大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 誤解という物は硬い言い方をすれば認識の違いから出たすれ違いである。
 それは単純に物事の始めの時点で既に違う物であり、当然そこには双方の考えに合致するものは存在しない。
 しかし日本語という『察する』という思想を元に作られた言語は、時に誤解を生み出したまま話を合致させてしまい、暫し混沌を生み出す事も有る。
 いつ、どこで、誰が、何をしたという確定事項を用いなくても通じてしまう言語だからこその悲劇がそこにあった。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/07/25
 誤字脱字修正・言い回しがおかしい部分の修正反映致しました。
 ご指摘頂きました拓摩様、リア10爆発46様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


髷から始まるアレやコレ -②-

 

 雪が横殴りに舞う平原、沈むことの無い太陽が照らし続けても尚全てを凍らせる死の世界。

 

 彼女はそこに立ち、巨大な両の(かいな)を握り締めどこまでも続く氷原を見ていた。

 

 

「まだ出迎えには早いと思うけど、いつまでそうしてるの?」

 

「……別にそんなんじゃないわ、ただちょっと物思いに(ふけ)っていただけ」

 

「そうなの?」

 

「ええ、そうなの」

 

 

 白く端正な顔に額から伸びる一本の角が特徴な、港湾棲姫が振り返りもせず後ろから掛けられた声にそう答える。

 

 その返事を聞く小さい存在、北方棲姫は叩き付けられる雪に何度か瞬きをしつつ、港湾棲姫が見る彼方に視線を向けた。

 

 

「何なら泊地棲姫に色々聞いてみようか?」

 

「何れ来るのは確実なんでしょ? ならその時まで待つわよ」

 

「そう、まぁ楽しみは後に取っておくというのもいいかもしれないけど……」

 

「私より貴女の方が楽しみに見えるのは気のせいかしら?」

 

「まぁ当然ね、こんな僻地に誰かが来るなんて初めてだし、それに……」

 

 

 漸く振り向く港湾棲姫の視線に、笑顔を見せる幼女程の小さき存在。

 

 それは見た目相応な無邪気な笑みを浮かべていたが、中身は紛うこと無き深海棲艦上位個体。

 

 それも狂気を内に秘め、それを自覚しつつも隠そうともせずに、何もかもを否定し、何もかもを憎む存在。

 

 

「あの番人(・・)の一人に、人の罪が生んだ希望の欠片……その歪な存在と邂逅できるなんて、そんな存在が人の手で出来てたなんて、とても気分が高揚するわ」

 

 

 白い相にひび割れた笑いを奔らせ、幼女は白夜を眺めた。

 

 

 この幼女と歪な存在(吉野三郎)との邂逅は、後に続く長い長い人類の生存を賭けた闘争の日々の切欠となるのを今は誰も知らない。

 

 そして人知を超えた出来事をその歪な存在が経験するのはまだ先の事となる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「お茶です司令、どうぞ」

 

 

 大坂鎮守府執務室。

 

 いつもの如く山と積まれた決済関係の書類に目を通し、高速でそれに署名捺印する髭眼帯(武士モード)へ親潮が茶を差し出す。

 

 梅雨明け宣言もされて気温はうなぎ上り、暦の上では大暑と呼ばれるその日は、近畿地方では恐らく真夏よりも酷暑と思われる程の気温を記録していた。

 

 そして執務室の中には北国生まれの北国育ちである時雨が居る為、基本室内温度はやや低めと思われる24℃に保たれている。

 

 その為執務中に供される飲み物はドクペと熱い梅昆布茶が半々の割合で出される、それは吉野の好みと体調を考慮した親潮なりの心遣いの結果であった。

 

 

 熱々の梅昆布茶をズズズと啜る、淡い塩味に気付くかどうかの酸味。

 

 その絶妙な淹れ具合に癒されながらも部屋の隅に視線を向ければ、響、時雨、榛名という三人が何やら寄ってコショコショと密談する姿。

 

 

 正直嫌な予感メーターがギュンギュン上昇し、眉を顰めて隣を見れば、何故かお盆を抱き締めクネクネしている親潮の姿。

 

 

「……ねぇ親潮君」

 

「ひゃい!? な、何でしょう司令」

 

「あそこの一団……ナニしてんの?」

 

「さ……さぁ、どうしたんでしょうね……」

 

 

 クネクネは収まったが今度は目が泳ぐ真面目系目立たない女子を見て、明らかに怪訝な表情になる髭眼帯(武士)。

 

 この時点で嫌な予感メーターはレッドゾーンに突入し、ピコンピコンとエマージェンシーコールが頭の中で鳴り響いていた。

 

 

「そ、そう言えば司令」

 

「うん? 何?」

 

「司令の好きな色って何色ですか?」

 

「え? 好きな色? どうしたの突然」

 

「あっと……その、色々と身の回りのお世話をさせて頂く時、その辺りの好みを知っておくのも必要かなと思いまして」

 

 

 再びクネクネが始まった親潮の言葉に首を傾げながらも、髭(武士)は確かに用意して貰う衣服やインナーは彼女に任せ切りだった事を思い出し、なる程その辺りを含めた確認は必要なのかと納得し、その答えを考える。

 

 好きな色と聞かれれば、それは自分の趣味嗜好の範疇である為普通ならすんなり答えが出る物であるが、この髭(武士)は自分の事には無頓着で、その辺りも誰かに聞かれなければ再認識すらしないという悪癖を持っていた。

 

 

 好きな色……そう問われれば何色だろうと考える。

 

 好きな物は車やバイクと即答は可能だったが色はと考え、そう言えばロボになってしまったあの個体を同じ車種から選んだ基準は、ガンメタリックという微妙な色だったからだと思い出す。

 

 そんな好きな色を思い出す基準事態が微妙ではあったが、それは髭(武士)の存在自体が微妙だからという関連性は多分無い。

 

 

「えっと、ガンメタかなぁ」

 

「ガンメタリック……ですか?」

 

「また微妙に難易度の高い色をチョイスするね、他には好きな色は無いのかい?」

 

 

 首を捻り微妙な表情の親潮に答えれば、何故か密談していた一団が何時の間にかソファーへ移動し茶を用意している。

 

 そして髭(武士)の言葉に反応した響が何故か食い気味でそんな言葉を口にするという謎。

 

 確かにガンメタリックという色は一般的には微妙かつ常用される物では無いだろう、しかしそれが何故難易度が高いという事に繋がるのだろうか。

 

 そんな事を思いながら再び聞かれたガンメタ以外に好きな色という問いに関して、唸りながら髭(武士)は思考を巡らせる。

 

 

 最近の事から考えるとバイクなんかも購入したが、それは性質上派手目のカラーであり、メーカー押しがデフォのブツであった為に色の好みという点では吉野の趣味は含まれてはいない。

 

 とすると後はロールスなのだが、それは理由の半分は公用車であった為に無難に黒にしたという事と、元々派手な色が好きではないという事で黒にしたという経緯があってのチョイスであった。

 

 他にも落ち着いた色はあったが、迷った時は取り敢えず黒、そんな思考があの時働いたなという事で、この時点で髭(武士)の自認する好きな色に黒が登録された。

 

 その好みの基本がまたしても車という基準になっているのは最早救い様の無い駄目さを醸し出しているが、元々プライベート方面では駄目過ぎると評判の吉野である、それはある意味仕方の無い事だと言えた。

 

 

「あーうん、ガンメタ以外だと……黒かな?」

 

「あっ黒! そうですか、黒がお好きなんですね?」

 

「なる程、提督は黒がいいんだね」

 

 

 黒という答えに何故か反応して親潮の表情がパァァと明るくなり、そして時雨が小さくガッツポーズを取る。

 

 それに首を傾げて見れば、時雨の向かいでは微妙な表情で考え込む響と、何故か難しい顔をした榛名が居る。

 

 

「えっと提督……」

 

「ん? どしたの榛名君」

 

「その……白とかはどうでしょう?」

 

「あー白、白ねぇ……」

 

「例えば白で、ワンポイント的に黒いラインが入ったりした物は……」

 

「白に黒のライン?」

 

 

 色の好みという割にはやたらと詳細かつ限定的な榛名の質問に、再び吉野は思考を巡らせた。

 

 そう言えばロールスを購入する前外車も一度は乗ってみたいと色々雑誌を物色していた時、ビンテージマッスルカーの一つにいいなと思った車があったのを思い出した。

 

 

 フォードマスタングⅡのキングコブラ、それは白に塗られたボディにセンターを貫く二本の黒いラインが印象的なアメ車だった。

 

 所謂フォードライン、若しくはシェルビーストライプと呼ばれるラインが入ったそれは、白が好みでは無い髭(武士)でも目を惹く仕上がりであり、本気でその車を購入しようか迷った程であった。

 

 

「あーいいね、白に黒のライン、あのワンポイントが官能的でグラマラスな印象を醸し出してるんだと思うよ」

 

「グ……グラマラス、官能的、そんな……榛名照れてしまいます」

 

 

 吉野はこの時アメ車のカラーを褒めちぎったのであるが、榛名が言う白に黒のラインのワンポイントと言うのは世間一般で言う処の『ダズル迷彩』の事であった。

 

 

 更に突っ込んで言えば、ダズルワンポイントというブツは、彼女の艤装では無くインナーに施された意匠である。

 

 

 要するに榛名のパンティー、白に黒のワンポイントライン、そして同時に黒は親潮愛用の下着の色であり、時雨を始め白露型のくちくかんも下着の色は基本黒を基準にした物であった。

 

 そんな車を基準に好きな色を述べた吉野の言葉は、色々な誤解を生んで秘書艦二人と武蔵殺しをクネクネとさせるという結果を生み出してしまった。

 

 

「……なんで君達クネクネしてんの? てか響君どこ行くの?」

 

「ちょっと酒保に」

 

「酒保?」

 

「うん、ガンメタのブツが無いかちょっと確認してこようと思ってね」

 

「……ガンメタのブツぅ?」

 

「あ、私もちょっと酒保へ」

 

「じゃ僕はいつものを注文しに行こうかな」

 

「はっ……榛名はちょっとお洗濯に行ってきます!」

 

「え……ナニ? どうしたの皆……」

 

 

 色々と困惑する髭(武士)の言葉に其々は微妙な笑みで返し、『KAGAKAGAKAGA~』という不安を煽る謎のソングを口ずさむ時雨を筆頭に、何故か揃って全員が執務室から退出した為にポツンと一人取り残される髭(髷)。

 

 そして積み重なった書類を前に暫く呆然とした後仕方なく応援の為にぬいぬいを呼んだ訳だが、この行為が更なる混沌を呼び込む事になるとはこの時髭髷は知る由も無かったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「えっとあのその、提督やんなくちゃいけない書類が山積みなんだけど……」

 

 

 ヘルプを要請して暫く、凡そ10分後の現在、執務室ソファーセットには何とも言えない表情の髭眼帯(髷)と、対面にドヨ~ンとした空気を纏うぬいぬい、そしてその隣にはやはり微妙な表情の陽炎というセットが出来上がっていた。

 

 それはいつも事務的ヘルプを頼めばウキウキなぬいぬいとしては珍しい状態であり、良くセットで執務室に訪れる陽炎も何やらソワソワして心此処に在らず状態で怪しさ満点であった。

 

 

「司令……」

 

「うん?」

 

「不知火はそんなに重いでしょうか……」

 

「え? ナニ? 重い?」

 

 

 ものっそ暗い影を背負うぬいぬいが口にした言葉に首を捻り、髭眼帯はジっとぬいぬいを観察する。

 

 暫くそんな微妙な時間が経過するが、髭眼帯は何かを納得したのかとてもいい笑顔でぬいぬいの肩を叩く。

 

 

「ん~ いや重い感じはしないと言うか、自分的には重くも軽くも無く、理想的な気がするんだけど?」

 

「……理想的?」

 

「そそ、何でそんなの気にしてるのか知んないんだけど、自分は全然重い感じはしないなぁ」

 

「そ……そうなんですか? 気を使ってそういう答えを言っている訳じゃなく?」

 

「全然? 誰かが君にそう言ったの?」

 

「青葉さんがそう言ってたと陽炎から聞きまして……」

 

「そうなの? ん~……だとしたら個人的な感覚の違いなのかなぁ、自分は全然そんな感じに思わないんだけど」

 

 

 ぬいぬいが言う『重い』とは恋愛感情に於ける相手が感じる精神的な物であり、髭髷が言っているのは単に重量、つまりぬいぬいの体重の事であった。

 

 それはこの時点で双方に致命的な話のすれ違いがある訳だが、悲しいかなそれに気付いた者はこの時皆無という悲しい現実がそこに存在していた。

 

 そしてそれは結果としてまたしても混沌を生み出すという、救えない状況が出来上がってしまった。

 

 

「り……理想的、不知火は理想的なんですか?」

 

「あ、ああまぁうん、そうなんじゃないかなーって提督は思うんだけど……」

 

「ねぇ司令、あんまりその……不知火を持ち上げる様な話は……」

 

 

 パァァとキラキラが展開し、少し赤みを帯びた表情になるぬいぬいとうんうんと頷く髭眼帯。

 

 誤解が誤解を呼び、起こってはいけない化学変化が起こってしまった瞬間がそこにあった。

 

 

 そしてそれを諌める陽炎の話がもう少し早く吉野の耳に届いていれば色々諸々の誤解は解けた可能性があった、しかしそれはズバンという扉が開かれる音と共にどこかへ飛び散ってしまった。

 

 

「Admiral!」

 

「うわっ!? ビックリした!? 何グラ子……君?」

 

 

 扉を蹴破り勢い良く執務室に飛び込んできたそれは、やや明るい鉄色の、所謂ガンメタリックカラーにテカテカした布のビキニを着込んだグラ子と、そして胸に『うつんじ』というゼッケン的なアレを縫い付けた、漆黒のピチっとした競泳水着を着た神通さんというカオス。

 

 それは新たに黒スクという微妙な新種が誕生してしまった瞬間でもあった。

 

 

 何故かドヤ顔でデルモ風に立つグラ子に並ぶのは、凄く真面目な相の黒スク神通さん。

 

 そしてそれを見る怪訝な表情の髭(武士)

 

 

 その邂逅は時間を停止させ、ほんの数秒間であったが執務室はコッチコッチと置時計が奏でる秒針の音が支配する世界を作り出していた。

 

 そしてそんな無言の中、グラ子と神通さんは無言でペッタラペッタラとビーチサンダルの音を響かせて髭髷の傍まで歩いていく。

 

 

 当然その様はむっちゃ怪訝な表情で髭眼帯が様子を伺っているという、何とも表現の困る事態へと推移していく。

 

 

「……ナニ?」

 

「うむ、明石セレクションで色々とガンメタリックのブツを物色していたのだが、残念ながらランジェリーは注文でしか無いと言われてしまって、仕方がなかったから今は取り敢えず水着で我慢して貰おうかと」

 

「……えっと、君が水着なのはナニがどうなってるのかという事情と、そこからどうしてどんな経緯で提督が我慢に至るのかという筋道をちゃんと説明してくんないかな?」

 

「Admiralはガンメタが好きだと聞いたんだが?」

 

「え……うん? じゃなくて水着ね? 色じゃなくて水着の説明をお願い」

 

「黒もお好きだとお聞きしたので、お目汚しかと思いましたが流石に下着で鎮守府を徘徊する訳にはいかず、私も水着着用で参上させて頂きました」

 

「え……参上と言うか、何か今得も言われぬ惨状になってる気が提督するんですがそれは……」

 

「やはり……Admiralレベルだと、水着よりも下着が最低ラインだという事なのか」

 

「それ何のレベル!? 提督とっても誤解されてる気がするんだけど!? ちゃんとその辺り詳細を説明してグラ子!」

 

 

 何故かモデル立ちのグラ子と神通さんを前に眉を顰める髭(武士)

 

 一応確認までに述べるとそこは国内の要所を預かる軍事拠点、しかも最近は派閥の中核として認知されたという鎮守府の心臓部である。

 

 そしてそこの執務室に居るのは海軍中将。

 

 

 そんな言葉だけで述べれば超重要かつお堅い世界で、何故か水着の艦娘が二人というワールド。

 

 むしろ提督の好みだからという理由で鎮守府の中を水着で行動するという狂気はこの際横に置いといて。

 

 そんな非日常と言うか、ある意味いつものカンジに混乱こそしないが頭の上で『?』を漂わせる髭眼帯であったが、ゴソゴソという音に我に返り、後ろを振り向いた。

 

 そこには何故か不知火がぬいぬいとリボンタイを解き、上着を脱ぎかけているというカオスが展開されていた。

 

 

「何ぬいぬいって! なんで君服脱ごうとしてんの!?」

 

「いえ、司令は下着姿がお好きだと言う事みたいなので」

 

「どうして提督の性癖的なアレが風評被害的に蔓延してる訳!? ちょっと納得いかないんだけど!?」

 

「不知火、貴女は今度の作戦に随伴が決定していますから、まだ後でも奉仕の機会は幾らでもあるでしょう? ここは譲るのが筋だと思いませんか?」

 

「いえ、例え教官の言葉でもそこは譲れません」

 

「そうですか、あくまで調和を保てないのならば仕方がありません、自分の矜持を押し通すと言うのなら……それを私に納得させなさい」

 

「……判りました」

 

 

 言葉は硬質に、互いに何かを覚悟した視線は空気を凍らせる。

 

 それは怪訝な表情の髭(武士)の前で、片方は競泳水着のビーチサンダル姿という艦娘と、もう一人は上着を半脱ぎというくちくかん。

 

 

 もうワケワカメ状態であった。

 

 

 そうしてスタスタと二人して退出する様を怪訝な表情のまま黙って見送る髭(武士)があり、そしてその頭にグラ子が水着の胸部装甲をセットしようとするが、髷の為にそれが困難で四苦八苦し、何故か微妙な表情でそれを見る陽炎という世界が広がっていた。

 

 

「ねぇ陽炎君、ちょっと提督色々と聞きたいんだけど」

 

「……なに司令?」

 

「うん、ちょーっと前から皆行動がおかしいと言うか、ある意味いつものと言うか……何か暴走してる様に見えるんだけど、なんでか知ってる?」

 

「え……うんそれって何と言うか、その、司令ってさ……こう……はっきり聞いちゃうのはアレなんだけど」

 

「……アレ?」

 

「Admiral、ちょっといいか?」

 

「ん? いやちょっと待って、今大事なお話中だから」

 

「いやそうじゃなくてだな…… いいのか? アレを放置しても」

 

「アレってど……れ?」

 

 

 グラ子がズビシと指差す方向には執務室の入り口があり、そこに見えるドアからは、ハイライトの消えた目でじっとりと髭髷を見る艦娘の姿が見えた。

 

 それは某サスペンスで毎度何故か色々な現場に出くわしてしまい、その度にあからさまにその体勢はバレるだろうというカンジで様子を伺う的な家政婦さんの如き姿。

 

 

「……誰?」

 

「……龍鳳ね」

 

「ああうん、龍鳳君? 何してんのそんな所で?」

 

 

 髭の髷は首を捻って一応声を掛けてみるが、何故か家政婦は見た的な姿勢のままジットリと見るだけの元鯨。

 

 再び室内は無言が支配する世界になり、またしてもコッチコッチという置時計の音だけがする状況が訪れる。

 

 

「……龍鳳君?」

 

「あらやはりここに来ていたんですね、落ち着きなさいってあれ程言ったでしょう? 仕方のない子ですね」

 

「えっと鳳翔君、これって何事?」

 

「ああすいませんお騒がせしたみたいで、これにはちょっと色々ありまして」

 

「……色々?」

 

「はい、色々と……と申しますか、龍鳳がこんな状態になっているのも無理の無い事だとは思うんですが」

 

「んーと? 何かあったの?」

 

「何があったと言うか、それに関係して提督には一つお伺いしたい事が御座いまして」

 

「聞きたい事?」

 

「はい、それで給糧課全員の者が集ったのですが」

 

「給糧課全員ん?」

 

 

 未だジットリとガンを飛ばす元鯨の後ろからは苦笑を滲ませる鳳翔と、そしてゾロゾロと間宮に春風、そして何故か伊良湖という面々が現れる。

 

 

「こんな時間に勢揃いして珍しいと言うか、一体どうしたの?」

 

「あ、私はついでですので」

 

「ブレないね伊良湖君!? なんで君いつも提督絡みの行動はついでなの!? 自主性をもっと大切にして!? お願い!」

 

 

 こうして誤解が解けるどころか更に一部の艦娘に対し深めてしまった髭(武士)は、ある意味鎮守府の一番ヤバい系の数名に囲まれこの後混沌とした話し合いの場が持たれる訳だが、それはまた別の形で色々と誤解と愛憎が渦巻くカオスな物となってしまうのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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