ちんじゅふを つくろう!   作:TNK

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ばれない嘘は最早嘘ではない

ハイ・ローミックス構想。

主に戦闘機の運用構想であり、高価で高性能な機体を要所に、安価で低性能な機体で数を埋める、という物。

 

僕はこの構想を持って、艦娘と言う存在を軍にアピールするつもりだった。

高性能だが鉄量に限りのある軍の艦船と、生産コストもランニングコストも異常に安く深海棲艦と互角に戦える艦娘。

ローの部分……艦娘の方がローと言うには些か性能も良いが、それ自体は問題では無い、どころか嬉しい誤算だ。

 

問題は弾薬だ。

弾薬に関して僕はそれぞれ艦娘の艤装の口径に有った弾丸が必要だと考えていた。

軍の方で弾薬を提供してもらう事を交換条件とし、撮影したビデオを交渉材料にするつもりだった。

 

「でも、鉄と火薬だけで良いってわかって、口実が無くなっちゃったんだ?

……提督ぅ、口実って要るの?」

 

「だって、要るでしょ?

あちらからしたら、僕達は深海棲艦と大して変わらないからね。やれる事といい。

だから、僕が軍に提示するべきなのは、君達艦娘の力ともう一つ、あちらを安心させる材料も提示しなけりゃならない」

 

僕だって、前世の知識が無ければ信頼どころか信用すら絶対に出来なかっただろう。

 

「其処に関しても僕はあまり心配してなかったんだ」

 

「……弾薬が、軍じゃないと確保出来ない、から?」

 

「そう」

 

いくら自衛隊が軍になるほどに深海棲艦が社会に影響を与えたと言えども、ここは日本だ。

アメリカのように銃を手軽に買えたりなんてしない。

まあ、アメリカだろうと艦娘の艤装の口径に合う弾は入手し辛いだろうけど。

 

だから、弾薬が僕達の急所だったならばこれ以上なく都合が良かったのだ。

弾を撃てない銃を怖がる軍人なんていない。

……これまでの島風から察するに、艦娘自身見た目よりも相当な膂力があるんだろうけど。

 

「じゃあさ、必要だって嘘吐いちゃ駄目なの?」

 

「それは最悪の手だね。

僕だけが艦娘を指揮するとは限らないから」

 

艦娘との出会いは説明する必要があるだろうし、仮に説明しなかったとしても艦娘の存在を知ってしまえばいずれその生まれ方に辿り着く。

その時が嘘の終わりだ。

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「いやまあ、一応考えは有るんだけどね。

その前に……」

 

「島風、君、別の服とか欲しくないかい?」

 

【海軍大失態! 陸軍少将死亡確認!】

【当社独占記事! 死亡した陸軍少将の実家は服屋だった! 少将母の慟哭】

 

備え付けのPCのニュース記事に視線を注ぎながら、僕は島風にそう言った。

 

 

 

「……すいませんが、今日はやっていないんです……」

 

「いやいや、僕は彼の友達だったのです。

葬式はまだだろうとは思っていたのですが、居ても経ってもいられず……」

 

「ああ、そうですか……それは、ありがとうございます」

 

「いずれ、実家に遊びに来てくれと。

それが今回になるはずだったのです。

僕は、彼と連れ立ってここに来るはずだったのです……」

 

「おお……おお……」

 

最早、死んだ少将の母は涙ぐんでいた。

俯き、肩を震わせる。

老いた顔に染み付いた皺を、涙が埋め立てる。

僕はその背中をゆっくりと撫で続ける。

 

「……すいませんでした。

取り乱してしまって……」

 

「いえ、自分の息子の事なのです。

情を動かさずに居られますでしょうか。

まして、僕は彼の親友。

身内も同然では有りませんか、存分に取り乱してください。

彼も、それを僕に望むでしょう」

 

「……あの子は、ほんに良い友達を持ったのだねぇ……。

体一つだけでお国の為に軍になんか行ってしまって心配していたけれど、大丈夫だったみたいだねぇ。

ああ、あの子は強い子だったからねぇ……。

……ああ、すいませんね、こんな所で長々と……。

どうぞ、中へ入ってくださいな」

 

 

 

「……と、言う顛末でして。

いや、彼ながら天晴でした」

 

少将の母が少将の話をじっと聞いているのを見ながら、僕は船上で大声を上げながら少将がしていた自慢話をそっくりそのまま話す。

 

無論、件の陸軍少将殿とは僕は友達でも何でもない。

赤の他人である。

だが、友とは近しい物だ。秘密を共有する物だ。

彼が大声で自慢していた様々なその人生の欠片は、イ級により海の底に秘められた。

もう誰も口を利きはしないのだ。

 

後で話の内容を一つ一つ検証されたとしても、それが他の友にも知れている物ならばその人物が証人となるし、知れていない物でも検証する人が必死こいて集めた情報が証人となる。

本人が話していた内容なのだから。

仮に嘘が入っていたとしても、大声で嘘を吐くような人物の人格などたかが知れている。

あの船上の時に初めて嘘を吐いた、などその方がおかしい話だ。

 

「……と、もう夕方ですな。

申し訳無い、僕達はもうこれで帰らねばなりません」

 

「あらあら、そうですか。

……また、いらしてくださいな。

この年で一人では、寂しくて仕様が無いのです。

妹さんも、また来てね?」

 

島風が、こくりと頷く。

 

「ええ、是非。

……ああ、ついでに服を買って良いでしょうか?

今日はやらないとは重々承知なのですが、彼が常々家は良い服を仕入れているのだと言っておりまして。

彼の供養がてら、買わせてくださいな」

 

「あら、そう言う事ならどうぞ好きに持って行ってくださいな」

 

「……よろしいので?」

 

「お金よりもっと良い物を頂きましたから。

陸さんの所に行ってからのあの子の事、私手紙でしか知りませんでしたので……」

 

「では、有り難く。

じゃあ、島風。

ご厚意に甘えて頂くとしよう」

 

「あら、もし良かったら見立ててあげましょうか?」

 

「ああ、お願いいたします。

見ての通り派手な物で、そろそろ本当に良い服を一揃いなりとも持ってほしいと思っておりましたもので」

 

「あらあら、それでは私も頑張らなくてはね」

 

 

 

「どうも、本当にありがとうございました。

それでは」

 

「……ありがとーございました」

 

「はい、島風ちゃんも。

またお兄さんと一緒にいらしてね?」

 

ぺこり、と島風が頭を下げ、僕も頭を下げる。

ずっと手を振ってくれていた少将の母の姿が見えなくなる。

丁度その辺りに隠れていた連装砲ちゃん達と艤装をついでに貰ったリュックに仕舞い込むと、島風が口を開く。

 

「……なんで嘘吐いたの?

良い人だったのに」

 

「おお、このコートいい仕立てだ。

……都合が良かったから、に尽きるね。

未だに海は陸と仲が悪いから、陸の少将だったお母さんに聞き込みなんて出来るはずが無い。

ましてや海の領域で死んだのだから。

そして都合よくそこが服屋だった」

 

「なんで聞き込みなんて気にする必要が有るの?」

 

「沈んだ事がニュースになったって事は、沈んだ事を把握したって事。

であれば、僕は死んだはずの人間になるんだ。

僕の事がばれれば君の事もばれるし、そうなればこれまでの準備も無駄になる。

だから、早々に僕と君は身を隠さなきゃならないのさ。

少なくともこの呉からは、ね。

……正直、僕としても踏むべき手順が迂遠になるから、こうしたくは無かったんだけどね。

出航した港の顔写真付きリストを軍が取り寄せてるってニュースで言ってたから、こうせざるを得なかった」

 

「だから服を変える必要が有ったんだ。

それも、服を買った事をばれないように」

 

「そういう事」

 

「……こういう事、いつもやってるの?」

 

「おや、何でそう思ったの?」

 

「凄く手慣れてた」

 

「御明察、僕はこうして生きてきた」

 

「……もう、あのお婆さんの所には行かないの?」

 

「いや、行くよ?」

 

「え?」

 

「僕は嘘は幾らでも吐くけど、嘘の嘘を吐く気は無いよ」

 

「嘘の嘘って何?」

 

「例えば、また行くって言ったお婆さんの所に行かなかったりとかかな。

嘘を吐いたら、それを本当にするようにしていくんだよ」

 

「……私さ、まだこの体になったばかりで、人間の事とかよく解らないんだけど。

でも、嘘が悪い事と、提督の言う事がとっても大変だって事は解るよ。

嘘を吐けば吐くほど大変になっていくって事も」

 

「だろう?

でも、だから僕は今こうして生きているんだ」

 

「生きるのって大変なんだね」

 

「そうさ、大変なんだよ」

 

静かな街角には、海からのさざ波が微かに響いていた。

 

 

 

「やっぱりこういう時はアナログだよね。

死んだ男の携帯からのGPS反応とか洒落にならないし」

 

僕は波の音を背に、地図を開いていた。

足回りには草木が生えている。

僕達は、呉の郊外に来ていた。

 

「提督、これからどうするの?」

 

「そうだね、まずは君の弾を補給して……。

都市伝説を作るとしますか」

 

「?」

 

「実はね、もう最初の仕込みは終わってるんだ」

 

その頃、ネットでは有る動画が話題になっていた。

それは盗撮映像のようだった。

崖の上から撮影しているらしく、画面一杯に海面が映されている。

だが、その映像で見るべき所は其処では無かった。

 

イ級。

深海棲艦の中で最も弱く、最も多く、それ故に最も船を沈めた存在。

それを一蹴した、一人の少女の姿。

 

海の女神の噂は、この映像から始まったのだ。

後の歴史家はそう言った。

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