大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 週一投稿はやはり無理と言うかリアルが色々ムリ。

 そんな言い訳をかましつつゆっくりと投稿させてくだちい。

 今回は少なめ、ネタは色々あるんですけどね……_(´ཀ`」 ∠)_


 それでは何かご意見ご質問があればお気軽にどうぞ。


2020/09/01
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました水上 風月様、酔誤郎様、柱島低督様、Lunor様、指蛇様、有難う御座います、大変助かりました。


西蘭泊地へ帰還中

 燦々と日差しが降り注ぐ大阪湾。

 

 海上の要衝である大坂鎮守府では欧州から西蘭島まで帰還するついでに、色々な諸事を消化する為立ち寄った髭眼帯一行の姿があった。

 

 消化しなければならない諸事とは、東部オセアニア資源還送航路が世界的に認知され、その差配を吉野が執るという事に端を発した内地の経済界に対しての調整と会合。

 

 次に軍令部より何かしらの指示が出されるという連絡があったが、機密性の高い案件らしく、それらは大本営より直接担当の者が大坂鎮守府へ来るという手順で伝えられるとの事であったのでその担当者との打ち合わせ。

 

 そして欧州より連れ帰った早霜を舞鶴鎮守府へ引き渡すついでに、輪島と新たにトラック泊地司令長官に着任した羽田(はた)安二郎(安二郎)、そしてクェゼリン基地司令長官飯野(いいの)健二(けんじ)を交えての()()()()()が予定されている。

 

 

「いやぁ、しかしこうなりましたかぁ」

 

 

 初夏の日差しに目を細めつつ吉野が見渡す大坂鎮守府は、僅か一年足らずで大きな変貌を遂げていた。

 

 元々教導用に整えられていた東島は倉庫群が拡張され、南部にも大型船が入港可能な港が新たに浚渫されていた。

 

 中央に位置した艦娘の出撃ドックは秘匿性の高い物資が集積され、軍関係の船しか入港できない施設に。今は西蘭島へ移転した為物流倉庫と化した明石酒保の地下施設群も地上の物資を各地へ振り分ける為に幾らか徴発されているという。

 

 

「元々ここ(大坂鎮守府)は高速道路に私鉄、JR接続されておりましたし、少し北に行けば堺の工業地帯と南港が存在します。前島関係は吉野(うじ)が招致した企業が現在ウチから出荷される物資を二次加工する為生産施設を増設中、と、内地でも有数の工業地帯になりつつありますよ」

 

「とどめにメタンハイドレートも一旦ここへ運び込まれますもんねぇ、そりゃこうなっちゃうワケだぁ」

 

 

 一見すると軍事拠点というよりは海に浮かぶ工業団地染みた風景を背に、ニヤリと笑うムキムキのゲーハー。もとい現・大坂鎮守府司令長官である九頭(くず)路里(みちさと)は吉野とお供にチョコチョコついている時雨を連れて、現状の大坂鎮守府を案内している。

 

 

 物資の流れ的に豪州から産出された資源や食料は海路を用いて大坂鎮守府へ集積され、加工が必要な物資は前島の工業団地や北部に位置する堺工業地帯へ振り分けられ、それ以外の物は鉄道や車両を用いて全国へと出荷されている。

 

 また弾薬への加工が可能な施設も存在する為、それらもある程度生産した後は内地に点在する小規模拠点へ納品する体制も出来上がっており、現在大坂鎮守府は名実ともに日本に流通する、重要物資を握る一大拠点として稼働中であった。

 

 元々内政を得意としていた九頭は佐世保から大坂へ転任する際、人選を精査した上で少数の艦娘だけ率いて転任してきた。

 

 幾らレンドリースで戦力的な嵩上げになっていたとしても、艦娘の総数は頭打ちであるという事実の前では数という面での問題は解消されていない。

 

 そんな中吉野達が鎮守府の人員丸ごと新たに設けられた西蘭へ異動したという事は、即ち鎮守府一つ分、約二百程の戦力が内地から喪失したという事になる。この状態で空白地帯となった大坂へ無理に戦力を求めても時間・質共に期待する物は恐らく得られないだろう。

 

 そう判断した九頭は敢えて戦力の追加を要請せず、その代わり大坂鎮守府を物流の中心に特化させた上で艦隊枠を舞鶴に融通する事で防衛面を賄う事にした。

 

 当然その辺りも大本営への取引材料として利用し余計な横槍が入らないよう整え、更には吉野とは違ったアプローチで経済界との結び付きを強固な物とする事で政治面でも短時間で地盤を固める事に成功した。

 

 

「でと、吉野氏? メタンハイドレートに続いて何やらまたエネルギー資源を開拓されたとか?」

 

「あー、うん、まだ試掘段階なんですけど天然ガスとかどうかなぁって感じですねぇ」

 

「それは素晴らしい、メタンハイドレートは公共資源としては有効活用できますが、民生として利用するには設備と安全面が確保できませんからなぁ」

 

 

 新たなエネルギー資源として見出されたメタンハイドレードは既存の火力発電設備を改修すれば転用可能な上、日本近海でも大量に埋蔵されている為有用な資源と言える。

 

 しかし運用に至るまでの採掘・貯蔵施設は専用の物を揃えねばならず、また利用する為の設備回りはかなり大型の施設を要する。そして化石燃料より不安定な為一般家庭毎に貯蔵・管理するのはほぼ不可能な危険物質でもある。

 

 対して天然ガスならば既存のガス設備も使用でき、僻地に点在する家屋でも貯蔵が容易な為民生という部分では有用なエネルギー資源と言える。

 

 

 現在吉野が手を伸ばせる資源採掘可能な範囲は東部オセアニア資源還送航路範囲に収まる海域に加え、海湊(泊地棲姫)のテリトリー内の一部に存在する。

 

 その中には太平洋だけではなく、南極大陸も存在する。そこは全世界に埋蔵する天然ガスの約四分の一が眠っており、極寒という環境をどうにか出来たなら相当量の天然ガスのみならず他の資源も大量に産出する事が可能となるだろう。

 

 

「ガス田の設置は可能という試算は拠点を移転する前から確認できてたんですけどねぇ、肝心の人員が伴わないってネックがあったんですよ」

 

「ふむ、それが今回あちこちから()()()()()()()艦娘達の着任で賄える事になったと」

 

「気候が南極と変わらない南島(西蘭島南部)で一冬越しても資源プラントが問題なく運用できましたから、機器的な問題はクリアできました。そして深海勢もまだ合流傾向にあったので人員を南極方面に振り分けてもいいかなと」

 

「確かに。北方棲姫殿のテリトリーは北極ですしな。そこからやってくる者達なら南極でも問題なく活動できるでしょうな」

 

「海洋油田、メタンハイドレート、鉱物資源は南島で。南極では天然ガス。これで西蘭だけじゃなく大坂を始めとするウチの派閥の拠点は資金資源共に全てを賄える計算になりますね」

 

「そして余剰分は国……と言うか、経済界を巻き込んで政治的楔を打つのに活用する訳ですな」

 

「そこまで大した考えはないんですけどねぇ、鷹派が斜陽になっちゃった煽りで軍内のパワーバランスが大きく変化……と言うか、ぶっちゃけ我々の派閥が鷹派に成り代わりつつありますからね。そう考えると自衛の一環という事でやれるだけの事はやっておいた方がいいじゃないですか」

 

 

 物資を満載した車両を連結し、連絡橋を走る鉄道を視界に捉えつつ吉野は軍帽が海風で飛ばされないよう指で押さえつつ、暫く鎮守府島の全景を観察するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……ねぇ時雨君」

 

「ん? どうしたの提督? 僕に興味があるの? いいよ、何でも聞いてよ」

 

「いやその辺りの定型文と言うかお約束な返事は取り敢えず横に置いといて、この惨状は何故にという事を提督に説明して欲しいんだけど?」

 

 

 一通りハゲもとい九頭の案内で鎮守府内を見て回った後。欧州で北方棲姫から聞いていた今回西蘭島へと移住予定の深海組と邂逅した髭眼帯。

 

 それらは艦娘とは違った独自の世界観と社会性を有しており、行動を共にする為には其々の考えや希望を最初にすり合わせておく事が必要になる。

 

 

 それらは本来西蘭に居る深海勢が担当する物であったが、今回は大坂鎮守府での合流となった為急遽榛名が初期調練という名の意識のすり合わせをする事になったという。

 

 

 その役目を絶賛実施中の榛名は髭眼帯の前で握りこぶしをアッパー気味にシバシバとスイングしており、脇には頭にバケツをONし、正座状態の深海フレンズ達がプルプル震え、更には何故か榛名の足元には寝転んだと言うか倒れ伏したと言うか、ぶっちゃけビジュアル的には『ヤムチャしやがって』という状態の深海フレンズが居ると言う岸壁。

 

 そんな風景を前にワケワカメな髭眼帯は怪訝な相でプルプルしつつ、随伴する小さな秘書官にこの惨状の説明を求めていた。

 

 

「あー……その辺りはアレよテイトク、深海のオキテと言うか通過儀礼と言うか、そういうのを今回ハルナが代行したって言うか」

 

「……掟ぇ? ねぇ(空母棲鬼)君、その掟ってなぁに?」

 

「テイトクは私達深海勢の指揮系統はどうやって形作られてるか知ってるわよね?」

 

「指揮系統って…… ん…… あー…… 力関係で上下が決定しちゃうっていうアレ?」

 

「そう。単純明快、強い者が上位者。弱い者は絶対服従。その代わり上位者は体を張って下の者を庇護する訳」

 

 

 (空母棲鬼)が言うように基本的に軍と言う組織形態は持たず、本能に従って群れとする深海棲艦。そこには絶対的な上下関係と不文律が存在する。

 

 単純明快強い者が群れを率い、強い者が敵対者を屠る。そして庇護下に居る者達は上位者に絶対の服従と命を差し出す。それが海底(みなぞこ)に生きる者達の掟。

 

 

「本来なら私が担当するべき事だったんだけど、なんかそこにヤムチャしてるのがハルナと言うか艦娘に対して不満をぶちまけたと言うか煽ってきたというか色々と…… ね? そういう態度を見せたから、教育を任せた訳なんだけど」

 

「これで一日です」

 

 

 シパシパを停止した榛名はコブシをズズイと髭眼帯に見せつつ、眩しい程の笑顔でニパーと微笑む。

 

 一体何が一日なのだろう。それよりもヤムチャしちゃってる深海のフレンズを背にものっそイイ笑顔の榛名という絵面に、髭眼帯はどう返せばイイのかと眉毛をピクピクしつつ思案する。

 

 

「えっとその…… ナニがどう一日なの榛名君?」

 

「深海の初期教練は力を見せつけ、上下関係を最初に構築する物だと(空母棲鬼)さんに聞きました」

 

 

 髭眼帯は無言で視線を送ると、微妙な表情ながらもコクリと空は頷いた。

 

 

「続いてどの程度のダメージを与えるのが教育上良いのか(空母棲鬼)さんにご享受して貰いました」

 

「ほ……ほぅ?」

 

「取り敢えず一日程再起不能にするだけのダメージを与えておけば、相手はこちらを上位者、若しくは強者と認めるそうです」

 

「そっかぁ~ 一日ってそういう意味(再起不能時間)での一日かぁ~」

 

「因みに一度恭順させた後再び何か問題を起こした場合はこっちで教育するそうです」

 

「ん…… んん…… んんんんん?」

 

 

 シパシパとアッパーを繰り出していた榛名の手が手刀、所謂チョップという形にトランスフォームする。そこから発生するヒュンヒュンとした風切り音と共に髭眼帯の表情が更に怪訝な物へとシフトしていく。

 

 髭眼帯は思った。アッパーにチョップ。どちらも恐らく肉体言語的なサムシングなのは想像できるのだが、その差は一体何だろうか。寧ろ教育と言う説明が最初にあった筈なのに、どうしてこう暴力がさも当然の様に繰り広げられているのだろうかと更にプルプルした。

 

 

「アッパーは一日、チョップは半日です」

 

 

 榛名が口にしたのはヤムチャしやがって状態の単位であった。

 

 判り易く説明するなら上下関係を教え込む時は相手に1ヤムチャ(一日)分のダメージを。その後何か問題が発生した場合0.5ヤムチャ(半日)分相当の教育を施せば良いという事になる。寧ろ単位がヤムチャ分とか逆に判りずらいとかツッコミを入れてはいけない。実際そうなのだから仕方がない。

 

 それより寧ろワンパン若しくは1チョップで発生しちゃう単位が時間ではなく日という区切りな処に秘められた破壊力に、髭眼帯は静かに戦慄した。

 

 

「へ……へぇ、アッパーとチョップを使い分けての教育かぁ~ うん、何というかうん。そういうカンジなのかぁ」

 

「その辺りは長門流極限空手と似たような感じなんだね」

 

「……長門流極限空手も大概物騒なカンジなんだねぇ」

 

「まぁこっちは一本拳とか抜き手だからちょっと威力は上がちゃうけどね」

 

「提督は君達の感性と言うか感覚的な物を少々侮っていた気がします……」

 

 

 物騒な発言がポロポロ零れ落ちる脇では、更にプルプル度を増した正座の一団があり、在りし日のバケツ正座がここに再現される事になった。

 

 

「て言うかそこのヤムチャしちゃった深海の人って見た事無いカンジの人だけど、その辺り(空母棲鬼)君知ってる?」

 

「そこでヤムチャしちゃってるのが五島沖海底姫ってのと、横でプルプルしてるのが南方戦艦新棲姫って新顔。後は護衛棲水姫に駆逐古姫ね」

 

「何気にお初な新顔さんが混じってるんですけど、また大本営に色々報告上げなきゃいけなくなったね……」

 

「取り敢えず名前長すぎるから、一軍へ上がるまでは番号呼びでいいんじゃない?」

 

(空母棲鬼)君って何気に辛辣だねぇ。って言うか一軍とかなにそれ提督聞いた事ないんですけど」

 

「取り敢えず三軍がテリトリーの端っこをドサ周り、二軍が泊地周辺配置。そして一軍に上がれたら漸くテイトクとカッコカリする権利を得られる事になってるから」

 

「待って!? ちょっと待って!? 流石にそのカースト制度はおかしくない!? 寧ろ提督そんなシステムにゴーサイン出した覚えないんですけど!?」

 

「提督は知らないんだろうけど、ウチに着任する深海勢ってここ最近加速度的に増えてるからカッコカリ予備軍だけで相当数居るよ?」

 

「寧ろ今回艦娘も大量着任するんでしょ? だったらそっち関係も相当数予備軍が生まれるって事よね?」

 

「君達カッコカリありきで話を進めるのは取り敢えず止めようか? て言うより提督の把握してないとこで何が起こってるの!? その辺り詳しく説明して!」

 

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

「何が!? 榛名君が大丈夫でも提督の心情と言うか深海の人達が大丈夫じゃないからね!?」

 

 

 人員が増員された裏側では新たな掟と新たなシステムが生まれていた。

 

 しかもそれらはあのoh淀と朔夜(防空棲姫)が組んだある意味最強もとい最凶タッグ主導で構築された物であった為、修正も何もされずそのまま導入の運びとなった事を髭眼帯は後に知る事になる。

 

 

「しかしこれはちょっと困った事になるわね…… 主にアンタの心の安寧的に」

 

「……叢雲君、君いつの間に生えてきたの? て言うかあきつ君とかは判るんですが、その横に並んでる、何というかその……」

 

 

 深海勢へ実施されている初期調練(仮)状況にプルプルする髭眼帯。その背後にはいつの間に出現したのだろうか、もういつものと言いそうになるネココスメイド服"黒猫のタンゴ"を装備してしっぽの鈴をチリンチリンするムチムチくちくかんの叢雲が腰に手を当てつつ、フゥと溜息を吐きつつゆっくりと首を左右に振りムチムチとしていた。

 

 そしてムチムチの叢雲の並びには同じムチムチ属性のあきつ丸が同じく溜息を吐きつつムチムチとしているが、今回のムチムチの並びはそこでは終わらず、髭眼帯が見た事のない二人のムチムチが更に並んでいた。

 

 

 その内の一人は恐らく陸軍式だろうプリーツスカートを履き、黒に近い暗色の上着と共にフード付きの外套という特殊な形状の制服でムチムチとしていた。

 

 二人目は白いニーハイソックスにチェックのミニスカ、特徴としてはミニエプロンを装備し、薄茶色の上着の袖は振袖式という。イメージ的には峠の茶屋に居る看板娘的ないで立ちに、鯨を模したと思われる髪飾りがキラリと光るムチムチであった。

 

 

「……あきつ君、その見慣れない二人はどちら様?」

 

「この二人は新たに着任を果たした人員の内、厳選に厳選を重ね選ばれた栄光のムチムチ戦士であります!」

 

「そう、この類まれなるムチムチ戦士。一人はあきつの後輩、陸軍から出向してきた神州丸」

 

「当然所属は特務課であります。この者の色々諸々の仕込みは自分が行うであります」

 

 

 まるゆを始めとした陸軍が誇る微妙装備。それらが生み出された背景には二次大戦時は海軍と陸軍と言えば余り関係が宜しくなかったからというのは有名な話。

 

 それはいつもネタにされる程であり、双方が話し合いの場を設けた場合『陸軍は海軍の提案に反対である』『海軍としては陸軍の提案に反対である』が挨拶であるかの如き常用句になる程であった。

 

 島国である日本から外征するという事は即ち海を渡るという事。そして当然兵站を握るのも海軍であった。そんな仲の悪さと戦場支配の都合上陸軍としては自力で水上兵力を持つのが悲願であり、試行錯誤の末生み出されたのが「海の土竜(もぐら)」と揶揄されるまるゆを始め、俗に微妙な装備群と呼称される陸軍用水上装備達であった。

 

 しかしその辺りは為せば成るを無理と根性でやっちゃう日本のお家芸。結局それなりに使える兵装がある程度生み出される事となる。

 

 それが上陸船母艦として建造されたあきつ丸であり、神州丸であった。

 

 陸軍特殊船という縛りにありながらあきつ丸は空母よりの見た目のままの造りに。神州丸は飛行甲板装備を偽装する関係上格納庫に秘匿される造りになっていた。艦娘としては余り見ないフード付き外装はそれらを秘匿する為の状態が再現されたものであるとされているが、見た目のうさん臭さとデフォルトで死んだ目(目のハイライトが薄い)ハーミット(隠者)という異名で呼ばれてしまう程にムチムチとした艦である。

 

 

「あーそうなんだぁ、君あきつくんの後輩なんだぁ」

 

「陸軍特種船「神州丸」です。統合的な上陸戦力を投射できる本格的な強襲揚陸艦の先駆けとして建造されました。揚陸作戦とムチムチ的な諸々はお任せください」

 

「……え、ム……ムチムチ的な諸々? それって一体……」

 

 

 元々死んだ目(目のハイライトが薄い)がデフォルトのムチムチハーミット(隠者)である。この状態は所謂ムチムチ的な初期調練で成った状態なのか、それとも元々そうなのかは髭眼帯的に判断できず、また着任時のデフォルトのセリフの中にムチムチが混在する状態に嫌な予感メーターがピコンピコンと反応する。

 

 

「私、迅鯨型潜水母艦一番艦、迅鯨と申します。提督、貴方に会えて……ウッ 本当に……本当に良かった。一緒に頑張って……ウッ……タスケテ」

 

 

 潜水母艦である迅鯨型 一番艦、迅鯨。

 

 名前と特徴的な装備、そして鯨の髪飾りが示すように彼女は大鯨と並ぶ潜水母艦である。

 

 大鯨がそうであったように、艦娘として顕現した際も嘗ての役割を強く引継ぎおさんどんと言うか色々お世話する系の装備を身に纏う彼女は、隠者(神州丸)とは違い、何故か半泣き状態でプルプルムチムチしていた。

 

 

「あー、うん。ようこそ神州丸君に迅鯨君。自分は西蘭泊地基地司令長官の任に就いてる吉野三郎という…… て言うか何で片方は目が死んでて、もう一方は半泣き状態なの叢雲君」

 

「まだムチムチ戦士としての教導を始めたばかりだから一人前のムチムチに仕上がってないのよ。でも大丈夫。あとひと月程ムチムチ集中調練を経ればどこに出しても恥ずかしくない立派なムチムチになるから」

 

 

 髭眼帯は思った。どこに出しても恥ずかしくないムチムチとは一体どんなムチムチなのだろう。寧ろムチムチを強調した時点で恥ずかしいのではないかとムチムチ的な感性に理解が及ばず嫌な予感メーターはレッドゾーンを振り切った。ついでに軍務なのだからそういう極めて偏った属性値を伸ばすより、もっと他に調練する部分があるのではなかろうかと思いつつプルプルが加速した。

 

 

「時にあきつ殿、大体の備えはできたとお聞きしましたが、この後神州丸はすぐ特務に就いてもいいんでしょうか」

 

「ふむ、神州丸はムチムチの基礎値が高く初期調練が不必要な程の逸材ではありますな」

 

「ムチムチの基礎値ぃ? なあにそれぇ?」

 

「そうね、でも特務に就くなら何か一つは強みを持っておくべきだと思うわ」

 

「そうでありますな、何せ提督殿から発布される特務は他所に比べ難易度が高いでありますから」

 

「じゃあムチムチ的な強みを伸ばしてアルタ〇ル的なアレを習得すればどうかしら」

 

「成程、アル〇イル的なアレでありますか」

 

「いや君達何をどうしたらムチムチからア〇タイル的なアレに結び付くの? 何か無茶苦茶物騒かつ暗殺組織的な響きがするんだけど!? て言うか見た目がそっち系だからって無理にそういう属性を発揮しなくてもいいからね!?」

 

「しかし神州丸はまだ"鷹の目"しか使えず、"イーグル・ムチムチ・ダイブ"はまだ未収得のままなのですが」

 

「もうそっち系は決定なんだぁ…… てか、そのダイヴ的な名称の中に余計かつ含まれるには不適当な単語があるのは何故かという理由を提督聞いていい?」

 

「ムチムチ・ダイブはムチムチ戦士なら自然と発現する物でありますから心配しなくていいであります」

 

「成程、了解しました」

 

「え!? そんなの自然に習得しちゃうってムチムチ戦士って一体何者なの!? て言うかそんな謎法則自然と了解しないで神州丸君!」

 

 

 こうして新たに選別され、新たに特務課へ加わる者達含む艦娘達が西蘭に送られる事になった。

 

 また外事課や艦娘お助け課にもそれなりに増員される運びとなった西蘭泊地は、これまで人員不足で見送っていた外に向けての活動を開始するのである。

 

 

 




・誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
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・また言い回しや文面は意図している部分がありますので、日本語的におかしい事になっていない限りはそのままでいく形になる事があります、その辺りはご了承下さいませ。

 それではどうか宜しくお願い致します。

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