大本営第二特務課の日常   作:zero-45

27 / 329
 前回までのあらすじ

 戦闘の幕が開けた、でもかなり厳しそう、そしてKYな提督。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/06/26
 誤字修正致しました。
 ご指摘頂きましたSety様、坂下郁様、MWKURAYUKI様、有難う御座います、大変助かりました。


弾雨の中の砲撃戦

「くそっ、また弾かれた」

 

 

 気の抜ける程に軽い発射音とは裏腹に、ライフルとしてはほぼ最高の破壊力を持つソレから射出された鉄の粒、それはほぼ一海里を飛翔し海に立つ異形へ到達する。

 

 深海棲艦、その中でも戦艦と呼ばれるル級改二(flagship)

 

 吉野が狙いを定め、脇腹へ突き刺さる様に撃ち出した弾丸は、狙い通りの位置へと飛翔はしたものの、対象が動いているとあって有効な部位へ着弾しなかった。

 

 

 現在南鳥島で繰り広げられている海戦、その経過であるが防空棲姫と空母棲鬼、そしてレ級の戦いは依然膠着(こうちゃく)状態、互いにそこそこの損耗はしているもののまだまだこれからといった雰囲気。

 

 榛名と対峙していたル級二隻は、幸運な事に無印の方が立ち回りを失敗しレ級の戦いに巻き込まれる形で大破、そこに榛名が止めを入れたお陰でflagshipのみの相手となっている。

 

 そして後ろで航空戦を指揮しているヲ級だが、これに充てる戦力が無かった為放置した形であり、現在加賀がその戦力を榛名へ向けているのを感じたのだろうか、ヲ級の航空戦力もそちらに集中している状態である。

 

 

 そんな中、ライフルの調整を終えた吉野が微力ながらもと支援の為に狙撃準備を始め、先ず狙う相手を吟味した結果が榛名と対峙しているル級であった。

 

 戦闘は開幕した位置よりもどんどん島に近付いてる状態であり、前衛と呼べる位置で戦っている対象は全て射程距離には収まるのだが、いかんせん深海棲艦相手にどれだけ通用するか未知数であったので、撃てる相手の中から一番柔らかそうという理由で吉野の狙いはル級になっている訳である。

 

 

「てか、一番(やわ)そうなのが戦艦って時点でダメな気がするんだけど!」

 

 

 更に撃ち出した弾丸が大型の盾を兼ねた主砲に弾かれる。

 

 

 この部分だけ見れば吉野の狙撃の腕がダメのダメダメなだけに見えるが、実はこの男、狙撃の腕だけ(・・)はそれなりで、仕事で撃つ回数はある程度あったが、目的を遂行するのに二射目を要した事は片手の指でも余る程だった。

 

 なのに今命中弾を出せないのは(ひとえ)にその対象が凄まじい速さで動いているからに過ぎない。

 

 

 今そのル級に対して榛名は猛攻勢を掛けていた、以前吉野達の前で見せた精密射撃を軸としたアウトレンジからの戦いでは無く、文字通り互いをぶつけ合う程の距離での砲撃。

 

 ただ張り付いている訳では無く、適度に距離を取り、幾らかフェイントを掛けたかと思うと猛烈な速度で懐に飛び込み接射、更に離脱と所謂ヒットアンドアウェイという攻撃を繰り返している。

 

 

 そもそもこの榛名であるが、自分が強くなろうとした理由を探す為に色々模索していたのであったが、それが解決したからといって強さへの拘りが無くなった訳では無い、強さへのアプローチが形も判らない渇望から目に見える目的に転じただけの話であって、『武蔵殺し』の本質は何も変わっていなかった。

 

 以前より理性的になり、余裕が生まれた結果、その強さへ到達する手段は逆に増え、更にその結果はある程度の成果を生んだ。

 

 自分が一番効率的に相手を(ほふ)れる形、それは『戦艦武蔵に勝った時のやり方』の踏襲、原点回帰であった。

 

 

 ただその当時捨て身に近い戦い方でゴリ押ししていたやり方とは違い、色々経験を積んだ為更にその戦い方は無駄が無く、より苛烈に変貌した結果今のスタイルに落ち着きつつあった。

 

 一口にヒットアンドアウェイと言えば簡単であるが、海の上で艤装に機動力を依存している艦娘にはかなり難しい戦い方になる。

 

 今榛名が行っている様に"突然最速に近い速さで突っ込んでくる"そして"瞬時にその場から退避する"、そんな状態を成立させようとすれば、艤装の性質上主機は常にフル回転したままにしておかねばならず、尚且つ暴れ狂う足元をねじ伏せそれを推進力へ変えねばならないのは相当に力とバランスが必要になる。

 

 普通では在り得ない動きを成立させた結果、相手(ル級)は前に出る事は出来ずに防戦に徹する事になるが、それが故にル級は巨大な砲塔でガードを固め、更に受け流す事に集中させる結果となってしまい、攻めるに難い状況になっていた。

 

 

(流石にあの装備で守りに入られると砲弾を通す隙間が無いですね、いっそ被弾覚悟で体をねじ込んで足でも踏み潰しましょうか……)

 

 

 閉じ篭っているならこじ開ける、避けるなら足を潰す、単純明快ながらも効率的、清々しい程理知的な脳筋思考(・・・・・・・・)である。

 

 そしてそれを成せる程度には榛名には技量と火力があった、そう、装甲以外(・・・・)は全ての要素を榛名は持っていた。

 

 金剛型故に高速で接敵し、ヒットアンドアウェイを成立する事が可能であったが、金剛型故に装甲が己の力に耐えられなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 意を決し、強固な二つの盾をこじ開ける為に己をぶつけたが、やはりあと少しだけ押し切る頑強さが足りなかった。

 

 ぶつけた砲は無事だったが、その基部がひしゃげ、それが緩衝材となってしまい、力の全てを相手に向ける事が出来ない。

 

 絡み合う体勢、しかも無理に力を掛けた為榛名がル級の盾に寄り掛かる形になった為、引くための推進力が上手く海面に伝わらず、逆にル級が僅かに盾を振る事で砲を榛名へ向ける事が出来る体勢となってしまう。

 

 

「っ!?」

 

 

 頭部を直撃されれば大破は必死、最悪轟沈の可能性が頭を()ぎる、その最悪の未来を凝視し、半ば覚悟を決めた榛名の目の前で、突然ル級が膝を突き、前のめりにその頭部を榛名の前に曝け出す。

 

 理由を考える前に体が反応する、死を目の前に極限まで高められていた感覚は必勝の機会を逃がす訳がない。

 

 

()った!」

 

 

 無防備な頭部に拳を叩き込み、仰け反る相手の盾をこじ広げ、曝け出された体躯に発砲可能な砲門から鉄甲弾の暴力が降り注ぐ。

 

 元々対戦艦用の高貫通力弾である、至近距離から無防備に釣瓶打(つるべう)ちにされれば一溜まりも無い。

 

 轟き続ける砲撃音と(おびただ)しい数の水柱。

 

 それが無くなった時に榛名の足元にあったのは、半分沈み掛けの形すら保っていない何か(・・)と赤く染め上がった水面(みなも)だけであった。

 

 

「……一応ル級の装甲には刺さるんだコレ」

 

 

 無理に突貫したお陰で榛名は危機的状況に身を晒してしまった訳だが、それは同時に一瞬だがル級の動きが止まる結果になった。

 

 そしてその好機を吉野が見逃す訳もなく、撃ち出した弾丸がル級の膝へ突き刺さる、それは貫通こそしなかったものの、肉を穿ち膝を突かせる程の効果はあった。

 

 先ず一手、戦況を転ずる為の吉野が放った陸奥鉄(むつてつ)の欠片は、その威力の何倍もの影響を生み出した。

 

 スコープから目を離さず、見える先にはチリチリと赤色し、陽炎が揺れる砲身を振り払う榛名の姿が捉えられている。

 

 

 一先ず安堵の溜息を漏らしたのも束の間、何故かその場から飛び退く様に退避する榛名。

 

 そして今まで榛名が居た場所に空から何かが突き刺さり、やや小さめな爆発と水柱が幾つが上がるのが吉野からは確認出来た。

 

 

「あっちゃ~ やっぱりそう来たか」

 

 

 榛名を目掛け空から襲い来る物、それは加賀が標的として狙う中で最も優先度を低く設定していた物、艦戦であった。

 

 対空戦を目的として投入されていたそれは、艦娘の、それも戦艦級への直接攻撃の効果は薄かった故に少数ではあったが殲滅を免れ、加賀と妙高が死守していた防空域を抜けていた。

 

 それを逆手に取り、今ル級が沈んだとあって是が否でも榛名を抑えないといけなくなったヲ級は艦戦その物を凶器としてぶつけ始めたのである。

 

 

「榛名君、暫くは全力回避、無理して敵を追わなくていい、出来ればそのままヲ級の航空戦力を引き付けておいて欲しい」

 

 

 結局の処ル級の始末には成功したが、榛名目掛けて投下される爆撃は、自由にそのコースを定められる航空機になった為に迂闊にヲ級へ近付けさせる事が出来なくなった。

 

 

「了解しました、暫く回避に専念しますね、それと提督、榛名の為に支援有難う御座います」

 

「え? 今の見えてたの?」

 

「やっぱり…… ル級の動きが不自然過ぎましたし、提督が幾度か狙撃を試みてらっしゃったのは確認出来てましたから」

 

 

 あの修羅場で2,000mも離れた位置の様子を確認出来るのは、艦娘だからという理由だけでは説明が苦しいと吉野は首を傾げた。

 

 

「何処に居ても榛名は提督の事を見ています」

 

 

 返り血を顔に貼り付け、空からの凶弾を紙一重に躱しながら満面の笑顔で榛名がそう言うのを見て、乾いた笑いでしか答える事が出来ない吉野の心中は押して然るべきではなかろうか。

 

 そして空から降り注ぐ凶弾の中、榛名へ近付く影が一つ。

 

 

「妙高さん……」

 

 

 妙高型ネームシップである艦娘は、榛名と比べても遜色の無い程軽やかに動き続け、あっという間に暴風雨の中心へ辿り着いた。

 

 

「三式が尽きました、あのままでは手持ち無沙汰でしたのでお仲間に入れて頂こうかと、的が倍になれば捌く敵機は半分になるでしょう?」

 

 

 反撃の手段も尽き、死が降り注ぐ只中躱す事しか出来ないのにも関わらず、それでも問題無いとばかりにその重巡は弾雨を涼しい顔で流していた。

 

 そしてその様子に苦笑しつつも榛名は右手を挙げ、対する妙高は不敵な笑顔でハイタッチ。

 

 それがスタートとばかりに二人が散開し、針山の如き水柱が立つ水面へ円を描きながら(はし)り始めた。

 

 

 それを見て吉野は苦笑を一つ、改めて戦場をスコープで覗きつつ、不知火から現在の敵と味方の位置関係を確認する。

 

 

 表に出ていた看板(ル級)は一つ潰したが、その代わり後方にあった戦力が形振り構わず牙を剥く。

 

 時間を掛ければ切り崩す事は可能かも知れないが、それまでに加賀一人で空を守るのであれば艦載機が尽きる可能性が高い、そして支援が無くなった榛名と妙高が今の様に敵の攻勢から身を躱し続けられる保障はどこにもない。

 

 防空棲姫とレ級の方も戦いは水物でどう転ぶか判らない、出来ればそっちにも何か支援を振り分ければと思うが、吉野の狙撃でそれが何処まで通じるか判らない。

 

 色々な手を考えてはそれを除外し、スコープ越しに見える状況を頭の中にある海図へと反映させていく。

 

 

 そんな思考に没入していた矢先、腹這いの吉野に時雨が膝立ちで(またが)り、腰の軍刀を抜き放った。

 

 

「提督! 動いちゃダメだよ!」

 

 

 その時雨の声はやや後方で弾ける爆発音で掻き消される。

 

 僅かに感じる風圧と、何かが散らばる乾いた音。

 

 どうやらル級を狙撃したのを見ていたのは榛名だけではなく、遥か向こうで杖を振るうヲ級もこちらを確認していた様である。

 

 

「時雨君!? 大丈夫かい?」

 

「大丈夫、提督はそのまま支援を続けて」

 

 

 脅威度としては並以下なのは確かなのだが、それでもル級を沈める切欠となった物を排除する必要があると感じたのだろうか、ヲ級は僅かだが榛名へ向ける航空機を吉野へ振り分け始めた。

 

 幾ら時雨でもそう何度も空から飛来する航空機を落とし続けるのは難しいだろう、それが証拠に吉野は気付いていなかったが、切り飛ばした機体のペラが頬を切り、赤い雫が吉野の背中に落ちていた。

 

 

 支援を続けるか、一旦退避するか、恐らくここが戦局を決める分水嶺(ぶんすいれい)となる、それを肌で感じた吉野は自然にライフルを握る手に力を込めていた。

 

 もう少し、あともうちょっと、物事を推し量る時にそう思った時には手遅れで、既に戻る事も出来ない地獄へ片足を突っ込んでいる。

 

 そんな生死を分ける状況でありながら、結局吉野には退くという選択は許されず、藁をも掴む思いで支援に当たったものの、結局足りない一手を埋めるには僅かばかり及ばなかった。

 

 万策尽きた状況の中、それでも続けるしか無いと腹を括ったその時に、通信機から聞き逃してしまいそうな程微かな音が吉野の耳に届いた。

 

 

「提督! 所属不明艦より特務符号による暗号文を受信!」

 

 

 特務符号による暗号文、それは今作戦において無線封鎖中に唯一許された外部との緊急連絡手段であり、今回の為に用意された使い捨ての暗号表を元にした通信である。

 

 

「は? 暗号文? 内容は?」

 

「その内容なんですが……『太いのをぶっ刺すぞ』です、何これ? えっと繰り返しますね? 『太いのをぶっ刺すぞ』、以上です」

 

 

 他人がこの内容を聞けば暗号を解析したのにその内容自体が暗号染みている、そう言われそうな物であったが、それを聞いた吉野は意味を理解したのであろう、口角を上げ首に貼り付けているマイクへ手を添えた。

 

 

「夕張君、平文でいいので返信を頼む、内容は『後ろはイヤン』、繰り返す『後ろはイヤン』」

 

「イヤンて……り、了解、内容復唱、『後ろはイヤン』、送ります!」

 

 

 割と修羅場な状況の中、とても軍用通信を利用してのやり取りとも思えないふざけた内容の物、通信機でその会話を拾った者は当然困惑の表情を浮かべるが、その中で唯一空の戦いを一手に引き受け弓を空に向け引き絞っていた加賀だけは違う反応を示していた。

 

 

「随分と懐かしいやり取りですね、私だけが仲間外れとはちょっと心外です」

 

 

 非難の言葉とは裏腹に、愉しげな表情を表に出しつつ加賀が最後の一本になる矢を空へ放った。

 

 

「これで打ち止めよ、そっちは何とかなりそう?」

 

「えぇ、多分どこかのパンツさんが世話を焼いてくれたんでしょう、最後の一手が整いましたよ…… さて時雨君、毎度無理させて申し訳ないけどもう少し頼らせて貰うよ」

 

 

 ほんの少し前とは違い、迷いの無い声で自分に跨る少女に対しそう告げるダメ提督。

 

 

「それは問題ないんだけど提督?」

 

「何かな?」

 

「余りその…… もぞもぞしないで欲しいんだけど、その、色々と…… ね?」

 

「お…… おぅふ、何と言うかその、スイマセン」

 

 

 繰り返し言うがそこは割りと死が我が物顔で往来する只中である。

 

 そんな状況で交わすにはちょっとどうだろうかという会話を黙って聞いていた陽炎型二番艦不知火は、指揮官が戻ったにも関わらず、解消されない不安が一杯に詰まった(つつ)ましやかな胸に手を添えて溜息を漏らすのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。