Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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10話目:光者

■月の家■

 

僕は机に向かっていた。

 

この部屋は、よく人に「綺麗すぎる」と言われる。

だが僕にとってはこれが普通だ。むしろ、乱雑な部屋というものが理解できない。

 

本棚は一直線に並び、教科書も参考書も背表紙の高さまで揃っている。

ほんのわずかなズレでも、視界に入ると妙に気持ちが悪い。

 

秩序というものは、人間の思考を正確にする。

逆に言えば、無秩序は思考を鈍らせる。

 

僕の机の上には、その秩序の中心のようにして一冊の黒いノートが置かれていた。

 

 

黒く、静かで、

どこか不気味なほど無機質な表紙。

 

僕はペンを指の間でくるりと回していた。

これは癖というより、思考の歯車のようなものだ。

 

考えが深くなるほど、手は自然に動く。

 

僕はここ一週間の出来事を整理していた。

 

世界中の犯罪者が死ぬ。

次々と。

 

しかもその死因は、すべて同じ。

 

心臓麻痺。

 

新聞もテレビも、まるで熱病にかかったようにこの話題を繰り返している。

 

人々は恐れている。

 

しかし同時に、

どこかで喝采を送っている。

 

犯罪者だけが死ぬ。

 

それはまるで――

 

神の裁き。

 

僕は目を細めた。

 

――神。

 

その言葉は曖昧すぎる。

 

神などというものが存在するなら、

この世界はもっと秩序だったものになっているはずだ。

 

現実にはそうではない。

 

この世界は混沌だ。

 

だが。

 

混沌の中にも必ず法則はある。

 

顔。

名前。

情報の公開範囲。

 

僕はこの一週間で集めたデータを思い出していた。

 

犯罪者の情報公開率。

死亡時間の分布。

地域別の報道頻度。

 

それらをすべて表にして、

統計処理をした。

 

相関関数。

 

結果は――

 

0.93。

 

非常に高い。

 

つまり。

 

キラは無作為に殺しているわけではない。

 

顔と名前。

 

その両方が揃った人間だけが死んでいる。

 

その時だった。

 

ガーッ……

 

突然、テレビの画面が切り替わった。

 

僕は顔を上げる。

 

「ん?」

 

画面にはニュースキャスターが映っていた。

 

だがその顔には、普段のニュースにはない緊張が浮かんでいる。

 

「番組の途中ですが」

 

「ICPOからの全世界同時特別生中継を行います」

 

僕の眉がわずかに動いた。

 

「日本語同時通訳はヨシオ・アンダーソン」

 

画面が変わる。

 

そこに現れた男。

 

ミディアムの髪。

整ったスーツ。

 

どこにでもいそうな顔。

 

だが、その男はとんでもないことを言った。

 

「私は全世界の警察を動かせる唯一の人間」

 

一瞬の沈黙。

 

「リンド・L・テイラー」

 

「通称――L」

 

僕の背筋に冷たいものが走った。

 

「な……」

 

思わず立ち上がる。

 

「なんだこいつ……!?」

 

しかし次の瞬間、

僕の脳は猛烈な速度で回転していた。

 

――危険だ。

 

この男は。

 

極めて危険だ。

 

僕は瞬時に計算する。

 

顔。

名前。

 

両方が揃っている。

 

つまり。

 

もしキラがこの番組を見ていたら。

 

この男は死ぬ。

 

僕は唇を噛んだ。

 

――だが。

 

妙な点がある。

 

全世界同時生中継。

 

それはつまり、時差がある。

 

ブラジルなら十二時間。

ヨーロッパでも数時間。

 

もしキラの居場所が分からないなら、

こんな放送は意味がない。

 

夜中の国では誰も見ない。

 

つまり――

 

どこかの地域に当たりをつけている。

 

その瞬間だった。

 

リンドLテイラーが突然胸を押さえた。

 

「ぐっ……!」

 

顔が歪む。

 

手が震える。

 

そして。

 

ドサッ。

 

机に倒れた。

 

動かない。

 

僕は息を呑んだ。

 

――やはり。

 

二人のSPが男を運び出す。

 

黒いスーツ。

サングラス。

 

顔を隠している。

 

僕の思考がさらに加速する。

 

――顔を隠している。

 

――向こうも条件に気づいていた?

 

だが。

 

別の疑問が浮かぶ。

 

――なら。

 

――なぜあの男は顔を出した?

 

その時だった。

 

ガガガ……

 

テレビからノイズ。

 

そして別の声。

 

機械音。

 

「もしやと思って試してみたが……」

 

「まさか本当に……」

 

僕の瞳が見開かれる。

 

「キラ」

 

「お前は直接手を下さず人を殺せるのか」

 

「何っ」

 

僕は机に手をついた。

 

声が続く。

 

「よく聞け」

 

「キラ」

 

「もし今お前がテレビに映っていた男を殺したのなら」

 

「それは今日処刑予定だった死刑囚だ」

 

「私ではない」

 

僕の思考が一瞬止まった。

 

――死刑囚。

 

声は続く。

 

「テレビにもネットにも出ていない」

 

「極秘の犯罪者だ」

 

「さすがのお前でも知らなかっただろう」

 

そして。

 

「だが」

 

「Lという私は実在する」

 

「さあ」

 

「私を殺してみろ」

 

僕は歯を食いしばった。

 

――やはり。

 

顔と名前。

 

それが条件だ。

 

そしてこのLも、そのことを理解している。

 

だが。

 

僕の眉がわずかに動いた。

 

死刑囚を実験台にする。

 

倫理観の欠如。

 

あるいは。

 

それほどまでに強引な人間。

 

この男は危険だ。

 

そしてさらに言葉が続く。

 

「この中継は全世界同時中継と銘打った」

 

「だが」

 

「実際には日本の関東地区にしか放送していない」

 

僕の瞳が鋭く光った。

 

「やはりか……」

 

「お前は今」

 

「日本の関東にいる」

 

さらに続く推理。

 

新宿の通り魔。

最初の犠牲者。

 

日本でしか報道されていない事件。

 

Lは言った。

 

「キラ」

 

「お前は日本にいる」

 

僕は静かに息を吐いた。

 

――概ね。

 

――僕と同じ推理だ。

 

だが。

 

僕は別の角度からも考える。

 

Lの推理は美しい。

 

だが。

 

美しすぎる。

 

最初の殺しが新宿の通り魔だという証拠はない。

 

世界では毎日、心臓麻痺で死ぬ人間がいる。

 

偶然が重なっただけかもしれない。

 

さらに。

 

Lは言った。

 

実験台。

 

その言葉。

 

それはまるで、

最初から殺す能力があり、

試しに使ったかのような言い方だ。

 

普通は考えない。

 

だが。

 

もし――

 

L自身がキラなら?

 

すべて自演になる。

 

僕は首を振った。

 

――まだ強引だ。

 

可能性の一つに過ぎない。

 

 

***数日後***

 

僕は再びノートを見た。

 

そしてパソコンを開く。

 

父のパソコンに侵入する。

 

もちろん痕跡は残さない。

 

警察の捜査情報が画面に表示された。

 

僕は読み進める。

 

――キラは学生の可能性。

 

その翌日。

 

二日連続。

 

一時間ごとに二十三人。

 

僕は目を細めた。

 

――死の時間を操れる。

 

そして。

 

もう一つ。

 

キラは警察の情報を知っている。

 

つまり。

 

警察内部。

 

あるいは。

 

警察関係者の身内。

 

僕の指が止まる。

 

――キラの狙いは何だ?

 

警察の情報が漏れている。

 

この事実は無視できない。

 

僕は静かに考える。

 

――警察に知らせるべきか。

 

匿名で。

 

内部告発として。

 

父さんに相談することもできる。

 

だが。

 

僕は首を振った。

 

――それはできない。

 

ハッキングが知られる。

 

それはまずい。

 

僕の瞳が静かに光る。

 

――僕が狙っているのは。

 

――その先だ。

 

確かめたいことがある。

 

僕はキーボードに手を置いた。

 

そして小さく呟いた。

 

「……匿名で送るしかないな」

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