取り敢えず更新です、はい、なんかもぉアレです。
お肉食べたい。
それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。
2019/03/30
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました柱島低督様、-Tesla-様、リア10爆発46様、水上 風月様、有難う御座います、大変助かりました。
コロンコロンと音が鳴る。中身も無く軽く、それでも耳に残る特徴的な音。
それは世界の片隅で。ポトリと静かな海に零れ落ち、コロンコロンと波紋を広げ、誰の耳にも聞こえている筈なのに誰も彼も気付かない。
生と死の狭間。輪廻というには
魂を贄として、生者を苗床に。全てを冒涜の腐海へと還る筈が、神の気紛れか、奇跡という名の喜劇か。
本来終わる筈の輪廻が、輪を広げ
「理屈も理由も私には判らん、しかし事実は口にできる。詳しく知りたくば北方棲姫と語れる段になったら聞くといい」
西蘭泊地
「事の起こりは今から三十年程年前、私の縄張りに
当時、まだ原初の者達が其々を殆ど認識していない頃の、
元々は不可侵とし、其々は己のやり方で支配する海を治めていた。
北方棲姫は北極海を制した後ベーリング海を南下。聖域とされていた日本のテリトリーに隣接する範囲まで支配を広げ、
他の原初の者の動きも大体似通った物であったが概ね落ち着きつつあり、深海棲艦と人類は海と陸という形での住み分けがほぼ確定していたという。
「まだ私もテリトリー内の整理をしている最中でな、他所の
自分と支配下に置いた者達が過不足なく過ごせれば良し。今も昔も彼女のやり方は変わらず、活動はある意味引きこもりまっしぐらな路線であったという。
自分の巣が出来上がりつつあったそんな時、テリトリーの北側から本来ある筈の無い攻勢を受けた。
それは人でもなく、
それらは死ねば生まれた海に戻る存在であるが故に、縄張りを渡らず、外へ牙を向ける事はない。
だがそれらは海の縄張りを侵した。敵意もなく、欲もなく、只恐怖と狂乱に心を染め上げ無軌道に南下してきたという。
「アレらは縄張りを獲る事や敵を屠る為ではなく逃げてきたのだ、死ねば元の海へ還る筈なのに、それでもそこから逃げてきた」
平時は誰とも通じず、そして他所への介入もしない
そこにあったのは統率も取れず、只只恐怖と混乱に塗れ共食いする深海棲艦達が跋扈する地獄だったという。
「全ての原因は縄張りを統べる頭目、中間棲姫だった」
中間棲姫という原初の者。
個の戦闘力で言うなら姫鬼はおろか、
だがその本質は個を捨て群としての能力を突き詰めた存在。絶対的な支配力と麾下に置く者の数が桁違いという、
「支配力が強く、また配下へ置ける数が私達の数倍という偏った能力。実際あいつが縄張りに抱える有象無象の数は恐らくウチの縄張りと比べれば文字通り桁一つは違うだろう」
己ではなく他者を惹き付け支配する者であった中間棲姫、しかし彼女自身は深海棲艦としても、支配者としても心が優し過ぎ、また肝心の心が弱い者であった。
取り込んだ深海棲艦の数だけ怨嗟が膨らみ、拒否できない心は麾下に置く者の数が増え続けていくという悪循環に陥る。
生態的な限界と、精神的な磨耗はある時限界を迎え破綻、結果として配下に置いた有象無象が暴走し、また本人の能力も暴走するという形でテリトリーは狂乱の渦に飲み込まれた。
「中間棲姫の縄張りは私の縄張りだけではなく、北方棲姫とも隣接している。つまり当事侵攻を受けたのはウチだけではなく、北方棲姫側でもそういう事になっていた」
「最初の数ヶ月は其々を牽制しつつの様子見と、一年過ぎた頃は掛け値なしの殺し合い。しかし三年過ぎた頃には徐々に事情が読めてきてな。最後にはウチと北方棲姫に支配する者達を削られ正気に戻った中間棲姫が白旗を揚げる形で闘争は終了した」
覇権を狙った訳でもなく、しかし他者のテリトリーに侵攻した責任を負った中間棲姫は、自身の性とも言える特性を抑え、また北方棲姫や
「我々は殺しても死なない、輪廻の輪からも外れている。だが朽ちる程に身を痛めつければ能力はカス程にも落ち込む」
放置すれば暴走し、周りを巻き込むという性を抑える為、中間棲姫は配下の者が減じているその時より定期的に
「周期的に三年、私はアレを屠る寸前まで叩く事を繰り返し、暴走を防いできた」
「……あー、だから彼女の縄張りにあるハワイをやたらと気にしてたんですね」
「ああ、本来ならそこに住む人間も他所へ移すべきだったのだろう。しかし中間棲姫がああいう状態で目が離せない上に、追いやるべき人間のテリトリーは遠過ぎた、しかも中間棲姫は一度暴走した時に
「それで? 中間棲姫がこれまでどうなってたかっていうのは判ったけど、どうして今貴女の縄張りであるここまでまで来て、何故テイトクに
「……
深海棲艦とは艦娘と同じく生態は謎の部分が多い。それは他者からだけではなく、己達でさえ自身が何なのか知らない部分が多い。
人を仇敵とし、
「……上位者に対する絶対的な服従、信頼、そして……親愛?」
「要するに上位者から受ける支配力によってのみ憎しみは抑える事が可能な訳だ。だが我々原初の者は頂点にあり、上位者は存在していない、だからあいつにはこれから先常に屠られ続ける地獄しかなかった、だが……」
「幾度となく屠られ続けた結果、
中間棲姫を始めとする原初の者は深海棲艦の頂点であり、上位者は存在しない。
だがもしそういう存在が居たとしたら、中間棲姫を蝕む暴走は、上位者へ対する忠誠と支配力で抑えられた筈である。
そして
「深海棲艦としての頂点に居るという性質上、我々は
「嘗て私達がそうであったように、テイトクならその可能性があると?」
「あくまで可能性の域を出ないが、中間棲姫はそれに賭けた」
囲炉裏を挟み、炭の熱気が互いの姿を陽炎のように揺らせて見せる。互いの目は色もなく相手を見ていたが、どちらからも他者を割り込ませない程に張り詰めた空気を滲み出していた。
「のう
対峙する二人に割り込むように、飛行場姫は言葉を投げる。
それに二人は視線だけで応え、更に二人に睨まれた飛行場姫は苦い相を滲ませつつ、対面側へピコッと指差した。
それに従い
場はそのまま言葉もなく、暫くは囲炉裏に掛けられた鉄瓶からシュンシュンと上がる湯気の音だけが場を支配する。
「……なんだよしのん」
「えっと、結局はその、どういうことだってばよ」
「む、いや結論として中間棲姫を暫くよしのんの支配下に置いて様子見という事になるなと」
「中間棲姫さんの部下と言うか、配下的な方達とテリトリーの方はどうなるんでしょう?」
「当然よしのんの支配下に就くし、縄張りはまぁ今まで放置状態だったからな、その辺りは今更ではないか?」
そして火を点ける訳だが、混乱しているからなのか動揺しているからなのか、逆さまに咥えたタバコのフィルター側に火を点けてしまった。
そしてゲホゲホと咽る髭眼帯に超真面目な相の
「取り敢えず中間棲姫は腹心の部下数名を伴いこの拠点に棲む事になるだろうな」
「え、うそん……」
「そしてあれが暴走した時の備えとして、私もここに棲む」
「ファッ!?」
「……もしそうだとすれば厄介な問題が残るわね」
原初の者二人が泊地に下宿するという厄介事で既にイッパイイッパイの髭眼帯は、フィルターに火が点いたタバコを囲炉裏の灰に突っ込んでもみ消しつつも、まだこれ以上の何かがあるのかと
「テイトクの麾下に入るという事は当然カッコカリの洗礼は受けて貰わないといけないわ、ねぇ
「そこんとこってどこんとこの事言ってんの
「いや主殿、そこは割と重要な問題になろう? というかそろそろわらわにも銘を付けてくれぬかのう?」
カッコカリという呪いの言葉に突っ込みを入れるが、そこに飛行場姫がバックアタックを仕掛け、更に固まった髭眼帯に何故か左拳を突き出して見せる。
再び場は無言となり、囲炉裏に掛かった鉄瓶からするシュンシュンという音が響き、飛行場姫が突き出した左拳がウリウリと捻られる。
そこでウリウリされる拳の薬指には以前から嵌っていたシルバーのSystem ringではなく、青いラピスラズリが嵌め込まれたEngagement ringがキラリと光っていた。
こうして龍王の間で話し合われた諸々の結果、西蘭泊地には新たに
更に元から居た深海勢からの要望で銘付きの二人が出る事となり、色んな意味で泊地は混沌としていくのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんな訳で今日から新しく仲魔になりました中間棲姫君です、皆仲良くしてあげてね?」
なし崩し的に引き受けてしまった中間棲姫の事を泊地の者にどう紹介したものかと悩んだ挙句、結局髭眼帯が取った行動はサラっと流して誤魔化してしまおうという杜撰なやり方であった。
執務机の前に置かれた長いテーブルには艦隊総旗艦の長門を筆頭に、各課の代表が居並び、にこやかにする髭眼帯とは真逆の、言ってしまえば超真面目というか怪訝な表情が連なるというアレな
「……提督よ、今聞き間違いでなければまた姫級の者がウチに来た的な事を言ったか?」
「あーうん、まぁうん、そんな感じで、そんな風味で……」
「いやいやちょっと待ちぃ、そんなん君ぃ……今日クラスに転校生が来たから皆頼むわなみたいなノリで突然紹介されてもやな」
「今日からご厄介になります、中間棲姫です、宜しく、ね」
「因みに彼女、
『ハァッ!?』
因みに現在は髭眼帯三連休の最終日である。一応有事に備え司令長官である髭眼帯の予定は関係各所に伝えられてはいたが、まさか夜明けと共にに釣りに出掛け、帰宅したら大物を釣ってきたパパが釣果を自慢する的に深海棲艦の大首魁をお披露目するという斜め上の所業に場は水を打ったような静寂に包まれる。
相変わらずノープランを誤魔化す為にニチャリとした笑顔の髭眼帯に、ヨイッスと言いつつズビシと右手を上げる中間棲姫。
「提督よ」
「え、なに長門君」
「確か提督は今日休暇を利用して松浪港へ釣りに出掛けたのだったな?」
「うん、
「で、それが何故帰宅したら中間棲姫を連れてくるなんて事になってるんだ?」
「えっと、その、……釣れました」
「……は?」
「釣れました、投げ釣りの仕掛けで」
髭眼帯の言葉に場は再び水を打ったような静寂が訪れ、柱時計のカッチコッチという音だけが暫く場を支配する。
彫像の如く固まる面々。スパッと手を上げたまま微動だにしない中間棲姫と笑顔の髭眼帯。
一応髭眼帯の言っている事は間違いなく事実であったが、通常深海棲艦が投げ釣りの仕掛けに掛かるなんて事は無く、ましてや姫はおろか世界で五人しか存在しない深海棲艦の大ボスがフィッシュオンする事などある訳がない。
が、それらの顛末は色々はしょってはいるが紛れも無い事実であり、釣れてしまったのなら仕方が無い。
もし釣った手段がルアー等のスポーツフィッシングならまだリリースという行為もあり得ただろうが、基本的に髭眼帯は釣った魚は食べる派なので釣れた獲物をお持ち帰りするのは当然と言えば当然と言えるだろう、恐らく、多分。
「……釣れたのか」
「はい、釣れました」
「姫級……いや、原初の者をか」
「……一応釣果は記録的な大物釣りという事になりますが、諸般の都合で魚拓はとってません」
「そ、そうか……」
「まぁそんな訳で今日から中間棲姫君はウチに居候する事になりました」
『……』
「そして彼女を監視する為
『…………』
三度執務室が静寂に包まれる。そして窓の外では滝壺から飛び出したゆーちゃんがタパーンする様だけが見えるという微妙な空間がそこ出来上ってしまったという。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「でと、結局の処あちらさんの真意は今んとこ読めないって結論でいいのかな?」
引き続き
中間棲姫も
「今回の一件は貴族院側も予想外の事だったようね、外交筋からの問い合わせの回答は何だか的を射ない微妙な物だったわ」
「時間があまりなかったでありますから、こちらも有用な情報が得られなかったであります。ただ新たな艦の引渡しに同行してくる事になっている人物の詳細はなんとか掴んだでありますよ」
あきつ丸は胸元からずるりとA4のファイルケースを取り出し、その中から一枚の書類を抜き出して髭眼帯に手渡した。
因みにあきつ丸は諜報に特化した活動を旨としている為か、例の艦娘ポケッツはデフォルトの胸部やスカートのポケットに始まり、ニーソの中や軍帽、果てはパンツや靴底にまで及んでいるという。
「代表の名はリチャード・シーカー、前期は
「ウオッホン、ではその辺りはこの漣がご説明致しますですよ? えーと件の議員は今期を含め八期に渡って議員の席に座る人物で……と、所属は労働党、出自は中堅の商社を代々営む家系の次男坊ですねぇ」
「労働党って言うと確か……」
「社会主義労働者インターナショナル加盟政党というか、ほぼそこの親玉と半分ごっちゃになった過激派が中心の党ですねぇ」
労働党。庶民院を成す政党の内、保守派と対を成す二大政党の内の一つである。
支持母体は労働組合を始めとした低所得者層から若年層が中心であり、ロンドンやマンチェスターなど都市部を中心に議席を獲得するという政党である。
結党時は労働者の権利を訴え、社会民主主義政党として労働者の生活の向上を唱えて社会福祉の拡充に努める。
深海棲艦の出現以降は資源確保と国民の生活保護という名目を掲げ、積極的に資源産出国、取り分けロシアやそれに関係する諸国からの輸入政策を推し進め、自国至上主義を掲げる保守派を抑えて庶民院では第一党にまで伸し上がった。
「嘗てはロシア筋とのパイプを利用してですねぇ、資源輸入関係に於いてかなりの利権を持っていたので貴族院ですら中々手を出せない程力を持ってたんですけど、欧州連合が発足してからは外交が脱共産諸国って路線に突入しちゃったので、現在はまぁ権力的に斜陽ってカンジになってますですよ」
「成る程、で、経歴を見るとそのリチャードさんってのは労働党でも結構な大物的な感じがするんだけど?」
「ですです、党では役職に就いてませんけど、どこの政党でもそうであるよーに役員や執行部に所属すると、時勢の煽りで何か問題が発生した場合派閥丸ごと切り捨てられて失脚という危険がありますから、上層部に近い位置の旨みがある立ち位置をキープしつつ、自身の派閥を持つ的な立ち回りをしてるみたいですねぇ」
「まぁどこの組織もトップよりはナンバーツーかナンバースリーが一番美味しいって言うし、銘より実を取るって感じのポジに収まっている訳か」
「で、この人、ご実家経営の会社の内、幾つかの会社役員に就任しているんですが、そこをよーっく辿ると以前大坂鎮守府の襲撃で出てきた、ほら、武器供与しちゃってた例のペーパーカンパニーとうすーく繋がってた形跡があるんですよねぇ。当然隠蔽工作はされてましたから証拠は挙がってませんケド」
「……へぇ、そりゃまた意外なトコと繋がったねぇ」
「で、このリチャードさんの奥さんの弟さんのお嫁さんのご実家が、とあるロシア高官という」
「奥さんの弟さんのお嫁さんとか言葉にすると伝言ゲームみたく聞こえるけど、まぁ関係的には近い筋なのかも知れないねぇ。それで? そこをわざわざピックアップするって事は、そのロシアのご実家って普通じゃないんでしょ?」
「えー……その奥さんの弟さんの奥さんのご実家というか、おじーさまがイシドルさんです、ロシア連邦軍参謀総長の」
「ファッ!? イシドルさんて、前にロシア代表で会議に出てた
「ですですー」
イシドル・アレクセーエフ。
吉野達が大坂鎮守府から西蘭泊地へ居を移す切っ掛けとなった艦娘所有国との音声会議に、ロシア代表として出席していた人物である。
当事吉野とは結局物別れという形で関係は途絶えたが、それ以前の行動で言えば寧ろ火消しと関係改善に動いていたロシアの高官であり、後に調べた限りでは自国至上主義にありつつも益があるならどことでも手を組むという、リベラル派の筆頭とも言える人物であった。
「大坂鎮守府の襲撃組織とロシア軍参謀総長に繋がりがある英国庶民院議員でありますか、ハハハこれは中々混沌としているでありますな」
「これって要するにロシアがほぼ切れてしまったウチとの
「取り敢えず矢矧君の予想が一番濃厚かなって感じだねぇ、まぁそれなら庶民院の議員さんと貴族院筋の研究機関関係者が一緒して来るって理由にはギリ筋が通る、かな?」
「蓋を開けてみないとなんとも、でありますが、当日は時雨殿の他に矢矧殿も同行するという事で予防線は張っておいた方がいいと思うのであります」
「だねぇ、まぁ結局は込み入った話になるから最後はまた色々ややこしい話になっちゃうんだろうけど、もし本当にロシアが接触してきたってんなら
「ウチは独立愚連隊みたいなものですからねー、繋がる筋は多い程立ち回りに余裕がうまれますからねぇ」
こうして奥さんの弟の嫁の実家だの、実家の商社の子会社の取引相手だのという、七面倒かつ吉野に対し関わりが一応あるという人物が同伴するという艦娘引渡しが、これより四日後オーストラリアメルボルンの西蘭泊地駐屯基地に於いて行われる事になるのであった。
・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。
それではどうか宜しくお願い致します。