ってるの」
「……そりゃ、お腹が減ったんじゃないかな?
じゃあ、まずはご飯にしようか?」
「提督ぅ!
この山菜うどん、美味しーい!」
僕達は手近な定食屋に居た。
輸入がほとんど出来ない為に肉系の物は無く、大抵が魚か野菜だ。
深海棲艦が現れてから十年、社会の構造も適応し始めて来ている。
だから島風も箸に適応しなさい、そんな赤子のようにがっつり握り込んじゃって。
……いや、そうか。
人間としては島風は赤子同然なのか。
お腹が減った事すら解らなかったんだから。
「そりゃ良かった。
……でさ、島風は、これからどうしたい?」
「どうしたい、って言われても。
初めて会った時みたいにさ、深海棲艦を一緒に倒せれば良いかな?
後補給もしたいしー、仲間も欲しいしー。
あ、あとまた山菜うどん食べたーい!」
「そーかそーか。
……もしかしたら二人でこのままゆったり暮らすとか出来るんじゃないかとか思ってたけど。
じゃあ、頑張るしか無いかぁ。
よし、島風、食べ終わった?
そろそろ行くよ」
「え、提督、どこ行くの?」
「カメラを買いに行くのさ」
僕が"提督"になる為に、ね。
そして、僕達は町の郊外の崖の上に居た。
辺りの木々の枝を折り取って、脇に山盛りに置いている。
それを連装砲ちゃんたちが投げて遊んでいる。
「……ねぇ、提督ぅ。
確かに私、提督と一緒に戦ってほしいって言ったけどさぁ。
なんでまた私と一緒に来るの?
戦って負ける気はないけどさぁ、提督を守り切れる自信は無いよ?」
「いや僕だって後ろでゆっくりしていたいよ。
でも一人称視点で撮っても説得力が無いんだ。
島風に撮ってもらう事も、連装砲ちゃんに撮ってもらう事も考えたけど……」
「……それじゃあ駄目なの?」
「いい絵が撮れなきゃ意味が無いからね。
……だから良い感じに気にしてくれると嬉しい」
「うん、解った!
……で、どうすればいいの?」
それから少しして、僕は集めた枝を被り、崖の縁に寝そべっていた。
カメラの取説を顔のすぐ下に置き、拡大・縮小など機能を試す。
「……お、来たな」
そんな事をしている内、島風の姿が水平線の先から見えた。
作戦通り、イ級を一体連れて来て……二体連れて来てる!?
「……大丈夫かな?」
ゲーム的に言えば、砲撃戦ターンと雷撃戦ターンでそれぞれ一体ずつ仕留めれば全滅は出来るけど……。
「……ゲームじゃないからなぁ」
それがちょっと前に島風に対して空っとぼけた態度で教えてくれと言った理由でもある。
ゲームから現実になってる以上、何かしらの齟齬はあるはずだ。
その齟齬を埋めようにも僕自身は軍属でも何でもないから情報を調べに行った所で門前払いだろう。だからって軍属になった所で、情報を自由に調べられる立場になるまで何十年かかる事やら。
それじゃあと言って交換条件で情報を教えに行った所で怪しまれるだけだ。
理由の無い知識なんて、普通は有り得ないんだから。
だけど、今は理由として申し分ない状況が揃ってる。
そう、今はカバーストーリーの制作と情報の齟齬を埋めているのだ。
そこまで考えた所で、島風と目が合う。
録画開始。
そして島風が転回し、イ級二匹と向き直った。
一瞬僕は島風の姿を画面から見失ってしまった。
思わずカメラから眼を離そうとし、思い直して画面を引く。
大分画面を離して見れば、既にイ級の内の一匹の側面に着いていた。
砲声。
島風の手に絡み付いた連装砲ちゃんと背中にしがみ付いた連装砲ちゃんが、ほぼ同時に発射したのだ。
イ級の片目と胴体の装甲が消し飛び、イ級が力尽きたようにその身を水面に沈める。
そのまま素早く弧を描き、もう一体の背面で止まる。
「五連装酸素魚雷! 行っちゃってー!」
爆音。
その後には、体の7割を文字通り消し飛ばしたイ級の姿が有った。
録画を止める。
「……怒らせるのだけは止しておこう」
体の七割を消し飛ばして死にたくないもの。
録画し終わり、崖の上で島風と合流する。
録画した映像を確認していると、島風が話しかけてきた。
「ねぇ、提督ぅ。
そろそろ燃料も弾薬も不安なんだけどさ、補給出来ない?」
「逆に聞くけど何で補給出来るの? 君達は」
「わかんない!」
「そっかー分かんないかー。
……燃料で良いんだよね?」
「うん!」
「……という訳で、色々買ってきました」
島風をそのまま崖に残し、買い物をして戻ってきた。
あー、重い。
水上スキーやらなんやらで疲労した体が悲鳴を上げるのを聞きながら、一つのタンクと四つの缶を地面に置く。
「灯油、軽油、レギュラー、ハイオク。
凄く単純に言うと、順に質が良くなっていくんだけど……どう?」
これらで駄目ならもう手の施しようが無いんだが……。
「……なんで質が悪いのも持って来たの?
質が良い方がいいじゃん」
「燃料ってね、色々難しいんだよ。
化合物の違いだったり性質の違いだったり、ね。
質が良い物が君達の燃料として適しているとは限らないし」
「つまり実験?」
「うん、そう言う事になる。
……いや、本当にこれは大事なんだよ。
ガソリンスタンドとかで燃料を確保できるなら、少なくとも航行だけは出来るんだ」
「……弾薬も忘れないでね?」
「いやそこばかりは個人じゃ難しいかなー……。
じゃあまずは今積んでる燃料を移そうか。
どこが給油口なの?」
「……提督のえっち」
「何でや」
結局、普通に艤装に給油口はありました。
持って来た手動ポンプで艤装に入っていた燃料を空の缶に移し、僕達はそれぞれ燃料を試してみた。
ハイオクの場合。
「すっごーい!
多分さっきまで入ってた燃料より良い具合かも!
なんていうか、安定してる!
これなら出力最大にしても大丈夫だと思うよ!」
レギュラーの場合。
「んー、まあ良いと思う。
普通……かな?
ハイオクって言うのと比べると、安定はしてないかな。
ちょっとの差だけど」
軽油の場合。
「結構癖があるね。
一度燃えれば出力は高いんだけど、私には向いてないかなぁ……」
灯油の場合。
「動けるだけって感じ。
これじゃあ無理したら艤装が壊れちゃう。
これじゃおっそいよぉ……」
三種類の燃料を三日間掛けて使い切った。
ホテルの窓から射す夕日を浴びながら、僕と島風はホテルで寛ぐ。
「提督、このハイオクっていうの凄いね!
すっごく速いよ!!」
「なあ島風、それぞれの燃料は一缶分全部入ったみたいだけど、それでどれ位補給出来たんだ?」
「え?
うーん……大体燃料一杯になったよ?
ちょっとだけ少ない位かな」
「……マジか。
いやー……マジか。
凄いわ、うん」
「ね、凄いでしょこのハイオクっていうの!
艦の時もこんな質の良い燃料だったらなぁ、もっと速かったのに」
「いや、そっちじゃなくて」
艦娘。
彼女たちの燃費は、僕の思っていた以上に良い物だった。
僕の持って来た缶は一斗缶、18リットル。
それを丸々一個使い切るのに、大体10時間、距離にして360キロぐらい掛かっていた。
島風の最高速は軍艦時の半分、20ノットと言った所。
そしてリッター3,6キロ。
車で考えれば劣悪な燃費だが、現状深海棲艦と戦えている軍艦と比べれば月とスッポンである事は明らか。
「なあ、島風。
弾薬ってどんなのが要るんだ?」
「えー?
普通に火薬と鉄を艤装に入れればそれで良いよ?」
「えっ」
「えっ?」
あ、これアカン奴だ。
これまで立てていた計画が全て崩れ去る音を聞きながら、本来喜ぶべきその知らせに僕は頭を抱えた。