空母棲鬼さんの昔話、そして名前が決定したとか。
それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。
(※)今回は全編ギャグになっております、その様な物が苦手な方、若しくは艦娘さん達のイメージが大きく崩れるのに違和感を感じる方はスルーして頂いた方がいいと思います、はい。
「えぇと…… 夕張君は一体何をしているのかな?」
困惑の色を表に出しつつ、吉野三郎中佐(28歳独身麺は柔らかいのが好き)が目の前に座る艦娘、夕張型一番艦夕張(工作艦仕様)に対し説明を求めていた。
時間は1930、場所は大本営内第二特務課秘密基地内の玄関ホール、その出入り口脇。
夕張が座る前には町の公民館で使われてそうな長机が一卓据えられており、そこには『夜会受付』という文字が書かれた紙製の三角錐と、何やら記入する為の帳面が置かれており、更にその真ん中には早押しクイズの回答者がピポピポ押しそうなボタン付きの小さな箱が置かれている。
「あぁ提督、お疲れ様です~ いや今日って親睦会の日じゃないですか、だからその受付をしてるんですよ~」
第二特務課というのは最近新設されたばかりの課であり、その人員の殆どが外部より転任してきた者で構成されている(深海棲艦組含む)。
更に捷号作戦が大本営を挙げての長期作戦という位置付けになり、しかも第一段階目に際して各地に散っていた艦娘が再編の為現在大本営に帰ってきていた。
その為、その艦娘が再び各地へ出向する前に第二特務課の艦娘達との顔合わせと親睦を兼ね、何かやってみてはどうかという意見が出た為取り敢えず親睦会的な物をしてみてはどうだろうかと計画した処、広大な畳敷きの大茶室を利用しての『お泊り会』なる物を開催する事になったという。
吉野もその辺りの話は聞いていたが、何故葬式の受付的なカンジの物が必要なのか、そしてそこに置かれているボタンは何なのか、その辺りの説明を夕張から聞こうとしていたのである。
「えっとですね、この羅生門(玄関セキュリティ群)なんですけど、そのままだと危ないので今は停止してるんですが、ドアロックと連動しちゃってるので今は鍵かかってないんですよね~」
という訳で、一応深海棲艦組という特殊な人物も居る為、万が一の事を考え受付を兼ねた見張りとして夕張がドア横で監視をしているのだという。
「成る程…… それはご苦労様だねぇ、時に夕張君、その…… そこのボタン的なそれは一体ナニ?」
謎の早押しボタンを指差す吉野に夕張は手招きして横に来いとポーズを取るので、何だろうと受付側に移動する。
そして横に吉野が来た事を確認した夕張は、某製菓のCMに出てくる桃太郎な侍ばりのアクションでボタンを叩くと、パカーンとドア前の床が1×2m程下に開いて深い穴が現れた。
「……ナニコレ」
「えっと、ほら、万が一危険人物が来た際その対処をしたり、捕縛するのって手間じゃないですか?」
「……それで?」
「ですからここからスポーンと落として、向こうで警邏隊に捕縛して貰えれば手間は無いかなぁって」
「うん? 警邏隊? この穴の底に居るの? どういう事?」
「えっとですね、この縦穴なんですが、執務棟の地下シェルター五階の警邏隊詰め所脇まで彫り抜いてまして、落ちた物は自動的にそこにボッシュートするという」
「ちょ待て、今地下シェルター五階て……」
大本営執務棟地下シェルター五階、そこは有事の際作戦指揮所になる最重要区画であり、基本的にそこは将官クラスの者か、作戦補助に就く者しか出入りは認められていない大本営でも指折りの重要施設である。
当然そこは厳重に警備されており、不用意にそこへ近付くとどんな理由があろうとも即捕縛・隔離になるという場所でもあった。
「シ……シェルター最下層に穴て……バレたら軍法会議物じゃないかなと提督は思うんですが……」
「一応後で埋めるという事で許可は取ってますから大丈夫ですよ」
「……誰に?」
「大淀さんに」
「ふ……ふ~ん、oh淀さんかぁ……そうかぁ……ならアレだうん、まぁ……うん」
大本営総務課大淀、言わずと知れた大本営のカーストの頂点、彼女がOKを出せば例え大将だろうが元帥だろうがそれは通ってしまうという影の支配者。
その眼鏡の支配者がOKと言えば問題は無いのだろう、むしろその辺り詳しく聞くと胃粘膜が一瞬で蒸発するかも知れないと思った吉野は納得しておく事にした。
そして夕張がボタンを再び押すと、床はパタンと音を立てて元通りになると同時に『ピンポ~ン』という音が玄関ホールに響き渡った。
「あ、誰か来たみたいですね、はいは~い、どうぞお入り下さ~い」
夕張の案内と共にドアが開かれ、それと同時に某ファミ○ーマートのドアを潜った時に流れるあの音楽が聞こえてくる。
普通なら何故軍事拠点に出入りするのにそんな物を流す必要があるのかと突っ込みを入れる処だが、ドアを潜ってきた
それは2mはあろうかという大きさの黒い棒、それが次々と計6本ドアから入ってきた。
良く見るとそのチョコバット風な何かからは手足が生えており、それがトコトコと珍妙な動きで受付の前に整列する、とても不気味極まりない。
「ゴーヤは魚雷さんで、おりこうさんなのでち!」
「でち公ナニシテンノ!?」
良く見ると黒い棒はチョコバットでは無く、酸素魚雷を模した着ぐるみの様だ、何故着ぐるみなのか、どうして魚雷なのか、何から突っ込んでいい物か判らないというか全て意味不明である。
「え、お泊り会はパジャマで来て下さいって言われたでち、だからみんなでパジャマ着てきたんでちよ?」
「パ……パジャマ? それパジャマ?」
恐らくはでち公が無理やりお揃いでとそれを着せ、ここまで引っ張って来たのだろう、吉野の突っ込みに対しでち公以外の者は痛々しい表情で目を伏せ、顔を背けている。
「いやパジャマというか…… いやまぁ、うん、ごめん…… でも何でそれ着たままここに来た訳? 中で着替えればいいんじゃないの?」
良く見れば彼女達は手ぶらで手荷物らしき物を持っていない、それはつまり自室からここまでチョコバットで移動してきた事になる。
大本営潜水艦隊は執務棟内の"小さな鎮守府"に居を構えている、そこからは中庭を通り、食堂施設の前を経て、更にグラウンドを通ってやっと岸壁沿いのここに来れるのである、そこをこの着ぐるみを着て来たというのだろうか。
「あ~ それなんですが、羅生門の警備システムの内、画像認証システムは基地のメイン電源と直結になっててOFFには出来なかったんですよ~」
そう言う夕張の説明では、画像認証システムが切れない為、急遽参加者の形状登録をする事になったのだが、そのシステムは顔だけでなく全身の形を参照するタイプの物らしく、その登録をする為のデータを揃えるのが時間的に無理があった為、参加者へ問い合わせてどんなパジャマを着て来るのかを確認し、更に明石酒保のパジャマカタログにあるパジャマの形状をデータとして登録する事で無理やりシステムをパスさせる事にしたという。
つまりセキュリティに掛からずここに入る者は、強制的に着ぐるみ装備でなければならないという罰ゲームの様な有様になっていた。
「いやまぁ…… ごめんなさい、て言うかでち公さん、それパジャマって言うけど、そんなの着て寝たら体痛くない?」
「何を言ってるでち、寝れないパジャマってバカにしてるのでちか? ほら、ちゃーんとフワフワで寝心地抜群なのでち! ……あ」
床に寝転びコロコロと転がるチョコバット、それがピタリと動きを止め、プルプルと振るえだした。
「……起きれないでち、ヘルプ」
「もーでっちダメじゃない、ほら今起こしてあげるから ……あ」
横たわるチョコバットを取り囲み、、手を差し出すチョコバット達、しかし体を少し傾けた状態でそれは動きを止め、プルプルと震えていた。
「これ以上屈めない……」
「うんうん! 無いね! 無いと思います!」
「酸素魚雷って…すっごい!」
「いや君達、バカなの?」
「バカじゃないのね! こっちも必死なのね!」
吉野の突っ込みに勢い良く振り向く泳ぐ18禁水母、そしてそれに薙ぎ倒され、パタパタと放射線状に倒れるチョコバット達、もう訳が判らない。
「黒光りしてるし…目が光ってるし…」
結局横たわった黒い棒をサルベージし、奥の大茶室まで案内した吉野はまだお泊り会の準備段階だというのに精神が既に赤疲労に突入していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
溜息を吐きつつ吉野が受付まで戻って来ると、そこにはまたワイワイと団体が到着しているようであった。
赤いキツネにカラフルな色のインコ、どうやら大本営第一艦隊のアニモーが受付で名簿に記入しているようである。
「うわっ、目ぇ痛った!?」
「るっせ、好きで着てんじゃねーんだ、ほっとけ」
七色なインコで眼帯のキャプテンが吉野の言葉に不機嫌そうに答え、プイっと横を向きながら奥へと消えていき、更に記帳を終えたのであろう異形がぞろぞろと百鬼夜行の如く列を成してこちらへ向かってくる。
一応今日はお泊り会という名の女子会のはずなのだが、どこでどう間違ったのか、何故かこれからアニモーに酸素魚雷が散りばめられたサバトが大茶室で始まろうとしていた。
其々参加者は吉野に挨拶と少しばかりの世間話を交わし、続々と奥へ消えていく。
それを乾いた笑いで見送りながら、フと受付を見ると新たに二人の艦娘が受付で記帳をしている最中であったが、それを見た吉野は思わす『え~』と間抜けな声を挙げていた。
「黒豹です」
吹雪が黒いアニモーな着ぐるみの姿でそう述べる、それは貴女では無く妹さんなのではなかろうか、そう突っ込みを入れようとした吉野の視界に、同じ形で色違いの着ぐるみを来た電が吹雪の横に並んでいるのが見えた。
「
「いやそりゃ豹の着ぐるみ着たらそうなんだろうけど、ちょっとそれ安易過ぎないかなぁ!? てか吹雪さん最近11番目の妹さんディスリまくってるけど何かあったの!?」
「いえ、一応自分なりにアイデンティティを駆使した格好でと思ったんですが、そうなるとパンツ一丁で執務棟からここまで来ないといけなくなってしまいますので、仕方なく」
「あぁパンツ…… いや、うん、その、ええ…… はい」
確かにパンツキャラ付けされてしまった彼女に選択肢は無いのだろう、そしてパンツ型の着ぐるみというのは酸素魚雷なチョコバットより難易度的に無理があるのは確かだった。
だからと言って人のフンドシで相撲を取るというのはどうなのだろう、いやパンツ的にフンドシはOKなのか、あれそれってどいう事なのかと吉野は混乱していた。
「……見たいですか?」
「……ノーテンキュー」
真剣な眼差しでこちらを見る吹雪に吉野はとても真面目な顔でそう答える。
その言葉に黙って頷くと、黒豹と女豹はシッポをフリフリさせつつ奥へと消えていった。
二人を見送る吉野の後ろからは、新たな来客を告げる某フ○ミマな音楽が軽やかに流れ、ドアから二人の人物が現れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「これに記入すればいいのだな?」
大本営第一艦隊旗艦、大和型二番艦武蔵は受付テーブルにある帳面に達筆な文字で己の名前を書いていた。
ピンクのウサちゃんの着ぐるみを着て。
「ええ、はい、ソウデスネ……」
そう答える吉野の視線は、武蔵の横に並ぶ女性に釘付けになっていた。
切れ長の目、武蔵と同じ武人然とした雰囲気ながらも、どこか女性的な部分が滲み出る女性、まさしくそれは……
「亀?」
緑で甲羅を背負った着ぐるみの誰かであった、何故亀なのか、どうして亀が自分を凝視しているのか、亀とウサギ……そうか、そうなのかと謎ながらも吉野は納得していた。
「いや、時雨が随分と世話になっていると便りに書いていてな、いつかは話してみたいと思っていた、私は単冠湾伯地で艦隊総旗艦をしている長門という」
武蔵の横の緑の亀は、元大本営第一艦隊旗艦であった長門型ネームシップ、戦艦長門だった。
成る程、時雨の師匠で元第一艦隊旗艦の長門か、成る程と吉野は納得したが、何故亀なのかは全然納得していなかった。
「む? コレか? いや今日は明石の処で扱っている寝巻きを着ての集いと聞いてな、武蔵に頼んで酒保に付き合って貰ったのだが」
「ああ……成る程、しかし何故亀を……」
「うん? 何でもナウなヤングとやらはタヌキを、エスプリの効いたユーモアを見せたいなら亀だろうと薦められてな」
「明石にです?」
「ああ」
ナウなヤンガーがどうしてカチカチ山で、オヤジギャグが何故ウサギと亀でエスプリなのかは判らないが、吉野はそっと懐から携帯を取り出した。
「もしもし明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? ケン・タカクラよりケンタッキーの方が好き? いや自分不器用ですからとか言わないからね? 自分第二特務の吉野だけど、うんそうその吉野、てか明石居る? え? 留守? どこ行ったの? え? 何故山に登るのか? そこでカップ麺が700円で売れるから? ナニそれ富士山なの? 山頂の山小屋ディスってんの? え? ナニ? うっそまじでぇ…… あそう…… そうなんだ…… うんそう…… そうなんだぁ……」
「そう言えばさっき何やらゴツイ登山装備でゴソゴソしていたな」
「マジでカップ麺行商に行ったのかアイツは……」
渋い顔で吉野は頭をボリボリ掻きながらも、長門に自己紹介をして色々と世間話や時雨の近況について話を交わす。
正しく軍人としての芯を持ちつつも、女性的な柔らかさを持つ長門は武蔵とは違った武人としての完成系を思わせ、吉野は自然と背筋を伸ばす姿勢になっていた。
そして亀の着ぐるみを見て伸びた背筋が猫背になっていった。
暫く三人は取り留めない話をしていたのだが、徐々に武蔵と長門は二人揃ってそわそわとした仕草をする様になる、何かあったのだろうか。
その原因を聞いていいものかどうか判断は付かなかったが吉野は一応今回の催しのホストである、聞けば今回だけでは無く機会があればまた同じ事をするかも知れないと聞いているので、問題があるならそれを解決して次回の参考にするのも吉野の役目であった。
「えっと、どうしました? お二人共何かこう、そわそわしてらっしゃいますが……」
「いや、何と言うかこのウサギの寝巻きなのだが…… どうもまぁ、な……判るだろ? え? 判れよ貴様」
「ア、ハイ、ソウデシタネ、デハ奥ニドウド……」
顔を真っ赤にした仏頂面のウサちゃんは堂々とした猫背でコソコソと奥に向かったが、緑の亀は何故かソワソワしたままそこから動こうとはしなかった。
着ぐるみを来たお陰で長身である彼女の今の背は2mを超えるガ○ラの様になっているが、それがクネクネと身をよじらせ何かを言おうとしているのである。
正直キモかった。
「あの……何か?」
「いや……、奥にその、時雨が居るのだな?」
「ああ、ですねぇ」
恐らく久し振りに会うからであろうか、武人然としたこの艦娘、ビッグ7と言われた大戦艦であっても、妹の様に可愛がっていた時雨と久々に会うのに戸惑っているのだなと思うと、吉野は自然とホロリとした気分になっていた。
「それでだな、吹雪殿も電殿もおられるのだったな?」
「え、えぇ居ますね」
何故か長門のクネクネ度が増した気がした、そして同時に吉野のホロリ度が急低下していた。
「後はその……、ぬいぬいも居ると聞いているが」
「……居ますね」
吉野は思った、ここにナガモンが居ます、駆逐艦逃げてー、チョー逃げてー! と。
そしてクネクネした緑のガメラはスキップしつつ微妙な空気だけを残して奥へ消えて行った。
盛大な吉野の溜息と同時にまたファミ○の音楽が流れ、またかと振り向いた先にはジェンガっぽい何かを頭に乗せた某不幸戦艦姉妹がドアから入ってきた。
その格好はいつもの格好で着ぐるみは着ていなかったが、何故か手には飛行甲板が装備されている。
「あ、いらっしゃい、すいませんが参加者の方はお手数ですがそこの名簿にお名前を記入して頂けます?」
吉野はそう言うと二人を受付へ誘導しつつ、いつの間にか夕張の姿が無い事に違和感を感じていた。
「あれ、確かパジャマ着てないとセキュリティが反応するんじゃ無かったっけ?」
その言葉を聞いたジェンガ姉妹は、揃って飛行甲板をスッと持ち上げ優しく微笑んだ。
「ええ、これがパジャマですけど?」
「え…… それ飛行甲板…… え? パジャマ?」
「ついでに枕も持って来たわ」
そう言いつつ二人は右手に持った瑞雲を吉野に見せ付ける。
「んんんん? それ瑞雲ですよね、てかプルプルプロペラ回ってますけどそれ頭の下に置いて寝るんです?」
訝しみながらそう聞く吉野の耳に、新たな来訪者を告げる○ァミマのテーマが聞こえてきた。
「そうだ、艦載機を放って突撃。これだ…」
その言葉を聞き終わるか否かの瞬間、吉野は受付テーブルの上の早押しボタンをア○ック25の回答者ばりのオーバーアクションで叩き押した。
パカンという音と共に開く床板、勝利を確信した吉野は次の瞬間驚愕の表情を浮かべていた。
「う……浮いてるだとぅ……」
そこには穴の上でふよふよと浮いている伊勢型二番艦がドヤ顔をしている姿が目に飛び込んできた。
「まさかの航空戦艦の時代か?」
「いや航空戦艦って空飛ぶ戦艦の事じゃないからね!? むしろ何で飛んでるの!?」
「瑞雲とかって、どうかな? いける?」
「何だと!? 四方を囲まれただと!? って言うか四人でそのプロペラプルプルを何するつもりだヤメロヤメテいっやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こうして第二特務課主催のお泊り会はホストの悲鳴によって幕を開ける事になり、好評を博したこの集いはある意味大本営の艦娘の間では名物的な催しとなるのはまた別の話である。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。