ちんじゅふを つくろう! 作:TNK
まあ所詮些末なSSですので、皆さん真面目に考えずただの娯楽としてふわっと考えて頂ければ幸いです。
「ボーキサイト、ですかぁ……?
アルミじゃいけませんので?
確か件の艦載機の補給も、アルミで何とかなったそうじゃあないですか。
彼らに一円玉でも渡せばボーキサイトはそれで解決するのでは?」
開発について妖精さんに言われ頭を抱える僕に、所長が言う。
「確かになんとかなるにはなんとかなったんですが。
何と言いますか、人間で例えるならば、食事をとらずに栄養剤だけを服用して生きる様な物みたいなんですよ。
ちょっと待ってて下さいね……ああ、ありました。
アルミだけで鳳翔さんに補給して貰った時に出来た物なんですけれど、見てください。
フレームだけしかないでしょう?
多分、余剰な成分で発動機や何やらを作っているんです」
「なるほどなるほどぉ、解ってきましたよぉ!
詰まる所、艦載機の補充はこれまでアルミとその他ボーキサイトに含まれる成分……二酸化ケイ素や酸化鉄も投入して補充していたと!」
「そうなります。
無論別々に投入しても補給はできるので短期的には良いかもしれませんが、長期的に見ても大丈夫、なんて楽観視は出来ません。
だから頭を悩ませていた問題では有ったんですが……。
今回ついに問題が表面化してしまった、と言う次第でして」
正直、これに関しては弾薬にも同じ事が言えるのかも知れない。
この場合、本来は加工すべき……肉であれば焼くべき物を、生でも食べられると食べている様な物、だろうか?
確かに生肉を食べる事でビタミンを補充するような食文化だってあるにはあるが、人間ですらマイナーな文化だ。
艦娘が全てにおいて都合の良い存在だとは思わない方が良いだろう。
「アルミを製錬する為にボーキサイトが必要なのでは無く、ボーキサイト自体が必要なのだ、という事ですなぁ!
……しかし、そうなると事ですなぁ」
「そうですね……。
妖精さん達、一応聞きたいんだけども、アルミじゃ駄目なのかい?」
「ラクヲスルコトバカリカンガエテキタニンゲンノハッソウ……ヤセタカンガエ……」
『む・り』と五十音表が踏まれる。
「……開発は、全国各地からボーキサイトを集めてからにするしかないらしいですねぇ。
私の方でも輸入物品にねじ込んで見ますよぅ」
「お願い致します……笹中中将?
どうしましたか?」
さっきから何も喋っていない。
見れば、しゃがみ込んでいる。
ほう、と。
ゆっくりと吐息を漏らしている。
見れば、その掌には妖精さんが一人いた。
おどおどと人差し指で頭を撫でている。
……近づいてきた野良の猫を恐る恐る触っているみたいだ。
あ、妖精さん気持ちよさそう。
「……ああ、すみませんな。
開発でしたか?」
「それは少なくとも今は無理そうだ、という結論に達しました」
ちらりと時計を見る。
……まだ15分か。
仕方ない。
「……あの大きい欠片、触ってしまいましょうか」
所長を止めるにはもうそれしかなさそうです。
というアイコンタクトは無事に通じたようで。
「そうですな、島風君には悪いが、いっその事所長の仮説である欠片のサイズと艦娘の艦種との関連性について調べてみる事にしましょうか」
閃光。
それが収まり。
「よ!アタシ、摩耶ってんだ、よろしくな」
「重巡洋艦か……所長の考察は当たっていたようですね」
「の、ようですな」
所長が胸を張り、ドヤ顔を晒す。
と思えば、何度か胸の張り方を調整し、顔の向きもカクカクと微調整をし、もう一度ドヤ顔を晒す。
……いや、まあ、いいんだけれども。
「……でー、アンタが私の司令官なのか?
こっちじゃなくて?」
そう言って、摩耶は笹中中将を指差す。
確かに、服装が服装だからそう思うのも無理ないか。
「うん、そうだ、僕が君の提督だよ。
まあ、色々と事情が有ってね、僕はまだ軍属じゃない。
そこら辺は、まあぼちぼち説明するけれど……一先ずは、僕達はまだ色々な事を試しながらやって行ってると解ってくれれば、それで良い」
「なんだぁ?
詰まる所、実験部隊か?
おい、実戦はちゃんと出来んだろうなぁ?」
疑い深げな眼で摩耶が僕を見る。
「うん、そこは安心して欲しい。
実験部隊と言うか、全部やらないといけないって所だね」
「何だか面倒くさそうだなぁ……」
「提督ー、ただいま戻りましたー!」
摩耶と話していると、島風が戻ってきた。
「ああ、島風、丁度良かった。
戻って来たところ悪いけれど、鳳翔さんと金剛も呼んで来てくれないか。
……笹中中将の要件を、そろそろ聞かなきゃいけないからね」
そう言って、僕はまた妖精の頭を撫でている笹中中将を見た。
そう、笹中中将は暇さえあればここに様子を見に来るほどに暇人では無い。
れっきとした用事が有って、ここに訪れたのだ。
「大規模作戦、ですか」
「はい、自衛隊から軍に名が変わってから10年。
初の大規模作戦です。
作戦内容は真珠湾確保……アメリカとは敵対していませんので、確保と言うよりは入港になるのでしょうが。
目的は、アメリカとの交易路の確保が出来ればいう事は無し、ですが……まあ、現実的な線で言えば国交の回復の足がかりですな。
海上の深海棲艦を掃討し、深海棲艦の勢力を削ぐ目的も有りますが……いずれにせよ、我々と同じようなものです。
半ば調査目的ですな」
「あれ、提督?
確か、今はいんたーねっと、っていうので世界と通信できるんでしょ?
それじゃ駄目なの?
態々やる必要ある?」
「結構難しい話だねそれは……。
そうだね、君達はある程度理解できる内容だろうけれど、一から説明して行こうか。
まず、インターネットには有線と無線が有るんだけれど、無線だと電波で伝えてるから、電波を拾われて内容を読まれる可能性が有るんだ。
これは良いかい?」
「Yes。
暗号の解析や……電探の逆探知も近いでショウカ?」
「そう、そう言う事。
現代では国単位での通信だと、主に有線が海底ケーブル、無線が衛星通信を使っているんだ。
衛星は兎も角、海底ケーブルは君達の時代にもあったから、解るだろう?
で、海底ケーブルなんだが……深海棲艦が発生すると同時期に全ての海底ケーブルが切断されたらしくてね。
確認にも行けない。
そうなると衛星通信だけれど……曲がりなりにも、大抵の国は慢性的に死へと向かっているとはいえ現状を維持出来ているからね。
衛星通信で扱って漏れたらやばい情報っていうのは山ほどある。
無論、あちら側にもね。
したくても出来なかったんだ。
一応、更に物理的な手段として航空機で一っ跳びってのがあって実際一度行われたんだが……未帰還で終ったよ。
撃墜されたとは聞かないけれど、されたんだろうね。
……笹中中将、そこら辺はどうだったんですか?」
「はい、撃墜されました。
無論、戦闘機のみならず空中給油機も動員して超長距離間の護衛を行いましたが、交代の隙を突かれましてね。
危うく戦闘機や空中給油機も失う所でして、結論としては海上護衛と同等レベルの物量を投入しなければ無理だ、となりました。
無論やるだけのメリットはあるのですが、一度海上護衛を行えるだけの資材を海上護衛以上の半ば賭け事に使うのは……となりまして。
海上護衛はまだ物理的なリターンが見込めますが、航空機では積載量に難が有りますから。
まあ、それはさておき……幸い、と言うべきでしょうか。
アメリカなど、幾つかの国はインターネットによって国の体制を維持できている事を確認できています。
まあ最も、この現代社会、海路が絶たれて無事な国など有りません」
「防衛に徹しているとはいえ、あれが有ってもなお、と考えると流石はアメリカって所だね。
伊達に全部自国で賄える国じゃないって事さ。
……ここまで言えば、話の筋からして予想は出来ているとは思うけれど、今の日本は主にインド、オーストラリア、フィリピン、パプアニューギニア辺りと輸出入をしている」
「……あの、提督。
何故中国などと交易はしていないのですか?
大陸と言うのであれば最も近い場所ですし、深海棲艦は海上から陸地には侵入しないのでしょう?」
鳳翔さんの疑問はもっともな物だ。
「……あー、その……」
笹中中将が言いよどむ。
「笹中中将、良いんです。
私が説明しますよ。
……皆、核って知ってる?
核兵器、原子爆弾の事だよ。
……現代は複数の国が核兵器を所持し、まあ簡単に言えば全員が全員に銃口を向けている訳だね。
そうする事によって引き金を重くして、平和を保っていたんだ」
「だけど、深海棲艦が現れた時。
最初はどの国かはもう解らないけれど、深海棲艦の退治に核を使ってしまった国があったみたいでね。
カウンターとして核が撃たれ、その撃たれた核のカウンターとして……。
不幸中の幸いというべきか、戦略級……それこそ国の十や二十を巻き込むクラスの物は使われなかったんだけど、戦術級の物は飛び交ってね。
当然、核を多く保有している国はそれだけ核が降って来た事になる。
そして、中国……というかあの周辺の地域は核が多かった」
誰も何も言わない。
「インドも核は保有していたんだけどね。
端的に言えば、インドは幸運だった。
大国は大国同士で殴り合っていたのさ。
恐らくはインドに向けられるはずだった核が、飛んで来た核で施設が壊滅し不発、とかが結構あったみたいだ。
無論数発は着弾したみたいだけど、首都がそれを免れた上に内陸だからね、深海棲艦の影響を受けずに済んだのもあって政権と行政機関は無事、国としての体裁を保っている。
中国の状況はその真逆でね……。
日本はその点核を一発も持っていなかったんでね、輸出入のダメージを差っ引けば最もダメージの少ない先進国だと思うよ」
「……と、言った事情ですので。
万が一にでもアメリカとの交易が再開出来れば、いやそこまで行かなくとも双方の事情を双方が理解し、協力できればこの状況の打開策へと繋がる事でしょう。」
笹中中将が言う。
「無論、私もこの作戦で一つの艦を任される事となっています。
提督殿と艦娘の皆さんにはそれに同乗し、共に作戦を遂行して頂きたい」
「……と、言う事は。
そこで"お披露目"、ですか」
「はい、そう言う事になります。
ですので、提督殿には急かすようで申し訳ありませんが、それまでに準備を整えて頂ければ」
「了解しました」
「それでは、長居してしまいましたが、私はこれで」
笹中中将は大分時間が押していたのか、言い終わるとすぐに発ってしまった。
「ねーねー提督、がんばろーね!」
「ああ、島風、頑張ろうな」
「……まさか、2013春イベントとはねぇ」
真珠湾行きのイベント海域。
それは、艦隊これくしょんが始まってから初のイベント。
敵艦隊前線泊地 殴り込み。
「……せめて六隻集めて、改装したいなぁ……」
興奮できゃっきゃと姦しい艦娘達を見ながら、ぽつりと僕はそう呟いた。