大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 第一回、第二特務課主催着ぐるみサバト開催、そして何故か瑞雲に襲われる提督であった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


(※)今回はぬいぬいのお話です、前回とは違いギャグ無しの話です、そちらをお求めになられる方はスルー推奨です。


海に揺らめく鴇色(ときいろ)の火

 

 第二特務課は現在捷号作戦(しょうごうさくせん)の次段階に備え準備に入っていた。

 

 まだ確たる命令は発令されてはおらず、課に所属の艦娘達には先がどうなるか判っていなかったが、課長である吉野三郎中佐(28歳独身丙提督)は色々何か画策しているらしく、秘密基地と執務棟を行ったり来たりしては執務室で唸りながら書類と睨めっこをしている。

 

 通常業務での打ち合わせや確認等なら足を運ばなくとも内線での話で事足りるはずだが、そうしないのは恐らく機密性が高い物を取り扱っているのと、それを話す相手が直接お伺いを立てねばならない程上位の者だからだろう。

 

 

 そんな吉野から現在課の者に通達されている業務内容は、課の者が連携しての立ち回りと役割を決めた状態での戦闘訓練。

 

 それだけ聞けば何の事では無い当たり前の物に聞こえるが、現在この第二特務課は深海棲艦との接触や交渉をこなし、尚且つその相手と行動を共にしている。

 

 更に取り敢えずであるが引き続きそういった物を扱う事が確定している現在、与えられた業務が戦闘訓練という事は、この先想定される戦闘は少なくとも交渉が可能な程高度な知性を持つ上位個体との物になる可能性があるという事になる。

 

 

 今までは目的も無く、雑務の様な事しかして来なかった彼女達は明確な目標を与えられ、更にそれが海域攻略の中心になる艦隊並みの働きを要求されるとあってかなりハードな訓練をこなしていた。

 

 元々吉野自体、艦隊戦のセオリーを押さえてはいたが、実際の処艦隊指揮の経験がほぼ皆無な為訓練の内容自体は各々に任せた物になり、色々な問題点や相談は業務終了時に報告という形で聞き、都度話し合いをするといった形になっていた。

 

 

 そんなある日の午後、既に日課になりつつある執務棟(もう)での帰り、吉野は第二特務課秘密基地より少し先の突堤で一人佇む艦娘の姿を見つけた。

 

 

 桜色の髪を短くポニーテールに纏め、陽炎型駆逐艦特有の黒い服に、風にはためく短いスカートからはスパッツの裾が見えており、両の手には白い手袋。

 

 背に負ったコンパクトに纏められた艤装には武装が載っておらず、代わりに各種索敵機器を満載したその姿は遠目からも誰だかすぐに判る。

 

 

 ()を陽炎型二番艦不知火。

 

 

 彼女は突堤の先で目を閉じ、それでもじっとしてる訳ではなく、何かに集中しながら電探を小刻みに調整し、見えない何かを確認しては同じ事を繰り返している。

 

 目を閉じた彼女には電探が捕らえられる範囲の動く物全てが俯瞰(ふかん)された状態で見えて(・・・)おり、それが何なのか、どう動くのかと確認と予想が目まぐるしい速度で、それも複数同時に行われていた。

 

 それはまるでチェスの盤上に乗る駒を眺めている様であり、次にその駒がどう動くのかを予想する指し手の如く思考を巡らせる。

 

 場所は海軍の中枢である大本営、航行する一般船舶の数も艦娘の多さも彼女が以前いたラバウル基地より遥かに多く、彼女にとっての"戦闘訓練"を行うにはは非常に好都合で、且つそれは濃密な物になっていた。

 

 

「索敵訓練かい? 精が出るねぇ」

 

「はい、前回の作戦では不覚を取ったので、その反省を踏まえ一から訓練をやり直しています」

 

 

 吉野が声を掛け、それに不知火が応じつつも電探の操作は止まる気配が無い、この辺りのマルチタスクな動きは彼女の得意分野であり、他の者は真似する事が難しい彼女のみの能力であった。

 

 そんな不知火に関心しつつも、帰ってきた言葉に吉野は思わず苦笑いの相を表に出した。

 

 『不覚を取った』、それは南鳥島にて(空母棲鬼)が出現した際、それを彼女が捕らえたのは電探の索敵可能範囲の遥か内側であった。

 

 艦隊の目としての役割を与えられていたにも関わらず、肝心な部分で自分は役に立てずに初動が大きく出遅れてしまった、彼女はそう理解し、それに責任を感じていた。

 

 この件に関して不知火は海戦が終了し、大本営へ帰港する間に吉野の元へ訪れ、任務遂行時の失態に対する処罰を求めてきたのだが、それに対する答えは今と同じく苦笑いと処分無しの言葉。

 

 不知火は何故自分のミスに対するお咎めが無いのかと半ば吉野へ食って掛かったが、それに対して帰ってきた言葉が『ミスなんてしてないのに何を処分すればいいの?』だった。

 

 

「司令が何を仰ろうとあれは間違い無く不知火の落ち度です、ならば二度と同じ失態を繰り返さないよう備えるのは当然の事です」

 

「ふむ、不知火君はアレが失態だと今も思ってるんだ?」

 

「当然です、何がどうあったとしても結果的に不知火は敵の接近を感知出来ませんでした、これを失態と言わず何と言うのです?」

 

「……そっか、何と言うか、今の君を見ていると哨戒任務を任せるにはちょっと不安が残る感じがするね」

 

 

 責められはしないが、自分の唯一出来る事、しかも他の者より遥かに上手くやれると自負している物に頼りないという評価を受け、不知火は少なからず落胆をした。

 

 そのせいか今まで流れるように操作をしていた電探の動きもぎこちなくなり、見えて(・・・)いた物の動きも読みきれなくなっていく。

 

 

「あの時君は自分の指示で島の西側に居た、そして(空母棲鬼)さん率いる艦隊は東側から来た」

 

「はい」

 

「そしてその敵艦隊は水上を航行して来た訳では無く、水中から現れた(・・・・・・・)

 

 

 深海棲艦、その存在は字面(じづら)だけでなく、全ての艦種は水中を航行する事が可能である、海の底からやって来る存在、だから深海(・・)棲艦と呼ばれている。

 

 しかしそんな能力がありながら、その異形が艦娘との戦闘が予想される海域で水中での移動をしているのを確認されるのは稀である。

 

 何故なら水上とは違い、水に潜った深海棲艦は潜水艦を除き航行速度が著しく低下する、そして浮上速度も遅く、更には水中での攻撃手段を持たない。

 

 これは艦娘側から見れば反撃の心配も無く、ノロノロと移動する的を一方的に攻撃するチャンスである、もし対潜装備が無くとも浮上時に優位な状態で取り囲み、相手を潰すのが容易な状況になるのは間違いない。

 

 それ故深海棲艦は艦娘と相対する可能性のある海域では水上を移動する、それが普通であり常識となっている。

 

 

 しかし(空母棲鬼)はそうしなかった、浮上の時間を逆算し、気付かれるれる距離ギリギリまで南鳥島へ水中を移動してきた。

 

 

 その時不知火は吉野が言う様に島の西からの(・・・・・・)索敵の指示を受けていた、不知火から見て島を挟んで東を潜航し近寄ってくる物体は例えソナーを持っていたとしても感知し様が無い(・・・・・・・)

 

 ソナーは音波を水中に放ち、物体から帰ってきた物を拾う事で相手の位置を探り出す装置である、島を挟んだ向こう側に索敵は出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「物理的にそうであってもその事を進言し、可能性としての危機を知らせるのも不知火の役目だと思っています」

 

「それを言うなら、幾ら指揮経験が無い無能と言っても、その可能性を示唆しなかった責任は自分にある、なのに君は何の落ち度も無い部下に責任を押し付ける愚行を自分にしろと?」

 

「いえ、司令は艦隊全てを掌握し、戦略を練るのが役目です、不知火の仕事はその為の情報を的確にお伝えする事だと思っています」

 

 

 双方の言う事は尤もだが、限られた時間と刻々と変化する戦況に対し理想的な動きなどそう取れる物では無い。

 

 

「君の能力と、分析から得られる高い精度の情報は得難い物だと思うよ、でもね……」

 

 

 いつもの癖でボリボリと頭を掻き、頑として己の意見を曲げない少女に対し、酷く悲しげな目で見つめ、言い聞かせる様に吉野は言葉を続ける。

 

 

「それでも自分は指揮官なんだよ、矢面に君達を立たせ、血を流すのを強いている、そんな自分が君達に対して報いる数少ない事の内の一つ、それは艦隊の指揮を執り、その全てに責任を負う事なんだ、なのに君はその仕事を自分から取り上げると言うのかな?」

 

「いえ、不知火にそんなつもりは……」

 

 

 その言葉に動揺し、思わずスカートの裾を握り締める少女。

 

 その瞳は見えないまでも声色でその主の心情は汲み取っていた、なまじ見た目より内面を読んでしまう彼女はそれすら自分の責任と己を責め始めていた。

 

 

「今の君に必要なのは、より一層高みを目指す"足し算"じゃない、起こってしまった事を後悔として引き摺らず、すっぱりと捨ててしまう事の出来る"引き算"だと自分は思う」

 

「……引き算、しかし失敗から学ぶべき物は多いです、それを捨てろ……忘れろというのは納得いきません」

 

「失敗から学ぶのは確かに大切だけどね、君はそれに対して余りにも意味を持たせ過ぎている、そのやり方は、後悔はいつか君を殺す事になる、そんな状態で君に責任を負わすのは、とても不安が残るんだよ」

 

 

 今にも泣き出しそうな少女の頭に手を添えて、暫く黙ってその頭を撫で続ける。

 

 作戦実行に際して急遽編入されたこの少女、彼女を知るため観察を続け、同時に前任地の指揮官にも話を聞いていた。

 

 

 生まれ付き視力が弱く、ほぼ物が見えない状態であった為、解体を自ら進言した彼女に対し指揮官はそれを認めず、生きる道を探せと命令を下した。

 

 それに答え、必死にもがき、姉妹の助けの下彼女は他の者に無い唯一の力を手に入れた。

 

 しかしそれ故自分の仕事には過剰な程の責任を感じ、自らを追い込む癖がある事。

 

 その為前任地の指揮官は敢えて彼女の能力が有用なのにも関わらず、前線へは出さずに船舶護衛専任にしていたという。

 

 

 そんな不知火という少女、吉野は能力がある故にそれに(すが)り、そしてその能力故に追い立てられて常に不安を抱えている、彼女を見てそう感じていた。

 

 

「君は目に見える結果を出していないと不安があるんだろう、そして誰が君を認めてもその不安は消えないんじゃないかなとは思う」

 

 

 頭を撫でられながら、不知火は無言のまま僅かに首を縦に振る。

 

 

「昔ね、大本営の第二艦隊に対潜のエースと呼ばれたスペシャリストが居たんだ」

 

 

 いきなりそんな話を振られ、不知火は戸惑いつつもその話を黙って聞く事にする、その無言に先を促す物だと思った吉野は話を続ける事にする

 

 

「そのエースさんはね、特別な装備なんかしてないのに、他の人よりも多くの戦果を上げていた、どんな状況でも常に冷静な判断を下し、勝利に大きく貢献してきた、そんな彼女にある日僚艦の一人が聞いたそうだ、何故そんな的確に敵を捕らえる事が出来るのかと」

 

 

 大本営でもエースと言われる程の艦娘、その実力は間違い無く一流の物であり、そんな艦娘の技術に周りが興味を示すのは当然の事だろう、不知火でさえその話に引き込まれ耳を傾けていた。

 

 

「その僚艦に対して彼女はこう答えたらしい、 『自分の限界を知り、出来る事と出来ない事を常から把握しておく事、そうすればやるべき事に迷う事は無い』 って」

 

 

 その言葉に不知火は共感を覚えた、何故なら自分の限界を常に把握するという行為は、常に自分を追い込んだ先にしか見える物でしか無く、努力という行為を常に自分の内側に向けていないとならないからだ。

 

 それは今の不知火が常とする生き方であり、それを以ってエースとまで呼ばれる様になった艦娘へ対し、尊敬と羨望の念を抱くには充分な話である。

 

 

「常に戦果を上げ、仲間を水底(みなぞこ)からの脅威から守り続けた彼女は周りから当然頼りにされていた訳だけど、逆に彼女自身は常に恐怖と焦りに(さいな)まれていたらしいよ」

 

「え……戦果を上げていたのにですか?」

 

「うん、なまじ頼りにされている分失敗は許されない、そして自分の限界を知っているからこそ、より限界の枠を広げようともがいていたそうだ」

 

 

 不知火はこの話を聞いて理解した、恐らくこれは単なる先達の話では無く、吉野が今の自分に向けて何かしらの事を伝えようとしている物なのだと。

 

 

「ある日、いつもの如く定期的に行われていた海域一掃の任務に出た際、作戦海域周辺の天候が事前に予想された物とは違って大きく荒れた物になったらしい、時化(しけ)た海ではまともに陣を展開する事も難しく、作戦遂行も困難な状況と判断された頃には手遅れでね、索敵がままならないせいもあって、運悪く彼女達は潜水艦に包囲された状況になっていたそうだよ」

 

 

 時化(しけ)た海は確かに索敵は難しく、体勢が安定しない状況ではソナーの音を拾うのは困難である、水上艦にとっては危機であるが逆に海の底から狙う者にとっては絶好の機会となる。

 

 

「で、その艦娘さんはその状況を分析した結果、どうにもならないと判断したらしい」

 

「どうにもならない……ですか、それでその後はどうなったんです?」

 

「自分を囮にして他の艦を逃がす事にしたらしい、自分の限界を知っている、それを基準に考えて導き出された答えがそれで、そうする事が最善と判断したらしい、そうして彼女はわざと敵へ派手な攻撃を加え注意を自分へ向けさせ、止めに入る仲間を振り切って、単艦でその場から敵を引き離し犠牲を最小限にしようと行動したそうだ」

 

 

 不知火は思った、そんな状況になり、そして敵を自分に引き付ける事が出来るなら自分だって同じ事をするだろう、同じ沈むなら数は少ない方がいいに決まっている。

 

 

「そんな事をすれば彼女は只では済まない、大破し轟沈一歩手前、それでも結果としては生きて大本営に戻ってきた」

 

 

 時化(しけ)た海での対潜戦闘を単艦行い、それでも沈まず戻ってきたという話を聞いて不知火は驚いた、そんな絶望的戦いを繰り広げたにも関わらず生還出来たのかと。

 

 そんな不知火の顔を見て、吉野は苦笑しつつも事の顛末を話し出した。

 

 

「結局の処、彼女はある程度敵を沈める事には成功したけど、最後に彼女を救ったのは逃がしたはずの僚艦であり、撤退途中に合流した他の艦隊員達だったというオチなんだけどね…… 彼女は他の艦より自分が対潜に於いて優秀だと知っていたし、その限界も熟知していた、それらを基準に状況を判断し、即断即決で動いた、なまじ責任感が強いが為に自分を餌として迷わず敵へ差し出した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)のさ」

 

 

 死と直面した時、平時より自分の限界を超えた事態の事を想定し、それを常に覚悟していたその艦娘は迷わず行動を起こした、それは間違いとは言えないが、同時にそれは他に存在するかも知れない可能性を全て切り捨てる行為であり、艦隊としての有体を壊す事に他ならない。

 

 それがもし正解だとしても、その前提に誰かの犠牲を伴うのを吉野は否定する、そしてそれは彼女と共に居た僚艦達も同じ気持ちだった。

 

 

「あの時もう少し誰かを頼っていれば、一人で全てを背負い込まずに自分が艦隊の一部だと認識していれば、多分別の、もっと良い結果が生まれたかも知れない、結局あの時自分は敵では無く自分を相手に戦い、そして負けたんだと、彼女はそう言ってたよ」

 

「自滅……」

 

「言い方は悪いけど、そういう事だろうねぇ、不知火君、責任ってのは背負う物だけど、過度にそれを意識して、己が縛られるのはちょっと違うんじゃないかなと自分は思うんだけど、どうだろうか?」

 

 

 頭を撫でられつつ、不知火は吉野の言葉を一つづつ咀嚼していく。

 

 全てに納得いく訳では無い、少し話をした程度で心変わりする程彼女の抱えている問題は軽い物では無いからだ。

 

 それでも幾つかは納得する部分もあり、吉野が自分に対してどう評価をしているのか、そしてそれに対して自分はちゃんとした答えを返したいという想いを抱くようになっていった。

 

 そしてそれと同時に自分と同じ考えで戦い、最後には答えを出した艦娘が居るのだという事に不知火は興味を示した、その艦娘の話をもっと聞けたなら、もしかしたら今以上に自分はこの艦隊に、司令に貢献出来るのでは無いだろうかと。

 

 

 撫でられる手は無遠慮だったが何故か心地良かった、それは恐らく言葉以上に目の前の人物が自分を思っているのを理解出来るからだろう。

 

 上官と部下ではあるが、その関係を含めた見方をしても、この人はちゃんと"不知火という艦娘である自分"を見てくれている、それが撫でる手を伝い感じる事が出来た。

 

 まるで子ども扱いされているにも関わらず、彼女は黙ってその手のぬくもりを感じていた。

 

 そして暫く後、吉野が話した第二艦隊に居たという対潜のエースについて不知火は聞いた、その彼女は生還したとの事だが今は何をしているのかと。

 

 

「あぁ、彼女の艤装は損傷が酷くてね、妖精さんもお手上げで結局原隊復帰にはならなかったよ」

 

「そうですか……」

 

「でも彼女は自分の能力を生かし、海に出る仲間をサポートする道を選んだ」

 

「!? まだその方は大本営にいらっしゃるんですか? 司令のお知り合いなんですよね?」

 

 

 不知火の言葉に吉野は首を縦に振り、ニヤリと笑って不知火の質問に答えた。

 

 

「元大本営第二艦隊所属、対潜のエースと呼ばれた彼女は今ウチに所属している、何か聞きたい事があるなら聞いてくればいい、彼女……夕張君なら今は確か工廠にいるはずだ」

 

 

 夕張型一番艦、軽巡洋艦夕張

 

 元大本営第二艦隊所属、後に自ら工作艦としての改修を施し兵装調整用試射場管理者となり、今は第二特務課所属の兵装及び施設管理をしていた。

 

 彼女が残した対潜戦闘による撃沈スコアは今も尚破られる事はなく、大本営所属の者は今だに彼女の事を"対潜の夕張"と呼ぶ者も少なくないという。

 

 

 いつもは吉野と漫才のようなやり取りを交わし、周りからダメ軽巡の烙印を押されている彼女。

 

 そして南鳥島では戦闘には参加出来ない己の事をサラっと『こんな状態なんでごめんねぇ』と称した彼女。

 

 その昔、己の身を迷わず敵へ晒す程の覚悟を持って戦っていた彼女。

 

 そんな彼女は自分に出来る事で今尚艦隊を支え、そして好きな事をして、目一杯自由奔放に生きていた。

 

 

 夕張が生きて生還を果たしたのは運の要素が大きく関わった結果だと吉野は思っている、そして夕張本人もそれは認めていた。

 

 そして今目の前に居る不知火、彼女もまた昔の夕張と同じく、自分の背負った物の重さを理解しないまま戦いに身を投じようとしていた。

 

 このまま戦い、もしギリギリの選択に迫られた場合、そしてその責任の強さ故己の身を敵へ晒した場合、夕張の時の様に幸運が救ってくれる可能性は殆ど無いだろう。

 

 

 その事を言葉として伝えても、理解してくれるかどうかは判らない、ゆっくりと理解して貰うにしても、現状の第二特務課にはその時間が余りにも無さ過ぎる。

 

 

「生き方を変えろとは言わないけれど、"最後の一線"を判断する状況になった時、恐らく今の君では危ういと自分は思うんだ、だからさっき 『今の君に哨戒任務を任せるにはちょっと不安が残る』 と言ったんだけど……」

 

 

 吉野は言葉を続けようとしたが、それは口から出る事は無かった、何故なら

 

 

「不知火は不器用で、目が良く見えないにも関わらず、目先の事しか見ていなかった様です、司令、まだ不知火は自分の答えを出せていませんが、貴方の為に忠義を尽くし、必ず暁の水平線へ勝利を刻む為のお力になる事を誓います」

 

 

 そう言葉を紡ぎ、少女は自分の頭を撫でていた手を掴み、それを己の頬へ持っていったから。

 

 

 彼女は思った、例えこの先結末がどうなろうとも、自分にはやるべき目標が出来たのだと、それがどんな物であっても、今までの形が見えなかった不確かな物では無く、はっきりとそこにある物として認識された、それはこんなにも暖かい物なのだと。

 

 見る事が困難な変わりにそれを肌で確かめ、そして心に刻んだ。

 

 

「もしもこの先不知火に何か落ち度があった時は、遠慮なく仰って下さい司令」

 

「ああ……、うん、こっちこそ宜しく、ぬいぬい」

 

 

 最後の最後でぬいぬいと呼ばれた桜色の髪の少女は、少し不満げに頬に添えた手をつねりつつ、こう述べたのだった。

 

 

 

 

「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです。」

 

 

 





 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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