大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 努力目標では日曜投稿でしたが、拙作では艦これで邂逅してない艦娘さんネタは出さない縛りなので、掘りが終わる今日までネタが出せませんでした(言い訳)

 決してサボってる訳じゃなく、色々諸々がアレなのでそうなんです(言い訳)

 はい(震)


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2020/08/05
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました水上 風月様、柱島低督様有難う御座います、大変助かりました。


表面だけなぞるとそうなる。そしてムチムチ。

「と……取り敢えず最大の山場はクリアしたよ、お疲れさん矢矧君」

 

 

 米国-欧州-東アジアを結ぶ海路を取り仕切る組織、日欧資源環送航路連絡会は、英国ロンドンにあるウェストミンスター宮殿で正式に発足され、広く世界へ情報が発信された。

 

 擁する制海権は海の総面積から見れば微々たるものであったが、世界の大陸を海路で繋ぐという目的が達成され、嘗て程とはならないものの経済や産業面に於いて人類は再び息を吹き返す事が可能となった。

 

 連絡会には盟主というものは存在せず、本部はポーツマス海軍基地に隣接する形でポートシー島に設置される事となる。

 

 これと同時に欧州連合の本部もポーツマスに移転する事となり、世界の海事の中心は英国に集約する事となる。

 

 

 現在吉野達は当該連絡会の発足式典を終え、場をウェストミンスター寺院内にあるチャプター・ハウスへ移し、立食パーティと言う名の外交を粛々と行っていた。

 

 これまで調整や段取りでメタメタになっている矢矧を裏方へ戻し、代わりに妙高とグラーフという『表の顔』を前面に押し出しつつほぼ半日休みなしの折衝を繰り返す。

 

 形的には連絡会結成記念パーティとなっているが、開催期間はそういう目的(外交)を加味されているからか三日も取られており、会場も立食式のパーティルームとそれに付随した大小十程の個室が用意されていた。

 

 

「事前に予定してた会談はさっきので全部消化したわ…… 後はここで検討できない内容を含む案件が四つと、飛び込みで入った会談二つかしら」

 

「うん、持ち帰りの案件は後日メルボルンで片付けるとして、飛び込みの分はこっちで処理しとくから。矢矧君は母艦に戻ってゆっくりしてきなよ」

 

 

 目の下に色濃くべったりと隈を張り付けた矢矧は、髭眼帯の言葉を聞いてか細く弱々しい笑いを漏らしながら首をゆっくり左右に振りつつ、両手を髭眼帯の肩に置いた。

 

 それは何というか死に体であるが故の迫力と言うか、蝋燭が消える間際の輝きと言うか、そういう系の諸々凄みを含む迫力を伴っていた。

 

 

「もしここを任せた後に提督がまた何かやらかしたりした場合、即リカバリしないと今度こそ死んでしまいそうな気がするから。横で休みつつ監視だけはさせて貰うわ。いいわよね?」

 

「え、提督が何かやらかすって、いやいやもう後はちょっとした打ち合わせ程度だし。寧ろ消化試合しか残ってないと言うか」

 

「ほんの半日目を離した隙に欧州研(欧州連合技術研所)と密約を結んで艦娘母艦の建造を請け負ったり、その件に北の子(北方棲姫)を同行させるの勝手に決めたり、オマケにどの国もまだ未確認状態にある姫級を北の子(北方棲姫)から受領する約束交わしたり。ねぇ提督、一体何をどうやったらここまで国際的案件の数々を片手間的に引き受けたりなんかしちゃったりするのよぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 

 

 縋りつくように身を寄せつつも、髭眼帯の両肩をホールドしつつブンブンする矢矧の目はハイライトがOFFになり鬼気迫る色を滲ませていた。

 

 そしてブンブンされる髭眼帯の顔は矢矧の視線に耐えられずプイッと横に向けられていたが、あまりにもブンブンの勢いが強い為にハハハという胡麻化しの笑いがドップラー効果を伴うという化学現象を発生させていた。

 

 

「うむ、久しぶりに飲んだがやはりビールはケストリッツァーだな」

 

「私はこのラーデベルガーが飲み易くて好みですね。黒ビールは何というか独特の風味がその……」

 

「はっはっはっ、日本のビールも中々美味くはあるが、やはり濃さと言うかパンチの面では少し物足りないと私は思うんだよね」

 

 

 そんなブンブン劇場の横では、手土産にドイツビールをしこたま持ち込んだ海パンのヘンタイもとい、欧州連合技術研究所霊工学研究室主宰である ヘルムート・ビルングと妙高、そしてグラーフがビール談義に華を咲かせていた。

 

 因みにヘルムートは燕尾服の下に白いヒラヒラがあしらわれたシャツに紐タイ、そして下半身は例の小学生男子が履く系の紺の海パン、そして黒の靴下に革靴という、ヘンタイフォーマルないで立ちではあるが、周りの者達が特に反応してないという事はもうこの姿は周知の物であったか、敢えてスルーされているのか。

 

 公認非公認、どちらにしてもこのヘンタイはパーティにすんなり溶け込んだヘンタイであった。

 

 

「すいません、もしかして西蘭泊地の吉野司令長官殿ですか」

 

 

 そんなある意味近寄りがたいカオスな場に、突貫を掛けてくる勇者が三人程。

 

 歳の頃は二十代後半に差し掛かった見た目の、身に纏う礼服は米国と英国の軍服に見える。

 

 声を掛けられた髭眼帯はプルプルしつつも何とかブンブンマシーン引き剥がし、暫しお待ちをと言いつつ(三白眼+口を△状態)矢矧を壁際のソファーにセットして応対に戻ってきた。

 

 このパーティの主目的は外交の為に用意された場である事は確かだが、それと同時に海域の守護に欠かせない軍関係者達の顔繫ぎの場にもなっている為、こうした交流も粛々と行われている。

 

 吉野自身公の場に出る事は滅多とないし、本人にしても煩わしい人間関係を持つ気は無かったが、ネームバリュー()()ならこの会場ではトップクラスという事もあり、既に知らない軍関係者に声を掛けられるのはこれで数十回目であったりする。

 

 

「お待たせしました、日本海軍所属西蘭泊地司令長官の吉野三郎です。ええとそちらは……」

 

「はじめまして、私は王立海軍セカンド・シー (第二海軍)デヴォンポート海軍基地所属、アルバート・フェザーストン大佐です。そして私の艦隊副官に当たるニール・ウインズワース少佐」

 

「よろしくお願いします」

 

「そして僕はアメリカ海軍ノーフォーク海軍基地所属、ブライアン・ウェイン中佐です」

 

 

 デヴォンポートにノーフォーク。これらの海軍基地は艦娘が戦力配置される以前から英国と米国の海軍基地として稼働してきた拠点である。

 

 寧ろ深海棲艦が出現する以前に遡れば、どちらも世界三大海軍基地と呼ばれる有名処でもあった。

 

 其々は吉野と握手を交わしつつ自己紹介を終え、立ち話もなんだからと会場の隅に設置されたスペースに移動し、デーブルを囲んでの談笑に移った。

 

 因みにその脇には死に体で会話に耳を向ける矢矧と、少し離れた位置で妙高、グラーフ、海パンが様子見というアレな空間も完成していた。

 

 

「Mr吉野もご存じの事と思いますが、日本がレンドリースに応じてくれたお蔭で、僅か二年という期間で各国の拠点に実働可能な艦隊が多数揃いました。それに伴い我々若手も艦隊指揮を執る機会に恵まれた訳ですが……」

 

「ふむ、それじゃ貴方達三人は艦隊司令官と副官さんなんですね」

 

「はい、其々は艦娘母艦のクルーであったり、基地司令部付きの佐官だったんですが、艦娘と接する機会が多かったものですから、艦隊整備に伴って指揮を執る事になりまして」

 

「成程」

 

「それで我々のように新規に艦隊指揮を執る者達は、今回連絡会の発足に伴って横の繋がりを強化するという目的の元、Mr吉野に色々と……その、教えを請おうという事になりまして」

 

「ん? 教えを請う? 何をです?」

 

 

 やや前のめりで話を口にする若手佐官達と、怪訝な相でそれを聞く髭眼帯。

 

 吉野は話という事でなら知っている事であったが、レンドリースによる急速な艦隊整備に伴い、運用、特に戦闘面でのデータは嘗て大坂鎮守府で纏められた物が取り敢えず各国に配布され、各々でリファインしつつ使用されているというのが現状である。

 

 当時の海外艦のデータがほぼ揃っており、姫鬼との模擬線データも豊富。更には実践を想定した教導実績も含むというのは艦娘を運用する上で間違いなく世界最高水準の実績と言える物であった。

 

 更には大本営が吉野の経歴を正式に開示した件でも色々と物議を醸している。

 

 

 深海棲艦が出現した直後を除き、現在の『安定期』と呼ばれる現状で、深海棲艦の、それも上位個体相手に生身の人間がキルスコアを稼いだ例は公的には三件しか存在しない。

 

 現呉鎮守府司令長官寺田(てらだ)是清(これきよ)が緊急支援出撃の際、たまたま遭遇した敵軽巡棲姫相手に大破状態の艦娘を補助してとどめを差した件。

 

 懲罰部隊と呼ばれた海軍特殊工作隊が通常兵器でリ級elite相手に戦いを挑み、轟沈させた件。これは隊の九割にあたる六十八名が犠牲となり、生き残ったのは僅か五名、更に軍へ復帰したのは二名と言う割と知られた話であった。因みに復帰した二名の内一人は現舞鶴司令長官の輪島(わじま)博隆(ひろたか)であり、もう一人は内地の片田舎で軍事倉庫の管理人に就いているという。

 

 そして現在欧州までの制海権を奪取する切っ掛けとなった『第二次捷号作戦』。この作戦海域であるアンダマン海域に於いて吉野がタ級elite二体を仕留め、また非公式であったがそれより前には空母棲鬼その他相手に通常兵器を以て手傷を負わせていたという話。

 

 

 実情は別として、やや誇張されてしまった髭眼帯の()()()は、西蘭泊地という半独立拠点を持ち深海棲艦を麾下に置くと言う実情を伴って、一部若手の指揮官たちへ誤解を多分に含んだ憧れという形で広がっていた。

 

 

「我々は艦娘という存在に長らく接していましたが、指揮官と艦隊員という近い関係ではありませんでした」

 

「あー、うん、数が揃ってなかったから指揮なんかは将官か上位組織が執る状態だったんだっけ?」

 

「そうです。しかしこれからは常設となった艦隊に対し、我々が我々のやり方で個々に運用する事が求められる事になった訳です」

 

「成程、まぁ組織的にそれが正常と言うか、効率的な運用だろうからねぇ」

 

「それに対し我々には艦隊運用の実績と言うか、艦娘に対してどう接するかと言う基本的な部分が欠如した状態にありました」

 

「我々も、英国の司令官に就く者達もその辺りに苦慮した結果、実績を残している司令長官クラスの艦娘運用を模倣してはどうかという結論に至りまして」

 

「うんうん、その辺りが無難だよねぇ」

 

「そういう訳で、短期間の内に佐官から将官にまで上り詰め、かつ深海棲艦も麾下に置いてしまったMr吉野のやり方を模倣しようという事になりました」

 

「うんうん成程。 ……はい?」

 

「ご存じかと思いますが、現在数多の国で使用されている艦娘の教練マニュアルは、嘗て大坂鎮守府が纏めた戦術理論とデータを基にして作られています。それらの運用実績を鑑みても艦娘個々人に対してどう接し、どう向かい合うかという答えは……必然的にMr吉野の模倣という物に至るのが当然の帰結ではないかなと」

 

 

 目を輝かせ、熱く語る若手司令官に囲まれた髭眼帯は自分が引き合いに出されている事を自覚した瞬間、思わず妙高やグラーフに視線を投げてどういう事かという答えを求めた。

 

 が、髭眼帯が知らない事を麾下の者が知ってる訳もなく、微妙な表情という答えが返ってくるというカオス。そして場はアツく語る若手衆と困惑する髭眼帯という微妙な場になりつつあった。

 

 

「えーっと、艦娘の運用とか、その辺り自分のやり方を模倣するって ……どう模倣するのかな」

 

「これまで我々は日本と違い、艦娘は単なる戦力 ……恥ずかしながら兵器かそれに準じる存在と言う考え方が主流でした」

 

「まぁありがちな考え方であるのは否定できないし、それが間違いとはi……」

 

「しかし、Mr吉野はそうではなく、艦娘は人と同じ存在であり、また彼女達を身内の様に扱ってきましたね」

 

「身内? うんまぁ、そうかも知んないけど」

 

「つまり彼女達もまた我々が守るべき大切な存在であり、家族であると。そこから紐解いていくと接し方や運用法が見えてきた。と言う訳です」

 

 

 英国所属の新任司令官が率先して熱く語り、並ぶ二人の若き海軍士官も目を輝かせて頷く。

 

 そんな三人を見る髭眼帯は「あー」とか「そうなんだぁ」と返すだけで言葉が少なくなっていく。

 

 

 かくしてパーティ会場の片隅で行われた、微妙に温度差が際立つ談笑は、特にこれといった波乱を発生させる事もなく終わりを迎えるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……ねぇ、もしかして提督はああいうカンジで色々誤解をされちゃってるんでしょうか」

 

 

 若手指揮官がキラキラを纏いつつ場を後にしたテーブル席。凄く微妙な表情をした髭眼帯の頭にはほろ酔い状態のグラーフのチチがセットされ、隣には苦笑を滲ませた妙高と真顔の矢矧。

 

 そして向かいには、爽やかな笑顔のまま上品にデザートを頬張るフォーマル海パンが座っていた。

 

 

「何か気に入らない部分があったんならその場で否定すれば良かったのではないか?」

 

「グラーフさん、相手は所属の違う国の指揮官ですから。一概にどんな艦隊運用が正解かという答えは出せないかと」

 

「妙高君の言う通り、自分は他国の艦娘運用に対して何か物言う資格も無ければ、関わるつもりもないんだよね」

 

「ってより問題は()()()()()()()が提督のやり方っていうイメージが蔓延するのがちょっと ……ねぇ?」

 

「それだ、矢矧の懸念する問題を放置してもいいものか、それがadmiralの今後に影響しないか心配なんだがな」

 

 

 其々の感じる部分は共通しているのか、ある意味ベタ褒めであった髭眼帯に対する評価に微妙な返しをする面々。

 

 

「いや、それでも我々がしてきたやり方とは違う方法で吉野さんは成功を収めたんでしょう? 実際彼らが言う運用法に私は間違いがあるとは思えなかったんですが、何か懸念でもあるんですか?」

 

 

 それを見る海パンも恐らく事の本質は判っているのだろうが、敢えて判らない体を装いつつわざとらしく吉野へ疑問を投げる。それに対してジト目で応じつつもその辺りは譲れないのか、吉野はソファーに深く身を沈め、若手司令官質の顔を思い出しつつ本音を口にしだした。

 

 

「艦娘が兵器かどうかとか、人とどう違うとか、その辺りの答えは研究してる専門家に任せときゃいいんですよ。で、我々は軍人です。艦娘さん達も軍人です。その枠さえ押さえとけばあとは個人の自由ですよ…… ただ、彼らの思想は、うん、ここでは言及しないとして……」

 

「うん、じゃ吉野さんの考えは?」

 

「あー…… 自分は部下(艦娘)に戦えと命令する立場です。そして必要なら死ぬ事が確実な作戦に彼女達を投入しなくてはいけない立場です。上司と部下、それ以外の何かを軍務に持ち込む事は自分の、そして彼女らの有体を否定する事だと思ってます」

 

「まぁプライベート面ではその限りではありませんけどね」

 

 

 妙高のツッコミに苦笑しつつも、その辺りのONOFFは必要でしょと口にした髭眼帯は、尚もニコニコする海パンに向かってこう言うのであった。

 

 

「戦場には尊厳があり…… もしかして愛も転がってるかもしれませんが、結局我々がしてるのは殺し合いですから。目的があっての運用と、運用ありきの目的なんて論じるに値しないと言うか、自分がそう思われているって処がちょっと…… ねぇ?」

 

 

 この認識の違いという懸念は後々吉野自身に面倒事として関わってくるのだが、それはまた随分先の話になるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんな訳で今未着任の艦娘が大挙してウチに着任する事になったわ。それについてあきつ丸、事前調査はすすんでるのかしら?」

 

 

 漸く明日西蘭へ帰還する事になった母艦和泉(いずみ)の艦内。

 

 パーティ会場からガメてきたのだろう色とりどりの料理が並ぶテーブルを囲み、司会進行する叢雲と質疑を受けるあきつ丸、そしてクジが当選したという理由で同行してきた神威という面々を前に、ちょっと豪華な藤製の座椅子にシッダウンさせられ怪訝な表情の髭眼帯という卓が出来上がっていた。

 

 

「まだデータが出揃ってないでありますが、中々の有望株がそれなりに混じってるでありますな」

 

 

 叢雲の問いにフンスと胸をポヨンと張るあきつ丸。そのいで立ちはいつもの黒い軍装ではなく、上下はセパレーツかつ胸部装甲を強調するような形状の、ビジュアル的に言ってしまうと某アンナミラーズ的なメイド服を、上下セパレートにしつつもスカートの丈は攻めに攻めたミニスカ仕様の黒いアレであった。

 

 そんな攻めっ気たっぷりのムチムチアンミラセパレーツメイド服のあきつ丸に質疑する叢雲も、替えの衣装が無いので引き続きピッチリとムチムチしたネココスメイド服『クロネコのタンゴ』を装着し、言葉を発する度にシッポに付随した鈴をチリンチリンする状態である。

 

 更にはパーティで余り気味であった英国面を前面に打ち出した料理を事細かに解説しつつモーシャモーシャする神威は、やはり制服を洗濯中なのだろう、ビクトリアンスタイルっぽい、しかしいつもの神威スタイル風に魔改造された、詳しく説明するとサイド部分が存在せず紐だけスタイルでヨコチチがチラリズムな黒いメイド服を着用していた。

 

 

「先ず自分と同じく陸の出でありますが、陸軍特種船(R1)揚陸艦の神州丸という者が居るであります」

 

「神州丸? なんだか以前実装されたちっさいポテトビレッジ所属の軽空母を彷彿とさせるような名前なんだけど、大丈夫なのその子?」

 

「その辺りは安心するであります。まことに悔しい思いでありますが、神州丸は自分よりもムチムチしているであります。言うなれば揚陸艦はムチムチの巣窟、神州丸に至っては見た目ムチムチ界のハーミットと呼ぶに相応しい存在であるかと」

 

 

 会話の流れ的に大体この集いが何かを察した髭眼帯は、嫌な予感メーターをピコンピコンさせつつプルプルと挙手をするのである。

 

 

「どうしたでありますか提督殿」

 

「えっとその…… うん、何というか提督がムチムチ的な話し合いとか会合に参加する必要性を特に感じないのですが、その辺りどういう方向性を持って強制参加(物理)に至ってるのかの訳を聞いても?」

 

「それはね、新たに着任してくる人員確保を今の内にしておけば、泊地に帰った後での争奪戦を回避できるでしょ?」

 

「ん……んん? 争奪戦んん?」

 

「そうよ、ムチムチは属性ではあるけれど、新規艦を多分に含む為に能力は未知数にあるわ」

 

「加えてムチムチは巨乳にカテゴライズされるパターンもあるであります、なれば今の内に先手を打ち、有望な人員を確保するのは戦略的に正しい行いであると確信するであります」

 

「そして人事権は各所の代表にあるけれど、決定権は提督にあるわ」

 

「あー…… そういう」

 

 

 ちょっと豪華な籐の座椅子にシッダウン(物理)された髭眼帯は、横で何かをモーシュモーシャする毒食品ソムリエールである神威が気になり過ぎて、いつものキレのあるツッコミに陰りが生じていた。

 

 そんな髭眼帯を慄かせている神威が食う料理。

 

 世間一般で言う処の「英国面三大料理」と称される物の一つ、ハギス。

 

 さっくり言ってしまうとスコットランドで生まれてしまった羊の内臓を羊の胃袋に詰めて茹でた羊が主役のリーサルウェポン。

 

 詳しく言うとモツと称される羊の心臓とか肺とか肝臓なんかをミンチにし、オート麦とかタマネギとかハーブとかをグチャグチャに混ぜ、これまた羊のモツである胃にグチャッと詰め込んで茹でたという、余す処なく混沌を凝縮した料理(?)である。

 

 元々独特の風味を持つ羊のモツに、グチャッと混入されたモツ&野菜だのに加え、これまた独特のスパイスワークによって魔界の扉を開いてしまったこの料理は、見た目インパクト系のスターゲイジーパイ、またグロさを際立たせたウナギのゼリー寄せとは一線を画し、味で勝負(意訳)する系の猛威を奮い、英国と言えばパンジャンドラム、若しくはハギスとまで称えられる英国面である。

 

 

「このなんの為に混入されているか判らない、気分を害する口当たりの麦粥と、内臓臭さをスルーしてミンチにする技法。更にはわざわざ味を不味くする為に入れてあるとしか考えられないハーブの調合。極めつけは羊の臭みを助長する様にただ煮るだけという料理法は正にヘルフードと称してもおかしくはないと思います。はい」

 

「いやキミ良くそんなフード食べつつ冷静に感想を述べられるモンだね……」

 

「毒食品の深淵をのぞく時、毒食品の深淵もまたこちらをのぞいているのです。はい」

 

「毒食品の深淵ってナニ!? いや確かにハギスって食品系で言えば深淵なんだろうけど!?」

 

「それで最近邂逅したばかりの迅鯨型一番艦、艦種は潜水母艦で名を迅鯨という艦娘が居るのでありますが、これは大鯨殿に負けず劣らず平均的なムチムチを大きく逸脱した大型新人らしく、潜在的ムチムチ能力はトップクラスなのではと」

 

「平均的なムチムチってナニ!? ムチムチって平均から逸脱してるからムチムチなんでしょ!? て言うかまだ沼って掘りに勤しんでる提督諸氏が今も居るんだから、そういうデリケートな話題に触れないで!!」

 

「このデフォでエプロン+ミニスカという装備、無意識下でムチムチという武器を遺憾なく発揮する才能は…… 確かに驚愕に値するわね」

 

「神州丸も一部提督諸氏からは隠者ならぬ淫者だの、外套の下は裸コートの露出狂の如くスッパダカパラダイスが存在すると言われておりますが、迅鯨という艦娘はそういうのとは違うドストレート勝負の者と言えるかも知れませんな」

 

「鯨の銘は伊達ではないという事ね」

 

「言い方ぁッ!? 君達もう少し表現をマイルドにしてッ!? でないと色々な人に怒られるからっ!? 提督のお願い!!」

 

「提督、今物凄い発見をしてしまいました……」

 

「え、ナニ神威君今ちょっと提督の嫌な予感メーターに尋常ならざる反応があったんだけど……」

 

「この、ハギスにウナギのゼリー寄せを乗せて食べると、ハギスの混沌に負けてウナギのゼリー寄せの生臭さが消失するという驚きの結果が」

 

「ハギスにウナギのゼリー寄せをONするって発想の方が提督驚きなんだけど!? 寧ろハギスがヤバ過ぎてそれ以外が負けてるだけじゃないのそれ!? ねえっ!?」

 

 

 こうして一仕事を終え、漸く帰還のメドが立った髭眼帯であったが、まだ色々諸々な問題が山積し、泊地に帰還するまでに寄港する大坂やトラックで騒動に巻き込まれる訳だがそれはまた後日の話であった。

 

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
・誤字報告機能を使用して頂ければ本人は凄く喜びます。
・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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