大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 また投稿が開きましたが、ネタはあるんです。

 ただ色々とありまして、て言うか今回の話前半は何度かに渡って続く話の取っ掛かり、かつ連続で書き切る事が時系列的に無理という進行で。

 どうか宜しくお願いしますm(_ _)m


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。



2019/08/05
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました白酢様、指蛇様、対艦ヘリ骸龍様、リア10爆発46様、水上 風月様、有難う御座います、大変助かりました。


黄泉還りの法則(序)

 

 

「それじゃ俺の代わりは斉藤って事でな……アイツの事だから大丈夫だとは思うけどよ、ケツ持ちはお前に任せるぜ?」

 

 

 煙の黒と炎の赤が踊る鉄の箱。僅かに見える外には海の青と絶望しかないそこを見る男は何故か満足気な笑いを表に貼り付け、手にした受話器の向こう側に居る者へ、今世での別れの言葉を吐いていた。

 

 

『……脱出は無理か』

 

「腹に一発食らっちまってよ、サラシで押さえてなきゃお前ワタが出ちまうって、こりゃアレだ、切腹の時と一緒でよ、長くは持たねぇわ」

 

『そうか……すまんな、上申はしてみたんだが……北で第一艦隊が壊滅した煽りでそっちに回せる戦力を抽出出来なかった』

 

「まぁしょうがねぇよな、坂田さんは現場から遠ざけられてるし、リンガ防衛に主力は残しとかねぇと後が続かねぇし」

 

『乗員の退艦は?』

 

「そっちも終わらせてある。つっても最低限の数しか連れてきてねぇから退かせるのは一瞬だったがよ」

 

 

 男は膝の上に乗せた白い髪の女を抱き直し、左手薬指に嵌めてあった銀色のリングを指から外して、それを自身の胸ポケットへ仕舞い込んだ。

 

 煙が炎に押し出されるかの如く艦橋から外へ流れ室温が上がっていくが、血を流し過ぎた今は寒気を感じていたので逆にそれが丁度良かった。

 

 

『敵の残存数はどうなってる?』

 

「んー……まぁさっき確認した時は三十から四十ってとこだったか、これだけ連れて(道連れ)きゃ暫く前線は持つだろうよ」

 

『鷹派は今第一艦隊の件で求心力を失いつつある……お前が今回稼いだ時間は坂田さんを復権させ、南洋は立て直す事が可能になるだろう』

 

ここ(南洋)が落ちれば民が飢える、国が死ぬ、もう俺達には後がねぇ、なんでそれが馬鹿共には判んねぇのかね」

 

『今まで俺らが正論とはいえ無理に押し通したツケがここで回ってきたって事だろうな、しかし……お前が居なくなったら後が大変だ、俺は後始末やらでまた睡眠時間を削らんといかん』

 

「ハッ、散々暴れるだけ暴れて人に面倒を押し付けた報いだ、せいぜい苦労するといいやな、これから俺は……この後念願だった長期休暇を消化させて貰うぜ、翔鶴と一緒に靖國詣でに行くからよ」

 

 

 憎まれ口を吐きつつも、男は女から外した物とは別のリングを懐から取り出して、もう動かなくなってしまった白い髪の女─────翔鶴の左手薬指にそれを嵌め直し、満足気な笑いを口元に滲ませた。

 

 

 平成が始まって十年と少し。日本は本土近海の制海権を奪還した後、枯渇する資源を得るべく南進、最前線をマラッカ海峡付近まで広げた。

 

 坂田が切り開き、大隅が奪還。現在は近海維持と新たな橋頭堡を築くべく大本営は全軍の六割に届く戦力をそこに投入していたが、強引なやり方は軍部を二つに割る事になり、南海からの資源環送航路の維持を主張する大隅達の慎重派は鷹派の推進する北方領土奪還作戦を抑える事は適わず、虎の子だった大本営第一艦隊を北方戦線で喪失。また逐次投入され続けた戦力も北方棲姫に磨り潰され、本土の守りもままならない状態に陥っていた。

 

 

 ───── 本土直近の脅威に備える為

 

 

 南洋の資源環送航路がなくば国は枯渇し緩やかな死を迎えるが、目先の脅威をチラ付かせれば国民は鷹派の支持に回り、結局は様子見で事足りたはずの海に無用な戦力を投入する事となった。

 

 そして足りなくなった内地の戦力は南洋の戦線から抽出する他はなく、インドネシアの最前線に残されていた戦力は次々と引き抜かれて行くことになる。

 

 坂田、大隅に続き南洋を受け持ったのは (かつら) 正則(まさのり) 海軍中将。大本営では軍令部に所属し、空母機動艦隊を指揮すれば負け無しとまで言わしめた猛将であった。

 

 インドネシアの制海権を奪還した戦力は維持する必要数の数を残して帰還させ、本土防衛を固める。この想定に基づき、南洋にはリンガ泊地とペナン基地が設置され、更なる防衛強化の為にセレター軍港が敷設されている最中であった。しかし鷹派の主張による軍部の急な方針転換と戦力の引き揚げにより、最終的には桂が引き継いだ時点の六割程まで戦力は減じてしまった。

 

 奪還したとはいえ未だ防衛にどれほどの戦力が必要となるかは不明であり、しかし、守る海は軍が広げた腕の範囲に収まらないのは明白だった。

 

 このままでは前線は崩壊。徐々に戦力は削られ制海権を再び手放さなければならなくなるのは時間の問題であった。

 

 

 この苦境に南海を差配していた桂が打ち出したのは、囮艦隊を編成しギリギリまで抗戦、最後はそれら諸共敵戦力を巻き込んでの自決。敵の数を間引き得た時間の猶予を戦力の回復に充てるという、作戦と言うには余りにも苛烈な物であった。

 

 深海棲艦は時が経てば再び沸いてくる。当時軍部は否定していたが現場ではそういう認識が一般的となりつつあった。

 

 故に桂が立てたこの作戦は意味がないものに見える。しかし鷹派が推進した北方領土奪還作戦が瓦解し、求心力は再び慎重派に戻りつつあった。ならばこの作戦で時間を稼ぐ事ができるなら、まだギリギリで踏み留まり本土から再び戦力を南洋へ派出する事が可能になる。

 

 

 現在はその作戦の最終段階にあり、桂は座乗していた母艦『あさぎり』の艦長席に座し、最後の時を待っていた。

 

 

 度重なる撤退戦を殆ど損耗なく切り抜け、多くの深海棲艦を引き連れて。

 

 ただそれでも、無茶は僅かばかりの犠牲を出し、己の秘書艦であり艦隊総旗艦であった翔鶴は最後の最後、母艦を庇う形で力尽きた。

 

 

『……何か言い残す事はあるか』

 

「今更だな、遺書は退艦した副長に預けてある。後は最後のお勤めを残すのみだ」

 

『そうか、こっちはまだやる事が多くて靖國の鳥居を潜る事はままならんが、何れお前達と同じ場所へ必ず往く』

 

「お前の辛気臭いツラを拝むのは暫く遠慮するぜ、こっちは先立(戦友)達とあっちでのんびりしてっからよ、合流は全部がおわってからにしろや」

 

『そうか……判った、では、またな……桂』

 

「あぁ、またな……大隅」

 

 

 通話を終えた桂は目の前に揺らめく炎の向こう側、傾いた船から見える……あさぎりに群がる有象無象を見て口角を上げる。

 

 

 そして抱えた翔鶴を再び抱き直し、指に嵌め直した、白い真珠が埋め込まれた結婚指輪に視線を落とした。

 

 

「本当は作戦前に渡したかったのによ……変なフラグになるからそれは後で貰うなんて言いやがって。結局お前、コレを自分で嵌める事が出来なかったじゃねぇかよ……」

 

 

 艦の傾きが進み、いよいよかという時、桂は艦長席に括り付けてあった起爆装置を手元に寄せ、そして不敵な笑いを表に滲ませた。

 

 

「でもよ、これで面倒なしがらみとはおさらばだ、もう……二度と、お前と別たれる事はねぇよ……なぁ?」

 

 

 こうしてマラッカ海峡の西十五海里付近では、艦に取り付いた深海棲艦五十数体を道連れに艦娘母艦あさぎりが爆散。全てを巻き込んで水底(みなぞこ)へ沈めていったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「『三人目の翔鶴』……ですか? それってあの?」

 

「本人の言う事が本当なら、お前が拾ってきた翔鶴は昔桂中将と共に沈んだ例の翔鶴さね」

 

 

 西蘭泊地奉行所(執務棟)

 

 外事課の設置に伴い、外部への干渉が不可欠な艦娘お助け課と共にメルボルンへと人員を送る手続きを進めていた吉野は、欧州作戦の折に欧州水姫と共に鹵獲してきた翔鶴が目覚めたと天草ハカセから報告を受けていた。

 

 元々はマッチポンプ染みた、一部本気の殺し合いを含む海戦。それらの幕を下ろしたのは中間棲姫が殺し、ドロップしたという航空母艦翔鶴。

 

 その個体は艦隊がアラビア海から帰還し、諸々の後始末を終えるまでの約一月半もの間ずっと眠り続けたままであり、身柄を医局に預けた状態でずっと様子見を続けていた。

 

 

「一応軽く聞き取り調査はしてみたんだがねぇ、何て言うかアレは……色々と今までの常識を覆す状態になっちまってるんだよね」

 

「といいますと?」

 

「今まで深海から艦娘に還ったモンは軒並み記憶の欠損や、自己認識って面で障害を抱えたモンばっかだったんだけどもさ、あの翔鶴は何故か綺麗に記憶を残した状態にある。まぁそれがホントか嘘かの判定はこれからになるんだけどさ」

 

 

 海に沈んだ艦娘は、稀にだが深海棲艦として黄泉還る。

 

 その事実は嘗て吉野らが朔夜(防空棲姫)達と初めて邂逅した際に得た情報であり、後に電が情報を精査し、大坂鎮守府で天草と合流した後に深海勢の聞き取りを実施して予測。更には北方棲姫との研究交流の末に確定した事象であった。

 

 それらの存在は艦娘だった頃の記憶は多少の差異はあれど断片的に、若しくは殆ど残しておらず、自身が艦娘だったという事実だけを認識した状態で深海落ちしていた。

 

 またあくまで推測の域を出ない話であったが、"前世からの記憶の持ち越し"とは"黄泉還る一つ前の自分"の物でのみあり、それ以前の記憶は持ち越せないというのがこれまでの定説であった。

 

 

「もし彼女がその……昔沈んだあの翔鶴と同一人物って事になれば、艦娘から深海落ちした後更に黄泉還って尚、全ての記憶を持ったまま……って事になりますよね?」

 

「だから眉唾だ……私らもそう思ってたんだけどね、事実確認してく内にそう言ってらんない状態になってきたって訳さ」

 

 

 現在西蘭泊地に居る翔鶴は、船渠棲姫が意図的に吉野へ送った艦である事は明白である。その状態で翔鶴が前々世から続く全ての記憶を持つ者だとすれば、明らかにそれも船渠棲姫側が何かした末での物だという推察が成り立ってしまう。

 

 戦闘行為を避け欧州方面へ進むという行動。中間棲姫が最後に残した謎の言葉。最後に全ての記憶をそのまま持つという翔鶴。

 

 これらはバラバラでありながらも、一切関連性のない物と言い切るには無理があると吉野は考えた。

 

 

「それで、今彼女は?」

 

「まだ衰弱が激しい状態にあるから医局から出すのは無理だね、ついでに言うと艤装を展開できないみたいだし戦力としては見込めないよ」

 

「艤装を展開できない?」

 

「あぁ、記憶を持ち越す代償って本人は言ってるけどさ、そっちもまだ調べてみないと何とも言えないね」

 

「……了解です、では面会が可能になったら教えて貰えますか? それまで自分も心当たりを当たっておきますので」

 

 

 時を経て、二度の死を渡って来たという航空母艦は嘗て生きてきた海を遠く離れた、南半球の番外地である西蘭泊地まで流され、三度目の生を艦娘としてやり直す事となった。

 

 そして未だ謎多き色々を背負ったその存在は、この後吉野達を巻き込んで終局の、そして真実へ辿り着く為の鍵となるのを今は誰も知らないのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「『三人目の翔鶴』だと? この前提督達が欧州作戦で拾ってきたあの翔鶴がか?」

 

「まだ確定とは言えないんだけど、本人が言うにはそうらしいんだよねぇ」

 

 

 天草からの報告を受けた吉野は、自身が言った心当たりに話を聞くべく、先ずは艦隊総旗艦である長門の元を訪れていた。

 

 『三人目の翔鶴』とは、言葉通り軍で建造された翔鶴型一番艦の三人目、言葉の通りの存在であった。

 

 

 嘗て南洋戦線がまだ流動的であった当時、現在では二つ名持ちと呼ばれる事になった者達が命を懸けて戦っていた。

 

 『人修羅長門』『鉄壁大和』『対潜の夕張』『千里眼祥鳳』、これらは全て"最初の五人"と呼ばれた最初期の艦娘から受け継いだ二つ名であったが、他にも鳳翔の『鬼人』や龍鳳が持つ『リンガの爆撃姫』のように激戦を生き抜き、活躍した者には曰く付きの二つ名が付く事が多い。

 

 そして『三人目の翔鶴』とは、艦娘としての空母機動艦隊という戦略を初めて実施、形にした桂正則中将の元、その旗艦を最後まで勤め、現代の艦隊運用に大きく寄与した艦娘であった。

 

 攻める対象が人型となり、小型化する。それは艦の時代とは違い標的が狙い難く戦果を挙げ難い。加えて航空母艦は自身を守る直接的な術を殆ど持たず、攻撃に弱いという弱点を抱える。

 

 ただアウトレンジからの攻撃という一点のみの利点は、頑強な戦艦や、対潜に秀でた駆逐艦等を並べているだけでも事足り、夜戦も可能な艦隊より扱いが難しく、また資源の消費が激しいというマイナス要素が上回った。

 

 つまり航空母艦が艦娘として顕現した初期は、使い処が限定され、また維持に膨大なコストが必要だという理由から、彼女達は軍の中で微妙な扱いになっていた。

 

 

「で、その辺りを同じ時代に活躍してた長門君に色々聞きたいって事で、今日は時間を割いて貰った訳なんだけど……」

 

「ふむ、確かにまだ我々が南洋で戦ってた頃に何度か見掛けた事はあったが、そもそも桂中将はマレーシア半島の外側から来る敵を迎え撃つ……つまり防衛の任に就いていたし、我々第一艦隊は制海権を奪取した後、制海権の内側で残存する敵の殲滅にあたっていた。つまり同じ時代に戦ってはいたが、翔鶴と私は殆ど邂逅する機会が無かった訳だ」

 

「成る程……じゃぁ君が彼女と直接話したとしても、本人かどうかの確認は難しいと」

 

「そうだな、その辺りもっと詳しい事を知りたければリンガの斉藤殿か、大隅殿に聞いた方が早いと思うぞ?」

 

「あー……やっぱそうなっちゃう? んでもねぇ、まだ彼女の事は秘密って事になってるから、今のとこそっちには話を持ってきたくはないんだよねぇ」

 

「……ふむ、ではあの翔鶴は例の船渠棲姫絡みの話に関係すると?」

 

「そそそ、まだ話が不透明な上に内容がヤバい系の物になっちゃう可能性が高いからねぇ」

 

「そうか……なら舞鶴の千歳に聞いてみたらどうだ? アレは確か桂艦隊から艦隊本部に召還された艦だからな、翔鶴とは実際に行動を共にしていた筈だ」

 

「え、千歳さんって桂中将の艦隊出身なの?」

 

「あの頃は色々と混沌していてな、戦力が足りないからと引っ張られるのに行く先の派閥がどうのなんて言ってられなかったんだ。慎重派から鷹派の拠点へ、またその逆への異動なんていうのはそう珍しい話ではなかったな」

 

「成る程ねぇ、んじゃその辺り千歳さんに確認してみようか……時に長門君」

 

「ん? なんだ?」

 

「ちょっと聞きたいんだけど、どうして君はその……今日はそんな格好でウロウロしてるのか理由を聞いてもいいのか、それともスルーするべきなのか提督物凄く葛藤しています」

 

 

 真面目な話をしつつも、髭眼帯の視線はチラチラと長門の上や下へといってしまうが、会話に集中する為だろう、それらをなるべく意識しないように視線はやや泳ぎがちになっていた。

 

 西蘭泊地艦隊総旗艦長門。彼女は現在事務仕事を終え移動中で、これから松浪港で行われる筈の演習を視察する予定であった。

 

 そんな予定のナガモンは、いつもと違う黒いシックな色合いのビクトリアンスタイルのメイド服着用で、頭にはホワイトブリムを乗っけた正統派という出で立ちをしていた。

 

 確かにそれはいつものイメージしちゃう赤いスパンコール的なメイド服と比較すれば正しいスタイルなのだろう。しかしここはまがりなりにも海軍の防衛拠点である。しかも彼女は泊地を指揮する筆頭の艦隊総旗艦である。

 

 つまりメイド服の意匠が正しくても、用途的には正しくないという異世界をそこに産み出していた。

 

 

「ん? ああこれは何と言ったか、世間では最近メイドの日とかタイツの日とやらがついったーとかいうのに挙がっているらしくてな。こんな僻地の事だ、艦隊員達が流行に乗り遅れてしまわないようにとこういう格好を節目にしてみたらどうかと提案をされたんだが」

 

「……明石に?」

 

「うむ」

 

 

 くるぶし丈のスカートを片手でペラリをまくり上げ、なまめかしいストッキングの足を見せ付けるナガモンを見て怪訝な表情になった髭眼帯は、スパッと内ポケットからスマホを取り出して流れるようにどこかへピポパする。

 

 

「もしもし明石酒保? あ、妖精さん? 自分だけど、え、三郎って名前が昭和臭してダサいから名乗らないって個人的な事情で業務が滞るようなコミュニケーションを取るのはどうかと思う? ちょっ!? のっけから随分と辛辣かつトドメ刺しにきてるね今回は! まぁその辺りは今回横に置いとくとして明石いる? え? 留守? どこ行ったのアイツ? 明石直販酒保100店記念セールの為に各店舗を回ってるぅ? ナニ? 『明日死ぬかのように儲けよ。永遠に生きるかのように売れ』ってナニ!? ガンジーさんなの!? マハトマさんなの!? え、ナニ? ……うんうん……うっそマジでぇ、君らも大変だねぇ、うん……そっかぁ、そうなのかぁ」

 

 

「なぁよしのん、ちょっと頼みがあるんだが今大丈夫か?」

 

 

 酒保妖精さんの愚痴にプルプルしつつスマホを切ると、西蘭の大家である海湊(泊地棲姫)がナガモンの向こうからカラカラとネオアーム〇トロングサイクロンジェットアームストロング砲を曳航しつつスパッと右手を挙げて近寄ってきた。

 

 

 黒いビクトリアンスタイルのメイド服を着用して。

 

 

「……海湊(泊地棲姫)さん、えっとその……ご用件を伺う前に何故貴女がそういう格好をしてるのかの理由を聞いても?」

 

「ん? ああこれか、これは今まで人の文化という物に触れる機会が少なかった我が配下の者達へな、興味を煽りつつ自然な流れで異文化に接する機会を持つのにはだな、私が率先してこういう服を着るのが効果的なのではと勧められたもんでな」

 

「……明石に?」

 

「うむ」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ナニ深海の大頭目にメイド服薦めちゃってるんだぁぁぁぁぁあああかしぃぃぃ! って言うかこんな流れは全然自然になってないぞあぁぁぁぁぁぁかしぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 明石酒保の大頭目にそそのかされた深海の大頭目は、ナガモンとおそろのメイド服にホワイトブリムという出で立ちのまま、泊地のド真ん中でプルプルと悶絶する髭眼帯を見て首をコテンと傾げていた。

 

 因みに泊地棲姫とは、色々バインバイン属性が高い深海勢にあってトップに近いバインバインだが、それがちゃんと収まるという事はまごうこと無きオーダーメイド、正にそれは海湊(泊地棲姫)専用のメイド服という事になる。

 

 一体彼女の毒牙に掛かった者はどれだけ居るのだろうか─────

 

 

「泊地ちゃん、どうしてテイトクはこんな道の真ん中で盆踊りをしてるのかし、ら?」

 

 

 ─────そんな思考はネオアーム〇トロングサイクロンジェットアームストロング砲に跨っていた、黒いビクトリアンスタイルのメイド服を着用た中間棲姫を見た瞬間絶望に染まってしまった。色んな意味で。

 

 一体何をどうしたら重要軍事拠点の艦隊運用を指揮する艦隊総旗艦と、深海棲艦の大ボス二人が黒いビクトリアンスタイルのメイド服+ホワイトブリムという間違った衣服を装着し、海軍少将を囲む輪陣形を形成するという事態に至るのだろうか。

 

 寧ろいつもの格好が世間一般的にはハレンチかつ非常識であるのは今更であるのだが、そこを矯正した結果別な意味で非常識化するのはどうなのだろうか。

 

 

「ああ、アレはよしのんがたまにする喜びを表現する舞とか言ってたな、夕張が」

 

「どこをどう見たらコレが喜んで見えるのか三行以内で答えて貰おうか海湊(泊地棲姫)えもん! て言うかウチの明石&メロン子って真面目な話しちゃいけない勢筆頭だからね!? そこんとこ判ってる!?」

 

「いやまぁそれはどうでもいいんだがな、それより今日は松浪港で演習が終わった後大茶会が開催されるとかで、参加するかと聞かれたんだが」

 

「……大茶会ぃ? 港でぇ? なぁにそれぇ?」

 

「なんでも金剛が新たな境地を開いたとかで、姉妹揃って祝いの茶会を開くという事だったか」

 

「そう、だから祝砲を兼ねて、茶菓子を提供する事に、なったのよ、ね」

 

「うむ、なのでネオアーム〇トロングサイクロンジェットアームストロング砲の発砲許可を貰おうと思って来ただが、どうだ?」

 

「いやそこでどうだって言われても提督色々諸々初耳だから何をどう許可すればいいのかわからないんですけど……」

 

「寧ろその後は狩人村が解体されるとかで最後のお泊り会が開催されるらしいぞ、当然私も参加するが」

 

「……狩人村って、あのホームがレスしちゃってる人達が根城にしそうな数々のテントっぽい施設群の事?」

 

「うむ、今回は趣向を変えて全員黒いビクトリアンスタイルのメイド服にホワイトブリムの装着が義務付けられている」

 

 

 何故そうなったかは判らないが、恐らく現在は泊地総艦隊員が黒いビクトリアンスタイルのメイド服+ホワイトブリムという状態という話をナガモンから聞かされた髭眼帯は、遥か遠くを見ながらプルプル度を増していく。

 

 ついでに今回のレギュレーションが黒いビクトリアンスタイルのメイド服+ホワイトブリムという縛りなだけで、原型を留めれば多少のアレンジは認めるという油断のならない追加ルールを聞いて嫌な予感メーターがピコンピコンするのであった。

 

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
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 それではどうか宜しくお願い致します。

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