大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 茶室に髭と小太りが現れた! そして提督は餡子まみれになり、泥棒髭になった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


(※)今回はギャグ無しパートになっております、その辺り期待された方はスルー推奨です。


幕間
彼女が求めたソラ


 目の前には暗く、そして波音静かな水面(みなも)が広がっている。

 

 港湾施設から漏れる明かりを淡く返し、空に点在する星の光とは違い、狭い帯を成して極限られた範囲だけに自己主張をしている海は、間違い無くそこが人のテリトリーだという事を示す証。

 

 係船柱に背を預け、膝を抱えながらそんな海をただじっと眺めている彼女。

 

 空母棲鬼は一人でじっと海を見つめている。

 

 

 一応日本との協力関係を持つ存在ではあるが、まだそれも決まったばかりで、更に一海域を収める程の存在であった彼女は、現在大本営の敷地で立ち入っても良い場所を大きく制限されており、極端な話をすると、第二特務課秘密基地建屋(たてや)及びその周辺ほんの数十メートルの範囲しか出歩けない状態であった。

 

 

 第二特務課秘密基地前数メートルの岸壁で、彼女はただ一人黙って海を見ていた。

 

 後ろの建物に入れば割と快適に過ごせる空間があるのに、彼女は何故かそこから逃げる様に外に出て、ずっと海だけを見ている。

 

 

「あぁ、こんなとこに居たんですか」

 

 

 そんな彼女に対し何とも間の抜けた声色で、そしてそれに負けぬ程抜けた顔の男が近寄ってきた。

 

 

「よいしょっと、失礼、お邪魔します、しますよ? いいですか? 座りますよ? 座りましたよ?」

 

 

 男は彼女の横へ訳の分からない言葉を呟きながら、並ぶ様に座り込んだ。

 

 それを空母棲鬼はジロリと睨んで迎えるだけで、暫くするとまた海へ視線を戻す。

 

 

「いやぁ、昼は暖かくなりましたが、夜ともなるとまだまだ冷えますねぇ、あ、これどうぞ」

 

 

 無視を貫く彼女の事などお構いなしに、男は手にしている赤いメタリック缶二つの内一つを空母棲鬼へ差し出した。

 

 

「……なによコレ」

 

 

 差し出された缶と男を交互に睨み、不機嫌な声色ながらも初めて彼女は口を開く。

 

 

「この世の至高、キング・オブ・炭酸、ドクターペッパーです」

 

 

 訝しむ空母棲鬼へ男は無理やりその缶を押し付け、もう一本の缶をさっさと開けてしまうとゴクゴクと中身を飲み始めた。

 

 それを黙って見ていた彼女もしぶしぶとプルタブを跳ね上げ、中身の炭酸飲料を口へ流し込んだ。

 

 

「オブッ!? ゲッホゲッホ…… な……なによコレなんなの!?」

 

 

 鼻を抜けるケミカル臭、世間ではそれ(・・)を飲む行為をソフト拷問と揶揄する程アレな飲料、そんな物を無警戒に口へ流し込めば素人は卒倒してしまうだろう。

 

 

「え? この世の至高、キング・オブ・炭酸、ドクターペッパーですが?」

 

「何が至高よバカじゃないの? こんなマズいもん良く平気で飲めるわねアンタ!」

 

 

 空母棲鬼は一口だけ飲んだ赤い缶を海へ向かって投げ捨て、プルプルと肩を震わせながら咳き込んでいたが、いきなり男が腕を掴むと、新たに取り出した赤い缶を何事も無かったかの如く手に握らせる。

 

 

「……なによ」

 

「誰もは最初同じ反応をするんですよ…… でも何度か口にしているとですね、これ無くては生きていけない体になるんですよ……」

 

「怖っ!? 何よそれってかアンタ目が据わっててキモいからって言うか何本も懐からそんなの出すのヤメなさいよっっ!!」

 

 

 困惑する空母棲鬼の前では、懐から次々と赤い缶を取り出した男が器用にそれを積み上げていく。

 

 程無くそれはアメリカのスーパーで良く見掛ける缶のピラミッドの如き山になり、満足したのか男は空母棲鬼に振り向くとニヤリと笑いつつ、また一本缶を差し出してきた。

 

 

「オカワリし放題です、どうです? 夢のようでしょう?……」

 

「夢は夢でも悪夢よコレ、ほんとアンタ何がしたいのよ……」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 空母棲鬼は相変わらず海を見ていた。

 

 その横では男が無言で缶に口を付け、同じく海を見ていた。

 

 

「……で? アンタ一体何しにここに来たワケ?」

 

 

 男はそう問われ、ああ…… と(ようや)く自分の用事を思い出したかの如く口を開いた。

 

 

「えっと、専務さんにはお礼を言ってなかったですから」

 

「……お礼? 何よそれ、てか専務言うな」

 

「えっとですね、昼間話がこじれ掛けた時ほら、フォロー入れてくれたじゃないですか? アレで随分と……その助かりましてですね」

 

 

 その言葉に苦い顔をしつつ、無言で海を見たまま空母棲鬼は眼帯に手を添える。

 

 何時からだろうか、何か考え事をしたり、手持ち無沙汰になったり、そんな時に無意識に眼帯に手を添えるのが癖になりつつある。

 

 

 彼女は元艦娘であるが今は深海棲艦である、本人もその認識に違和感無くこれまでずっと人類と殺し合いをしてきた。

 

 自分から積極的に攻めようとはしてこなかったが、それでも自分のテリトリーに敵が入れば戦ってきたし、それを沈めるのに何の疑問も感じてこなかった。

 

 なのに今は何故、仇敵である艦娘に囲まれても、ましてや人間とこうして話をしていても、殺意はおろか敵意すら沸いてこない。

 

 幾ら自分の上位者が敵対行為を禁止したからと言って、心まで縛るなんて事は出来ない、なのに今空母棲鬼は平然と人の傍で、しかも普通に言葉を交わしている。

 

 

 彼女は困惑している、だから気付かない。

 

 今まで確かに人類に敵対し、必要とあれば戦ってきた、しかし海の上でいつも戦ってきた相手は人間では無く艦娘だった事を(・・・・・・・・・・・・・)

 

 人間は敵と認識し、行動してきたが、その存在を憎んではいなかったという矛盾した認識を自分は持っていた事を理解していなかった。

 

 

「その目ですけど、何で治さなかったんです?」

 

 

 男の言葉で自分が眼帯を触ってる事に気付き、口元をヘの字に曲げて、顔の半分を膝に埋めるように男の視線から顔を隠そうとする。

 

 

ココ(・・)にはまだ弾丸が埋まってる、これはね、自分に対する戒めと誓い」

 

「戒めと、誓い……ですか」

 

「そう、いつかアイツ(防空棲姫)とアンタをぶっ殺して自由の身になったら、その時にコレ(銃弾)を抉り出すって決めてるのよ、絶対に…… いつか絶対に両目で自由になった海を見てやるんだから……」

 

 

 いつか殺してやる、口から出たその言葉は剣吞な意味を含んだ物にも関わらず、何故か弱々しく、そして彼女の内に戸惑いが在る為か、迷いを含んだ物になっている。

 

 物騒な言葉を吐く空母棲鬼という深海棲艦、彼女は鳳翔と呼ばれた艦娘とは全く正反対な存在と言ってもおかしくは無い。

 

 艦娘が深海棲艦として蘇るのにはどんな切欠があるのか、どうしてそうなるのか、彼女達にもそれは判っていない。

 

 別にそれを知ろうとも思わないし、何も問題は無かった、しかし今彼女は周りの環境に順応し始め、それに違和感を感じていない自分に戸惑っていた。

 

 もしかしてコレは自分が艦娘だった事が関係しているのだろうか、他の深海棲艦はもしこうなった時はどんな反応をするのだろうか。

 

 

 空母棲鬼は生まれて初めて自分の存在という物を深く考える事になったが、その元になるであろう前世の自分を知らないので答えに辿り付く事は出来ず悶々としていた。

 

 

 彼女は知らない。

 

 自分が昔艦娘だったのは知っていても、そして己が軽空母鳳翔だった事は知っていても、何故自分が、どうして空母棲鬼になったのか(・・・・・・・・・・・・・・)を覚えていなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 彼女は見ていた、今とは違い夜では無く、ましてや静寂とは程遠い騒音の海。

 

 海には大小様々な水柱が立ち、弾着の轟音と降り注ぐ確かな殺意。

 

 

 空を見れば自分が放った艦載機は糸を引く様に煙を残し、次々と()ちて往く。

 

 

 周りを見れば傷付き、全身を朱に染めた少女達が一心不乱に前へと進もうとしている。

 

 遥か前方には深海棲艦と呼ばれる異形がひしめき、砲弾を、魚雷を、殺意と憎しみを乗せて放ってくる。

 

 戦況は劣勢と言うには余りに生易しく、もはやそれは蹂躙と呼ばれてもおかしくない有様。

 

 それもその筈、相手は戦艦空母を含む空母打撃群であり、対するこちらは鳳翔を含めて僅か二隻の軽空母以外は全て駆逐艦、しかも殆どの者は型遅れと言われ、更に錬度が低い少女達。

 

 何故こんな無謀な戦いを繰り広げ、それでも何故撤退をしないのか。

 

 

 『捨て艦』

 

 過去、艦娘の数が頭打ちになった事が確定し、戦力の拡充が絶望視された当初、一部の前線基地で行われた非情な作戦。

 

 まだ深海棲艦との戦いも安定しておらず、艦娘という存在すらまだまだ理解されていなかった当時、その不幸な戦略が一部の前線基地では行われていた。

 

 負ける事は許されない、そして限りある戦力をいかに有効に、効率良く運用出来るか、そうやって試行錯誤の中で行われたそれは余りにも多くの命を海へ沈めていた。

 

 

 送り出す指揮官は仕方ないと言いつつも、己が出す命令に心を蝕まれ続け、心を壊していった。

 

 そして死地へ往く艦娘達は、それでも誰を責めるでも無く、涙を流す指揮官に答える為、そこを死に場所と定め笑って出撃していった。

 

 何もかもが間違いで、それでも誰が悪い訳でなく、ただ理不尽と悲しみだけが海に広がっていた。

 

 そしてその帰還する事は無い出撃へ送り出されるのは、戦力として低い評価を受けていた旧型の駆逐艦、そして正規空母が台頭し始め補助的位置に収まりつつあった軽空が殆どであった。

 

 

 帰れぬと判っていても、恨む事はなく、ただ一隻でも多くの敵を沈め、少しでも自分がこの世に居た証を、自分の命は無駄では無かったと、何かを残す為に砲を振り回す。

 

 殆ど戦闘経験の無い彼女達は、ただ真っ直ぐに、敵へ喰らい付く為に死に物狂いで前へ出る。

 

 しかし錬度が低く、貧弱な装備で、更に相手は一撃でこちらを沈める事が出来る大型艦。

 

 少女の多くはそこに辿り付く事もなく散り、そして動けなくなった者は自ら仲間の盾になっていった。

 

 

 そして鳳翔の前にまた一人、動く事も難しい程に傷を負った少女が自分を庇って攻撃を受け、深い海へと沈んでいく。

 

 

「おかあさん…… ごめん、先に往くね……」

 

 

 また一人、目の前で一人の少女が沈んでいった。

 

 笑いながら、そして涙を流して。

 

 

 手を差し伸べる暇も無く、水柱が少女を水底へ引きずり込んで往く。

 

 艦載機を全て失い、動く事もままならず、鳳翔は死に染まった海を、そして絶望が広がる空を見ているしか無かった。

 

 自分にもっと力があれば、彼女は自分を庇う事も無く前へ進めたのでは無いだろうか。

 

 せめてもう一機でも空へ翼を届けられたなら、彼女が流す涙を見る事は無かったのではなかろうか。

 

 艦であった頃、死地へ向かう多くの同胞を見送る事しか出来ずに生き残り、生まれ変わった今は、力無く沈み往く少女達に守られて。

 

 そうして彼女は何も出来ないまま、後悔と悲しみに心を染め上げ、冷たい海に身を墜としていく。

 

 

 空を統べる力を、守られるのでは無く守れる力を、母と呼ばれた軽空母は渇望する。

 

 薄れ往く意識の中、その願いと悲しみだけが尾を引き、余りに強いその想いは海に眠る想念を引き寄せた。

 

 

 

 そして暫く後、広い海に空を統べる白い女王が誕生していた。

 

 彼女は正規空母を遥かに凌ぐ数の艦載機を持ち、戦艦と正面から戦う頑強さを備えていた。

 

 

 しかし彼女は知らない、鳳翔という軽空母だった自分が何故空母棲鬼になったのか。

 

 彼女は知らない、知っている筈が無い、彼女達は沈んでしまうと記憶や経験が一切消えてしまう。

 

 それでも最後に願った想いだけは、結果として彼女を空の女王としてそこに蘇らせていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 空母棲鬼は手に持った赤い缶に口をつけ、中身を口へ含むと顔を(しか)める。

 

 この吉野という男は本当に良く判らない人間だ、流れ弾一つであっけなく死ぬというのに生身で戦闘に出てきた。

 

 深海棲艦に対しても艦娘と同じ様に接し、ヘラヘラと笑っている。

 

 聞けば防空棲姫の前に艦娘の随伴無しで現れ、あまつさえ彼女の脅しすら笑って流したという。

 

 

「専務さん、お代わりいります?」

 

「いる訳ないでしょ! バカなのアンタ! 後何度も言うように専務言うなっ!!」

 

 

 吉野の言葉に突っ込みを入れ、思わず缶をまた海に投げ捨てようとしたが、それをグっと堪えて溜息を吐いた。

 

 それを海に投げ捨ててもまだ目の前には山になった赤い缶が積み上げられている、どうせまた無理やりそれを手渡され、堂々巡りになるに決まっているのだ。

 

 そんな彼女の諦め顔を見つつ、吉野は相変わらすマイペースなままドクペを一口飲み込むと、至極まっとうな質問を彼女に投げ掛けた。

 

 

「え~っと、専務さんでダメなら、空母棲鬼さんって呼べばいいんですかね?」

 

 

 そうだ…… と彼女は口に出そうとして、それでもその言葉を飲み込んだ。

 

 空母棲鬼、それは確かに彼女の名称だ、今まではそれに何か思う事は無かった。

 

 

 実の処、朔夜(防空棲姫)冬華(レ級)に吉野が名前を持ってきた時、空母棲鬼にも名前が用意されていた。

 

 それはとても綺麗な響きで、女性らしい物ではあったが、己は深海棲艦であるという反発からそれを拒絶した。

 

 その結果、何故か朔夜に無理やり"専務"という名前を強要され、しぶしぶそれに従わざるを得なかった。

 

 それを拒否する事は出来た、しかしその時朔夜が言った言葉 『貴女はその名称に違和感無いの? それってテイトクが"ワタシの名前はニンゲンです"って言ってるよーなモンなんだけど』 

 

 そんな事を言われ、専務という名称すら拒否するのは自分自身を否定する様な気がして言い返す事が出来なかった、さりとて一度拒否した名前を名乗るのは彼女のプライドが許さない。

 

 

 握った缶を胸に抱え、真っ暗で、それでも星が見え隠れする空へ視線を向ける。

 

 空母棲鬼、それは確かに自分の名称だ、でもそれは自分の名前じゃない(・・・・・・・・・・・・)

 

 そんな簡単な事すら、今までの自分は考えなかったのか、そんな自分にショックを覚え、そしてそんな事を考える自分に戸惑っていた。

 

 

 少し前の自分なら、こんな事で悩む事は無かっただろう、同じ事を言われたとしても鼻を鳴らして歯牙にも掛けなかったに違いない。

 

 

 しかし今横の男に『空母棲鬼』と呼ばれ気がついた、それは自分の名前では無い事を。

 

 そして気がついてしまった、そう呼ばれる事に対する違和感と、僅かながらも胸にチクリと走る痛みを。

 

 

「……考えなさいよ」

 

「……はい?」

 

「アンタが、私の名前を考えなさいよ……」

 

 

 消え入りそうな小さな声で、それでも彼女が無意識に発した言葉、それに驚いたのは吉野では無く、その言葉を呟いた本人だった。

 

 何故そんな事を言ったのか、どうしてそんな言葉が口を()いて出たのか、驚きはしたが、それを否定する気は沸いて来ず、空母棲鬼は黙って膝に顔を埋め、横に居る男の言葉を待った。

 

 

「名前ですか…… 前に神に頂いた名前で……」

 

「アンタに、考えてって……言ったのよ」

 

 

 顔は見えず、ただ小さく座り込んだ弱々しい存在、吉野の目には彼女の事がそう映った。

 

 何故自分にそれを求めているのかは謎だったが、本人がそう求めているなら考えねばならないだろう、そう思い頭をフル回転して色々な名前を捻り出す。

 

 クウキ、ボーキ、続々と前に考えた名前が羅列される、何故だろう?

 

 空母棲鬼、防空棲姫、……クウボセイキとボウクウセイキ、アカン、"ウ"の一文字あるかどうかでほぼ同じでは無いかと吉野は驚愕の事実に気付き、思わず天を仰いだ。

 

 暫く無言の時間が流れ、夜空を見ながらあーでも無いこーでも無いと吉野は頭をガシガシと掻いていたが、何かを思い付いたのか、ピタリと動きを止めた。

 

 

「安直な名前と怒られそうなんですが……」

 

「……なによ」

 

(そら)……というのは如何です? 空母棲鬼さんの一文字拝借していますし、何より貴女は空を支配する力を持っている、ならそう名乗ってもおかしくは無いかなと……」

 

 

 "空"という名前、そして吉野が言った"空を支配する力を持っている"という言葉。

 

 

 胸から湧き上がる色々な想い、言葉に出来ないそれは口から出る事は無く、その代わり涙となって瞳から流れ落ちた。

 

 

 そう在りたいと願い、沈み、力を得て再び海へ(かえ)ってきた。

 

 今の彼女を成す、それでも彼女が知らない根本の部分。

 

 

 記憶が無くとも魂がそれを覚えていた、そしてそれを誰かに認めて貰った。

 

 そうして初めて自分があの時在りたいと思った存在に成れたのだと魂が震えたのだった。

 

 

 

 空母棲鬼はどうして自分が鳳翔という艦娘とは真逆の存在として生まれたのか知らない。

 

 この先その答えは出る事は無い。

 

 

 

 それでも彼女は理解した、この瞬間、自分は空母棲鬼という深海棲艦から、空という名前の"唯一無二の自分"になったという事を。

 

 

「……空、安直な名前ね」

 

「やっぱ駄目ですかぁ、んじゃやっぱボーキさんとかクウキさんとか……」

 

「ぶっ飛ばすわよアンタ!」

 

「えぇ~、じゃ、やはりここは神から頂いた名前を……」

 

「……空でいいわよ」

 

 

 何時の間にか顔を上げ、ゴシゴシと顔をこすりながら、顔を隠すかの様に再び海を見る。

 

 

「いいんです? その名前で」

 

 

 吉野の言葉に暫くは無言で、前を見ていた彼女。

 

 それでも赤い缶に口を付け、顔を(しか)めるとポツリと呟いた。

 

 

「テイトクがそうなんだと言うなら、仕方ないじゃない、上位者の言葉は……絶対なんだから」

 

 

 この日、吉野三郎(28歳独身安直男)の元に、九番目の部下となる艦が、本当の意味(・・・・・)で着任した。

 

 

 

 その艦は母性とは程遠いツンツンした性格をしていたが、この時生まれて初めてデレという変化を垣間見せるに至った。

 

 しかしその化学変化に横に居る鈍い男も、更にツンツン娘自身さえも気付く事は無く、非常に残念な空間がそこに広がっていたという。

 

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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