それは体を成す為だけでは無く維持する為に強固である必要があり、また注力し続ける必要がある。
有用な物もそうで無い物も等しく、全ての結果を積み重ね完成した物は、恐らく見える部分では感じる事が適わぬ過去の積み重ね。
だからこそ次に続く者達への恩恵は大きく、次へと繋がってより巨大な物が出来上がっていくのだろう。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2018/007/02
表現でおかしな箇所を一部修正致しました。
ご指摘頂きました皇國臣民様、対艦ヘリ骸龍様、じゃーまん様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。
「しかし予想はしてたとは言え、随分と派手な事になったねぇ」
「まーアレや、今まであった事から予想立てて色々手ぇ打っといたのが幸いしたな、お陰でガチでやらかしても大破まではいかんよーになったやん」
「んでも相変わらず戦艦勢がぶつかると中破とかはそれなりに見るんだけど……」
「いや普通駆逐艦と戦艦殴り
「まぁその辺りは正に夕張君の新システム様々だよねぇ」
「そのせいで本番の時に感覚狂わんかったらええねんけどなぁ……」
「まぁなるべくキッツイのは使わない方向で、まぁ今回に限ってはデータ収集って事でいいかなぁとは思うけど」
梅雨明け間近と思われたが台風やら台風やら台風の影響で、割りと天候不順な大阪湾、今日も雲が厚い空の下。
そんな大坂鎮守府では今後の艦隊編成の参考の為と称する『大演習大会』が開催されていた。
何故演習の文字の前に大という文字が付くのか、後ろに付随する大会って文字はノリノリ過ぎでは無いのかと吉野は思ったが、そこはそれ、手が空いた艦娘が代わる代わるで参加しつつも、結局総出となるその催しは宴会の如くの賑わいを見せ、和気藹々とした雰囲気を醸し出していた。
実際ドンパチしている海の上以外は。
今回の演習は夕張がハカセの協力の下開発した次世代の演習システムのお披露目を兼ねた物であり、そのシステムはペイント弾を利用した砲撃に注力する旧態然とした物に留まらず、徒手空拳によるダメージも擬似的ダメージとして変換し、機能面のみ抽出して艦娘へ反映しつつも、同時に実際のダメージは軽減されるという、より実践的な戦いを想定した演習が行える物となっていた。
「演習時には艤装へ専用の機器を取り付ける手間はありますし、艦種毎の調整はまだしなくちゃですけど、今の処概ね良好な結果が出ています!」
いつに無く有用なブツと言うか、後ろめたい部分が無い為か、メロン子は胸を張って龍驤と髭眼帯にシステムの概要を説明している。
このシステム自体は艦娘の負担を軽くするという効果を齎す事は確かであったが、その反面轟沈しない、ダメージが最低限に抑えられるという性質上緊張感や実戦に対する
「艦種だけで無く、個人単位の力量に合わせたチューニングもする必要がありますし、想定する演習の仕様によってもある程度対応するつもりでいますから、これからはデータ取りの為に皆さんには膨大な量の演習をして頂く必要はありますけどね」
「そのデータを収拾する事よりさ、実際纏めてシステムに反映する作業の方が大変なんじゃないの?」
「ですねぇ、手順としては各艦種ごとに平均的値のある誰かを抽出して、その人に対する幾らかのパターンを組み、それを基本として艦隊に所属する其々個人のデータ調整をする形になりますが……」
「あー……ウチはまぁ戦力っちゅう面で言うたら
「それなんですよねぇ、まぁ作業は楽しいから苦にはなんないんですけど、時間が掛かって皆さんをお待たせするのが悩ましいと言うか」
そう言う彼女は少し困った表情で小さく笑うが、その目の下には薄く隈が張り付き、時折見せる首や肩を回す仕草は彼女に掛かる負担が慢性的な物である事を無言でありながらも、如実に垣間見せる様になっている。
実際の話、夕張が受け持っている業務は艦娘の艤装や兵装周りのメンテナンスに始まる工廠業務全般、鎮守府施設群の管理や改修、新兵装の開発・データ収集等多岐に渡っている。
それは平時の仕事量も去ることながら、緊急時の負担も集中してしまう為に相当厄介な物となっていた。
それでも鎮守府には他に優先する業務が多いからと、これまで幾度か人員を増やす事を持ち掛けた吉野の言葉を夕張は断ってきた。
「ねぇ夕張君」
「何でしょう提督」
「ウチの人員はいよいよ三桁も目前になってきた、やる事に対しまだ人手は足りないと謂わざるを得ないし、鎮守府の事情で人間の職員を配置できない環境が人手不足を加速させてはいるけどさ」
「……はい」
「それでも君の業務は他の部課署よりも優先度が低いという事は無い、むしろ重要だと自分は思っているんだけどね?」
「あー……でも、私の仕事は忙しくても皆の様に命に関わる事は無いですし……」
「そら勘違いしとるで」
吉野の言葉に苦い表情で返す夕張に、龍驤は今も派手な水しぶきを上げて演習が繰り広げられている海から視線を外さず、夕張へ言葉を投げる。
「夕張のやっとる事は鎮守府を回す基本の部分や、それと同時にウチらが安心して海で戦えるんも夕張がきっちり艤装や兵装を整備してくれとるからや」
「まぁ……私にはこれだけしか出来ないですから」
「それが間違い言うとるんや、お前はそれしか出来へんのとちゃう、
文字通り命懸けという日々を送る艦娘達、その中にあって前線に立たず、裏方として働く者も当然一定数は存在する。
給糧業務に就く者、運営に携わり鎮守府の維持に努める者、そしてメンテナンスや開発等を担う工廠を担当する者。
それらはどれも重要性という面での上下は無く、どれも欠けてはならない大事な存在ではあったが、それでも元々戦闘要員として生まれ、嘗ての海では僚艦を率いて戦っていた過去を持つ夕張は今医局で治療中の速吸と同じく、自分が命の安全を保障された後方に居るという現状に少なからず負い目を持っていた。
故に自身に無理を強いて、無茶な要求に答え、そしてあくまで他者の手は借りずに業務を回していた。
そんな彼女が抱える事情が判っていたからこそ、吉野は自分の私物が珍妙なロボに改造されたり、一部の無意味と思われる装備を作った時も一定の理解を以って接していた。
しかし現状の規模まで膨らんだ大坂鎮守府とこれからの事を考慮すると、既に現状は夕張一人で捌くには仕事量が限界を超えているのは確かであり、例え彼女の心情を汲んだとしても、負担の分散という問題は避けて通れない段階まで来ているのは誤魔化せない現実であった。
「君に倒れられたらさ、これだけ強力な戦力を持っていたとしても戦いを継続するのは不可能だし、大規模な出撃があれば当然君も随伴する訳だから、その間は鎮守府の工廠業務や施設の管理もストップしちゃうよね」
「……ですねぇ」
「出来ればさ、その辺り自分は命令とかじゃ無く、君の考えと判断で問題解決をして、要望なり報告が貰えると有り難いんだけどなぁ」
「業務の規模を拡大する言う事は人員を増やすって事や、んで当然そいつらは夕張が頭になって回してかなならん事になるやん?」
「君の業務は特殊で、その仕事に必要な技術も資質も自分達には理解が及ばない、だから理想の環境と人員を求めるならその辺りは君が決めないとさ、とか思うんだけどね?」
「……一緒に仕事をやっていく子ですかぁ、幾らか心当たりはありますけど、その子の方がどう思うかが問題ですよね」
「それは君が言葉を掛けた上で相手を納得させなきゃ始まんないよ、厳しい言い方にはなるだろうけど、君は既に鎮守府の重要部門を預かる立場だ、これからは業務を回す上で人を使うという事を覚えていかないといけないし、同時にある程度の判断も自分でしなくちゃいけない」
「言い難かったり面倒やったらその心当たりを司令官に丸投げすんのも一つの手やけど、夕張としてはそれは嫌なんやろ?」
「そうですね、まだ戦える子を後方に縛り付ける訳ですから、もしそれがどうしてもと言うならちゃんと私が声を掛けて話し合った上で、お互いが納得してからにしたいです」
「……ユウバリンコ」
「夕張です、何でしょう提督」
「工廠部門の人員拡大は"どうしても"、と、提督は君に言います」
「そうですか……判りました、では少しだけお時間頂けますか? 後日その辺りご報告に上がりますから」
こうして肥大化して負担が増した工廠業務の環境改善の為、人員配置は夕張自身の手で行われ、専任として後日山風と、戦闘要員と兼任という形で島風を迎えた大坂鎮守府の工廠、その名も『夕張重工』は膨大な業務を回しつつも、相変わらず訳の判らないロマン装備もたまに開発するという今までの路線を踏襲しつつ、規模の拡大を果すのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
雲が厚く、それでも切れ間からは光の帯がカーテンの如く広がる大阪湾。
風もそこそこ、波もそれなりの大坂鎮守府西側演習海域では、二人の艦娘が相対し、演習開始の合図を待っていた。
片方はハーフパンツのセーラの上に濃紺の外套をショール状に引っ掛け、頭のアホ毛を風にゆらゆらさせる大阪鎮守府軽巡洋艦総括の球磨。
対するは鉢金の紐を縛り直し、多少肌の露出が多いかと思われる制服を風に靡かせつつも、手足の防護布を留め直す神通。
其々は艤装こそ纏っていたが、どちらも武装と呼べる物は装備しておらず、凡そ30m程の距離を置いて互いを見ていた。
「格闘時の演習システムのデータ収集という事で手を挙げたのですが、まさかお相手が球磨さんだとは思いませんでした」
「あー榛名が相手とか思ったクマ? もしそうなら申し訳無い事をしたクマ」
「いえいえ、私としては誰が来ても全力で挑むつもりでいましたので問題は無いのですが」
「……が?」
「気のせいでなければ、球磨さんは私が志願したのを見てこの演習参加を決めた様に見えたもので」
互いの間には特に変った空気が漂っている訳では無く、其々はインカムを通じ言葉を交わすという軽い雰囲気がそこにあった。
「んー……神通と榛名をぶつけるにはこのシステムはまだ調整が上手くいって無いって聞いたクマ」
「なる程、確かにまだ今回は試しという事で、その辺りは色々と不安があると説明がありましたね」
「クマ、だから取り敢えずはクマが出て様子見という事で参加する事にしたクマ」
「……
「まぁ殺し合いをする訳じゃ無いクマ、だから
「それなり……取り敢えず、なる程、しかし
「演習
しかしその空気は確かに普通と言うべき軽さを含んだ物だったが、例え演習であろうと戦いを寸前に控えた者の間にある物としてそれは、
そんな両者が立つ碧い戦場に空砲の音が轟いた。
最初はゆるゆると、そして距離が縮まる程に僅かづつ速度が上がりつつも、それ程では無い程度の速度で互いはすれ違う。
その線が交錯する刹那、パシッと軽い音が尾を引き互いは五歩程の距離を置いて振り返り、相手の顔を見据える。
球磨の右眼窩下には擦り傷にも似た傷から
それを歯牙にも掛けずほんの少し様子を伺う様に時計回りで回る二人だつたが、次の瞬間球磨が波を蹴って猛然と神通の懐に入る。
それを迎える神通は体幹は崩さず、球磨の繰り出す右腕を引き込み、同時に左腕で襟首を絞りながら背負い投げの如き投げの体勢に入る。
そのままいけば球磨の体は水面に叩き付けられ、盛大な水柱が上がるという姿を誰もが予想した。
しかし結果は投げの体勢を自ら崩して飛び退く神通と、少し体勢を低くしてその場に留まる球磨という予想外の事態へと推移していた。
「……密着した死角を利用して肩関節に指突ですか、大人しい顔をして中々えげつない事をしますね」
「腕と首を極めたまま自分の体ごと投げに入って、そのまま折りに来るようなヤツには言われたくは無いクマ」
首を捻ってコキコキと鳴らす球磨の向かいでは、脇に近い部分に出来た小さな点から血を滲ませたまま、抜けた肩関節を拳で殴って強引に
互いは一度深く息を吸い込むと、今度は短く一息だけ吐き出し、まるで示し合わせたかの如く同時に仕掛け、今まであったある程度静かな雰囲気とは違い派手な水柱と、盛大な打撃音が場を支配し始める。
どちらも拳は握らず、掴む事も殴る事も突く事も可能なままに腕を繰り出し続け、足もそれに合わせて頻繁に位置を変え、相手の一手に最適な場へ足の踏ん張りが利かない様に踏み込み続けるという"陣取り合戦"が繰り広げられていく。
そんな応酬が数合繰り広げられる最中、球磨の渾身の力が篭る右上段蹴りが神通の左側頭部へ叩き込まれるが、それは足と頭の間にあった神通の右掌が衝撃の殆どを逃がし、同時に相手の体幹を崩す為の
「フッ」
掴んだ足を手繰る様に体で巻き込み懐へ、そしてその勢いのまま鳩尾へ肘を振り下ろすという流れの神通の動きはそうはならず、球磨は掴まれた右足を取っ掛かりに浮かせていた左足を神通の腕へ絡ませる様に振り上げる。
「ぅらあっ」
そのままいけば神通は三角締めという形で抑えられる形となる為、敢えて腰を崩し、転倒までの僅かの間に出来た力点の分散を利用して、捻った体を更に回し強引に戒めから逃れる。
二人が水面に落ちる小さな水柱こそ上がるものの、それが納まる頃には再び両者の間には一足飛びで仕掛けられる程の間が出来上がり、其々は荒い息を整える為に浅く連続した呼吸を繰り返す。
「合気崩し……ですか」
「相手の踏ん張るタイミングに合わせて力を預け、出鼻を挫くのが合気クマ、熟達した者がするそれから逃れるのは不可能クマ……」
「だから最初から両足を水面から浮かせ、踏ん張る必要が無い体勢で組み付いて来たと」
「合気は完成された武術クマ、でも……
「なる程……合理的で有効な攻め手です、しかしそれが判ってても普通はこうまで瞬時に出せる物ではありませんね……正直私は貴女を侮っていました」
「……神通」
「はい」
静かに構える神通に対する球磨も半身に構えたまま、しかし神通の言葉を聞き終わってからは雰囲気が一変する。
それまではしなやかで掴み処が無い、ある意味厄介だと神通に感じさせる物であった、しかし今目の前に居る球磨型一番艦からは構えた腕で顔の半分は隠れていたが、そこから覗く眼は底知れぬ冷たさと、そして刃物の様な殺意が放たれていた。
「お前がどんな戦場でどんな戦いをしてきたかは知らないクマ、でも此処迄に至る時間、戦場に身を置いてきた長さ……お前よりクマの方が数倍長く生きてきたただけ、殺した数も、超えてきた
球磨の言葉を黙って聞く神通に圧倒された様子は無い、しかしそれでも口を挟めず黙って聞く程には言葉に乗る空気は重く、そしてそれは戦場の匂いを充分過ぎる程に感じさせる物だった。
「だから神通……」
「……はい」
互いは少しだけ腰を落として構えを取り直す、それは次の一言が新たなる凌ぎ合いの始まりと理解している様に。
「舐めるなクマ!」
海を蹴る足、それは艤装の力を得た物であっても推進力を伴わない自身の足で繰り出した物。
艦娘という戦闘艦の前世を持ちつつも、それとは相反する徒手空拳で相手を屠るという行動。
急所のみを狙って繰り出される球磨の打撃は、しかし同じく打撃へと手段を切り替えた神通が迎え撃つ形でぶつかり合い、飛び散る飛沫に
平時より水雷戦隊の指揮に努める姿から万能艦という立ち位置に身を置き、尖ったイメージが無い球磨という舟は、嘗て竣工された時は長門を上回る90,000馬力を搾り出す機関を内包する高速巡洋艦として生み出された。
重武装に編重し、結果として性能のバランスを著しく逸した天龍型の反省点を鑑み、強力な機関と拡張性を考慮し設計された大型の船体、後に続く球磨型の雛形として生まれた艦は、妹達が戦局に合わせて攻撃的な拡張を施されたのとは違い、水上機運用と言う機能を重視した能力を持たせた為にバランスこそは良かったが、妹達の様に艦種の枠を超える特徴を持たない艦であった。
火力という部分が刻々と変化する戦局に伴わず、あくまで軽巡洋艦という枠の中での舟としては優秀な部類に入るという評価がされていたという、そんな舟。
それでもこの球磨は妹の大井、北上を率いて南方の海を駆け、最後の最後まで止まらず、退かずに海へと没したという、神通と同じく生粋の水雷魂を宿す艦であった。
対するは勇猛を馳せた二水戦旗艦という前世と、それに裏打ちされた過去に誰言わずともその武勇と苛烈さには定評がある神通。
共に戦った海が違い、歩んだ道も違ったが、艦娘として言葉を口にする事が叶い、心を持った今は互いに理解する部分があった。
其々に『水雷屋としての意地は誰にも負けない』という心を持つという部分があると言う事に。
「随分と派手にやり合ってるねぇ彼女達」
「ありゃ夕張のシステムが無かったら今頃腕の一本二本はオシャカになっとるやろうなぁ」
「でもそのダメージ軽減のお陰で余計時間が掛かってるから、見た目の悲惨さと言うか、えげつなさは際立つ結果になっちゃってるけどねぇ」
「あーでもそれでいいんじゃねぇのか?」
球磨と神通の激しい打撃戦を苦笑を浮かべて見る髭眼帯とまな板の脇に、よっこいせと一言口にして眼帯の球磨型五番艦が腰を落とし、胡坐をかく。
その隻眼は今も激しさを増す二人を見据えつつも楽し気であり、同時に歪んだ口元からは搾り出す様な笑いが洩れる。
「突出型の神通、そしてバランス型のねーちゃん、どっちも水雷戦隊の頭には違いないけどよ、元々の考えと戦い方が違うからよ、どっちにも言葉だけじゃ相手の事を理解する部分で埋まんねー部分があるんだよ」
「せやなぁ、命を懸ける戦場で出来る人間関係言うんは、とことんどつき合うくらい激しいモンを経験せんと、相手の深い部分は理解はできんかも知れんな」
「ある程度経験を積んだもん同士なら尚更だ、譲れねーもんもこだわりも全部、力尽くで相手に見せ付けなきゃ収まんねーのさ、んでそいつは個人的な事情だけにも収まらねぇ」
「うん? と言うと?」
「まぁその辺りはほら、ねーちゃん達のアレ見てるチビ共を見りゃ判るだろ?」
木曾が言う先には球磨と神通が
その表情はいつもの幼さが残る顔は無く、並びに立つ武蔵や榛名達に負けない程に凛とした、しかしそれ以上に食い入る様に見る魅入る姿があった。
「アイツらにとっちゃ重巡とか戦艦なんて力とか体の造りが違い過ぎてよ、戦力的な違いは当たり前に映っちまう、でも水雷戦隊の指揮を執る軽巡が本気で戦う姿ってのはそうじゃねぇ、僅かに届かない存在で、しかも自分達を普段引っ張ってく謂わば姉みたいな存在なんだ、そりゃあんだけバカスカ遠慮無しにやってりゃ嫌でも魅入るだろうよ……そうやってあのチビ達も自分の上に居るモンの存在の大きさを実感するんだ」
「その"何か"を感じるのは駆逐艦だけじゃないわよ……」
「あん? 何だ五十鈴、お前もか?」
「……当然じゃない、あんなの目の前で見せられれたら……
「ははっ、そりゃ違いない」
「そういう貴女は随分と落ち着いてる様だけど? 片方が身内だからそんなに冷静でいられるのかしら」
「あー、俺は普段からもっと
「ふーんそうなの、所でいいの? あの二人」
「ん? 何がだ?」
「幾らシステムでダメージ軽減してるからって、怪我した部分が回復する訳じゃ無いんでしょ?」
五十鈴が苦い表情でクイクイッと親指で差す方向には、相変わらず殴り合いという演習を続ける二人の姿。
そこには左腕が捻れあらぬ方向に曲がった球磨と、片目が潰れ顔面を朱に染める神通という鉄火場があった。
「あーこらアカン、夕張ストップや、サイレン鳴らせ」
「ちょっと目を離したらこれとかシステムの調整以前の問題じゃないの!? ねぇっ!?」
「む……演習は終いか、なら榛名、今度は私とサシでどうだ?」
「いいですね……榛名も丁度血が
「スタァァップ! タケゾウと武蔵殺しが本気で殴り合いとかシャレになんないからね! 提督許しませんよ!」
「ルールはどうしましょう?」
「どちらかが動けなくなるまででいいのでは無いか?」
「では、それで」
「それで、じゃなーーーい! 君達提督の話聞いて!? ねえっ!? 誰かーーーーこの二人止めてぇぇ!」
髭眼帯の悲痛な叫びに周りは反応するが、その場に居たのが主に駆逐艦や軽巡という者達であった為に、誰もが凄い真面目な相のまま顔の前でパタパタと手を左右に振るという空間がそこに出来上がっていた。
誰でも自分の命は惜しい、それは誰にも責める事は出来ない、極当たり前の生存本能と言えるだろう。
こうして夕張謹製の演習用新システム使用したボコスカ○ォーズは思ったよりも有用なデータを収集する事に成功したが、その代償としてそれなり以上の資材の消費と、最後にくちくかん達に様々なトラウマを植え付ける、怪獣大決戦が繰り広げられる事になった。
その為この先暫く徒手空拳による演習は、システムが完全に調整される迄提督による禁止令が出される事になるのであった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。