ちんじゅふを つくろう!   作:TNK

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釣られたのはどちらか

「例の女神目撃したけど何か質問有る? っと」

 

「ラブホ、っていうのって至る所にあるんだねー。

……わー、ベッドって回るんだー!

あ、提督提督、これ押したら照明の色変わったよ!」

 

「ラブホの設備って時々突拍子も無い物あるから余り弄るなよー。

テレビも付けちゃ駄目だぞー、君にはまだ早い」

 

都市伝説の生成は順調だった。

何せ実際の映像が最初に出て来たのだ、火の有る所に煙を立てる事など造作もない。

というか、森林火災が起こったような有り様で放置していても凄まじい数の尾ひれが付くレベルだ。

 

ただ、それとは別に問題があった。

 

「ねー提督ー。

そろそろ艤装の整備とか修理とかしたいよー」

 

そろそろ島風の限界が見えて来たのだ。

島風は良くやってくれている、事実まともな被弾は一発も無い。

だが砲弾の破片や回避した魚雷の爆風……所謂カスダメが積もって来ている。

島風の自己申告をゲームの頃に当てはめるなら、小破。

HP残量7割程度、辛うじて緑色が差している黄色、と言った所だろうか。

 

「僕もしてやりたいのは山々だけど、生憎こればかりは伝手が無いよ。

そもそも、軍に取り入ろうっていうのも君や後に続く艦娘達の艤装の整備やらがあるからだしね」

 

ああ、ドックが欲しい。

 

「というかこれまで聴く機会が無かったけれど、君たちのそれはどうやって整備するんだい?」

 

「提督、その機材……パソコンだっけ?

提督はそれを修理することが出来る?」

 

「いや、出来ないけど……そうか、そんな感じなのか」

 

詰まる所、島風はスペシャリストでなくユーザーなのだ。

使う側であって、作る側・治す側では無い。

まあ、確かに島風は整備される側であったのだから当たり前と言えば当たり前か。

 

……ドックとまでは言わない、明石が居れば……。

ああ、そうか。

妖精さんの方も必要になるのか。

それが文字通りの妖精になるのか、隠語としての妖精になるのかは別としてそう言う人員も必要になる、か。

こうして考えると、改めて戦いと言う物は贅沢な物だ。

 

「というか提督、何で私ばかりなの?

新しい艦娘を呼べばいいじゃない」

 

そう言って島風が僕の眼下を指差す。

そこには、あの時見た、変な反射光をした欠片が一欠けら、布に包まれていた。

 

最初の深海棲艦のフレンドリーファイアで一つ、島風があれから追加で二体倒して、撃破数五から一つ。

統計学としては成り立たない検証数だが、少なくともこれで欠片は二分の一の確率で出て来ている。

 

正直な所、多いな、というのが僕の感想だ。

二分の一で新しい艦娘。

これでは組織的に艦娘を運用すれば凄まじい勢いで数が増えて行く。

何せネズミ算なのだから。

いや、実際前世の時でも全提督の艦娘の数は凄まじい物になっていただろうけど。

 

そうなれば、この深海棲艦戦争では、いわゆる戦術的勝利は楽に取れる。

だが……。

 

いや、これについては考えてどうにかなる物では無い。

それに、もう僕は島風を呼んでいる。

其処に関しては、もう考慮するような域を大幅に超えている。

やる他無いのだ。

 

「でも、やっぱり私達は提督が居ないと駄目みたいだね。

私が触っても、艦娘にはならなかったし」

 

そう、今回の島風は実にお手柄だった。

欠片を持ち帰ったのみならず、その性質の一つも解明できた。

 

艦娘は、提督ありきだ。

提督無くして生まれない。

実に都合が良い、提督となる者にとっては。

 

「インプリンティング、か」

 

はてさて。

 

「噂話としては、対象の姿は一種類の方が良いんだけど……仕方ない、か」

 

そして、僕は欠片に触れた。

 

 

 

「航空母艦、鳳翔です。

不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

光が収まった所には、和装の女性。

航空母艦、鳳翔が其処には居た。

 

「おお、航空母艦か……。

航空母艦かー……」

 

「あのう、何か私、粗相などしてしまったでしょうか……?」

 

「提督、鳳翔さん虐めちゃ駄目だよ!」

 

「ああいや、粗相なんてしてないし、虐めているつもりもない。

航空母艦がいるって言うのはそれだけでやれる事が広がるしね。

だけど……」

 

ボーキサイト、どうしよう?

 

 

 

ボーキサイト。

艦これにおいて艦載機の補給の時に消費するこの物資は、現実ではアルミニウムの原料だ。

というか、アルミニウムが艦載機に使われているので艦載機補充がボーキサイトなのだと思われる。

 

さて、このボーキサイト。

アルミニウムにする時に、非常に大量の電気を使う。その性質から電気の缶詰と呼ばれるほど。

それもあって価格競争に弱く、既に日本にボーキサイト製錬事業は全て拠点が海外に移転している。

つまり。

 

「ボーキサイトはどうにもならないよ……」

 

燃料、火薬。修復が出来ない為確認できていないが、恐らく鉄。

それら三種と比べて、入手難易度が圧倒的に高いのがボーキサイトだったりするのだ。

というか、日本津々浦々を探し回って見つかれば恩の字というレベルだろう。

強いて有るとすれば科学系の大学かどこかの標本くらいじゃないだろうか。

 

「……鳳翔さん、艦載機の補充って何で出来ますかね?」

 

「提督、さんなど付けなくても、呼び捨てで構いませんよ?

……艦載機ですが、そうですね、提督の言う通り、ボーキサイトがあればそれで補充できるかと」

 

もしかしたら弾薬の時のように上手い事行くのでは、と思っていた僕の希望は、儚く散った。

 

「やっぱりボーキサイトか……」

 

確か、ボーキサイトの産出国一位は……。

 

「オーストラリアかー……」

 

パソコンで検索し、思わず僕は天を仰いだ。

 

南方海域。

ゲームの海域で言えば、五つ目の海域である。

 

無論、ゲームのように一つ一つ海域を攻略して行かなければならない訳では無い。

だが、少なくとも深海棲艦の陣営はゲームと同じように非常に強力な陣営らしい。

制海権は言うに及ばず、輸送船団を送り出す際もその結果が速報で乗るほどには毎度激戦になるのだとか。

軍との連携も取れず、補給も開発も改修も改造も行えない今ではボーキサイトの安定輸入など夢物語も良い所だ。

 

「……アルミニウムじゃダメなんですかね?」

 

「その、艦載機に使える質かどうかが解りませんので……少し、厳しい物があります」

 

「出来る可能性はある、と?」

 

「望み薄ですが」

 

そう言いながら、鳳翔は肩に背負った飛行甲板の一部を開く。

あ、そこから入れるんですか。

 

 

 

深海棲艦発生から10年。

そこまで来ると、民間までその環境に適応しているものだ。

それは普通に考えれば良い事ではあるが、僕達の目的からすると非常に厄介だったりする。

 

正直な所、僕のやってるようなある種の広報活動はこのご時世では限界が見えている。

人助けをやる機会も民間人が慣れている為にそもそも危険を冒す事が少なく、仮に遭遇したとしてももし失敗でもすれば積み上げた評判がそのままこちらに襲い掛かる。

彼らにとっては軍が居るのだ、艦娘だけに頼り切りになる必要は無い。

 

だからこそ、頃合いを見て軍と接触せねばならない。

では、軍の誰と接触すべきなのか?

 

「……流石に、二隻になれば効率が上がるな」

 

航空母艦は非常に強力な艦娘である。

だが、戦い方と言い性能と言い派手さの塊であるような島風と比べれば、些か地味だった。

というのも、改造していない鳳翔の持参する艦載機は99式艦爆一つだけ、同時に発進できるのは8機であり、残量も8機と貴重な物。

蝗の如く発艦出来るならまだしも、少数の精鋭の、しかも損耗を最大限避けるような精密爆撃は半ば暗殺者のような物で、見栄えはしない。

 

だから、当面は新しい艦娘を集める事と力量を上げる……レべリングを主な目的としている。

 

「提督、すいません。

本日も件の欠片は出ませんでした」

 

「いや、こればかりは仕方ないよ。

それよりも、今日も完全勝利……無傷でやれたんだ、そちらの方が大事だよ」

 

イ級三体、軽巡ホ級一体。

一体のところを艦載機で爆撃して先制打を与え、釣り上げて来た処を五連装酸素魚雷3門で吹き飛ばす。

外す酸素魚雷も多く、弾薬を大量に消費してしまうが、現状においては少しでもダメージを貰う方が問題だ。

……やっぱり、まともに連戦を考えると甲標的じゃないと先制雷撃は無理か。

連戦の合間に補充する訳にもいかないし。

 

「……提督、よろしいのですか?

これまで提督はキネマを撮って民間に流し、私達が受け入れられ易いように尽力して下さっていたと聞いています」

 

「……キネマって、古いなぁ。

ああ、うん。

島風の映像自体はある程度撮り溜めて有るから、放出のスパンを変えればいいだけだからね。

それに、君が映っては"困る"」

 

「……成程。

提督、後で聞かせて頂いても?」

 

「勿論だ。

だけど、その前に一つ、聞かせて欲しい。……」

 

僕の問いは、実に酷い物だったと思う。

少なくとも艦娘として生まれて間もない鳳翔さんに提示する物では無い。

それどころか、どの艦娘であろうと提示するのは躊躇われる物だ。

だから二つ目の欠片に触る事を躊躇していた。

 

「解りました」

 

故に、決意を込めた眼で僕の問いに、いや頼みを承諾してくれた鳳翔さんに。

僕は申し訳無く思うと共に、有り難くも感じていた。

 

 

 

真夜中。

もう水平線に幽かに見えるほどに遠くなってしまった呉の港は、しかしそれでも動かない蛍のように灯りを灯している。

その光景を映し出していた窓をカーテンで閉め、ベッドに眠る島風を揺すり起こす。

島風は眼を擦りながら枕元の備え付きの時計を見やり、ぐずる。

 

「……提督、まだ夜じゃん……。

もうちょっと寝せてよ……」

 

「いいや島風、そういう訳にはいかないんだ」

 

「突入!」

 

直後、扉は強引に開け放たれ、正体が解らないほどに武装した男達が押し入ってくる。

 

「島風に連装砲ちゃん、良いんだ。

抵抗はするな」

 

それに反応した島風と連装砲ちゃんを僕は手で押し留める。

 

「提督!なんでっ……。

……なんで、そんな服になってるの?」

 

抗議の目線を送ろうとして僕に眼をやった島風は、その抗議を忘れて僕の格好に疑問を放つ。

 

「なんでって、これから招待されに行くんだ。

正装をするのは当然だろう?

……さあ、僕は丁寧なエスコートを願いますよ、"海軍さん"?」


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