新たなる指令を受けた吉野中佐、ご乱心の為時雨を抱き枕にする。
それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
2018/01/06
誤字脱字修正致しました。
ご指摘頂きましたKK様、orione様、ぱたかぱた様、有難う御座います、大変助かりました。
捷号作戦開始
第二特務課出撃ドック、高速揚陸艇"
大本営発令、マルトク案件"
この作戦の為日本国内は優に及ばす、海軍が掌握している全ての拠点に対して戦力の配置転換がなされ、日本沿岸に強固な防衛線を築いていた。
そしてこの作戦の中核を成す第二特務課は現在、交渉の場へ向かう為の準備を済ませ、吹雪型一番艦吹雪と最後の打ち合わせをしていた。
この交渉については極秘を旨とされていた為一度出航すれば無線封鎖が成される、その為あらゆる事態を想定した行動を連絡無しで連携して行わねばならない、これはその為の情報を再度確認する為の打ち合わせであり、これが終われば第二特務課は孤独な戦いへ赴く事になる。
「これで全ての情報について
「いえ、多分これ以上考えても逆に身動きが取れなくなるでしょうし、充分だと思います」
吉野と吹雪は、手元の作戦概要を記した書類を確認し合いながら、最後の打ち合わせを終えていた。
その書類は赤いボールペンで修正された箇所が幾つか散見され、吹雪はこの後その修正箇所を作戦へ反映する為大隅大将へ報告に行くという。
「それでは執務棟へ戻りますね、以後は申し訳ないですがこちらから直接的な援護は出来ませんので、くれぐれも気をつけて下さい」
「了解です、有難う吹雪さん」
にこやかに握手を交わし、話を終えようとした吹雪だったが、何か伝え忘れでもあったのだろうか、慌ててポケットをまさぐりだした。
「そうそう忘れてました、これを渡しておかなくては……」
ポケットから1m以上はあろうかという大きな黒いアタッシュケースを引きずり出す吹雪、慣れたとはいえ流石にこれだけの物を見ると吉野は苦笑を抑え切れなかった。
「姫級相手にこれが役に立つとは思えませんが、一応」
そう言って吹雪は吉野にアタッシュケースを手渡した。
床に置き、中身を確認するとその中には無骨で巨大なライフルが納まっている。
「これは……」
〔XM109ペイロード〕25mm
バレット社のM82シリーズの改良型、25×59BmmNATO弾5発を装填するそれは、人では無く軽車両や屋内の対象を狙撃する目的として作られた大口径狙撃銃である。
対外的な言い訳として"対物用"と銘打ってはいるが、対人用として製造されたのは間違い無い、そしてそれは大口径であるが故に四肢以外の部位に命中すればほぼ絶命するという威力を誇り、
体力的にも戦闘面でも兵として並以下であった吉野が、
深海棲艦との戦争が続き、対人としての大規模戦闘がほぼ無くなって久しいこの時代とって、この様な装備はある意味珍しくもあったが、それでも特務課は主に"人間相手に戦う事が多い部署"であった為に、この手の装備は潤沢に支給されていた。
「あー、まぁ一応持ってきはしますけど、これじゃイ級辺りの足止めが関の山かも知れませんねぇ」
そう言う吉野に対して、吹雪は予備のマグから一発の銃弾を引き抜くと、それを大事そうに手に乗せこう呟いた。
「これの弾頭は靖國に祭られていた14cm副砲を
靖國の14cm副砲、それは戦争締結を待たず"謎の爆発事故"の為海へ沈んだ戦艦陸奥の物。
まだ核兵器が使用される以前に海へ没したその船体を構成する鉄は、核に由来するコバルト60の影響を受けていない希少な物。
「
「はい、
「成る程……」
「過去、まだ戦争初期はこれを携えた多くの兵が私達と共に深海棲艦に挑み、海へ散っていきました、あの時は力及ばす、目の前で消える命を私達は取りこぼし続けました……」
まだ深海棲艦との戦いで人が直接戦場に出ていた頃、吹雪達はその時代から戦ってきた、それは目の前で人が死ぬ、それが当たり前の日常で、"守る為に
「これはその時靖國から頂いた物の残りから作成しました、三郎さん…… 無理はせず、必ず帰って来るんですよ?、それでは、御武運を」
敬礼をする吹雪に答礼をし、吉野は部下が待つであろう舟へ乗り込んでいった。
出航し、遠くへ消える船を吹雪は見送っていた、その脇から見上げる様に電が吹雪を覗き込む。
「『直接的な援護は出来ません』でしたか?、銃といい"アレ"といい、吹雪ちゃんは随分と過保護なんですね?」
「……何の事です?」
「さて、何の事なのでしょう?」
ニコニコと見詰める電、苦虫を噛み潰したかの様な表情の吹雪、対照的な雰囲気の"最初の五人"と呼ばれた艦娘二人がそこに居た。
「……間宮の羊羹でどうでしょう?」
「ん~ 今はクリームあんみつの気分なのです」
「判りました、ではそれで手を打ちましょう」
何かしらの駆け引きが終了し、ドックを後にする二人、その後ろをご相伴にあずかろうと数人の妖精さんが追っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
海は
大本営を出航し、南東を目指す高速揚陸艇"
「これから向かうのは南鳥島、ここは今軍の管轄にあるんだけど、防衛ラインから少し内に入ってる事もあって常駐してる部隊は無く、気象観測機器と僅かな補給設備があるだけで、特に要衝とは位置付けはされてない」
「"三角島"ね、あの辺りははぐれの小物しか確認されて来なかったし、島が小さいからリスクを犯してまで人員を派遣する事は無いので放置されていると聞いているわ」
南鳥島
まだ人類が海を掌握してた頃、日本本州から1,800km離れたその島は本州最東端、日本の領海と接していない唯一の"飛び地"であった
そこは最高でも標高が10mにも満たなく、高波による危険があり、更には日本海溝の傍にある為、島の脇はすぐ水深1,000mになる海域とあって、加賀が言うように要塞化には不向きな島であった。
「まぁ近隣から使える土砂を採取し難いだろうし、水深があれだと潜水艦が
溜息を吐きつつ吉野は加賀を見る、今日の昼食は船内という事もあって握り飯とたくわんという質素な物であった。
一航戦加賀はその握り飯を上品に、そして高速に消費している。
こんな事を書くと『まぁ一航戦だから』と言われそうなので彼女達の名誉の為書き加えると、艦娘は艤装に消費される資源は普通に船として大量に消費する、そして大型艦になるとそれはより顕著になる。
しかし実際肉体的な部分、人と同じく経口して消費する食事量はほぼ人と変わらず、駆逐艦に至っては小食と言われてもおかしくは無い程度にしか消費されない。
彼女達曰く『満腹感は得られないが、ある程度食事をすれば満足感が得られる』との事なので、肉体の維持と、戦意高揚の為にある程度の食事は必要なのだが、どこぞのフードファイター並みに大量消費する事は無いという。
しかし今吉野の目の前でしずしずと握り飯を口に運ぶこの一航戦の青いのは、どうやらその満足感の天井が高いらしく、先程から大量の握り飯を消費していた。
「あ…… 相変わらず加賀さんは
「えぇ、このお握りはおいしいですね、コシヒカリかしら? とても気分が高揚します」
何度も言うが、この加賀は食べ方はとても上品なのだ、チラリと見る程度ではその消費される食料の違和感すら気付かない程に。
例えて言うと、赤いのが炊飯器からしゃもじで中の飯を直接食う食の権化なら、この青いのは上品に茶碗でお代わりを続け、炊飯器の中身を食べ尽くす食の権化である。
どちらにしても食の権化である事は変わりが無いのだが、その辺りは気にしてはいけない。
半笑いをする吉野の視線に気付いたのか、加賀は
「え…… 何です?」
「……ん」
もぐもぐと咀嚼しつつ、握り飯を突き出す加賀、そしてそれを凝視する吉野。
「あの…… もしかして食べろと言ってるんじゃ……」
困惑気味な榛名の言葉に、加賀はコクコクと頷いている。
「いやその…… 自分に遠慮せずに、どうぞ」
「ん!」
「折角加賀さんが食べてって言ってるんだから、それを無視するのはどうかと僕は思うけど」
時雨の言葉に多少思う処があったが、入院中に起こった惨事を思い出すと吉野にはそれを口にする勇気が沸いてこなかった。
「成る程、それがこの艦隊に
「いや違うからね!? ってぬいぬい、壁に向かってお握り差し出してどうするの?」
「あ、失礼しました、こちらでしたか」
「すいません、提督はあちらです」
妙高から苦笑いで指摘を受けた彼女、ラバウルから第二特務課へ転任してきた陽炎型二番艦ぬいぬい、その眼光は噂に違わぬ鋭いものであったが、実はそれはド近眼であった為に目付きが悪くなっていただけである。
「ん!!」
「あ、こちらでしたか」
「ちょっと加賀さん押し付けるのヤメテってかぬいぬい! そこ提督の口じゃなくて目だから! よしなさい!」
結局の処、アーンを固辞しようがどうしようがこの手の不幸は避けられないのは吉野三郎(28歳独身米粒まみれ)の運命である様だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あー…… それでは、現地に着いた後の事をもう一度確認しておきます」
米粒だらけの顔を時雨に拭いて貰いながら、吉野は打ち合わせの続きをしていた。
「現地で交渉に望むのは当然自分なんだけど、君達は同伴可能なのか、それとも離れた場所で待機なのかはまだ判らない、なのでとりあえずは待機になると仮定して準備は進めておこうと思う」
何事も最悪を基準として行動する、それが吉野のスタイルである、その為交渉時には随伴無しでの人員配置を考え、それを全員に伝えていた。
「向こうから指定してきた事だから、随伴しても別にいいんじゃないかな?」
「時雨君の言う事も
ゴホンと咳払いを一つ、吉野は話を続ける。
「先ず夕張君は船で待機、いつでも主機に火を入れれる状態にしておいて欲しい」
「判りました」
「榛名君は迎撃の要になるだろうから、艤装を展開して甲板に、砲には弾薬を装填してて欲しい」
「はい、判りました」
「妙高君は今回三号砲二門と観測機、そして電探装備で、榛名君のサポートに回って欲しい、砲装備は久し振りだろうけど、大丈夫かな?」
「大丈夫です、お任せ下さい」
「加賀さんは今回艦戦と偵察機は積まない方向で、戦うとしてもいきなり近距離で
「成る程…… なら艦爆を多目に積んでおくわ」
「それでお願い、後は……」
吉野は残り二人の内、不知火の方を見る。
「確かぬいぬいは電探系ガン積みで策敵専門なんだっけ?」
「不知火です、申し訳ありません、視力が仇になってしまい通常戦闘ではお役に立てないと思います、前任地でもずっと策敵専門としてやってきましたので……」
「ああ気にしなくていいよ、今回は加賀さんも索敵捨ててるから逆に有難い、それじゃぬいぬいは全方位警戒を、時雨君はぬいぬいの護衛の為に随伴して欲しい」
「判った、提督も気をつけてね?」
こうして道中に全て準備を終わらせ、幸いにも戦闘も無いまま何事も無く進み、第二特務課は人類初となる深海棲艦との交渉の場である南鳥島へ上陸を果たすのであった。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
どうか宜しくお願い致します。