大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 数々の企みを積み重ねてきた結果、外圧に耐える体制を整えた大阪鎮守府であったが、それが逆に色々と別な意味で問題を生み出すことになるという負の連鎖、新たな問題に立ち向かうという一歩を踏み出した第二特務課の明日はどっちだ!

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/10/09
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。


大坂鎮守府人事会議

「"peeping tom"...engage deepdive start」

 

 

 左の眼窩(がんか)に納まっている義眼を通じてチリチリと何かが染み込んでくる、それが頭の中身を鷲掴みにするか様な錯覚を引き起こし、顔を顰めた瞬間残った右目から視界を奪う。

 

 

「脳圧想定内、一式電算機"轟改(とどろき かい)"との接続確認、バイタル微増」

 

 

 五体の感覚が徐々に抜け落ち、別の物に侵食され、侵食していく。

 

 

「母艦への支配率七割を超えます、これより提督側に異常が無ければカウント360の間接続状態を維持、以降自動切断シークエンスに入ります、You have control?」

 

 

「I have control」

 

 

 人ならざる感覚に精神が追い付かず、戸惑った視線に映り込んだそれは360°全てを視認しているという在り得ない視覚と、出来の悪いポリゴンで構成された青一色の大海原。

 

 人の体という感覚は一切無く、代わりに経験した事の無い違和感が嫌悪感を際立たせ、動ける事は理解しているのに動かし方が判らない(・・・・・・・・)という理不尽に軽く頭が混乱する。

 

 

「バイタル上昇、提督、大丈夫ですか?」

 

「ああうん、思ってたよりコレ気持ち悪い、って言うかどうやって動かせばいいのコレ?」

 

「どうやってと言われてもですね、うーん……こう、うーん」

 

「むしろ仮想テストだからって周りの背景適当過ぎ! なにこのう○こポリゴン、マジで適当過ぎるデショ!」

 

「う○こて…… 脳神経に直接情報流すなんて前例が無い試みなんですから、なるべく情報量を削って負荷を軽くしてるんですっ!」

 

「いやだからってのっぺりした海っぽいとこにマ○オとかル○ージ浮かべてどーすんの、アレもしかして深海棲艦のつもりなの? ねぇ!?」

 

「カー○ィとかヨッ○ーにでも差し替えしますか?」

 

「そういう問題じゃないっての!」

 

「あ! 提督主砲がミュインミュイン動いてますよ! 今どこを動かした感覚でした?」

 

「いやどこと言うか……うーん、うーん?」

 

 

 夕張の言葉に意識を集中し、今の感覚を言葉にしようとするが、それが何なのかが理解出来ない。

 

 意識は明瞭なれど、今の自分は船という物体であるという今まで経験した事が無い感覚、手足を動かすという当たり前の事も出来ず、ましてや呼吸すら必要としない現状は不自然さの極みを感じさせ、無駄口を叩いておかないと正常な意識を保てないのではという恐怖に苛まれる。

 

 

「私達は前世が船ですから感覚的にその状態を受け入れる事に違和感は無いんですが、人が船としての感覚に馴染むにはやっぱり無理があります、提督はどうやって自分が食べ物を消化してるのかとか、どうやって心臓を動かしているのかなんて他人に説明なんて出来ないでしょ?」

 

「その為のテストの筈なんだけど…… まさか操舵すらままならないなんて想定外だったなぁ」

 

「取り敢えずまだ火器管制部分のソフトは構築中ですから、今は慣らしという事で無理しないで下さいよ……あ、engage shut down までカウント10、取り敢えずお疲れ様でした」

 

「お疲れさん夕張くん、しかしこれは予想以上に難解だねぇ……どうしようか」

 

 

 バツンという音が頭の中に響き、唐突に意識を投げ出された感覚に陥り顔を顰める、同時に胃の腑から湧き上がる不快感と、閉じていた右目の視界が戻ってくる。

 

 そこに見えるのは泣きそうな表情でこちらを見る表情の夕張が、こちらの顔や首元をタオルで拭いているという光景。

 

 

「感覚は戻りましたか? 接続を切る時戻しちゃいましたから吐瀉物で窒息しない様にって……」

 

 

 感覚が完全に失われても体は反応しており、感じた不快感の為に吐いたそれは仰向けのままでは窒息の可能性があった、その為夕張が吉野を抱きかかえ、急いで吐瀉物を処理していたというリアル。

 

 

「すまない、君までゲロ塗れにしちゃったね」

 

「……本当に、無理はしないで下さい」

 

「ああ、そうだね」

 

 

 こうして大坂鎮守府地下3Fにある実験用ラボではゲロまみれの髭眼帯とメロン子がしょげ返ると言う、とても残念な状態でとあるテストが終了した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで、母艦とのデータリンク試験は提督がゲロッちゃって終了?」

 

「いやゲロッたから終了したんじゃなくて時雨君、終了時にゲロッたというのが事実であってだね」

 

「どっちにしてもその試験でゲロッたんでしょ? 何してんのさ提督はもぅ」

 

「いや慣れたら多分もうゲロる事は無いと思うんだけどなぁ」

 

「でも慣れるまでゲロるんでしょ? 窒息する危険があるなら何か対策を立てた方が僕はいいと思うんだけど」

 

「んーだねぇ、どうしようか、試験前は絶食して胃の中を空しておくとか? それでゲロ対策はOKなんじゃ」

 

「提督、時雨ちゃん?」

 

 

 テーブルで差し向かいでのゲロ談義中であった髭眼帯と小さな秘書艦が首を傾げ、声の主の方向を見る。

 

 そこには割烹着を着た間宮界のドン、元祖間宮が心の篭っていない営業スマイルでこちらを見ている、と言うか笑顔のまま殺意の波動を垂れ流している。

 

 二人が居るのは甘味処間宮、時間はヒトゴフタマルおやつの時間、他にも店内は甘味を求めて幾人かの者が微妙な表情で遠巻きにこちらを見ている状態。

 

 休憩時にまったりとアンニュイな午後を楽しむ雰囲気の店内で、ゲロという汚物的キーワードを連発する者をドン間宮がスルーする訳も無く、激オコプンプン状態で不埒者を始末に掛かるという非常事態。

 

 

「何の話、してはりますの?」

 

「……えっとその業務に於いてののっぴきならない事情のアレがまぁはい……」

 

「まだその話は続くんどすか?」

 

「イエ、モウシュウリョウシマシタ」

 

「そうどすか、そらよろしおした」

 

 

 にこやかにバックヤードに消える夜叉を目で追いプルプル震える髭眼帯と、殺気に()てられ一瞬銀髪になるボクっ娘秘書艦。

 

 大坂鎮守府元祖間宮、そこは艦娘達の憩いの空間であり、所属する鬼や姫すら敬語になる程の殺気を放つオーナーが取り仕切る、厳格なルールがある治外法権でもあった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで? 今回の試験は芳しくない結果にはなったが母艦の建造自体は順調なんだろう?」

 

「だねぇ、予定だと来月の中頃には竣工してると思うよ」

 

「なら取り敢えずは問題ないではないか、提督が無理してシステムを掌握しなくても母艦として使用可能ならば問題はあるまい?」

 

「まぁそれはそうなんだけど、そうなると自分って母艦の中で置物状態になっちゃうし」

 

「て言うかテイトクはまだ現場に出るつもりなんデスか? 一応将官は無断で現場に出る事は軍規で禁止になってたと思うんですケド」

 

「いやそこはそれ、万が一って可能性もあるじゃない?」

 

「長門さん、金剛さん、提督がこうなっちゃったらもう好きにやらせるしか無いよ、諦めよう?」

 

 

 引き続き甘味処間宮、時間は進んでヒトロクマルフタ、店内は中央の卓に就く吉野とその隣に陣取る時雨、向かいには長門に金剛というメンツ。

 

 他の者は店内にはおらず其々は寛いではいるものの、四人の前には幾らかの紙束と筆記用具が転がっており、甘味処であるにも関わらず絶賛会議中と言う大坂鎮守府ならではの緩い世界が展開されていた。

 

 厨房からは夕食の仕込みをする音が聞こえ、厨房妖精さんに指示を出しつつパタパタと忙しなく動く間宮と伊良湖の姿、所属の艦娘が少ないからこその独特な自由がそこにある。

 

 

「ふむ、まぁその辺りは程々にしておくのだな……工廠で夕張が泣いていたぞ? 余り心配を掛けてやるなよ」

 

「あー、うん、善処します」

 

「まぁその話は取り敢えずとしてだ、提督から指示されていた鎮守府の各部門の立ち上げと責任者の選定はとりあえず済ませておいた、だが増員される人員の絞込みが(いささ)か難航していてな」

 

「これがその中間報告書デース、取り敢えず私達が詰められるのはここまでが限界デスネ、後はテイトクの"鶴の一声"で決めるのが一番丸く収まると思うのでお願いシマス」

 

 

 現状大坂鎮守府は業務準備に追われ、鎮守府として機能させる為に内部組織の立ち上げとその整理、そして支援艦隊を出撃させる為に轟天号の代わりになる母艦を建造中。

 

 それに伴い増員される艦娘の艦種を絞り込み希望を大本営へ上申する為の作業に加え、既に教導受け入れに先立ち鎮守府入りしているクェゼリン第一艦隊旗艦の霧島とスケジュール調整と、業務内容は多忙を極めていた。

 

 基本業務は担当する艦娘が受け持つ形で分担しているが、決済や許可は司令長官が出さないといけない関係上席を外す事が多くなってしまう為、いつでも呼び出しに応じられる様急遽鎮守府内限定のネットを敷設し、端末片手に吉野があちらこちらに足を運ぶという日常が常態化している。

 

 

「んーと、どの辺りまで人員の絞込みは終わってるのかな?」

 

「取り急ぎ水雷戦隊をもう一つ編成出来るだけの人員は必要だな、最悪それが無理でも先に軽巡は一隻は確保せんとならんだろう、なんせウチには軽巡は球磨しかおらんし負担の分担がままならん、緊急支援に関してはこちらの水雷戦隊を出すと想定しても、守りは友ヶ島にある程度負担して貰うという形でいけば暫くは運用が可能だ」

 

「水上打撃艦隊と空母機動部隊は?」

 

「欲しい人員としては正規空母系があと二隻、戦艦も最低は一隻……贅沢を言うなら二隻といった所か」

 

「駆逐艦は建造してしまった方がいいデスネ、戦艦や空母系は基本戦術的に運用はどこでも同じになりますケド、駆逐艦は万能艦デスから所属してる拠点でそこの色に染まってしまって得手不得手(えてふえて)がハッキリしてしまいマス」

 

「なる程ね…… じゃ先ずは軽巡からと、こっちは二隻に絞り込んでる感じだからこのまま上申しようか」

 

「そうだな、後は航空母艦は前線に行くという事を考えれば装甲空母が望ましいが、そこまで育った戦力を出してくれる拠点は恐らく無いと思う」

 

「だねぇ、最悪その辺りも建造に頼って、暫くは加賀君と大鳳君に出て貰うしか無いかもね」

 

「じゃ鎮守府の哨戒はグラーフさんとか龍鳳さんが受け持つの?」

 

「軽空母も増員が必要ですネ、海域によっては正規空母では進めないエリアがありますし、龍鳳は守りに向いてないとオモイマス」

 

 

 着々と絞り込まれるリスト内容、周りの意見を聞きつつ手元の書類に訂正を加えページをめくっていく、が、そのリストにある名称を見た吉野は怪訝な表情になる。

 

 何度か書類と目の前に座る戦艦に視線を投げつつ、そこに記されている名称を心の中で咀嚼する。

 

 

「……長門君」

 

「何だ?」

 

「えっとこのリストにある武蔵って……」

 

「ああ、提督も知ってるあの武蔵だが、それがどうした?」

 

「いや逆にナガモンどうしたのって提督の方が聞きたいです! 何で補充人材の中に大本営第一艦隊旗艦の名前が入ってるの!?」

 

「うん? 希望を出すなら質の高い人材の方がいいだろう?」

 

「ヤメテ! これ以上波風立てないで! これ以上敵が増えると提督死んじゃうから!」

 

「ほら言ったじゃナイデスカ、そこはやはりアイオワ辺りにしておくべきだと」

 

「それ艦隊本部に真っ向から喧嘩売ってるからね!? むしろ色々国際問題に発展するからヤメテお願い!」

 

「え~ アイオワは随分乗り気だったんですケド」

 

「ヤメローーー! 提督の知らない所で外堀を着々と埋めていくのはヤメローーー!」

 

 

 通常なら笑い話とも取れるこんな話題、しかしここは大坂鎮守府である、それが本気で実行されたならあのoh淀があっちこっちに陰謀を巡らせ、更に元老院をバックに持つ将官という立場でそれを実行したらシャレにならない事になるのは間違いない。

 

 ただの佐官がやらかして上からお叱りを食らうという今までとは違い、中将がご乱心して組織が割れるという緊急事態に発展してしまうという仁義無き戦いが発生する。

 

 立場が上になると言うのは権力が増すというメリットよりも、繋がりと責任が増すデメリットの方が遥かに増すというのはどこの世界も同じ構図に違いない。

 

 故に組織の上に立つ者はハゲ度が高い傾向にある、ハゲの幹部は有能であり、フッサフサの幹部は無能と言うのはある意味真理なのである。

 

 

「そう言えば横須賀の第一には翔鶴が居たな」

 

「それを言うならこの前演習に来てた艦隊本部の大佐は秘書艦に瑞鶴を連れてマシタネー」

 

「ふむ、ならもう一度演習を仕掛けてだな」

 

「だからヤメテ!? その360°余すとこ無く全方位に喧嘩売るのヤメテ!」

 

 

 悶絶して突っ込む髭眼帯に首をチョコンと傾げ、意味が判らないという佇まいの戦艦二隻。

 

 プルプル震える吉野がヘルプを求める為に横に視線を巡らせると、そこにはフンフンと鼻歌交じりで書類の裏に何かを書き込む小さな秘書艦。

 

 

─────────

白露

ボク

村雨(没)

夕立(済)

五月雨さん(?)

涼風

春雨(MIGO)

海風

江風

山風

─────────

 

 

 書かれるそれは、白露型シスターズの名前が揃い踏みの意味不明な走り書きである。

 

 むしろそこに書かれている春雨に至っては以前査察に訪れた部隊の艦娘の名前を指定しているという謎の羅列。

 

 

「……時雨君?」

 

「ん? 何かな?」

 

「それ……そのメモは……」

 

「ああこれ? やっぱ建造するなら白露型だよね、それで今色々纏めてる最中なんだけど」

 

「エ? ドイウイコト?」

 

「えっと、死んじゃった村雨は仕方ないとして、ボクと夕立と彷徨ってる五月雨さん、後はこの前の春雨を抜いたら残りは五人じゃない?」

 

「ああうん妹さんは残念だったね……てかそのリストって」

 

「うん? だからボクと夕立が今居るでしょ、そして五月雨さんと春雨を呼ぶとしてほら……後は建造枠五人でピッタリ」

 

「何が!? 何がピッタリなの!? 一体何の野望抱いちゃってるの時雨君!? てかその妹さんの横に書いてある(没)て色んな意味で不憫だからヤメテ差し上げて!」

 

 

 どこぞの駄目な性癖を持つ提督の如き台詞を吐く秘書艦に危機感を覚える髭眼帯。

 

 メモの名前横に並ぶ(没)だの(済)だの(?)だの(MIGO)だのという雑さは何だと言う疑問もあるが、ここは大坂鎮守府である、建造が禿げ散らかすのがデフォのこの世界にあって、建造の成功率が脅威の100%を誇る工廠がある拠点なのである。

 

 その建造計画メモ(仮)を読んで『アハハーソウダネ』とか言ってしまうと、恐らく次の日には大坂鎮守府で白露型カーニバルが開催され、更に艦隊本部から春雨を引き抜こうとした挙句、色々ヤバい人物がポン刀片手に突貫してきてカーニバルがトマト祭り宜しく真っ赤に変貌するのは不可避な事態に陥るだろう。

 

 

 取り敢えずその辺りを回避する為メモを封印させ、無理矢理話題を他艦種に振りつつ話を進める事にする。

 

 因みに吉野のプルプルは納まったが、代わりに小さな秘書艦が頬を膨らませて吉野の膝をチョップし始めた為に、声が某いっ○く堂の如き聞き取り難い状態なのはまぁお察しである。

 

 

「後は航空巡洋艦が居れば重巡枠も兼ねるから丁度良いと思うんだが」

 

「航巡かぁ、割と希少な存在だからその辺りも建造に頼る事になりそうだねぇ」

 

「そう言えば足柄がお助けダイヤルに移籍希望の航巡から電話があったとか言ってマシタネ」

 

「ウチに?」

 

「Yes 何でもそこの提督と折り合いが悪いとか、裸土下座がどうとか……後は何かマジマジとか意味不明な呟きを連呼してたらしいデース」

 

「今なんか聞いてはいけないキーワードが混じってた気がするんですけど……」

 

「まぁ足柄はキ○ガイはお断りとか言って、相手の連絡先も聞かずに電話を切っちゃったみたいデスけどネ、HAHAHA!」

 

「ナニソレ……」

 

「むしろ航巡なら大隅殿に頼んで利根をよこして貰ったらどうだ?」

 

「あ~ でも第一艦隊の艦を抜くのはちょっと控えたいんだけどなぁ」

 

 

 難しい表情でペシペシと膝チョップを食らう吉野。

 

 そこにポンポンと肩を叩く衝撃が加わり何事かと振り向けば、一航戦の青いのがボリボリとサルミアッキを噛み砕くと同時に羊羹をムーチャムーチャしている。

 

 

「……何かな加賀君」

 

「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 

「ああうん逆にそこの妖怪紅茶お化けとナガモンを五航戦の人達と一緒にするのは大変失礼だと提督は思います、それで何の用?」

 

「利根は去年別の鎮守府に異動したから呼ぶのは無理よ?」

 

「え? マジで?」

 

「えぇ、貴方の後輩が居たでしょ、ほら例の懲罰部隊に居た」

 

「あ~ アイツね、それがどしたの?」

 

「去年地方の鎮守府司令長官に任命されたわ、そして利根の異動先はそこよ」

 

「え、なにそれ初耳なんだけど」

 

「前から色々相談とか来てたけど手術とか折衝とかで貴方は手が離せなかったでしょ? だからそっちは私が処理してるの」

 

「あーそうなんだ、それは申し訳無い事したねぇ」

 

「別に構わないわ、これも元第一艦隊で一緒に戦ってた同僚の為ですもの、でもそうね……もし感謝の気持ちとかがあるならここの払いは奢りって事で……」

 

「加賀さん、そのボリボリしてるのは何どすか?」

 

 

 加賀が振り向くとそこには陽炎をユラユラ揺らせた営業スマイルの甘味処の主が立っている。

 

 戦場で死線を潜り抜けてきた猛者達に気取られず、音も無く、いつの間にか背後を取られた青いのは、その衣装だけではなく顔色も綺麗にパーソナルカラーに染め上げていた。

 

 

「美味しおすか? ウチの本練り(ようかん)は」

 

「え……ええ、大変美味だと……思います」

 

「そうどすか、そらよろしおした、それでその黒いんはなんどす?」

 

 

 青いのから周囲にエマージェンシーの視線が飛ぶが、テーブルに座る者はプイッと視線を逸らし嵐が過ぎるのを待っている。

 

 それは時雨のペシペシが収まった変わりに加賀の縦揺れが開始された瞬間であった。

 

 

「勝手は、間宮が、許しまへんぇ」

 

 

 割烹着を着た間宮型一番艦は某金剛型三番艦の決め台詞風の呟きを漏らし、ガクガク震える青いヤツの襟を掴んで表にズルズルと引き摺っていく。

 

 引き摺られる青いヤツのドナドナした視線を直視出来ず、プルプル震えて押し黙ったままの一同が会する人事会議in甘味処はお通夜会場に変貌するのであった。

 

 

 

 その夜、鎮守府の埠頭に修復バケツを被った青い弓道着の虚無僧が正座してプルプル震えているのを、食堂から帰る途中の芋ジャージ姿の飢えた狼が怪訝な表情で見つめていたという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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