大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 今まで水面下で進めていた話を形にする為大隅と対峙する髭眼帯、オサーン率が濃厚でキッツイ話は書いてる本人も実はキッツイと思ってるのは内緒の話さハニー!


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2018/03/18
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたリア10爆発46様、有難う御座います、大変助かりました。



北の主との話し合いと禁断の書

 

 

「……ほんとオニーサンってトンデモな手で人の裏をかこうとするんだね、まぁ私人じゃないけど」

 

 

 執務棟地下三階にある戦闘指揮所。

 

 少し前には軍令部総長とガッチガチの話し合いという名の意地の張り合いをしていた髭眼帯であったが、その数時間後にまさかの北方棲姫から連絡が入り、やや疲労を覚えながらも話し合いの場に身を置いている最中。

 

 モニターの向こうには白い幼女然とした深海棲艦上位個体が反応に困る類の冗談を口にし、笑いを要求するかの如きチラ見をする様をゲンナリしつつも乾いた笑いで返す髭眼帯という微妙な場がそこにはあった。

 

 大隅との会談からの疲労を引き摺った身では、ある意味それは苦行であるのはまぁ横に置いといて。

 

 現在の吉野が目指す先を簡潔に述べるならば、北方棲姫が現在米国へ強要している北極海から日本領海へ向けての航路開拓を、穏便かつ速やかにどうにかして無しにするというのが最終的な落着点になるだろう。

 

 

 それを成すには北方棲姫との間に幾つかの取り決めが必要で、諸々を決める話し合いは手紙のやり取りでは時間が掛かり過ぎる。

 

 しかしタイムラグが無い唯一の連絡手段である物理回線の敷設は、テリトリーに人の手が入る事を嫌う北方棲姫側が拒否した為不可能という現状。

 

 結果として髭眼帯は現在ほぼ使用不可能になっている人工衛星を介した通信という可能性を模索し、不完全ながらもそれを用いて北方棲姫と連絡をつけた、と言うのが今であった。

 

 

「いやぁ、色々無理をお願いして申し訳無いです」

 

「ホントにねぇ、取り敢えず興味があったから今回は応じたけど、この方法で連絡するのは今後遠慮したいかなぁ」

 

「あー、やっぱ無理がありますか」

 

「当たり前だよ、ちょこっと会話するのにテリトリーに展開してる結界の大体七割位抑えないといけないんだよ、無茶苦茶大変なんだから」

 

「やっぱあの吹雪の壁って、北方棲姫さんがやってたんですかぁ」

 

「あ、いやそれ正解だけど多分誤解してると思う」

 

「え、誤解って何がです?」

 

「オニーサンが今考えてるのって、例の結界を私が発生させてて、今それを解いてるって感じで理解してるでしょ?」

 

「えぇまぁそうですね」

 

「それ逆、あれ勝手にそうなっちゃってるだけだから、確かにあの吹雪は私が原因なのは変わらないけどね……でと、その結界は発生させるんじゃなくて勝手に起こってる事だから、んで勝手に発生してる結界は消失させるのに力を消耗しちゃう訳、ね? 判る?」

 

「あーあー、あの吹雪はビュービューしてるのがデフォで、止めるのに力を要すると」

 

「そそそ、ついでに言うと、アレ弱めたらここいらに眠ってる下っ端が目を覚ましちゃってコントロールするの面倒なの、ほんともー疲れるし、面倒だし、ロクでもないよっ」

 

「あ、はいすんません……ほんと、さーせんした……」

 

 

 人類の一大事の為考え得る手段を掻き集め、深海棲艦上位個体との会談に臨む海軍中将。

 

 その話し合いはビジュアル的な物で説明すると、髭の眼帯が幼女にプンスカされてペコペコしているというアレで救えない絵面(えづら)となっていた。

 

 

「えーっとその辺りの事なんですが北方棲姫さん」

 

「ほっぽ」

 

「……はい?」

 

「何か北方棲姫って呼ばれ慣れてないから、ほっぽでいいよもう」

 

「あー、えと、はい……ではほっぽ……さん?」

 

「呼び捨て……はちょっとアレだし、さんだとむず痒いし、ほっぽちゃんでどう?」

 

「えっとほっぽちゃんがそれでいいと言うなら……えぇまぁ、はい」

 

 

 繰り返し言うが、現在交わしているこの会話は、深海棲艦上位個体と海軍中将の間で話し合われる、一歩間違えば世界の危機に繋がりかねないとても微妙かつ重要な会談なのである。

 

 割とマジなレベルで。

 

 決して北方棲姫の愛称を決めて、そこからフレンドリーに世間話にシフトする場では無い筈である、多分。

 

 

「んで……えっと、何の話だったっけ?」

 

「あー、ちょっと確認したい事があるんですが、いいですか?」

 

「ん、なに?」

 

「例えばですね、今ほっぽちゃんが抑えてる結界の度合いが……例えば1/3~1/4程度で済むというレベルに収まるとしたら、どうでしょう?」

 

「……それって、この通信方法を常設するのはどうなのって事なのかな?」

 

「有体に言ってしまえばそうです、この方法ならそちらに直接人の手が入る事はありませんし、話したい事を話したい相手にいつでも出来る感じになりますが」

 

「ん……んん? いや話したい相手って、実際これ(通信設備)って相当規模とか維持費掛かるんでしょ? って事は軍と言うかオニーサンが使用権限持ってるって事じゃない、私別にオニーサンとおしゃべりしたいとか考えて……なに?」

 

 

 やや怪訝な表情になりつつ話しを続ける北方棲姫の前に、掌大のリモコン的な物体を見せる髭眼帯。

 

 その無理に笑った表情はニチャリとしてとても胡散臭いと言うか、相手が幼女然とした人物であった為、その場を一言で表せば憲兵さんこいつです感がぷんぷんと匂い立っていたが髭眼帯自身に悪意は全く無かった。

 

 繰り返し言おう、そのやり取りは見た目世間一般で言う処のハイエースダンケダンケという単語が出てきそうな絵面(えづら)ではあるが、それは真っ当な駆け引きがあってのものである。

 

 

「これはそちらから連絡が来ると繋がる携帯端末でして、送信機能自体はこの指揮所にしかありません」

 

「……それで?」

 

「ほっぽちゃんの目的は研究に関する諸々の情報交換にある、先ずはこれに間違いはないですよね?」

 

「……まぁそうだけど、ってオニーサンその笑顔キモい」

 

 

 髭眼帯自体余り愛想笑いという類の物は仕事上で幾らか見せるが、相手が幼女然としていた為力いっぱいフレンドリーさを醸し出すという努力をしてみた結果、悲しいかなその笑顔は憲兵さんコイツですになってしまったという結末に至っていた。

 

 そんな努力が散々な評価になってしまった事に少しだけ傷付きながらも、笑顔を絶やさず髭眼帯は話を進めていく。

 

 

「あー……えっと、基本的にこの端末はハカセと電ちゃんにだけ渡すという事で、自分はそれには関わらないという方向性でと言う事でどうでしょうか?」

 

「……えっと?」

 

「要するにこの通信システムは、ほっぽちゃんとハカセ、そして電ちゃん用の回線という事で」

 

「ああ、そういう事、で? それなら通信設備をうちに設置したままでもいいかって聞きたい訳?」

 

「ですです、ただたまーに緊急的に話がある時は自分も使わせて欲しいなって事で」

 

「まぁそれはそっちの自由だし、普段はこっちの好きな様に使う物って言うんなら損は無い感じだけど……ねぇ、ホントマジキモいから普通の表情に戻してくれないかな」

 

 

 努めて爽やかにという方向性に切り替えた努力はまたしても不評であったという話は別として、現状の話は取り敢えず上手く進んでいる事にほっとする髭眼帯であった。

 

 

「ただその設備を実用段階……さっき言ったそちらの負担が軽くなる形にするには、少々協力して頂く必要がありまして」

 

「負担が今の1/4程度になるって話?」

 

「はい、現在使用している人工衛星なんですが電波を拾う性能が低く、どうしてもウチとそちらの直接通話を可能にするには、こちらもそちらも色々と制限がキツい状態にあります、そこで少しでもその負担を軽くする為に電波を中継する基地を設置する必要がありまして」

 

「中継基地? どこに?」

 

「理想はこちらとそちらの中間にあたるニア諸島辺りになりますが、領海の絡みがありますし、機器の設備管理を考えるとロシアのサハリン州……小クリル列島辺りが妥当かなと」

 

 

 髭眼帯が口にした「ロシア」という言葉に北方棲姫は一瞬眉根を寄せるが、それも一瞬でコロっと表情を変化させ、笑顔でうんうんと頷きだした。

 

 そんな絵面(えづら)をモニターで確認した髭眼帯も自分が何を言いたいのか相手は理解したのだと感じ、努めて爽やかな笑顔でうんうんと頷き返した。

 

 

「わかった、んじゃちょっとロシア滅ぼしてくる」

 

「ほっぽちゃんこっちの意図全然理解してなかったよ!? 待って!? そんな軽々しくちょっとコンビニ行って来る的なノリで国を一つ滅ぼすとか言わないでくれるかな!?」

 

「え、なに違うの?」

 

「違いますっ! 確かにロシア領になってる島一つをちょちょっと頂こうかと画策してますけど、あそこは今無人島なんで実行支配が成立するだけでいいんですっ!」

 

「島一つでいいの? て言うかもう後腐れが残ったら面倒だからさ、オニーサンがOKならさ、ねぇねぇ滅ぼしちゃおうよ、ねっ?」

 

「ヤメテ!? 提督をそんな一国の滅亡に関わるキーマンにしないでっ!? てかもうちょっと穏便な風味でお願いっ!?」

 

「……んもー面倒だなぁ、それで? 結局どうするの?」

 

「えっと……今お話した島は現在日本の領海と接した位置に存在しています、そしてその辺りは深海棲艦が存在する為無人島になってまして」

 

「あー、んじゃその縄張りを獲ってそっちの領海として取り込もうと」

 

「そういう事です、一応島は現在誰も手を付けてない状態ですから以前と同じくロシア領(仮)となってますが、そこに居る深海棲艦を押さえ込んで防衛し続けられるという実績を作り上げれば、現在の公海に於けるルールとしてこちらの領海という主張ができるんです」

 

「んでもロシアって結構我が強いんじゃない? こっちにもお構い無しに喧嘩吹っ掛けてくるし、もしオニーサンがそういう手を打っても後から揉めちゃうんじゃない?」

 

「えぇまぁそれは確実にそうなるでしょうね、だからそうならないようほっぽちゃんにはお願いしたい事がありまして」

 

 

 再び髭眼帯は爽やかな笑顔的な表情をニチャっと表に貼り付け、揉み手をモミモミしつつ北方棲姫に提案を持ちかける。

 

 取り敢えずその辺りは詳細を詰めなければ事は国際問題に発展し、日本とロシアの間に致命的な軋轢を発生させる事になる。

 

 そのキモの部分に触れる辺りに話が進んだ為髭眼帯は気合を入れ直すが、いの一番で北方棲姫から帰って来た反応は「キモッ」の一言だったのは最早言うまでもない。

 

 

「あー、えっとこちらにも色々と事情がありまして、実行支配を主張するにはその島をこちらで獲る必要があります」

 

「うん、それはさっき聞いたね」

 

「で、問題となるのはその後のロシア側の動きなんですが、島の実行支配権を主張すれば恐らくほっぽちゃんが言う通りあちらからの横槍というか、何かしらの良からぬ返しが来るのは間違いないと思います、なので……」

 

「滅ぼす?」

 

「それから離れて!? 取り敢えず話を聞いてクダサイオネガイシマス!」

 

 

 冗談の様な受け答えに聞こえるが、北方棲姫は割りと本気で答え、髭眼帯は必死でそれを阻止している状態にあった。

 

 それは珍妙な絵面(えづら)にあるが、間違いなく髭眼帯は世界の危機を回避しているのである、キモいと言われながらも。

 

 

「あー、えっと島の実行支配権をこっちが握ったとして、ロシア側からは当然何かしらの働き掛けがある筈なんです、それを防ぐ為にですね、ぶっちゃけ名前を使わせて頂きたいなと」

 

「名前を貸す……ね、へぇ、それってどういう感じになるの?」

 

「その島の実行支配を認めて貰ってる間は、ほっぽちゃん側からはロシアへ攻撃はしない、ただしそちらへ何かしらのちょっかいを掛けない限りは、という言葉を添えて、あちらに話をさせて貰いたいんです」

 

「……えっと、それって今の状況と何も変わらないと思うんだけど、私もぅ突っかかって来ないなら面倒だからどこにも侵攻する気ないし」

 

「人間というのは不思議なもんでして、例え今と状況が変わらなくても、それを言葉にして伝えるだけで安心感を得るんですよ、そして米国へは同じ事を自分の口から伝えていますがロシアへは何も言っていませんので……」

 

「なる程、そういう事ね、まぁ一々そんなの確約してやる義理は無いんだけど、こっちに面倒は無さそうだから別にそれはOKかな」

 

「それと確認なんですが、その話を蹴る、若しくは成立した約束を破った場合はという話をあちらにする時は……」

 

「ああ、その場合は滅ぼすから、これ割りとマジで」

 

「ほっぽちゃんがそれ言うとシャレにならないですから……せめて半殺し辺りでお願いします、割と切実に」

 

 

 軽々しく言ってはいるが、幾ら北方棲姫でもロシア程の大国を相手にするとなれば数年単位で、しかもそれなり以上の犠牲を強いらなければいけない状況になるだろう。

 

 それでも相手取るとすんなり口に出すのは、現在吉野と冗談みたいな口調で話しているが、彼女は間違いなく深海棲艦でありその興味が今はたまたま他に向いてるだけで、内にある本質は人類の敵という物に変わりが無いからである。

 

 そして吉野の中ではこの話自体北方棲姫に合わせて色々と軽く見せてはいるが、内心は徹頭徹尾他の交渉の場と変らぬ程に緊迫した状態にあった。

 

 

「と言う事でほっぽちゃん側から現在行き来してる定期便は今のままとして、連絡手段が用意出来ましたらベーリング海辺りに予定している航路打通の話は……」

 

「……やっぱそっちが本命だったんだ、ねぇオニーサン、この際はっきりしておきたいんだけど、今こうしてそっちと付き合ってるのはあくまで興味がある物がそっちにあるからであって、ニンゲンと親しくなろうって気持ちは微塵も無いし、私がどこでなにしようとそれに何か言われるのは物凄く不愉快な事なんだけど?」

 

「えぇ充分理解しています、その上でこの手の話は「お願い」という事で、代わりに最大限代案を出させて貰う努力をするつもりでいます」

 

「ふぅん……オニーサンのやってる事に対しての事なら、こっちは命を助けてあげたのとあのお下げちゃんの治療に協力する事で貸し借り無しになってる筈だよね? んじゃ今回の件の貸しはどう返してくれるつもりなのかな?」

 

「ふむ……そうですねぇ、そちらが満足する物ですかぁ……」

 

 

 軽いノリで対してきた会談、どんな形でそれを進めても、結局最後はこの問題に突き当たるのは髭眼帯が事前に再考を繰り返しても不可避であるという結論に至っていた。

 

 その為北方棲姫が興味を示し、確実に話が纏まる物を手持ちの中から用意する必要があった。

 

 艦娘や深海棲艦の成り立ちと謎を探求し、自身の本能ですらその興味を前にした場合どうでも良いと切って捨てる深海棲艦上位個体。

 

 その存在を納得させ、尚且つ協力関係が築ける程の何か。

 

 

 吉野にはその心当たりがあった、しかしそれを使うのは実際の処損得を考える以前に感情が許さなかった。

 

 そんな色々はあったが北方棲姫からの連絡を待つ間時間はたっぷりとあり、指揮所に篭ってからの時間の殆どを吉野は悩む事に費やした。

 

 結果、漸くギリギリの踏ん切りを付け、ためらいながらも段取りを付けたそれ。

 

 

 吉野三郎という男が何もかもを天秤に掛け、それでも悩み抜いたという交渉の切り札になり得るそれ。

 

 

「人工培養された、最初の五人と呼ばれる艦娘の素体を一体そちらに譲渡すると言えば、どうでしょう?」

 

 

 大坂鎮守府の地下深く。

 

 今も封印区画として設定され、その最奥で眠っているそれ。

 

 嘗て吉野の母が研究の為に、最初の五人の細胞を元に培養した素体。

 

 それは間違った手法で用意された物だった為、結局中身は空っぽのままだった。

 

 それでも吉野にとってそれは、縁深く、家族として認識のある娘達と同じ姿形をした存在だった。

 

 

「……え、なにそれ、最初の五人って番人の事? え? 培養って……」

 

「二十数年前、まだ艦娘の建造技術というのを模索していた段階で作られた物です、心は入ってませんが……体は生きてます」

 

 

 吉野の言葉に身を乗り出し、恐らく邂逅してから今までで初めて見せるだろう、北方棲姫の驚愕した顔。

 

 人類と初めて邂逅した、深海棲艦を駆逐可能な存在は人類側には特別視されているが、深海棲艦側からしてみれば彼女達はそれ以上に特別な存在に違いない。

 

 北方棲姫が全てを掛けて追っている謎、艦娘と深海棲艦の成り立ち、吉野が言う素体は限り無く彼女が求める物に縁深い物なのは確かな筈である。

 

 

「……嘘でしょ? いや……オニーサンの居る拠点の話は前に聞いてたから、うん、ならその話は信憑性があるのか……」

 

「敢えて内緒にしてきましたが、自分の母はハカセと共にその研究に従事していまして、その縁で自分は助かったんですよ」

 

「あー……オニーサンにそういう事した人って、ハカセだけじゃなかったんだぁ、ふぅんなる程ねぇ」

 

「その素体が収められている区画は当時の責任者が幾重にも封印を施していた上、鎮守府が壊滅した後そこは区画自体汚染区域という偽装が当時の研究チームによってなされましたので、周辺住民へ対しての配慮から軍では今も無かった事扱いになってまして……」

 

「……そ、ふぅん、それでその素体をこっちにくれるって話だけど、それって本気の話?」

 

「今日の諸々の話に対する対価としては、不足は無いでしょう?」

 

「不足もなにも……お釣りをあげちゃってもいいわ、その素体があれば研究はグっと進むだろうし、もしかしたらお下げちゃんの治療も飛躍的に進んじゃうかもよ?」

 

「それは何よりです、では今回の話は……」

 

「全部承知よ、物がオニーサンの言う状態のままこっちに届くなら……そうね、ババンとサービスしてロシアを滅ぼしてあげてももいいわ!」

 

「そんなサービス特典みたいな軽い感じで国一つを滅ぼすのはヤメテくんないかなぁっ!? ホントマジで!」

 

 

 こうして心の一部に晴れない物を抱える結果を伴いながらも、髭眼帯は北方棲姫との利害関係を確立する事に成功し、これから数日後には艦隊を率いてサハリンに存在する島一つを奪還する作戦へ抜錨するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「まぁ色々あったけど、漸く指揮所詰めから開放された訳で」

 

「それはお疲れ様でした、ささっ、コロッケ沢山ご用意してますからどんどん召し上がって下さい」

 

 

 ほっぽちゃんとの折衝が終了した夕方、髭眼帯は精神的によれよれになりながらも居酒屋鳳翔に癒されに来ていた。

 

 時間的には夕食時、それなりに混んだ店内では髭眼帯の座るカウンターを中心に艦娘が夕餉を取るという絵面(えづら)

 

 

 右を見ればほっけの半身焼き定食にかぶり付く球磨、左には件の教導受け入れの話を詰めるついでにニコニコとメンチカツ定食をモグモグしている大和、そして正面にはそびえ立つ山になっているコロッケ。

 

 そんなのんびりかつ癒され空間に居る筈の髭眼帯は、何故か怪訝な表情のままプルプルしていた。

 

 

「……提督どうしたクマ? そんなプルプルして」

 

「ああうん……もう何と言うかその……」

 

「あ、ドクペのお代わりですか? はい、大和がお注ぎします」

 

「えっとその……はい、いえ何と言いますかアリガトウゴザイマス……」

 

「提督、コロッケの追加は如何でしょう?」

 

「いやその……まだ今あるコロッケで充分と言いますか……その……」

 

 

 髭眼帯のプルプルにあほ毛をユラユラ揺らしつつ首を傾げる球磨、ほっけをモグモグする様は歳の割には幼い印象を受ける筈だが、オレンジ色のバニー姿ではその雰囲気は聊か別な見た目に映ってしまう。

 

 その逆サイドでは大和が真紅のバニー姿でニコニコとドクペをジョッキに注いでいる、何故なのか。

 

 更にはニコニコと追加のコロッケを揚げる準備を進めているオカンは白バニー姿で、丸いフワフワしたシッポが引っ付いたヒップをフリフリしつつカウンターの向こうでチャカチャカしていた、もうワケワカメである。

 

 そして店内を見渡せばそこに居るほぼ全員がバニーという、ウサちゃん率が非常に高いワールドが広がっていた、なんでやねん。

 

 

 ある意味大坂鎮守府では定期的に発生する、そんなコスフェスにプルプルし目のやり場に困った髭眼帯は視線を逸らすと、カウンターの向こうで調理補助として入っている龍鳳と目がバッチリ合ってしまった。

 

 オカンとの対比を狙ってか漆黒のバニー姿、チチシリフトモモのムチムチを惜しげもなく晒す彼女は、やはりと言うか何と言うか、目のハイライトをOFFにしたまま髭眼帯の事をじっとりと見詰めている。

 

 そんな彼女の視線をまともに見る事が出来ず、プイッと視線を逸らすがどこを向いてもウサギだらけとあって、髭眼帯のプルプルは収まらない。

 

 

「……なんで今日は皆ウサちゃんな訳?」

 

「あー、ほらこの前大淀がバニーになったクマ? それが結構ツボにハマったヤツらが多くて、バニー衣装推奨月間とか言って大安売りが始まったクマ」

 

「……明石んとこで?」

 

「クマ」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁかしいぃぃぃぃぃぃぃ!? いつもいつも変なトレンドを蔓延させてんじゃねーぞあああぁぁぁぁぁぁかしぃぃぃぃぃぃぃぃ! 誰がどう何を推奨させたってんだあぁぁぁぁぁぁかしぃぃぃぃぃぃ!! オカンまでウサちゃん化させてどうしよってんだああぁぁぁぁぁぁぁかしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 髭眼帯の貧乏ゆすりが盛大に発生し、それに連動して左のアホ毛と右の徹甲乳が盛大にユラユラする。

 

 そんなユラユラにサンドされプルプルする髭眼帯に、白ウサギ(意訳)なオカンがフキノトウのテンプラを盛った皿をスっと出しつつ、何かを言いたそうな視線を投げてきた。

 

 

「……えっとその、鳳翔君、何か用?」

 

「あの……ちょっと個人的な物になるのですが、提督にご相談がありまして……」

 

「ん、相談? どしたの?」

 

「えっとですね、本来ならこの手の話は明石さんにするべきなのですが……」

 

「明石ぃ? え、なにまたおかしな衣装でも勧められちゃったの?」

 

「ああそういう訳では無くてですね、えっとちょっと前なんですが、ほら、瑞鳳さんの件で提督にお願いされた事があったでしょう?」

 

「ああうんアレね、面倒事頼んじゃって申し訳なかったね」

 

「いえいえそれは別に構わなかったのですが、ちょっとその件で時間を取られてしまって、予定していた用事が出来ずに友人にお願いして変わって貰いまして」

 

「あ、そうなんだ、それで相談って?」

 

「実はその友人にお礼をしようと思いまして、その品にどれがいいかとその……男性の方から見て、その……品物を選んで頂こうかと」

 

「ふむ? 何かを選んで欲しいと……てか、何をどういう基準で選べばいいのか……」

 

「その友人というのは鳳翔会に居る者で、夜の店を経営している関係上それなりに見栄えのする衣装が必要だと思うのです」

 

 

 何故かオカンは白バニー姿で頬を染めてクネクネを開始する。

 

 今までそんな格好でチャカチャカを平気でしてたのに、話を始めた途端クネクネしだすという様を見て、髭眼帯の嫌な予感メーターはピコンと反応し始める。

 

 

「えっと? 要するにその友人と言うのも鳳翔君な訳だ?」

 

「はい、九州のとある鎮守府でナイトクラブを取り仕切っているんですが……ただ彼女は割りと気風(きっぷ)が良いと言いますか、鎮守府でも存在感の大きい者である様で、控えめな物よりも見栄えのする、同時に色気が漂う大人の服が似合うのではと私は思っています」

 

 

 オカンはそう言いつつカウンターの下からゴソゴソと分厚い本的な物を取り出して、髭眼帯の前にそれをスッと差し出した。

 

 それはちょっとした電話帳程の厚みがあり、中身はフルカラーになっているのだろう結構な重さがある冊子だった。

 

 そして髭眼帯が見るそれには、表紙にデカデカと目立つフォントでこうタイトルが記されていた。

 

 

 『明石セレクション2018年春物最新ファッションカタログ』と。

 

 

 それを見た髭眼帯はプルプルが収まったが、ものっそ怪訝な表情を滲ませつつ、目の前の悪魔の書とクネクネするオカンを交互に見る。

 

 

「色々な服が多くて、一応候補は絞ってみたのですが、そこから中々選ぶ事が出来ず……」

 

 

 オカンから黙って破滅の書へ視線を落とすと、確かに色々候補を絞ったのだろう、数枚の付箋がそれには挟まっていた。

 

 髭眼帯は無言で一番上にある付箋のページをめくり、オカンがチョイスした服というのを確認する事にする。

 

 

 『大人の色香を漂わせるコケティッシュ、かつ愛らしさも同居するナイトウェア、今イチオシの逸品』というタイトルの下には、ヘソ下まで切れ込みが入り、そこがはだけないように紐がクロスされた漆黒のバニー衣装があった。

 

 更には背中に白と黒の羽が装備され、説明文には『オプション装備で天使にも悪魔にもなれる、そんな貴方を見た意中の男性は間違いなくイ・チ・コ・ロ♡』という注釈があり、それを見た髭眼帯はパタリと呪いの書を閉じた。

 

 吉野は思った、一体今ので何をどうイチコロにするつもりなのだろう、造詣は一応バニー的なカンジもしたが、それ以前に色使いといい形といい、それは正に夜な夜な秘密の花園でピシーンパシーンプレイするクイーンを彷彿する系の衣装がナイトウェアって特殊過ぎやしないかと。

 

 

「あ、他にもこういう感じの物もどうかなって思うんですけど」

 

 

 髭眼帯が呪詛の書に手を掛けたせいだろうか、やや食い気味にオカンは付箋がペタリとされた別のページを開いてそれをグイグイと押し付けてくる。

 

 そんな開かれたページには『合言葉は"シンプルイズベスト"、今注目の衣装は原初にして至高、これで狙いの彼も轟・沈♡』というタイトルがこれ見よがしに踊っていた。

 

 そして下には恐らくリボン的な細い布がグルグルと巻かれたマネキンに、取り敢えず添えてみました的にウサミミとシッポがくっ付いたハレンチかつ雑なカンジの真っ赤な衣装(仮)が存在感をゆんゆんと醸し出していた。

 

 それを見た吉野は再び思った、確かに衣装はシンプルだが、構成される布がそもそも縫製もされずに巻いてしまっただけでのブツは確かにシンプルではあるがベストとは言わないのではなかろうか、寧ろこれを選んだオカンは何を意図して誰を轟沈させるつもりなのだろうかと。

 

 寧ろカタログには春物最新カタログというタイトルが書かれていたが、そもそもバニーに季節感を持たせるのは聊か無理がありやしないかと眉根の皺を更に深めた。

 

 

 手元にある見てはいけない禁断の書をそっと閉じつつ髭眼帯は再びオカンを見る。

 

 そこには引き続きクネクネしつつ髭眼帯の言葉を待つ白バニー(居酒屋女将)の姿があった。

 

 

 そんな怪訝な表情で固まる髭眼帯の肩をポンポンと叩く者が居た。

 

 それに反応した吉野の視界には、アホ毛をユラユラさせ、ものっそ真面目な相の球磨(オレンジバニー)が居るというカオス。

 

 

「……ナニ? どうしたの球磨ちゃん」

 

「提督、朱に交われば赤くなるって言葉もあるクマ、ヘタに逆らわず周りに流されれば……悩む事もないクマよ?」

 

 

 箸を咥えたまま髭眼帯を見上げる球磨。

 

 その顔を良く見れば何故か涙目になって小刻みにプルプルし、アホ毛が連動してユラユラしている。

 

 鎮守府に所属する艦娘の中でも、常識を持ち合わせた数少ない球磨型長女のそんな様を髭眼帯は直視できず、髭眼帯はアホ毛(バニー)と同じくプルプルしつつ、オカンのお勧め衣装の吟味にこの後数時間付き合わされていくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。


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