大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 前回までのあらすじ

 いよいよ友ヶ島警備府司令長官が着任したが、其々の事を知る為の邂逅は、何故だか施設を作ったメロン子の手によって台無しの状態となり、艦隊総旗艦の天竜が色々な理不尽にさらされる事になった。
 そしてへんたいのインパクトが。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2017/09/12
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、拓摩様、℘アカツキ℘様、有難う御座います、大変助かりました。


続・友ヶ島警備府の長い一日

「随分と極端な作りをしているわねココ……」

 

 

 大坂鎮守府敷地内、友ヶ島警備府執務棟では新任司令長官であるリーゼロッテ・ホルンシュタインが椅子に腰掛け、肘を付いた腕に顎を乗せつつ室内を見渡していた。

 

 

「取り敢えず事前に打ち合わせた時の『シンプル』かつ『スタイリッシュ』であり、そして『機能的』という各所から寄せられた要望を取り込んだ結果、こんなデザインになりました」

 

 

 リーゼロッテが最初に案内された部屋は、彼女がこの先施設内で一番長い時間を過ごすであろう執務室であった。

 

 それは実務という部分も同時に内包する拠点の仕様上、事務と実務が混在する作りになっている為、執務棟と称するにはそこは色々と特殊な造りになっていた。

 

 

 先ず執務室は入り口から入り、一階の玄関ロビーを抜けて正面に位置する部分に配されている。

 

 執務から出撃、または簡易な整備や休息という、友ヶ島警備府の軍務を一箇所に詰め込んだこの建物は、各エリアがロビーを中心に繋がっているという仕様の為に、移動という面ではそれ程の距離を行く事は無い造りにはなっていた。

 

 そして友ヶ島警備府という24時間体制で哨戒を受け持つ拠点の性質上、執務室は拠点の中枢であり全ての情報伝達の要であった為、そこは司令長官が執務をするだけでは無く、艦隊員達に対しての業務引き継ぎや作戦の伝達も機能的に行われる様、ブリーフィングルームも兼ねた部屋として設計されている。

 

 

「機密性が高い情報を扱う箇所をあちこちに配すると、そこへの出入りという部分にセキュリティ的な手間が分散してしまって動線が死んでしまうので、その辺りはなるべく纏まるように配した結果こんな作りになったんです」

 

「なる程、で、ここがブリーフィングルームで、そこの回転ドアの向こうが事務関係の執務を行う部屋になってる訳ね」

 

「はい、セキュリティという面ではこのブリーフィングルームに入る際に固めてますから、そこから奥にある執務室のセキュリティは省略する事ができます、それに施設の中枢を一箇所に固めると言う事は防犯・防諜設備を機能的にパッケージングする事を可能にしますので、より強固な施設運営が可能となります」

 

「ふーん……その辺りは理に叶ってるわね、家具とか諸々のデザイン以外は」

 

 

 そう苦い顔で言うリーゼが座る席は、ダークガラスの一枚板をアルミ無垢の輝く足一本で片側から支持する形状の、やたらとスタイリッシュな机が設置されている。

 

 そして座る椅子も赤い皮張りのイタリア家具的なデザインチェアー、そこに二種軍装(スカート型)を纏った金髪ボブカットのデルモみたいな士官が足を組んで座る、それは誰が言ったか正にスタイリッシュという要望の部分を軽くクリアする絵面(えづら)にはなっていた。

 

 

「ブリーフィングするだけならデザイン重視でも関係無いし、これはこれでアリだと思うぴょん」

 

「んぁ~ 座り心地もいいし別にいいんじゃない~? まぁあたしゃのんびり出来たらなんでもいいけどぉ?」

 

「もっちーは寝心地が良ければ何でもOKだから、あんま参考意見にはならないぴょん……」

 

 

 リーゼロッテが溜息を付く理由は部屋の無駄にスタイリッシュな作りに対してだけでは無く、そこに集う面々の状態も大いに関係していた。

 

 

 リーゼが座る席よりはややスタイリッシュ度が落ちるが、それでもIK○A的な感じでデザイナーズされた席に着く睦月型の面々+α

 

 それらは世の提督諸氏のイメージではキャピキャピという雰囲気なのでは無いかと思われるだろう。

 

 しかしこの友ヶ島警備府所属のくちくかん達は、落ち着いて施設の中を観察しつつ、的確な意見を述べる落ち着いた大人の空気を漂わせる者達であった。

 

 そんなくちくかん達は、片手に缶コーヒーを持ち、咥えた煙草をプカプカ吹かすというアレな様が、睦月型駆逐艦という見た目も相まって色々な異質感を盛大に加速させている。

 

 

「この拠点所属の艦娘って喫煙者が多そうね」

 

「多そうって言うか、程度の差はあるけど全員煙草は嗜むわねぇ~」

 

「規律って面じゃそこそこ厳しくやってるけどよ、プライベートの酒や、喫煙ってヤツは軍の中で許された数少ない嗜好品だからな、ちゃんとやる事やってりゃそのヘンは自由っていうのがウチのやり方ってワケだ」

 

「て言うか唐沢司令がヘビースモーカーだったから、皆それを真似してこうなったって言うのが実態なのよねぇ、それで? 提督はその辺りどうなのかしらぁ?」

 

「煙草? まぁヘビーではないけど割りと吸う方かしら、この様子だとその辺り気を使わなくて良さそうだから助かるけど……」

 

 

 普通の紙巻煙草から両切り、果ては葉巻という色々な煙草を片手に談笑をするくちくかん達、確かに彼女達は軍務へ就いてからこちら、その年数は既に20年近く、見た目は小さな子供であったが、中身は熟練の兵なのは間違い無い。

 

 無いのだが、それが仕事関係を話題の中心として、肺から吐き出し切れてない紫煙をブラックコーヒーで胃へ流し込むという様は、ドイツから来た歳若い司令長官からしてみれば、それはそれで違和感がバリバリであったりするのである。

 

 

「全員喫煙者という事も聞いてましたから、その辺りの設備も抜かりありません」

 

 

 スススと夕張がリーゼの脇にスライド移動し、何かのリモコンを手渡す、それと平行して天龍を手招きで呼び寄せハンカチを手渡し、再びスススと部屋の隅へ立たせる。

 

 

 その流れる様な段取りを室内の者達は無言で伺い、ハンカチ片手でセットされたフフ怖い自体も一体何事かと首を捻ってその場で待機する。

 

 その様を見て龍驤と妙高だけは眉根の皺を深くする。

 

 こんなメロン子がやる例のパティーンを経験した事の無い友ヶ島勢とは違って、大坂鎮守府で長くやってきた彼女達二人は知っていた。

 

 

 実演を交えたメロン子の機器説明は、大抵がロクな事が無いと言う事に。

 

 

「……えっと?」

 

「この部屋には大人数が喫煙しても瞬時に空気の入れ替えが出来る大型の空気清浄機をセットしています、そのリモコンがコントローラーになります」

 

「え、何これ……スイッチ入れればいいの?」

 

「はい、弱から試してみて下さい」

 

 

 リーゼの手には夕張から手渡された、TVのリモコンよりは二回り程小さなブツがあった、それにはシンプルに『強・中・弱』という表示のボタンと電源のON・OFFのボタンだけが並んでいる。

 

 丁度部屋の中では煙草の煙で雲が薄く発生している、なら設置されている空気清浄機の性能を確かめるには今は最適だろうなと、そんなお試しの気持ちでリーゼは『弱』のポタンをポチリする。

 

 

 フィィーンという微かな音と共に少しづつ天龍の方向へと空気が流れていく、それと共に天龍が持つハンカチが壁の方向へゆらゆらと揺らめく。

 

 

「へー、見た目只の壁だけど、ココ良く見たら細かい溝が切ってあんのな?」

 

「空気清浄機の出力によってその溝は広がったり閉じたりするわ、でも手を突っ込んだりとか出来ない程度に調整をしてあるから安全よ?」

 

「ふーん、中々の出来じゃない」

 

 

 緩やかに流れていく紫煙に気を良くしたのか、リーゼはリモコンのボタンを『中』、そして『強』へと次々に切り替えて使用感を試してみる。

 

 その度に風量が変化し、吸気口付近に立つ天龍は手にしたハンカチがパタパタとする様を見て関心している。

 

 

 そんなある意味和やかな雰囲気の中、龍驤と妙高の表情だけは優れない。

 

 何せそこに設置されているのは既製品では無く夕張重工謹製のメロンテクノロジーが詰め込まれた設備機器なのである。

 

 しかもここは世界とは隔絶された大坂鎮守府という魔窟でもある、そんな場所にはJISという日本工業規格もISOという国際標準化機構という規格化された安全基準は存在しない。

 

 

「……ん? 何これ?」

 

 

 そんなテクノロジーを操作するリモコン、そこの握り部分に開閉するフタをリーゼは見つけてしまった。

 

 これは電池を入れるケースなのか、それとももっと細かい調整をする為の何かが仕込まれているのだろうか。

 

 そんな事を思いつつも、ボブカットの金髪ボインは何気なく蓋を開いた。

 

 

 『寂』『宙』『凶』

 

 

 表にある三つのボタンとは読みが同じの、それでも漢字表記が違うボタンが並ぶそれ。

 

 黙ってそのボタンを怪訝な表情で見るリーゼと、その様子に気付いたのか驚愕の表情を表に滲ませる龍驤。

 

 

「あっ……ちょいお嬢!」

 

 

 しかしそんな異変に気付いたまな板が声を掛けるが時既に遅し、ほんの一瞬だがリーゼは『凶』のボタンをポチリとしてしまい、その瞬間部屋の隅では『おごぉ!?』というくぐもった声と、何かがぶつかる鈍い音が聞こえてくる。

 

 

 それはほんの一瞬、危険を察知した龍驤がすぐスイッチをOFFにした為被害は最小限で食い止められたが、その僅かばかりの一瞬で、壁面にピラミッドの内部に描かれた壁画の如き不自然な形で張り付いたフフ怖と、それを口から煙草の煙をプカーしたまま唖然と見るくちくかん達と言う絵面(えづら)が出来上がってしまう。

 

 

「あ、それ保安システムの起動スイッチですから取り扱いは注意して下さいね」

 

「……保安システム?」

 

「です、コレって潜水母艦のフィンを流用した強力空気清浄機ですから、そのまま設備だけに利用するのはアレだって事で防衛機器としても使える様に調整してあるんです」

 

「この『凶』ボタンは?」

 

「侵入者を壁に吸引して拘束する為のボタンです」

 

「……『宙』は?」

 

「天井に吸い上げて叩き落す機能を作動させる時のボタンです」

 

「じゃ……この『寂』は?」

 

「室内の空気を全て吸い出し、真空状態にして侵入者を撃退するシステムです」

 

「……あぁ真空状態だと音は伝達しないものね……それで寂なのね……」

 

 

 凄い真面目かつ何とも言えない表情でリモコンを凝視するリーゼと、その脇でとてもいい笑顔のメロン子。

 

 そんな二人から壁際に視線を流した妙高に見えるのは、にゃしいにゃしいと睦月から一生懸命壁より剥がされる平面天龍と、あらあらぁと笑いつつ眺める龍田、そしてそれを無言で見詰める睦月型の面々というカオスであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで? 確か出撃ドックとかその辺りの設備って、鎮守府の物をウチも共用させて貰う筈だったと私は記憶してるんだけど?」

 

 

 友ヶ島警備府秘密基地、そこの整備区画の端に集まった面々は其々微妙な表情でメロン子を中心に、壁際から生えているある装置を見ていた。

 

 

「はい、確かにそれは無駄が無く効率的な運用と言えるのですが、鎮守府の哨戒を受け持つ友ヶ島の皆さん的にはここからドックまでの僅かな移動時間というのは、緊急時には惜しい物となる筈です」

 

「まぁそう言われればそうかもね」

 

「それに鎮守府の者達がドックを利用している状況だと、色々と混乱して面倒な事になる可能性もあります」

 

「……だから専用の出撃装置を配置したと?」

 

「あくまで緊急用の物ですからまだ仮設置の状態ですけど、使用感が良好なら本格的に整備する予定になってます」

 

「安全性は?」

 

「既にこれと同じ物は母艦泉和(いずわ)にも配備されてますし、実戦でも稼動実績があります」

 

 

 秘密基地の隅に位置する機器整備区画、建物の躯体が剥き出しで倉庫然とした場の壁際には、床から生えた巨大な鉄骨然としたブツが壁を貫通して外へ向って伸びていた。

 

 常温超電導電磁式カタパルト、母艦泉和(いずわ)に搭載されている出撃システムを陸上施設で運用する為に改修した設備である。

 

 それは拠点へ設置した為、母艦と言う限られたスペースでの配置制限が無くなり、船へ搭載する物よりも出力・総延長が元々の設計仕様の物へと換装可能となった為に、高出力化を実現した装備となっていた。

 

 

「コンパクト&省電力化という縛りが無くなりましたから強度的にも設備は安定しましたし、陸上固定と言う事で射出エネルギーのロスもかなり抑える事に成功しています」

 

「へぇ~ 稼動実績もあるって事だし、安定してるって言うなら使ってみてもいいかも知れないわねぇ」

 

 

 二人の会話を聞きつつ妙高は思った、確かに夕張は設備自体強度的に安定した(・・・・・・・・)とは言った、しかし安全に使用出来るとは一言も言ってないのではないかと。

 

 

「なぁ夕張、コイツでぶっ飛ぶのはいいんだけどよ、ちゃんと安全に抜錨できんのか?」

 

 

 既に数々の被害を一身に受けているフフ怖はそろそろメロン子の作るブツの特性に気付き始めたのだろう、懐疑的な意見を口にする。

 

 そして周りの者は思ったという、ここまでやられて漸くその辺りに気付いたのかと。

 

 

「ねぇ天龍さん」

 

「何だよ卯月」

 

「例えば深海棲艦がババーっと攻めてきたとするぴょん?」

 

「あん? 攻めてくるってお前、今時内地でそんな事起こるワケねーだろ?」

 

「いやいや、そこはまぁ横に置いといてうーちゃんの話の続きを聞くぴょん」

 

「横にって何だよ……そんで?」

 

「危機に陥る皆、もうダメダァって絶望に染まる戦場」

 

「……う、うん?」

 

「そこへ剣を抜刀した天龍さんが颯爽と空から現れる! そしてそこで決め台詞ぴょん、『オレの名は天龍。フフフ、怖いか?』」

 

「……」

 

「……ね?」

 

 

 全員が真面目な顔でそんな会話を繰り広げる二人を眺める。

 

 そんな中、徐にツカツカとフフ怖はカタパルトへ近寄り、いそいそと足をカタパルト付属のゲタの如きアタッチメントへセットする。

 

 

「夕張」

 

「え……ああうん、ナニ?」

 

「取り敢えずテストだ、滞空時間長めで頼む」

 

 

 そんな場の全員が怪訝な表情で見る先には、某フリーマンのポーズで射出を待つフフ怖の姿。

 

 それはチョロ過ぎる眼帯と、腹黒ウサギという二人の関係性をリーゼロッテが肝に銘じた瞬間でもあった。

 

 

 フフ怖の希望通り海へ着水する範囲内で仰角一杯にセットするメロン子。

 

 ゴンゴンゴンという作動音と共にせり上がっていくそれを見つつ龍驤は思い出す。

 

 

 確かにこの設備は使用実績はあったが、それは現在ほぼ深海勢の専用装備的な物になっているのではなかったかと、何せ射出時のGの凄まじさと、艤装を背負った状態で飛ぶにはバランスを取るのが難しく、一度榛名が使用して『はい、榛名はだいじょじょじょじょぶです』とのたまって以来、誰も使おうとはしなかったのでは無かったのかと。

 

 髭眼帯が渋い顔で報告書の内容をそう口にしていた事を思い出し、現場に出ていなかったまな板はその辺りの事を妙高へ確認しようとしたが時既に遅し。

 

 小さな火花がパチッと上がった瞬間、ドゴンと猛烈な音と共に空気の壁が発生し、その勢いに全員が顔を庇って後ずさり、場には凄まじい衝撃が広がった。

 

 そんな状態が数十秒掛けて沈静化した後、唖然とする一団の前では射出されたゲタ(・・)がカラカラとワイヤーで定位置に巻き戻される。

 

 そしてガシャンという音と共に定位置へと固定されたブツには、黒く輝くフフ怖の特徴的なブーツが二つ揃って残されていた。

 

 

 人生に疲れた者が紐無しバンジーをやらかした現場に鎮座する履物、戻ってきたブーツを見た者達の中にはそんなイメージが浮かんだという。

 

 

「……ねぇ夕張」

 

「射出データを見ると、出力が安定した為に射出速度が音速を突破しちゃった為……踏み板のロック解除のタイミングが間に合わなかったみたいです……」

 

「龍田さん……」

 

「何? どうしたの睦月」

 

「あそこ……天龍さん、スッポンポンでプカプカ浮んでるにゃしぃ……」

 

「あらぁ、まぁ停止状態からいきなり音速突破なんかしたら服が脱げちゃっても不思議では無いわよねぇ……」

 

 

 

 こうして友ヶ島警備府秘密基地の施設は、リーゼロッテの判断である程度の取捨選択が行われ、最適化されていくのだが、それらが完了して正常運用されるのはまだ少し先の事になるのであった。

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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