大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 取り敢えずの人員が揃い、業務体制を整えた大坂鎮守府、心新たに出発する為に其々の関係性を築く為に懇親会として宴会とお泊り会が開催される事になった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/05/16
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたNakaji様、坂下郁様、洋上迷彩様、拓摩様、鷺ノ宮様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


大坂鎮守府花見会 -平家の乱-

 夜はまだ肌寒く、それでも昼は上着が一枚分程軽くして丁度良い四月の上旬。

 

 日本という国は四季という気候変化が存在し、春夏秋冬という廻り(めぐ)がはっきりとある島国と言われている。

 

 しかし南北に長く伸びた列島では両端の気候自体差が大きく、四季という変化はあっても暑い寒いの差があり丁度良いという場所は案外少ない。

 

 

 そんな島国にあり、大坂鎮守府が存在するエリアは春夏秋冬のメリハリが大きく季節の変化がはっきりしている為、実は気候的な物で言えば関東よりも標準的な変化幅を持っていると言える。

 

 地理的に西は淡路島、東は和泉山脈、北に大阪平野という遮蔽物で囲まれるという海は、台風が来襲しても少し強い風が吹くという程度で大きな被害というのは殆ど受ける事がない。

 

 春穏やか、夏そこそこ暑く、秋もはっきりと色を濃く見せ、そして冬はたまに雪が降る、そんな四季をはっきり感じる事が出来る場に在る大坂鎮守府は、現在予定されていた艦娘の着任が漸く終わり、手続きも全て終了した為に夕方から鎮守府の者総出で宴を開いていた。

 

 当初は艦娘達が参加してのザコ寝というお泊り会を予定していたが、前記の通り今の季節は春であり、景観的な配慮をされた敷地内にはソメイヨシノ始めとする桜が多数植樹されていた為に執務棟周辺は満開状態のそれに囲まれ薄桃色の花びらが舞い散っていた。

 

 そんな情景を楽しみつつ久々に開かれた宴は、大所帯になったこれからは全員参加という形での催しは中々出来ないだろうと配慮があり、お泊りのみという予定を急遽変更して歓迎会+花見→お泊り会という形で催す事になった。

 

 

 艦娘寮の大広間に卓を並べ、裏手へ縁側を通じ直接出れる造りの引き戸は開かれ桜が見える状態。

 

 室内ではそろそろ片付けようかどうしようかと迷った末、未だしぶとく鎮座する多数の炬燵。

 

 更に土足に履き替えなくても良い様部屋の外にはブルーシートが敷き詰められ、煙が出るバーベキューや焼き物は外に、室内では鍋を囲んだりと取り敢えず思い付く限りの、やりたい事をやってしまえという大宴会が広がっている。

 

 

「機能的なモンも結構考えちゃいるがアレだな、相変わらずこの手の催しに関係する整備なんかも余念がねぇ造りになってるなココは」

 

「折角出来る環境があるなら福利厚生は最大限力を入れるべき、と、一部の子が頑張りましたからねぇ」

 

 

 大広間のやや縁側に近い特等席では炬燵に入り、髭爺こと唐沢が日本酒をチビチビ飲みつつ、おでんが煮える鍋を挟んで髭眼帯という提督卓が鎮座している。

 

 そこから見えるのは新規参入組の米艦やドイツ艦が張り切って焼くバーベキューのテーブルと、何故かモロコシやヤキトリという縁日染みた物をせっせと焼く龍鳳と数人のくちくかん、更にはそこよりちょっと移動し、イタ艦やヒャッハー、そして潜酔艦達飲兵衛が車座になって魔境と化している一角と、中々退屈しない絵面(えづら)が展開されている。

 

 

「ウチでも毎年近所の桜を昼飯がてら弁当片手に見に行っちゃいるが、流石にこんな全力での宴会はやんねぇなぁ」

 

「あれはあれで楽しいんだけど、参加する顔ぶれを考えるとどうしても遠足って感じの雰囲気になっちゃうわよねぇ」

 

「天龍幼稚園、ですかぁ」

 

「ふふっ、あれでもウチの子達は結構な猛者なんだけど、やっぱりこんなイベントに参加したら地が出ちゃうわね~」

 

 

 そして提督卓のおさんどんをしつつお相伴に預かるのは天龍型二番艦の龍田、友ヶ島警備府の艦隊副官であり、同拠点の内務関係を取り仕切る艦娘である。

 

 今回の宴は大坂鎮守府内での顔合わせと交流を目的とした物であったが、現在友ヶ島警備府もある意味この鎮守府に縁深く、ほぼ身内の付き合いともなっている状態であったので、今後の付き合いを考慮して天龍型姉妹と睦月型の10人全員も参加という、今回は全力という文字通りの大宴会となった。

 

 

「ぬる燗上がりましたよ、はいどうぞ」

 

「ありがとう御座います鳳翔さん間宮さん、色々疲れたでしょ、少し休憩してったらどうです?」

 

「疲れは全然ありませんけど、折角のお誘いですから少しお邪魔させて頂こうかしら」

 

「あ、席詰めますから間宮さんもこっちへどうぞ~」

 

「有難う御座います、お邪魔しますね」

 

 

 髭が二人にオカンとドン間宮、そして龍田という卓はある意味周りの派手さとは逆のまったりした空間を形成する。

 

 

「しかし今回は龍鳳君と春風君が組んで料理してるんですか、割と珍しい組み合わせですね」

 

「元々二人とも料理はそこそこ出来る子達ですし、ウチや鳳翔さんの所では出す物が違っていますから、互いに刺激になる何かがあるんでしょうね」

 

「そうですね、ウチは基本リクエストが無い時は和食の色が濃いですし、間宮さんの所でお出ししている洋食や一品物で被る物があってもちょっと味が違いますしね」

 

「どっちも自分は好きなんですけどね、最近はバタバタしてて間宮さんとこにも鳳翔さんとこにも行けてませんでしたから、久々にお二人の料理が食えてほっとしてますよ」

 

「あらあらお上手ですね、そう言われてしまうと次お店に来られた時は何かサービスをとか思っちゃいますよ、それよりも提督?」

 

「はい? 何でしょう?」

 

 

 左右に座るオカンにマミーヤがニコニコしつつドクペをグラスに注ぎ、そして器におでんをひょいひょい入れていく。

 

 

「前から気になっていたんですが、提督は私達の事を呼ぶ時誰一人として呼び捨てにはしていませんよね?」

 

「あー……ええまぁ変だと思われますけど、その辺りはまぁ癖と言うか拘りと言うか」

 

 

 間宮からスッと差し出されるグラスにはナミナミと入ったケミカル炭酸、そしてニコニコとするドンの表情は相変わらずだが、気のせいかその笑いにはちょっとしたプレッシャーと言うか迫力と言うか、言い知れぬ何かが漂っている気がしなくもない。

 

 

「それはいいのですが、何故私と間宮さんだけ"君"では無く"さん"付けなのでしょうか? あ、提督大根煮えてますよ? はい好物でしたよね」

 

「熱っ!? ちょちょ待って鳳翔さんそれ鍋から直接口に入れるのは危険ですから!?」

 

「確か厚揚げもお好きでしたよね?」

 

「だから鍋直は危険ってアッツゥーイ!! 汁! 汁シャレになってない間宮さん!」

 

 

 おでん、それは出汁でじっくり煮た数々の具材が織り成す鍋料理、寒い冬に食べれば身も心もホッカホカにしてくれる日本の味である。

 

 そしてアツアツに煮えたそれは、フーフーせずに食すととても危険で、用途を間違えてしまうとリアクション芸人の小道具と化してしまったり、拷問の道具へと変化してしまう料理でもあった。

 

 

「何故、さん付け、なんでしょう?」

 

「呼び捨てし難いのは判りますが、さん、は、どうかと思いますよ?」

 

 

 繰り出される大根に厚揚げ、続くコンニャクは食べ易さを重視した為か糸コンニャクを結ったタイプの物であった為、タップリと出汁を含んだ最終兵器となって髭眼帯の顔面を蹂躙していく。

 

 そんなおでん地獄に向いに座る龍田はあらあらと微笑み、髭爺は巻き込まれない様におちょこを煽っている、それは正に大坂鎮守府のいつもの事であり、吉野が被害者の場合はスルーされるのがデフォという悲しい現実があった。

 

 

「がんもいきます?」

 

「間宮君、それシャレになってないからヤメテ!?」

 

「!……うふふっ、すいませんちょっと意固地になってしまったみたいで、飲み物お注ぎしますね」

 

「ごぼう天、いい感じに煮えていますよ、提督?」

 

「鳳翔君も……鍋直はカンベンシテクダサイ」

 

「あらあらあら、そうですね私とした事が、お顔お拭きします」

 

 

 選択肢の無い拷問は瞬時に彼女達の求める言葉を引き出すに至る、そして二人はそれに納得したのだろう、髭眼帯を襲うおでんという凶器を使っての懇願は終了し、再びまったりとした空気がそこに漂う。

 

 こうして鳳翔と間宮は自分達の最大の武器である料理を使い、平和的に(・・・・)自分達の要求をスマートに通すことに成功した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「んだよオヤジもう潰れちまったのか」

 

「余程機嫌が良かったのねぇ、結構早いピッチで呑んでたから~」

 

 

 オデン攻勢から暫く、料理の補充をする為席を立ったオカン&マミーヤと入れ替わる様に、卓には友ヶ島警備府艦隊総旗艦の天龍がやってきた。

 

 色々と仕事以外の下らない話や外を走り回る睦月型の姿を目を細めて眺めつつ、いつもより多くの酒を飲んだという髭爺は座椅子に深く身を沈め、スースーと寝息を立てていた。

 

 

「まぁもう歳だしなぁ、あんま無茶しても体が付いてこないってトコかぁ」

 

「まぁた天龍ちゃんってば、提督が聞いたら雷落ちちゃうわよぉ?」

 

「小言を言う時の勢いだけは昔から変わらねぇからなぁ、でも年々酒に弱くなってるのは確かだろ?」

 

「……そうねぇ」

 

 

 髭爺を間に眼帯の艦娘と、その妹は溜息を吐いて老躯を眺める。

 

 友ヶ島警備府が設置されて二十年と少し、その当時はまだ髪も黒々とし、警備府の者達を引っ張ってきた海の男は現在その力強さが衰え、小さくなってしまった背中を支える姉妹も最近は避ける事の出来ない未来に色々思う時間が増えていた。

 

 

「なぁ吉野さんよ」

 

「ん? どしたの?」

 

「ウチのオヤジなんだけどさ……そろそろ休ませてやれねぇかなって思ってるんだけどさ……」

 

「ちょっと天龍ちゃん」

 

「龍田だって分かってんだろ? 今までずっとオヤジは俺達の面倒見る為に無理しっ放しだったんだぜ? 最近は無理の利かない体になっちまってきてるし、まだ自由に動ける内に引退させてやってさ……自分だけの楽しみってヤツを持って貰ってもいいんじゃねぇのか」

 

「……うん、それは分かってるんだけど」

 

 

 人と艦娘は心が通じ合う関係にあるが、互いの生きる時間はずっと重なっていく訳では無い。

 

 そして肉体と共に精神が成長するという部分は同じであっても、肉体の劣化と共に心も老いて行く人とは違い、歳を取らない艦娘は心が老いる事は無い。

 

 例え重なっている時間が長くとも、人と艦娘の心が結ばれ、共に在る時間というのは思ったよりも短く、関係性が同じままというケースは少ない。

 

 提督という者達は其々艦娘へ対して向き合う姿勢が様々であったが、髭爺はそれを理解していたのだろう、変らぬ関係を続けていく為昔から今もずっと自分の部下に対しては厳しく接し、厳格な父であろうとし続けてきた、だからこの姉妹も、そして他の駆逐艦達もずっとその背中を心の拠り所として生きてきた。

 

 

「天龍君、君の言う処理はやろうと思えば出来る事だよ、友ヶ島警備府を解体してウチに再編成し、今の施設を利用した警備シフトを組めばいいだけだからね」

 

「ああ……そうだな」

 

「んでもさ、それを決めるのは自分じゃなくて唐沢さんだと思うんだけどなぁ」

 

「やっぱそうだよなぁ……でもよ、このままオヤジにずっとさ、無理させたままでいいのかなぁって、丸くなっちまった背中を見る度に思っちまうんだよ」

 

「そう思うなら自分にじゃなく唐沢さんに直接言うべきだと思うよ? そこは自分には踏み込めない部分だってのは君も理解してるだろう?」

 

「そう言われちゃなんも言えねぇよなぁ、確かにコレってオヤジをノケモンにしてする話題じゃねーのかもな……」

 

「一度ちゃんと腹を割って話してみたらどうだろう? 唐沢さんだって君の心配を無碍にする事はしないだろうし、それでも揉めたり答えが出なかった時は相談に乗るけど?」

 

「ああそうだな、そん時ゃ頼む……わ」

 

「ん? どしたの?」

 

 

 真面目に思案するフフ怖が怪訝な相で髭眼帯の後ろを凝視する、その表情の変化に何が起こったのかと首を傾げて吉野が振り向くと、そこには宴会でヒートアップしたのか、それともアルコールで狂ってしまったのか、珍妙な格好の一団が背後に立つ姿が見える。

 

 

「フラットドラゴン!」

 

「……龍驤君どしたの?」

 

 

 真っ赤なマフラーと妙な仮面と言うか、ぶっちゃけ特撮ヒーローの頭部的なブツを被ったまな板がやたらと前屈みで獣のポーズを取って謎のワードと共に登場する。

 

 因みに首から下は何故か例の『うょじうゅり』と平仮名で書かれたゼッケンみたいな布が縫い付けられたスク水装備である。

 

 

「いやドラゴンて……確かに君龍だけどさ……」

 

「フラットフェニックス!」

 

「いや君ゼッケンに「たいほう」って書いてるじゃない!?」

 

 

 まな板へ突っ込みを入れている途中にも関わらず、今度は黄色のブツを被ったタウイタウイがジ○ジョ立ちでポーズを決める。

 

 当然首から下はまたしても『うほいた-伊』というゼッケンが張り付いたスク水である。

 

 そしてその二人の隣には、何故か『いずいず』と書かれたゼッケン付きのスク水を着た恐らく瑞鶴であろう人物が、緑のブツを被って荒ぶる鷹のポーズで髭眼帯を見ていた。

 

 

「……ずいずい?」

 

「フ……フラットクレイン!」

 

「て事は、横のピンクはフラットベアーでいいのかな……」

 

「……ご想像にお任せしますわ……」

 

 

 最後に何故かポーズも取らずうな垂れている人物は、肩を落とした佇まいから痛々しい空気を滲ませ、ピンクのブツを被った『ンノマク』のゼッケン付きのスク水であった。

 

 

「我ら航空戦隊フラットファイブ!」

 

「いや平たいのは判るけど人数足りてないよ!? 四人しか居ないじゃない君ら!」

 

「ちゃうねん司令官」

 

 

 テンションアゲアゲで名乗りを上げたまな板はシパッと吉野の前にスライディング正座で詰め寄ってきた。

 

 

「……ナニガ?」

 

「いやほんまやったらもう一人入る筈やってん」

 

「……筈?」

 

「そそそ、それやねんけど子犬(時津風)も誘って五人でユニット組もか思ったんやけどなぁ、ちょっちアレやねん」

 

「アレってナニ?」

 

「ほら、駆逐艦とウチらって部分的な特徴が似とっても属性がなぁ……な~んか違うっちゅーかなぁ」

 

「ああ駆逐艦はチッパイだからねぇ、確かに絶壁とは属性が違うよねぇ」

 

「絶壁言うなや!」

 

 

 ズビシと右手の甲を振りぬきリアクションと共に突っ込みを入れるまな板。

 

 フと気が付くと吉野の周りは何故か平たい胸族が方円状に正座する形で囲まれ、正に壁となって退路を塞いでいる。

 

 嫌な予感に振り向いて、眼帯仲間に救援を頼もうと試みるも、何故かフフ怖は真顔でパタパタと手を左右に振って関わりを拒否する姿勢を表明する。

 

 ついさっきまで親身に相談へ乗ってやったというのに何て薄情な眼帯だと絶望しつつ、髭眼帯はまな板の話を聞く事にした。

 

 

「いやそんでやな司令官」

 

「……ナニ?」

 

「あんな、瑞鳳と葛城建造するか、どっかから引っ張ってくるとかできへん?」

 

「……出来ましたらわたくしもそうして頂けると助かりますわ」

 

「て言うか平たい胸コミュニティで活動するのはいいんだけど、ちゃんと本人を納得させてからやろうよ」

 

「それです提督!」

 

「ナニが!?」

 

「前々から私達は平たい胸族とか平たいコミュとか言われておりました、その……胸部装甲の慎ましさという部分を誤魔化すつもりはありません……が!」

 

「……が?」

 

「平たいという言葉は余りにもむご……ゲフゲフ、あんまりな表現であり、私達のアイディンティティを踏みにじる名称だと思うんです!」

 

 

 何故か黄色のブツを被ったタウイタウイは力説を始める。

 

 フラットファイブという集いには消極的であった緑とピンクだったが、何故かタウイタウイの言葉に対しては何か思う処があるのだろう、カクカクと首を縦に振っている。

 

 

「故に私達の事を呼ぶ時はこれから平氏と呼んで下さい!」

 

「へ……へいしぃ?」

 

「はい、平氏です!」

 

 

 拳を振り上げ力説する伊-たいほうと、無言でコクコクするフラットファイブ(四人)、大坂鎮守府に於いて平たい胸族改め平氏という派閥が結成された瞬間がそこにあった。

 

 

「で……その、たべりゅと雲龍型駆逐艦を所望する理由って……うん、何となく判るけど、これ以上ウチの空母枠増やすのはアレだって龍驤君も判ってんじゃないの?」

 

「いやそれやねんけどな、ほら、アイオワとサラトガが着任したやん?」

 

「うん、それが?」

 

「まぁ大方予想してた通り胸部装甲がアレやってんけど……なぁ、まぁそれはええねん、ええねんけどちょっち問題があってなぁ」

 

「何かあったの?」

 

「二人が着任した後なぁ、サラトガと二人で話す時間があってん」

 

「そうなんだ」

 

「で、司令官は知ってると思うけど前世でウチはサラトガに轟沈させられたんやけど、それ気にしてたんやろなぁ……こっちは気にしてへんのやけど妙にあっちは余所余所しゅうてな、さっきまで酒酌み交わして腹割って話してたんや」

 

「なる程、それはまた……うん、色々ご苦労様」

 

「うん……でな、まぁ酒の力もあって打ち解けたのはええんやけど、割とフレンドリーになったアイツって相手に抱き付いたりとかする肉体言語系の艦娘やってんな」

 

「あー、彼女ってそっち系なんだぁ」

 

「んで最初はジャレてくんの笑って避けたり放したりしてたんやけど、なんちゅーか段々鬱陶しいっちゅーか、腹立ってきてなぁ」

 

「まぁ酔っ払い相手にしてるとそんなのはあるあるだよねぇ」

 

「んでええ加減にせぇっちゅうてバシーンってビンタカマしたってん、胸に、したらな、こう……バイーンて跳ね返されてなぁ……なんちゅうかこっちもあっちも衝撃が気持ちええ感じで適度に分散するっちゅーか、何て言うたらええんやろな、ハハ……ハハハ……」

 

「ああうん……何と言うかうん……それはまぁ……うん」

 

 

 持つ物と持たざる物、対比をするのは簡単であるが、それは見た目だけでは無く肉体に作用する物理的法則も変ってくる。

 

 空気抵抗や重量の面では持たざる者が有利であるが、水に浮く浮力や衝撃吸収率という面では持つ者達が優秀なのは疑い様の無い事実である。

 

 そしてその仕様は無駄をそぎ落としソリッドになってしまった者達は精神的にもソリッドになってしまい、増装した者達はその質量に比例して鷹揚な性格として立ち振る舞うという結果になってしまった。

 

 

「んでな、色々考えたんやけど、やっぱほら、ココはどっちかって言うとデカイのより小さいモンの方が少数派やん? そやから数のバランス取るのになぁ……瑞鳳と葛城とかどうかなぁって」

 

「んー? いや数で言えば駆逐艦の子達とか含めればいい勝負じゃないの?」

 

「司令官……」

 

「うん?」

 

「小学生と大人の"無い"っちゅうのはな、質が違うんやで?」

 

 

 余りにも重々しいその言葉は場の空気を鉛の如く固めてしまい、思わず髭眼帯は言葉を失ってしまった。

 

 だからと言って花見の席で珍妙なマスクを被ってスク水ではっちゃけるのは大人としてはどうなのだろうという考えも吉野にはあったが、居並ぶスク水達の姿を見るとその言葉を口にするのが出来なかった。

 

 

「いやまぁ無いっちゅーても現実的にはゼロやないんやで? なぁ大鳳」

 

「そうです、確かにボリューム的には足りないかも知れませんが、ちゃんとあるにはあるんですっ!」

 

「て言うか今更だけど私は平均より小さいだけでちゃんとブラが必要なサイズなんだから!」

 

 

 吉野はフと思った、今日は花見という宴会を楽しむ場なのに、何故自分は仮面のスク水達に囲まれて貧乳理論を説かれているのだろうと。

 

 

「確かに見栄えはアレですけどちゃんと感触はあるんですのよ!」

 

「アーウンソウナンダー」

 

「あっ! 提督今どうでもいいって思ったでしょ! ほら確かめてみて下さい! ほらほら!」

 

「提督にナニを確かめろって言うの!? てかタウイタウイ落ち着いて!」

 

「やっぱりアレか? グラ子のチチに飼い慣らされとるからウチらのチチには何も感じへんちゅーんか!」

 

「そんなマスクで間合いを詰めてくるのはヤメロ! て言うかフフ怖ヘルプ!」

 

「いや、無理だし」

 

 

 こうして花見が始まりまだ前哨戦とも言える時間にも関わらず平たい胸族に包囲されてしまった髭眼帯。

 

 

 そんな髭を包囲する彼女達は以後自分達を平氏と自称する様になったが、他の者にはその呼称が浸透しなかったという悲しい結末が待っていたが、それはまた別の話である。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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