大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2016/09/20
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました紅雪様、有難う御座います、大変助かりました。


大本営の武術事情

「えっと提督、今日はここで何をするのかな?」

 

 

 大本営指定の小豆色のトレーニングウェア、世間一般では芋ジャージと呼ばれる上下を着用した時雨が、上司である吉野三郎に現状の説明を求める。

 

 

 胸にはゼッケンの様な布が縫い付けてあり、「れぐし」と右読みの平仮名で名前が書かれている。

 

 

 場所は大本営総合練武場、幾つかある艦娘が自己鍛錬をする為に設けられている屋内トレーニング施設の一つだ。

 

 内部は凡そ80m四方はあろうかと云う広さで、その内2/3程は板張り、残りは畳敷きになっており、名前の通り武道の鍛錬に使用される事もあれば、一部には板の上にコートラインが描かれており、バスケやバレーボールも出来る様になっている。

 

 要するに体育館みたいな施設になっている。

 

 

「指定運動着で集合と云う事は、何かトレーニングでもするのでしょうか?」

 

 

 時雨と同じ芋ジャージ上下姿の榛名が、同じく疑問を口にしている。

 

 

「うん、ちょっと確かめたい事があって練武場に集合して貰ったんだけど、その前に、えと、榛名君?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「えーと…… その、胸のそれ、何?」

 

 

 吉野がそう言いつつ指差したのは、榛名のトレーニングウェア胸部に縫い付けられたゼッケン。

 

 本来なら「なるは」と書かれているべきそれには、何故か「スーデ」と謎の暗号が記入されていた。

 

 

「あ、すいません、指定の運動着が転任の引越しの時荷物のどこかに紛れてしまったみたいで、急いで金剛お姉さまの物を借りてきたのですが……」

 

「……ああうん、何となくそうなかって思ったんだけど…… なんで"デース"なの?」

 

「うーん、金剛さんだから、デース?」

 

「ええと…… 榛名もそれをお姉さまに聞いてみたんですが、何故か笑顔のまま(デースデース)と肩を叩くばかりで……」

 

「え、ちょっ、何それ怖い……」

 

 

 暫く三人の間に無言の間が流れるが、結局判らない物を考えても仕方ない事だし、何より進んで人の闇を覗き込む事はあるまいと結論付け、スルーする事にした。

 

 

「あー、えっと、今日二人に集まって貰ったのはこれを確認しようと思ってね」

 

 

 そう言って吉野は二人に一枚の紙を見せる。

 

 

「それって、僕の事前調査書?」

 

 

 その紙は吉野が着任前に手渡された時雨に関する調査書であった。

 

 

「そそそ、この時雨君の調査書なんだけど、これに書かれているコレの事をちゃんと確認してない事を思い出してね。」

 

 

 そう言って調査書の装備欄の下、特記事項の欄にある"軍隊格闘術等"の文字の辺りを指でなぞった。

 

 

「一応時雨君の事は色々聞いたから、どれだけの能力があるかは把握したつもりだったんだけど、ここに書いてある軍隊格闘術ってのに全然触れてなかったなと思ってね」

 

「成程、それじゃ今日は格闘術の実演をすればいいんだね?」

 

「だね、その辺り何が出来て何が出来ないとかの把握を自分がしとかないと、いざ何かあった時の判断に困るかも知れないから確認させて貰おうかなと」

 

「それじゃ榛名は時雨ちゃんの仮想敵を務めればいいのでしょうか?」

 

「概ねそんなカンジで、ただ時雨君の動きで何か榛名君が有用だと思った物は教わってみるのもいいだろうし、その辺りは個々の判断にお任せって事で」

 

「了解したよ、じゃあ基本的な物から見せた方がいいかな……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 時雨が榛名の前で左手側を前に「半身の構え」で立ち、パンチンググローブを嵌めた手をプラプラさせつつこれから見せる技の説明をしていた。

 

 

 

「僕の習得している格闘術は長門さんから教わったもので、主に打撃技中心の戦い方になるね」

 

「ふむ」

 

 

 軍隊格闘術と聞いていたので、てっきりどこかの教官から教わった正規の軍隊格闘術だと思ってたのだが、確かに前線基地では艦娘が戦いを行っているので、技を教わる相手が艦娘であってもおかしくは無いなと吉野は頷いた。

 

 

「戦艦は一番前で戦う事が多いし、時には接敵する事もあるから、砲撃より徒手空拳の方がいい場合もあるらしくて、長門さんは対深海凄艦用に格闘術を編み出したんだ」

 

「ふむふむ」

 

 

 確かに彼女達の戦っている相手は人では無く深海凄艦だ、既存の対人格闘術では何かと不都合なのだろう、その為の技が編み出されるのは道理であると吉野は再び頷いた。

 

 

「その名も"長門流極限空手"」

 

「ふむふ…… んんんんんん?」

 

 

 突然内容が胡散臭くなった気がした。

 

 

「ちょちょちょ、あの、時雨君?」

 

「何かな?」

 

「今何て?」

 

「え? 長門流極限空手?」

 

「きょ…… 極限流?」

 

「違うよ? 長門流極限空手(・・・・・・・)。」

 

「長門流かぁ…… 空手なんだ……そうかぁ……」

 

 

 その時天狗の面を被った謎の空手家が、時雨を相手に人外の技を伝授している様が吉野の脳裏に浮かぶ。

 

 そうなると時雨の相棒はフェラーリを乗り回す、関西弁を喋るイタリア人のポイポイなのか? その辺りはどうなのかと吉野は現実逃避をしていた。

 

 

 吉野が忘却の彼方に思考を飛ばしてる前では、パンチングミットを構えた榛名の前で時雨が技の説明を続けている。

 

 

「先ず基本の技なんだけど、肘を左脇の下から離さぬ心構えで、内角を狙い、えぐり込むように……打つべし! 打つべし! 打つべし!!」

 

 

 ビシッ! と空気を裂く音を響かせて時雨の左ジャブが繰り出される、そう、左ジャブだ、何故だ。

 

 

「それ空手じゃないからね!? って言うか何で明日のジョーなの? 編み出したんじゃないの長門!?」

 

「左を制する者は世界を制するんだよ提督」

 

 

 左を制する者は世界を制する、確かにそうかも知れない、だが聞きたいのはそこじゃない、むしろ彼女はどの世界を制するつもりなのだろう。

 

 

「そしてジャブが当たったらすかさずロシアンフックを…… こう!」

 

 

 肩を内側に回す独特な打ち方で時雨の右拳は豪快な音を立ててパンチングミットへめり込む、空手要素は微塵も含まれていない。

 

 

「なんでいきなりボブチャンチンなの!? どうして北の最終兵器なの!?」

 

「そしてトドメに暫烈拳!(ざんれつけん)

 

 

 時雨の放つ連撃が拳の残像を残す程の勢いで繰り出される、それに巻き込まれた榛名は一瞬体を浮き上がらせ、更にトドメのアッパーが炸裂し、後方へ吹っ飛ばされる。

 

 

「ギャーーーーーやっぱり極限流!? じゃなくてハルナくーーーーん!!」

 

 

 突っ込みもそこそこに、吹き飛ばされた榛名の元に駆け寄る吉野だったが、当の榛名は何事も無かった様に立ち上がった。

 

 

「凄い…… 凄いです! 榛名もその技使ってみたいです! 時雨ちゃんその技教えてくれませんか!」

 

 

 流石武蔵殺しと恐れられた艦娘、その体にはかすり傷一つ付いていなかった、そして傷の代わりに何故かキラが付いていた、一体どこにそんな間宮的要素があったのだろうか?。

 

 

「流石榛名さんだね、僕の暫烈拳(ざんれつけん)を受けてもノーダメージだなんて、こうなったらもう覇王翔吼拳(はおうしょうこうけん)を使わざるを得ない」

【挿絵表示】

 

 

「そんな物騒な究極奥技出さなくていいから!? ちょっと落ち着こうか時雨君!?」

 

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

「榛名君が大丈夫でも練武場が大丈夫じゃないからね! ヤメテ! 提督からのお願い!」

 

「……判ったよ提督、じゃあ長門スペシャルで勝負を決めるよ」

 

「何が判ったの!? てかいつから勝負になったの? それに何その深雪スペシャルばりに謎胡散臭いの……」

 

 

 時雨は無言で榛名に近付き掌底を体ごと叩き込む、そして不自然な動きで背後に移動すると体勢を崩した榛名の背に己の背中ごとぶつけ、トドメに両手の掌底を突き出す様に放つ。

 

 

「それ長門スペシャルじゃなくてアキラスペシャルだから! なんでフッフッハッなの!? 何目指してるの長門!? ねぇ!」

 

 

 

 唐突に繰り出される崩撃雲身双虎掌(ほうげきうんしんそうこしょう)、流れる様に入る吉野の突っ込み、その時周りで様子を見ていた艦娘達には、とても良い笑顔の榛名が吹っ飛んでいく様がスローモーションで見えたという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「それにしても長門先生が某刃牙とかホーリーランドっぽい何かの愛読者じゃなくて助かったよ……」

 

 

 休憩の為、練武場の床に腰を降ろし、一部の消費者の間で狂気のケミカル飲料と称される炭酸飲料を口にしつつ、吉野三郎中佐(28歳独身ネオジオはROM派)が盛大な溜息を吐いている。

 

 ただ見学してただけなのに、体を動かしていた部下二人よりも数倍疲れを引き摺っているのは決して運動不足からの疲労では無いはずだ。

 

 

「ちょっと熱くなり過ぎて周りが見えてなかったよ…… 榛名さんごめんなさい……」

 

 

 コーラを薄めて炭酸を足したモノと訳の判らない評価を受ける冒険活劇飲料の入った缶を両手で持ち、肩を落として猛省している時雨が榛名に謝罪していた。

 

 

「はい、榛名は大丈夫です! ですので時雨ちゃん、良かったら最後のあの技も教えて貰ってもいいですか?」

 

 

 縁日の型抜き宜しく壁に空いた人型の穴の前で、榛名は関西の民が投下した爆弾もといひやしあめを啜りつつ、満面の笑みを浮かべながら時雨にそう答えている。

 

 そして体の方は当然無傷である事は言うまでも無い、更に何故かキラが3重掛けになっていた、どうやら長門スペシャルには間宮伊良湖のW給糧効果がある様だ。

 

 

「きょ…… 極限流空手の伝承は諸事情により禁止にします……」

 

「えっ!? そんなぁ~ 役立ちそうな技があったら教えて貰いなさいって提督言ってたじゃないですかぁ」

 

 

 このまま黙って放置し、人外の格闘者が増殖してしまうと、大本営がサウスタウンと化して某KOF(キングオブファイターズ)開催なんて危険がデンジャーな状況になりそうな予感がしたので、全力でそれを阻止する事にする。

 

 ちらりと榛名の様子を見てみる、3重だったキラが一枚剥げた気がするが、放置すると吉野の胃粘膜が一瞬で剥げてしまいそうなのでここはグっと我慢する。

 

 

「しかし最後は龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)辺りが来ると思ったのに、いきなりバーチャとか斜め上にも程があるんじゃないかな、あと時雨君には聞きたい事が一つ出来たんだけど聞いていい?」

 

龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)は足元の雷撃や投げに吸われちゃうから、起き攻め辺りにしか使えないんだ、それで提督は僕に興味があるの? いいよ、なんでも聞いてよ」

 

「出来るんだ龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)じゃなくて、軍隊格闘術(格ゲー)はなんとなくだけど把握したと思う…… うん、まぁ…… うん、で、得物関係の方も、もしかして長門さんに教わった…… とか?」

 

「得物?…… ああ刀、剣術関係って事でいいのかな?」

 

「そそ、この前の演習の時に飛んで来た砲弾を切り飛ばしてたし、それなりの技量があるのは判ってるんだけど、一応確認の為に…… ね?」

 

「んと、長門さんは手持ちの武器は使わないから、長門流極限空手には素手の技しか無いんだ、だから僕の剣術…… と言っていいのか判らないけど、これは完全に我流だね」

 

「あ、そうなの? 刀持ってる姿割と堂に入ってたように見えたから、それなりに使える人に仕込まれたんだと思ってたよ」

 

「例え誰かに教わらなかったとしても、強くなる事は可能です、それしか選択肢が無いなら尚更…… ですよね? 時雨ちゃん」

 

 

 榛名は少し苦味を含む笑いを表情に浮かばせてそう言うと、その苦味を中和させる為か、手にある缶に口を付ける。

 

 

ジュルジルジルジル・・・・

 

ッパ

 

 

「……うん、そうだね、そうしないとどうにもならないから、自然と身に付いた技術だね」

 

「でも、やっぱり一人では限界がありました、最後の一歩、後もう一押しって処からは誰かに助けて貰わないと前には進めないと思います」

 

「成程ねぇ…… 榛名君にとっての最後の一歩はこの前の演習で、最後の一押しをしてくれたのは武蔵さんって訳だ」

 

「50点」

 

「ん?」

 

「50点です、榛名を助けてくれた人は武蔵さんだけじゃありません、それ以上に大事な部分が提督の答えには含まれてません、だから、50点、です」

 

「んんんん? 大事な部分?」

 

 

 吉野が思案顔で首を傾げている、左隣では時雨が苦笑いを浮かべ、右隣では楽しそうにひやしあめの缶を啜る榛名の姿。

 

 

「榛名さん、提督にその手の話はストレートにしないとダメだと思うんだ」

 

「そうですね、駄目そうですね」

 

 

 思案顔のダメ男を挟んで、ダメ出しをした二人の艦娘は、楽しそうな顔でニコニコと笑っている。

 

 

「でもアレだ、時雨君の剣術はどうなの? 誰かにきちんと師事しなくて大丈夫?」

 

「あ、その辺りの事なんだけど、僕もちょっと不安な部分があってね、ちゃんとした剣術を修めている人にお願いして一から教えて貰う事にしたんだ」

 

「も…… もしかして、飛天ナントカ流とか某虎眼流とかその辺りなのかな?」

 

「? 提督の言う流派は生憎聞いた事は無いかな、僕が教えて貰おうと思ってるのは北辰一刀流なんだけど」

 

「あそうなの? 結構マトモ…… ゲフゲフ、有名処じゃない」

 

 

 海軍大本営とは軍の最上位機関である、故に集う人材も文武両道の人間が多い。

 

 そう考えると剣術の心得がある人間を探すのはそれ程手間では無いとは思うのだが、問題はここに来てまだ日が浅い時雨がどうやってその人物に渡りを付けたのだろうかという疑問が沸いてくる。

 

 

「んで誰に教わるの?」

 

「日向さん」

 

「……ほ…… ほぅ? 日向というのはあのその、伊勢型二番艦のあの人の事かな?……」

 

「え? うんそうだけど?」

 

「へ…… へ~ 彼女剣術出来るんだ…… へ~……」

 

 

 何故か吉野の目からハイライトが消えている。

 

 

「えっと、時雨くん……」

 

「何かな?」

 

「何と言うかその、師しs… 日向さんだけど、北辰一刀流…… なんだよね?」

 

「うん、そうだけど」

 

「その北辰一刀流ってオプション的な何かが付くとか、オリジナル要素を多分に含むとかそんな事言ってなかった?」

 

「? 提督が何を言いたいか判らないんだけど……」

 

「ああいや、ほら、稽古で使う道具とか、例えば瑞雲とか瑞雲とかぶっちゃけ瑞雲とか」

 

「ごめん、まだ稽古を付けて貰った事無いから、詳しい事は判らないんだ」

 

「あ、そうだネ、まだ始めて無いんだネ、うん」

 

「明日の朝からやるんでしたっけ?」

 

「そうだね、始業の二時間前から一時間だけやるって言ってたかな」

 

 

 始業時間は午前七時、そこから二時間前だと午前五時、稽古をする時間としては少し早い気もするが、彼女達の休みが合う時だけやるとなると回数が限られてくる、なら仕方が無い事なのだろう。

 

 吉野は心のメモ帖に"午前五時、要監視案件"の文字を記憶させた。

 

 

「毎朝四時起き位かぁ、頑張るのはいいけど無理の無い程度にね」

 

「うん、判ったよ」

 

「でも剣術って割と嗜んでいる方多いんですね、皆さん朝早くから頑張ってるみたいで」

 

「…………皆さん?」

 

 

 何だか雲行きが怪しくなってきた気がするのは気のせいだろうか? つい最近このパターンからロクでもない展開になったよーな……。

 

 

「だね、お陰で僕も稽古のお願いがし易くて助かったよ」

 

「えーと、その、稽古って割と団体でしちゃったりするの?」

 

「そうだね、全員揃うのは稀らしいけど、毎朝誰かしら稽古をしてるって言ってたよ」

 

「へぇ、他にも稽古してる人が居るのかぁ」

 

 

 少しだけ安心した吉野は、心のメモ帖に書いた"午前五時、要監視案件"の文字を"午前五時、一度は見学に行こうかな"と書き換えた。

 

 

「伊勢さんや扶桑とか、後山城辺りは毎日顔を出してるみたいだね」

 

 

 伊勢は日向の姉なのでまぁ一緒なのは判るのだが、伊勢型をライバル視している扶桑姉妹が一緒に何か行動してるのは珍しいと思ったが、同じ航空戦艦として何か通じる物があったのだろう、仲良き事は美しき事(かな)と吉野は深く頷いた。

 

 

「最上ちゃんも割りと熱心に稽古に出てるって言ってましたね」

 

 

 最上か、剣術とは余りイメージが合わない気がするが、常日頃から日向の事を師匠と慕っていたのでまぁ一緒に稽古していても不思議では無いなと吉野は頷いた。

 

 

「後常連組と言えば鈴谷とか熊野さんとかも居るって言ってたね」

 

 

 鈴谷に熊野か、はっきり言って稽古と云うストイックな行いとは最も縁が無い艦娘だとは思うのだが…… 何か思う処でもあるのだろうか? 吉野は少し首を傾げた。

 

 

「そう言えば時雨ちゃんと一緒に瑞穂さんも始めるらしいですね?」

 

「う…… うん? 瑞穂?」

 

「うん、千代田さんが最近軽空母になっちゃって、あんまり参加しなくなったからって、ゴーヤが誘ったらしいね」

 

「千代田甲…… 千代田航?…… おやぁ?」

 

 

 航空戦艦、航空巡洋艦、水上機母艦、潜水空母、物凄く共用できるブツというか装備というか飛行物体がイメージされる、気のせいだろうか?。

 

 

「榛名も参加してみようかなぁ…… 確か北辰一刀流セット持っていけば参加出来るんでしたっけ?」

 

「ほ……北辰一刀流セットぉ?」

 

 

 何故か剣術という硬派な話しのイメージから一転、某幸せの壷か、青年誌の背表紙に印刷されたラッキーアイテムの通販ばりの胡散臭さがその場に漂い始めた。

 

 

「だね、明石さんとこで注文すれば買えたと思うよ、榛名さんだとLサイズかなぁ」

 

「……時雨くん」

 

「何かな?」

 

「その北辰一刀流セットって何?……」

 

「え? んと、胴着でしょ、竹刀でしょ、後は……」

 

 

 そう言うと時雨は胸のゼッケン脇に手を突っ込み、よいしょと言いながらやや大振りなホームベース状の金属板を取り出した、物理的に其の大きさのブツは当然ゼッケン裏のスペースに収まる大きさでは無いがまぁ些細な問題だ。

 

 

「なんで明石んトコで飛行甲板売ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ明石ぃぃぃぃぃぃぃ! 駆逐艦に飛行甲板売り付けてどうするんだ明石ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「大丈夫だよ提督、これSサイズだから僕でもちゃんと持てるし」

 

「時雨君サイズの問題じゃないからね!? 艦種的なアレが…… ね? ほら、ワカルデショ!?」

 

「Lサイズだと日向さん達と同じサイズになりますね、榛名に上手く扱えるでしょうか?」

 

「いやだから榛名君も提督の話聞いて? てゆか君51連装砲に飛行甲板て何がしたいの?」

 

 

 そう突っ込みを入れた吉野だが、自身に向けられた鋭い視線に思わず振り向いた。

 

 

「航空甲板が気になるのかい?」

 

「……うん? モガミンどうした?」

 

「海の中からこんにちはー !」

 

「海じゃねーし! 何? あれデッチまでどうしt……」

 

「とぉぉ↑おう↓!! 一捻りで黙らせてやりますわ!」

 

「え!? クマノン? 何を黙らせるつもりだって何ナニハナセヤメロお願い何でもしますから!」

 

 

 

 

 

 その日吉野三郎大本営特務二課々長(28歳独身(メンズ飛行甲板))が、腕に盾を装備した艦娘の一団に用具室へ引き摺られて逝くのを多くの艦娘が目撃したという。

 

 

 尚、この日から数ヶ月後、異例の早さで駆逐艦時雨が北辰一刀流(仮)の印可を某航空戦艦から授けられたのは、またいつか語られる可能性は皆無である。

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

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