大本営第二特務課の日常   作:zero-45
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 前回までのあらすじ

 Barアイアンボトムサウンドでは生ものが基本なのと、西蘭泊地ではアルパカが脅威度最上位生物と判明した。


(※)出張中にポチポチやってたので今日は二話分投下予定。


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。

2018/05/19
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました対艦ヘリ骸龍様、京勇樹様、リア10爆発46様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。



狂信者 壱

「それでは変則的ではありますが、これで契約は成立と言うことで」

 

「えぇ、こちらは問題ありません、と言いますかいいんですか? この内容ではそちらが一方的な損を被る形になりますが」

 

 

 大阪府堺市大泉緑地。

 

 戦時徴発により嘗ての緑地が整備され、現在府下に5つ存在する大規模避難施設となったそこには、緊急時に行政や保安関係の組織が入る為の地下施設が存在している。

 

 地上は車両乗り入れの為の区画と倉庫が立ち並び、府民の25%が三ヶ月賄える物資が備蓄され、平時の管理は元老院が取り仕切っていた。

 

 そんな施設の地下二階、防諜の類が施された小会議室では、田端和則(たばた かずのり)経済産業省外局資源エネルギー庁次長と西蘭泊地事務方総括の大淀がオフレコでの折衝に望んでいた。

 

 

「契約という面では時期尚早の感が否めませんが、最終的に利益が出る形になっていますので、こちらは先行投資と考えています」

 

「なる程、こちらも突然の本契約というお申し出に驚いておりますが、この条件なら不足はありませんし、次長権限でも決済は可能です」

 

「技術検証はそちらの資料の通り既に三年の実績がありますし、国益という面で考えればこの計画は推進して損は無い筈です」

 

「はい、ただやはりすぐにという訳ではありませんから、当面は技術移転も兼ねたテスト運用から初めて、年10%ベースでの転用で様子見というのがこちらの考えになりますね」

 

「それは承知しています、最初の三年で三割、それで良好なら全箇所転用を目指し、内地にも生産施設の設置というのが無理の無いペースだと思います」

 

「上手くいけば五年ですか、海軍の機密技術を利用しての計画とはいえ、規模からしてみれば恐ろしい程にハイペースの物になりますね」

 

「時間が掛かる部分は既に終わらせていますので、後は実地検証と技術移転の進行を調整するのみとなっていますので」

 

「元老院側へ予め手回して頂いてるようで、こちらも政治判断抜きで動けますから助かっていますよ」

 

 

 本来国政に関わる随意契約は、先ず国会の承認が先にあり、次いで各担当省庁に振り分けられてから協議がなされる。

 

 しかし今回大淀が秘密裏に持ち込んだ契約は、先に元老院側へ話を持ち掛け、そこから関係省庁と話し合いという形で進んでいた。

 

 これらは当然表に出せない経緯が含まれていた為、日付と議事録は調整された上で公式記録として残される事になる。

 

 

「大臣が絡むとなれば閣僚級での審議を通す事になりますし、そうなれば当然数年単位で話は停滞してしまいますからね」

 

「本来この手の事で現場を知らない政治家が絡むのは無駄以外の何物でも無いのですが……おっと、失礼、口が過ぎましたね」

 

「いえ、それが国政と言う物ですから、生活に直結する事案だからこそ国民が何も知らず、ただ専門家が推し進めれば良いという訳でもありませんし」

 

「時間も税金も無駄に消費しますが、民意を得るには必要な手順と割り切っていますよ、しかし今回の計画は……」

 

「こちらの都合に合わせて頂き感謝します、一応契約は締結した形になりますが、別紙にあります通り、もし問題が発生した場合は適時話し合いの場を設けてそちらのご希望に沿う形で進めていく事になっておりますので」

 

「はい、確かに、では私はこれを持ち帰り関係部署立ち上げ準備に掛かりますので」

 

「宜しくお願い致します」

 

 

 上手くいけば公文書になる筈の(・・・・・・・・)書類を纏め、資源エネルギー庁次長は笑顔で席を立ち、大淀に右手を差し出した。

 

 それを握り返す大淀は、平時と同じく事務的な笑いを表に張り付けていたが、取り敢えず形になった協議にほっとしつつ、まだこの後に控えている別件に意識を切り替え、会議室を後にするのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで? そちらの用件は上手くいったのでありますか?」

 

「はい、取り敢えずはという形になりますが、残りは後日に調整と言うことで」

 

 

 諸々の案件を済ませた大淀は、庁舎に隣接した駐車場で待機していたあきつ丸と合流し、送迎の為に用意されたLAV(軽装甲機動車)へ乗り込み、大きく溜息を吐いた。

 

 戦時下とあっても市街を走行するには物々しい装甲車の車内には、あきつ丸が助手席に陣取り、陸軍中央即応集団特殊作戦軍情報課副室長の三条(さんじょう)かやのがハンドルを握り、やや弛緩した空気が漂っていた。

 

 

「こちらの用事はこれで終了したのですが、そちらの方はどうなっていますか?」

 

「概ね予定通りという感じでありますな、今はまだ監視が付いてるだけのようでのんびり構えさせて貰ってるでありますが、問題は国道26号線へ出てからになるかと」

 

「ウチの隊からも三個小隊を配備していますけど、現状は監視のみの形になってしまいますし、鎮守府前島まで誘導できれば理想なんですが……」

 

「あそこは軍の拠点でありますし、周囲の監視も厳しいでありますからな、先ず無理でありましょう」

 

「特殊部隊百五十人体制でも捕捉が難しいんですか?」

 

「ここから前島までは市街地が続きますし、相手は大陸系の支援を受けてますからね、捕捉するのがやっとだと思います」

 

「ロシアから放逐されたとはいえ、組織から切り離された訳ではないでありますから、その筋から別の支援を受けるのは不思議ではないでありますよ」

 

「ロシアの次は大陸系ですか……」

 

「この辺りは在日系の者達がかなり定住していますからね、ロシア系を相手にするよりも大変なんですよ」

 

「そんな訳で大淀殿には申し訳ありませんが、自分と共に餌としてご協力頂いてるであります」

 

「まぁ提督を危険に晒す事にくらべればましですけどね、事が終わった後は私もあきつさん達も相当お叱りを受けるのは覚悟しといて下さい」

 

「中々ままならんでありますなぁ、さて……相手はどう出てくる事やら」

 

 

 大淀が内地へ出向する事になった今回、未だ例の狂信者を追っていたあきつ丸達は吉野には内緒でとある計画を立案し、大淀へ協力を求めていた。

 

 それまで情報収集した結果、ロシアからの後ろ盾を無くした手配中のテロリストは自身の(つて)で独自に大陸系の組織と接触し、支援を受ける形で吉野を狙い続けていた。

 

 既に依頼という物は無くなってしまったが、拘りと生き様が退くという選択を無くし、また地域的に大陸系の在日住民が多いという環境は仕事をなんとか継続する事を可能とした。

 

 今回の件はロシアが主導しての物であったが、それ以外にも日本を潜在的な敵国と認識している国は多い。

 

 海に面し、利権から締め出され、それなりに力を持つ国々、特にそれは海を隔てて隣国辺りが顕著なのだというのは知れていた。

 

 同じ東洋人であり、深海棲艦が出現するまではそれなりの数の者が日本に住んでいたという事情を背景に、組織力がロシアより劣っていても対処が難しいという状況を今に作り出す事になっていた。

 

 

「露と切れた途端中ですか、幾ら繋がりがあるからと言っても節操の無い」

 

「いえいえ大淀さん、日本だからこそ大陸系の組織を利用する方が有効なんですよ、今はもう三世から四世が成人していますし、日本語しか喋れず文化・常識も我々と変わらない者が構成員ですし」

 

「ある意味露と切れたのはかの者にとっては幸いだったのかも知れないでありますな」

 

 

 LAVが駐車場から一旦地下区画を通過し、ゲートを潜って府道2号線へ出る。

 

 東西を通る片側三車線の広い道路は通行量も多く、渋滞こそ無かったものの道路脇は住宅が密集しており、すぐ西からは中心街に入る為にそれなりに高いビルが多くなる。

 

 幅がトラック並みの車両は幹線道路を走るしかなく、LAVはこのまま府道2号線を西へ進み、国道26号線へ合流した後泉佐野にある鎮守府前島を目指す予定となっていた。

 

 

「よっこいせっと、さて、ここから用心に越した事は無いでありますが、流石に市内で仕掛けて来る事は無いでありましょう」

 

「ですね、LAVは普通の銃器では止められませんし、左右はウチの護衛が併走してますから、その上で唯一の泣き処であるランフラットタイヤを抜くのは色んな意味で無茶をしなければ……」

 

 

 三条がしたり顔で説明の最中、ガスンという鈍い音と共にLAVの後部ドアに直径10cm程の大きなえくぼが出来上がる。

 

 

「なんっ!? いきなり!?」

 

「警察署の前で襲撃でありますか!? 川内殿!」

 

『見えてるよ、ちょい奥のマンションから狙撃したみたいだね、位置は伝えてあるから確保はだいじょーぶ、こっちは引き続きLAVについてくから、予定のルートのままでいいと思うよ』

 

「……今の音からして、大口径ライフルでありましょうか」

 

「吉野さんの銃程じゃないにしても、LAVの装甲にダメージが通るとなれば、恐らくは300ウィンチェスター以上の物なんじゃないでしょうか」

 

「300マグナムは狩猟用で流通してるでありますからな、弾頭を加工すればLAVにも有用であります」

 

 

 法定速度を遙かに越える速度で交差点を抜け、尚も市内を目指すLAV。

 

 移動を開始してから僅か10分足らずで始まった襲撃は、あきつ丸達の予想を裏切り激しい物になっていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 大泉緑地庁舎から西へ7km、府道2号線から国道310号線へ入り、国道26号線が目視できるかという所まで進んだLAVであったが、それまでに四度の襲撃を受け左右のドアはボコボコにへこみ、後部防弾ガラスも蜘蛛の巣が張ったかの如き罅が入るという散々な見た目になってしまっていた。

 

 いずれの襲撃も中距離からの狙撃による物であり、都度展開している部隊が狙撃手を拘束してはいるが、場所は中層階の小型ビルがひしめく環境であり、それら殆ど全てから狙撃可能とあっては事前に防ぐ事は不可能であった。

 

 取り敢えず致命的なダメージこそ無かったものの、防御を優先した車両の選択が仇となり幹線道路しか進めず、左右を固める護衛車両が居なければ間違いなくLAVはオシャカになっていた処である。

 

 

「不味いですね……このまま26号線に合流すると今より逃げ場が無くなってしまいます」

 

「もう少し持ってくれればいいのでありますが……大淀殿、もしもの時は川内殿を護衛に付けるでありますから、付近の建物へ避難をして頂けるでありますか?」

 

「判りました、最悪艤装を展開して防御を固める事になってしまうと思いますが……」

 

「背に腹は変えられないでありますからな、それでいいと思うであります」

 

 

 予想外の事態に対し、一応の対策を立ててはいるものの、現状では鎮守府前島まで到達するのは難しいとあきつ丸は判断する。

 

 現状LAVは走行可能ではあったが、防弾性は大きく低下し、またランフラットタイヤのお陰で移動は出来ているが、今より見通しが良い国道に出てしまえばそれも狙い撃ちにされる心配も出てくる。

 

 また今はまだ狙撃のみという状態にあったが、この先もそれだけで済む保障はどこにもない。

 

 本来物理的な衝撃に強い作りのLAVであったが、ここまでダメージが蓄積してしまうと逆に車体の大きさ故に防ぎ様が無い。

 

 

「川内殿、もしもの為にこっちへ付いて欲しいであります」

 

『オッケー、それじゃ今から近くに……』

 

 

 国道310号線から26号線へ左折する為車線変更をしようとし、左右の護衛車両が列を崩した瞬間を狙って脇道から飛び出して来た4トントラックがLAVの左側へ突っ込み、次いで爆発。

 

 ドアやパネルは衝撃を防いだものの、ダメージを受けていた窓ガラスは砕け散り、爆風と炎が車内を蹂躙する。

 

 4トントラックは衝突の勢いのまま中央分離帯までLAVを押し込む形となり、街路樹とトラックに挟まれた状態のLAVはそのまま炎に包まれて動きを止めた。

 

 

 幹線道路が交差するそこは車両が多い為逃げ場はなく、現場周辺の車両からは乗っていた者達が逃げ惑い混乱が波紋の様に広がり、爆発の炎は周囲の車両の何台かへ燃え移ってしまい、交差点は動けない車両と炎、そして煙で阿鼻叫喚の地獄と化す。

 

 

「対象車両から脱出した者は確認できず、流石に艦娘と言ってもあれでは只じゃ済まないだろう」

 

『こっちからも監視しとるけど、あらアカンのちゃうか? まぁ出てきたら出てきたでええ的やけどな』

 

「"対艦娘用弾"は一発しか支給されてないんだろう? 外すなよ」

 

『ここで決めるつもりやったんなら他のヤツらに配らんと、俺に全部回したら良かったのによ』

 

「ここまでの間であわ良くばという事もあったし、それが無ければ車両にダメージが蓄積してなかっただろうから、結果としてここで決める事は出来なかったろうよ、力押しなのは認めるがやり方は間違っては無かったさ」

 

『それやったら普通のアーマーピアシング(徹甲弾)でええやん……って言うてもしゃーないか、んで例の牧師さんはどこにおんねん』

 

「"神父"と言わなければくびり殺されるぞ、ヤツは今別行動だ、こっちは任せるとよ」

 

『本命ほったらかしにしてどこほっつき歩いとんねん、まぁこれが上手い事いったらウチの名も組織で大きゅうなるからええんやけどな』

 

 

 程なく4トントラックは二度目の爆発を起こし、それに巻き込まれたLAVも誘爆、炎が交差点を舐め地獄が広がっていく。

 

 車両が燃え尽きるまで複数の者が交差点を監視をしていたが、結局そこから誰かが出てくる事は最後まで無かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「一般車両を巻き込んでの自爆テロでありますか、幾ら何でも無茶苦茶でありますな」

 

「うぅ……後始末とかあちこちへ報告する事考えたら頭が痛いです」

 

 

 惨事が発生した国道26号線から北へ700m程、平行する府道12号線。

 

 三条の私物であるランドクルーザープラドの車内ではあきつ丸達が苦い相を浮べ海を目指していた。

 

 位置的には2km程も行けば運河があり、一行はそこから艤装を展開して大阪湾へ出るつもりであった。

 

 

 現在襲撃によって大破炎上しているLAVには最初から誰も乗っていなかった。

 

 脇を固めていた護衛車両の遠隔操作によって囮として使用し、その隙に最短距離で海を目指しつつ、餌に食い付いたテロリストを陸軍特殊作戦軍三個小隊で包囲殲滅すると言うのが今回の作戦であり、その為の餌に用意されたのがあきつ丸と大淀であった。

 

 

「もう提督殿を狙うのは不可能なのは判りきっておりますし、ここで自分と大淀殿という泊地の柱を餌にしなければ例のテロ屋を引きずり出すのは不可能でありますからな」

 

「それとなく情報をリークして段取りした筈なんですけどね、まさかここまで形振り構わず突っ込んで来るとは思いませんでした」

 

 

 大泉庁舎でLAVに乗ったあきつ丸達はそのまま国道へは出ず、地下ゲート手前で用意していた三条の車に乗り換えて庁舎の敷地へ戻り、北側のゲートから住宅街を抜けて別ルートでそのまま海を目指すルートを進む。

 

 そしてLAVはゲートから護衛車両の遠隔操作で国道に出て、泉佐野の鎮守府前島へ至るルートを辿る事になっていた。

 

 小隊三つ、百五十の者達がLAVという餌を中心に散開し、川内があきつ丸達と連携して計画を進める。

 

 危険な賭けであったが、それでもあきつ丸は襲撃が確実にあると踏んでいた、なので囮の車両は陸軍で使用されている頑丈な物を選定し、更には遠隔操作という面倒な形で準備、それの監視には機動力、そして監視能力に長けた川内を張り付かせた。

 

 

「例のテロ屋は自分の手で獲物を始末する事に固執するタイプの者でしたから、餌に食い付いて来ると思ったのですが……」

 

『LAVの周囲には何人か怪しいヤツは居たんで包囲はしたまんまだけどさ、外人さんっぽいのは居なかったね』

 

「情報の流し方があからさま過ぎたでありますか、しかしあちらも襲う気満々の動きをしてたでありますし……」

 

『だよねー、これだけ大規模な襲撃の準備しててこっちに気付かれないなんて思ってないだろうし、絶対食い付いて来るって思ったからこっちも出来る限りの人員配置したんだから』

 

「この計画の為にわざわざローン組んで新車買ったし、公費使って内緒で偽装ナンバーまで用意したんだから作戦が失敗って事になると私がバカみたいじゃないですか……」

 

「その辺りは後で補填を考えてますのでご安心下さい、ただ今回の件は提督へまだ詳細を打ち明けておりませんので、後日という事になってしまいますが……」

 

「大淀さんホントお願いしますね? 陸は海と違って薄給なんですから」

 

 

 安全は一応確保してるとはいえ、目的はテロリストの始末である、しかも襲撃は予想以上の規模で、しかも形振り構わない形で進行中。

 

 ここで件のテロリストが確認されていればまだ良かったのだが、川内他監視専任の者達はその影すら捕らえていない状態である。

 

 あきつ丸は未だ姿を見せていない影に不穏な空気を感じつつも、ナビシートから辺りを監視するのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 ただ言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。



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